55 / 125
2章 渡界人の日報
2-4地上最強の男⑦ 犯人を追って3
しおりを挟む
今回の黒野の手口は相手の数と名前が違うだけで大体次のようなものだった。以下はその事件を扱った記事である。
『〇月×日午前7時東京都S署前に荒縄で縛られた13名の男が発見された。いずれも暴行の跡があり、2名は意識不明の重体であった。彼らは指定暴力団咬竜会組長神崎竜真を含めたメンバーである事が判明した。調べによると20代の男が事務所に押し入るなり組員らに暴行を加えた後拘束し警察署前に『連れてきた』との事で防犯カメラにも拘束した組員らを引きずって歩く男の姿が映っていた。警察はこの男の行動が咬竜会への個人的恨みと見て引き続き捜査を進めていくとしている』
なお補足として私達にはかなり信ぴょう性のある話ではあるが一般的には眉唾もののこれらの事件に関する逸話をあるアングラ雑誌から引用する。
『いきなりやってきやがって、「ゴミ掃除だ」とかでよ。こっちとしてもメンツってモンがあるから受けて立つわけなんだがそれが訳の分からない事になるんだ。奴さんどう見ても武道だのスポーツだのは学校の体育くらいしかしたことないって体をしてるんだが、信じられるか?一撃で俺らを叩きのめしやがる。おまけに今でもトリックかさもなくば悪夢だと思うのは刃物で刺しても傷も出来なけりゃ痛みを感じてるそぶりもねえ。絶対死なないって思っている薄気味悪い笑みを浮かべているんだ。何!?俺の頭がおかしいだと!そうかもしれねえ。だがあいつの異常さは見た奴しか分からねえよ』
これら事態が異様な進展を見せたにも関わらず渡は予定を変えることなく昨夜目を付けた建物へと向かった。
そこは異様に年期の入った建物と今にも落ちるのではないかと思われる看板に『杖居薬種店』と書かれた個人経営の薬局だった。
店の門を少し進むと大きなプランターにかなりの距離を置いて10本の赤緑色としか言いようのない、奇怪な色の花が植えられていた。
それを渡も一瞥すると中に入った。
彼に続いて中に入ると恐らく調合した薬であろうツンとした刺激臭が鼻についた。
内部は外観よりさらに古びていた。店内はおよそ21世紀から中世にタイムスリップしたのではないかと思われるほどの古臭い棚やケースに入れられており、それらはやろうと思えばいつでも万引きできる程にセキュリティは皆無なのであった。それというのも人の気配がまるでないのだ。
「何処なんだ、ここは?」
ゲームでよく見かける錬金術師の工房を思わせる作りに内心ワクワクしながら私が尋ねると
「ほら、僕が作っている各種薬液があるだろ。あれの専門店なんだよ。最もここは届け出を出してない違法店らしいのだが。僕の贔屓にしているのは表向きは有名ドラッグ店をやっているが、僕の様な客向けに難しい調合や素材の珍しい薬を売ってくれるのさ」
店の中を見回していた渡はそんな私の心を知ってかそんな冷や水を浴びせる。
「まさか逃げたのかな」
「それはない。何故ならここに来ると昨日電話したからね。ただ警戒はしているだろうね」
彼は店の奥にドンドン入っていくと奥の部屋を開け放った。
そこには布団が1つあるだけの粗末な和室で所どころ畳がささくれていたし、障子の紙が剝がれかけていた。
「真壁さん、昨日電話した、渡界人です。会見の約束の時間なのですがね。どうされました?」
返事はなかった。
「まさか死んでいるのか?黒野に口封じされたとか?」
「生きているよ。それも正常な呼吸をしている」
私達のやり取りを聞いていても布団からは反応はない。
「ダンマリの理由は我々を警戒しているかそれとも軽蔑しているのか知りませんがね。誰も知らないと思って店の前のプランターで爆薬草の栽培は感心しませんね」
ビクリと布団が動いた。
「あれは1株から得られる煮汁から都庁を吹き飛ばすに足る破壊力を持つ液体爆薬になる代物です。それも栽培が比較的容易とあって40年前正確に言えば1970年5月21日付で栽培禁止になったはずですよ」
「モノを知らんな、若造。あれはな、発効日からさかのぼって15年以上の業者は取り扱い可能だ。それにあの煮汁は爆発だけではない。良い記憶消去薬になる」
意地の悪い老人の声が布団の中から聞こえた。
さながら舅が気に入らない婿殿をいびっているような構図だ。
「そう、そしてある種の薬品の効力を一時的に高める事も出来る。一種の透明化の薬のようなね」
「そこまで知っているならおめえ、誰が何を作ろうがどうでもいいだろう。長生きしてみりゃつまらん世の中になっちまってこちとら消え入りたいくらいだからな。昔は転生者・転移者と言えば社会に適合できないが気骨のある奴らだったが今は違う。下らん小せえ目的の為だけに世界を超えたがるんだからよ」
吐き捨てるような老人の言葉に渡は
「ではあなたのお眼鏡に適う人間が現れたという事ですね。店に入ってすぐ左のカウンターの右から3番目の存在消失薬を量からして2日分ある男に処方しましたね?彼はあなたに何と言ったのですか?」
渡の厳しい物言いで老人は引っ被っている掛布団をバッと跳ね上げてそのネズミ色の作務衣のいかにもガンコ職人といった姿を初めて私達の前に現した。
