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4章 渡界人の慧眼
4ー1 我はウォルター・ランドステイ⑤ 恐るべき疑惑
しおりを挟む「合わせる?とんでもない!!」
家庭教師は急に現実に引き戻されたような顔をして烈火のごとく反対した。
「勇君には類稀なる才能がある。その才能の開花をあなたのような得体のしれない人物に汚させてはならない。これも家庭教師たるものの使命です!」
「いえ、勇に会って下さい。どうかよろしくお願いします」
「奥様!?」
驚愕の表情を浮かべる家庭教師とひかり氏に会釈して私達は彼女の案内で2階の息子の部屋へと向かった。
その部屋のドアは特別大きいとか小さいという訳ではなく、左右の部屋のドアと変わりはない。ただ『勇の部屋』というPCで打ったと思しき表札が掛かっているだけである。
渡はその扉を慎重にノックした。
「こんにちは。突然申し訳ない。私は渡界人といってお母様に頼まれてきた者です。少しお話よろしいでしょうか?」
不気味なほどの沈黙がどれほど続いたか。母親が声を掛けようとしたのを渡は制してひたすら扉の主の返事を待った。
「いや、今は忙しいんです。また日を改めてください」
3歳児の出す言葉とは思えない位の落ち着いた品のある声が響いた。
「本人がああいっている以上はこれ以上の追及は今はやめておきましょう。彼の精神にも悪影響が出かねませんので」
「すみません。ですがまた来て下さるのですね?」
「はい。今日の訪問で少し疑問が生まれまして、そちらの解決から先にしたいと思います。ではまたご子息に何か変化がすぐに連絡を下さい」
「一体君は何を考えているんだい?僕には教えてくれるだろう?」
大伴邸を出て最寄り駅から乗った電車内で私は渡がこの件で何を考えているかさっぱり分からなかった。
「実のところ僕も2つの可能性がある事で悩んでいる」
「1つは?」
「単純さ。あの家庭教師が言うようにあの子供はいわゆるギフテッドで何かのきっかけで今の状態になったというだけの話だよ。これならきっかけが何なのかという疑問は残るが僕達の出る幕ではない。だが」
彼はここで1つため息をついて
「このきっかけが異世界転生、それも既存の人間の魂を乗っ取る類の物だったとしたら非常に問題になる」
「別の人間の魂があの子の中にあるというのか?」
「まだ可能性の段階だが・・・・異世界の錬金術士とか魔導士なのじゃないかと睨んでいる。僕はあの家の書斎を本棚を調べていくつかの化学や科学の本が最近動かされた事を知った。これは背表紙付近に埃が無い事や椅子や踏み段を最近動かした形跡からわかる」
「そうだったのか。君はその可能性があるからあんなに熱心だったんだな。それで他に根拠は?」
「母親の言った最初の料理の話を覚えているかい?ひっくり返したいくつもの調味料の壜に鍋。何かの実験をしようとしていたのかもしれない。だがそれが『化学物質』でないと知った『彼』はこの世界の学識や知見を学ぶことをまず優先したんだ。その転生前の卓越した頭脳を使ってね。恐らく転生前はそれなりに高名だったと思われる」
「何故?」
「学者として偉くなるにはどうすればいいかを聞いたというじゃないか。つまりこの世界の社会規範や権威の手に入れ方さえ考えていることの現れだよ」
ゾッとする話だった。確かに異世界転生モノのラノベではよくある話だが確かに元の人格がどうなったかという事に言及している物は少ない。だがそれが今現実に起きているかもしれないのだ。
「さし当って今は最近高名な魔術師か錬金術師が亡くなった異世界を探してみようと思う。その生前の様子から世界を超えてまで何をしようとしているのかも分かるかもしれない」
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