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第6話 姿無き暗殺者(後編) 類人猿型UMAアルマス 海蛇型上級UMAナウエリト登場
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何の前触れもなくいきなり現れたナウエリトは困惑するアルマスに
「アルマス、お前は自分の任務を果たせ。奴は俺が仕留める」
そして達人に向かって「ようやく出会えたな。貴様のために仲間が何体も死んだ。その落とし前を着けてやる」
そう言って達人に向かってオール状の左手を伸ばしてきた。
達人はそれを躱すがオールが突き刺さった床が瞬く間に砂状になり穴を開ける。
同時にアルマスが再び部屋に向けて飛び上がる
「あの腕まさか高周波振動しているのか?あれに当たったらどんな固い物体もバラバラだ。うわまた来た」
古川がそう分析し、蹲る間にも達人目掛けてナウエリトが高周波ランサーを突き出す。
達人は顔の前で両腕を交差させ、両肘を曲げながら屈みトイコス(ギリシア語で壁の意)と叫び伸びあがると同時に両腕を開く。そして両腕を合わせて地面に向かって振り下ろす。
逆三角形の下の頂点の間に横線を引いた形の土の図形を描いたのだ。
この方法は四つの属性を詰め込まれていわば「混線」している鎧に何をするのかを指示する上で有用だった。
古川と黒川の四方と達人の前方に半透明の灰色の壁が現れる。
(土は防御か。消費エナジーも水に次いで低い。風はどうやら分析や伝達能力に長けるらしいがエナジー消費が大きいな)
達人はこれまでの戦いからそんな感触を得た。
彼の鎧は新たに現れた怪物は先程まで戦ってきた忍者の化け物の2倍の内在エナジーがある事を装着者に示した。
壁はアルマスの攻撃を弾くが件の高周波ランサーには二秒ほどで分解され灰色の粒子に戻り消えていった。
「そんな手品が通用するか!」ナウエリトが自身の眼球から熱線を放つ。
達人は反射魔法のため両腕を顔の前に出すが直撃したエナジーを吸収できず火花と爆発を散らして両腕の装甲が煙を上げて達人は後方に吹き飛ぶ。
「反射できる限界があるのか?だが」
すぐに立ち上がり、ナウエリト目掛けて右腕で三角形を描き火球フロギストンを放つ。
しかしナウエリトは微動だにせず火球はその目前で散った。
「目の前に何かある。バリアか?」
「手品は通じないと言っただろ。アルマス、奴を倒すのに手を貸せ。そうすりゃあの目障りな壁も死ねば消えるだろうよ」
「承知」アルマスがブツブツ何か唱えるとその姿が消える。
この隠形術はエナジーをかなり消費するため使わないつもりだったが高い攻撃力を持つナウエリトのサポート役としてその身体能力と相まって敵に対する牽制としては理想的なものだ。
(どこにいるんだ?)
五感を総動員しつつ、更に別の探知方法を探るがその回答が鎧側から来るより早く、あざ笑うかのような見えない一撃を背中に受けよろめく達人に高周波ランサーが迫った。
衝撃に逆らわずランサーを前方へ跳んで紙一重にかわした先に姿を消したアルマスが待ち構えており胸に苦無を突き刺される。
火花が散りぼんやりと忍者の姿が浮かび上がる。
間を置かず迫るランサーを右前方に飛んで避けるが着地点を予測したナウエリトが放った熱線が右足をかすめ倒れる。
すかさず連続で放たれるランサーを達人は転がりながらかわしていく。
彼の後を追う高周波ランサーの為に施設の床は穴だらけとなっていく。
(どうにかしてアルマスの位置を割り出さなければ。このままでは勝ち目はない)
達人がそう考える間に勢い余ったのかランサーが彼の背後の建物の壁を破壊する。
空いた穴から西日が差し込み、外から入ってきた微風に砂状になった施設の残骸が舞う。
ふと目についたその光景に天啓を得たと達人は思った。
(あの槍の高周波振動しているのは穂先だけ、つまり人間でいう所の掌のみか。ならば後は問題はエナジーが足りるかだけだな?風は思いのほかエナジーを食うみたいだからな)
だが迷っている暇はなかった。
胸の前で腕を交差させ両腕で三角形を描くそして腕を頭上で再び交差させ横に開きながら風の図形を描き強風プノエーを唱える。