「あんた、何者だ?何が目的だ?」
上ずった声で老人が尋ねる。
『〇月×日午前7時東京都S署前に荒縄で縛られた13名の男が発見された。いずれも暴行の跡があり、2名は意識不明の重体であった。彼らは指定暴力団咬竜会組長神崎竜真を含めたメンバーである事が判明した。調べによると20代の男が事務所に押し入るなり組員らに暴行を加えた後拘束し警察署前に『連れてきた』との事で防犯カメラにも拘束した組員らを引きずって歩く男の姿が映っていた。警察はこの男の行動が咬竜会への個人的恨みと見て引き続き捜査を進めていくとしている』
なお補足として私達にはかなり信ぴょう性のある話ではあるが一般的には眉唾もののこれらの事件に関する逸話をあるアングラ雑誌から引用する。
『いきなりやってきやがって、「ゴミ掃除だ」とかでよ。こっちとしてもメンツってモンがあるから受けて立つわけなんだがそれが訳の分からない事になるんだ。奴さんどう見ても武道だのスポーツだのは学校の体育くらいしかしたことないって体をしてるんだが、信じられるか?一撃で俺らを叩きのめしやがる。おまけに今でもトリックかさもなくば悪夢だと思うのは刃物で刺しても傷も出来なけりゃ痛みを感じてるそぶりもねえ。絶対死なないって思っている薄気味悪い笑みを浮かべているんだ。何!?俺の頭がおかしいだと!そうかもしれねえ。だがあいつの異常さは見た奴しか分からねえよ』
これら事態が異様な進展を見せたにも関わらず渡は予定を変えることなく昨夜目を付けた建物へと向かった。
そこは異様に年期の入った建物と今にも落ちるのではないかと思われる看板に『杖居薬種店』と書かれた個人経営の薬局だった。
店の門を少し進むと大きなプランターにかなりの距離を置いて10本の赤緑色としか言いようのない、奇怪な色の花が植えられていた。
それを渡も一瞥すると中に入った。
彼に続いて中に入ると恐らく調合した薬であろうツンとした刺激臭が鼻についた。
内部は外観よりさらに古びていた。店内はおよそ21世紀から中世にタイムスリップしたのではないかと思われるほどの古臭い棚やケースに入れられており、それらはやろうと思えばいつでも万引きできる程にセキュリティは皆無なのであった。それというのも人の気配がまるでないのだ。
「何処なんだ、ここは?」
ゲームでよく見かける錬金術師の工房を思わせる作りに内心ワクワクしながら私が尋ねると
「ほら、僕が作っている各種薬液があるだろ。あれの専門店なんだよ。最もここは届け出を出してない違法店らしいのだが。僕の贔屓にしているのは表向きは有名ドラッグ店をやっているが、僕の様な客向けに難しい調合や素材の珍しい薬を売ってくれるのさ」
店の中を見回していた渡はそんな私の心を知ってかそんな冷や水を浴びせる。
「まさか逃げたのかな」
「それはない。何故ならここに来ると昨日電話したからね。ただ警戒はしているだろうね」
彼は店の奥にドンドン入っていくと奥の部屋を開け放った。
そこには布団が1つあるだけの粗末な和室で所どころ畳がささくれていたし、障子の紙が剝がれかけていた。
「真壁さん、昨日電話した、渡界人です。会見の約束の時間なのですがね。どうされました?」
返事はなかった。
「まさか死んでいるのか?黒野に口封じされたとか?」
「生きているよ。それも正常な呼吸をしている」
私達のやり取りを聞いていても布団からは反応はない。
「ダンマリの理由は我々を警戒しているかそれとも軽蔑しているのか知りませんがね。誰も知らないと思って店の前のプランターで爆薬草の栽培は感心しませんね」
ビクリと布団が動いた。
「あれは1株から得られる煮汁から都庁を吹き飛ばすに足る破壊力を持つ液体爆薬になる代物です。それも栽培が比較的容易とあって40年前正確に言えば1970年5月21日付で栽培禁止になったはずですよ」
「モノを知らんな、若造。あれはな、発効日からさかのぼって15年以上の業者は取り扱い可能だ。それにあの煮汁は爆発だけではない。良い記憶消去薬になる」
意地の悪い老人の声が布団の中から聞こえた。
さながら舅が気に入らない婿殿をいびっているような構図だ。
「そう、そしてある種の薬品の効力を一時的に高める事も出来る。一種の透明化の薬のようなね」
「そこまで知っているならおめえ、誰が何を作ろうがどうでもいいだろう。長生きしてみりゃつまらん世の中になっちまってこちとら消え入りたいくらいだからな。昔は転生者・転移者と言えば社会に適合できないが気骨のある奴らだったが今は違う。下らん小せえ目的の為だけに世界を超えたがるんだからよ」
吐き捨てるような老人の言葉に渡は
「ではあなたのお眼鏡に適う人間が現れたという事ですね。店に入ってすぐ左のカウンターの右から3番目の存在消失薬を量からして2日分ある男に処方しましたね?彼はあなたに何と言ったのですか?」
渡の厳しい物言いで老人は引っ被っている掛布団をバッと跳ね上げてそのネズミ色の作務衣のいかにもガンコ職人といった姿を初めて私達の前に現した。
「あんた、何者だ?何が目的だ?」
上ずった声で老人が尋ねる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる