異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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2章 渡界人の日報

2-3 盗まれたチート終章 意外な動機

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 渡は寝室から首だけ出して居間の様子を見る。私の位置からは薄明かりが居間を照らしていて、その光源が例の巨大な鏡だとすぐに気が付いた。

『カイト、あなたの言った通り鍛冶神ログの寝所から隠し通路があり、そこはどうやら次元を超えてそちらの世界に繋がっているようです。私達が手を出せないのを知っていてかそこから見えるところに堂々と例の箱が置いてあるのです。至急取り戻してきてください』

女神シェパの怒りに紅潮した顔は完全にしてやられたといった悔しさに溢れていた。

女神シェパから示された座標を元に渡は何やら地図を広げて調べていた。

「ここからでは遠いですね。もう夜も遅いので明日の朝早く乗り込みます。時間は大丈夫でしょう?」

「もちろん。儀式に間に合いさえすれば問題はありません」

「場所は都内だろ?今からでも遅くもないと思うが」

女神シェパが鏡から消えると私は寝室から出てそう言ったが

「君、その体で行くのか?今回は君も功労者なのだから最後まで見届けたいだろう?」

「もちろん」

「なら身なりを整えておくべきだね。仮にも相手は神様だからね」

翌日の朝早く私達は始発電車に乗って東京都内の某所にあるダイレクシオンの鍛冶神ログの隠れ家へと向かった。

その隠れ家は高級住宅街の中でも特に地価の高い場所に建てられていた。

生まれて初めて見る大理石の石柱の門をくぐると高い鉄格子を設けた扉がひとりでに開いた。

「罠かな?」

「いや、それにしては静かすぎる。だが用心していこう」

やはり勝手に開いた玄関のドアをくぐった私達が玄関ホールの先には赤い絨毯を敷き詰めた階段があり、その先に大きな部屋があった。

階段を慎重に一歩一歩歩き扉をノックするとかすれるような『おはいり』という声が中からした。


扉の先には長いベッドがありそこに老人が横たわっていた。

そのベッドの枕元の丸い小さなテーブルの上に例の盗難に遭った箱が置いてあった。

私達がベッドの近くに来ると老人は首をこちらに向けて

「随分と遅かったな。探している物はここにある。だがもはや手遅れだ」

「鍛冶神ログ、あなたが送り込んだ人物は何者ですか?」

渡は厳しい口調で言った。

「彼は我々と逆の仕事をしている。つまり異世界人をこちらの世界に転移・転生
させるというね。そして自身がその第一号となったのだよ。気が付いた時はもはや遅すぎた。奴は石板に書かれている全ての能力を身に着け、姿を消した。どこへ行ったかは分からぬ」

「・・・・僕が頼まれたのは石板を取り戻す事です。伝承によるとこの石板を彫ったのはあなただと聞いていますがそれをなぜ手元に置きたがったのですか?」

「ダイレクシオンの地上界と天界を永遠に切り離す為だ。神々の都合で人間達が翻弄されるのを見ていられなかった。私も格の低さから侮辱を受けてきたからな。神々よりも彼ら人間の方に情が移るのは当然といえる。もっと言えば自分の最高傑作を自分の物にして手元に置くことの何が悪い?私の力と命は尽きようとしている。その前にささやかな抵抗を試みたのだが…ぐゥウッ」

老人はせき込んだ。それは医療の素人である私から見ても悪い咳だった。

「例えあなたが作った物でもこれは公共の物です。然るべき場所に返さねばなりません」

「そうだな。そして最後に一つ頼みがある。あの男を今や地上最強の男となった奴を探して送り返してくれ。ここに能力を封印する指輪がある」

渡はそれを受け取ると老人は息を引き取った。


その日の夕方石板の入った箱を女神シェパへ渡すと女神は型通りの礼を述べて姿を消した。

渡は老人から話を聞いていた時と同様の能面の様な顔のまま椅子に腰かけて暫く座っていたが

「こういう依頼をしているとどうしても自分が誰かにとっての疫病神だという事を思い知らされるよ。だがあの老人の依頼は必ず完遂して見せる。必ずね」

渡は私にそう言うと寝室へと引き上げていった。


以上がチートを記した石板盗難事件の顛末である。

ここから派生した渡と異世界のチート野郎との対決はまた別の話として載せたいと思う。
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