異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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4章 渡界人の慧眼

4-1 我はウォルター・ランドステイ① ある子供の異常Ⅰ

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これから記す物語はその異常性と悲劇的な結末から世に出る可能性は極めて低いであろう。

しかし私としては隣人である渡界人の仕事の1つとして異世界転生を志す私自身に対する縛めとしてこの事件を残しておきたいと思う。もしこれが世に出るならば数多くの転生希望者には転生前にこの物語をぜひ読んで心しておいてもらいたい内容が詰まっていると確信している。


203X年の5月の半ばの事だった。この年はいつになく渡界人の『異世界転生コンサルタント』の仕事が全くなかった。

「実に健全な事じゃないか。少なくともうまくいかない人生をなんとかして折り合いをつけようと努力している人の多い事は社会にとっても有意義な事だよ」

渡は欠伸を噛み殺しながらそう言ったが私の意見は違った。

「そうは思わないな。君の仕事が世間一般に知られているとは言い難いからな。ほら、5月病といってそろそろ新入社員とかが現実を知ってうつ病や自殺をする季節だよ。もしかしたら依頼が殺到するかもしれないぞ」

その言葉を裏づける様に渡の部屋のインターフォンが鳴った。

「どうも今回は君が正しいらしいな」

渡は苦笑いをして玄関に向かうと1人の女性を連れて居間に戻って来た。

「さあ、おかけください。君、すまないがこのご婦人にお茶をお出ししてくれないか」

渡は1つしかないテーブルの椅子の1つに女性に座るよう促すと自身も彼女に相対するように座った。

私がお茶を持ってキッチンから出てくると

「すみません、奥様。お話の前に彼の同席を許して頂けますか?彼は私の仕事の記録を付けてくれる秘書というか相棒とも言うべき存在なのです。つまり私を信じて頂けるなら彼も同様に信用できる男なのです」

「勿論です。私は子育てをしていますが育児の専門家ではありませんし、子供の発育や精神の発達に関してはまるで素人です。ですから少しでも知識のある方の同席はこちらから歓迎するところでございます」

「するとお子さんについて、何か悩みがあるんですね?」

私が渡の隣に座ると彼はそう切り出した。

「はい。申し遅れました。私は大伴ひかりと申します。夫である大伴伊功よしのりとは6年前に結婚しまして今、3歳になる息子の勇の様子が2か月前から急激に変化しましてどんなお医者様や相談機関もお手上げの状態なのです。そこで藁をもすがる思いでこちらのインターネットサイトを見て大至急来た訳なのです」

「奥様、より正確にいえばこれまでかかった医者やその他の機関の出した答えに満足されていないからこんな怪しげな職業の人間を訪ねて来られたという事ではないですか?」

渡はニコニコしながら言うと依頼人は俯いてこくんと頷いた後目に涙を溜めて絞り出すようにこう言った。

「そうなのです。明らかに何かの病気やストレスとは違う、これはあの子の母親ゆえの直感でしかないのですがそうとしか思えないのです」

「では最初から話してもらえませんか?2か月前のご子息に何があったかを」
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