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3章 候補者は4人
7 異世界コンペ②
しおりを挟む「では丹下景勝氏がこの遠征に必要欠くべからざる人材であるかを説明する前に、異世界オーストラムの放棄度についての説明が完全ではないようですので補足させてもよろしいでしょうか?」
真龍警部とその両隣の白衣の人物は無言。それを肯定と捉えた渡はクルリと私達の方に向き直った。
「まず世界の放棄度という聞き慣れない言葉ですが、これはある世界を作った神が世界がどの時点で失敗したかと考える度合いです。全部で5段階ありますがまず第5、第4ではないでしょう。というのも第5段階ではいわば宇宙空間に隕石1個が浮かんでいる状態で第4段階はいわば火の玉状態から抜け出せなかった、いずれも世界のなり損ないという物でこれらにはまず生命体は干渉できない。今回の遠征で非常に選抜基準が厳しい点から考えて恐らく第3段階、人間のような知的生命体が存在しない、地球で言うところの中生代とか新生代初期の環境と思われます」
「全くその通りだ。ここに集う人間は覚悟済みだろうからレジュメには記載しなかったがオーストラムはあらゆる危険性のある危険生物、魔獣だの怪獣だのと呼べる存在が闊歩しているまさに魔境だ。オーストラムを造った神はこの世界に一向に知的生命体が生まれてこないのを見てこの世界を捨て去ったようだ」
真龍警部の冷ややかな言葉に私も景勝氏も背筋をゾクリとさせた。神に見捨てられた世界。フィクションでは度々出てくる単語が現実に存在していようとは。いくら金の為とはいえそんな所に行く必要などあるのだろうか?
「フフ、怖気づいているみたいね、彼。私が先にやりましょうか?」
瘋癲堂の店主、黒崎美鈴は余裕の笑みを浮かべる。
「いや、それには及ばないよ。皆さん、彼が、いや人間がこれをきいて怖気づくのは普通です。怖気づくからこそどう対処するのかという知恵と勇気が生まれるのです。その普通の人間の知恵と勇気とはありふれた物です。つまり、自分と自分の仲間を生かす為の判断、気遣いという徳ですよ。徳長氏は確かに優秀です。しかし彼に他の人間の、それも自分よりも劣る人間を優先しなければならない時にそれができるでしょうか?確率は申し上げませんがそれでも景勝氏は彼よりもその行動を取る率は高いとだけは断言できます。彼には恥ずべき過去がある。ですが一方でその良心によって罪を償い、家族の事を思い出来るだけ1人でやってきた。そんな人物がいるという心理的な安心感はチームを組む上で非常に重要だと思います」
「だが、我々の課した基準に満たなかった。人格だけで乗り切れる程あまい世界ではない」
「それはモチベーションの問題です。目的を少しでも明かしていれば他の参加者の方もまた違った結果が出ていたと思いますよ。技術というのは後天的に会得できるものですからね」
「そう、才能と情熱の2つがいるがね」
真龍警部も負けていない。
「その点もクリアしていると思いますよ。彼は愚連隊とはいえ1つの組織の頂点にいた人間なんですからね」
真龍警部の両隣の博士風の男達は明らかに狼狽している。自分達のボスにここまで食い下がる人間がいるとは想像もしていなかったに違いない。私はその考えをそっと丹下兄妹に伝えると私達3人は鏡の中の人らに気が付かれない様に薄く笑った。
こんな痛快な思いは久しくなかったからだ。
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