風が巻き起こり部屋全体に砂が舞い上がる。
同時に杖を風のエレメンタル・エナジーによるクロスボウに変化させ、アルマスに狙いを定める
「今度はそよ風の手品か。面白くないんだよ」ナウエリトは毒づくが目の前に妙なものが立っているのに気づく。
それが全身に砂ぼこりを着けられたアルマスと気づく。
「あいつ、こんな方法でアルマスの位置を割り出しやがった」
言いながらランサーをアルマスの盾とすべく引き戻そうとするがもう間に合わない。
その伸ばした腕の部分がアルマスの前に来たその瞬間にクロスボウの矢が左腕を吹き飛ばしその勢いのままアルマスを貫いた。
風のエレメンタル・エナジーを受けたアルマスの体は徐々に風化し一陣の風となって消滅した。
「しまった!アルマス」ナウエリトは切り飛ばされた腕を右腕に抱えながら任務失敗を悟る。
苦い思いを抱えてナウエリト次元の穴の中に消える。
フライング・ヒューマノイドからの制裁があるだろうがナウエリトは甘んじて受けるつもりだった。
そのくらいのけじめは彼にもあった。
「あのまま返していいんですか?せっかく手に入れたのに」
戦闘終了後破壊された壁を利用して逃げ出した芹沢達人を捕らえないのかと古川は進言したが
「今は好きにさせた方がいい。そちらの方が有用だよ」
古沢に黒川がそう告げる。
「戦闘力は我々のマルスと大差ない。ならここで飼い殺しにするよりこちらのプロトマルス同様好き勝手暴れさせてあわよくば怪物どもと相打ちしてくれるのが一番いいシナリオだ」
「そううまくいきますかね」
「必要なデータと人員は揃った。後は資金だけだ」
手元のコンソールに映る設計図を見て黒川はそう呟いた。
「グオオッ命令を破ったのは悪かったよ。その手をどけてくれ」
懇願するナウエリトの頭にフライング・ヒューマノイドが手をのせていた。
制裁を覚悟してはいたが予想以上の苦痛に思わずナウエリトが抗議する。
フライング・ヒューマノイドは手傷を負って帰ってきたナウエリトの説明がまるで要領を得ないため懲罰を兼ねてその記憶を直接読み取っていたのだった。
なお記憶を読み取る時に高圧電流が流れるのである。
彼としても今回のナウエリトの失態は許しがたいが今回は彼も別のUMAグループの説得に失敗していた。
フライング・ヒューマノイドとしてはUMAの各部族が各地で一斉蜂起することが人類攻撃に最も有効だと考えていた。
だがUMAはその大多数が人間以外の生物に由来する生命体である。彼らは基本的に縄張りから出たがらない。彼らが人を襲うのはその縄張りの範囲内に限られていた。
最もそれに縛られない個体もいる。今いるこの三体がそうであったがこういう個体はかなり珍しいのである。
その観点やナウエリトが高周波ランサーというUMA全般を見ても殆ど見かけない能力を持っていることがフライング・ヒューマノイドに彼の粛清をためらわせていた。
ただ全くのお咎めなしという訳にはいかないのでこのような『制裁』を加えることにしたのである。
「あれほど動くなといったでしょう。おかげで優秀な諜報員を失いました。あれほどの個体はそう見つからないというのに。フム、相手はあなたより頭がいいみたいですね」
UMAにも種族や個体差がある。今回のアルマスは同族内でも特に諜報能力と高い知能を持った個体だった
そういった能力と知性を兼ね備えた個体は少ないのだ。
「いうな!今度会ったら」
「今度会ったら?どうするんだ?」部下を失い怒り心頭のイエティが聞き返す。
「いや。大人しくするよ」
その剣幕に押されナウエリトも小さくならざるを得なかった。
夜九時。
八重島家のドアを叩く音で八重島紗良が玄関を開けると芹沢達人が立っていた。
「ただいま」はた目には何事もなかったかのように無表情である。
「おかえりなさい、よしよし。じゃあ次は?」
途端に考えだす相手を見てまだまだ先は長いなと思う。
「帰ってきてくれたんだ」
「そうだな。何故かここに帰ってきたくなったんだ。何故だかな」無感情に達人はそう返す。
「はいはい。で次は手を洗ってうがいをする。これが一般的な人間のスタイルだからね」
「そうかい」
「そういうものなの。で」
紗良は達人を頭の上からつま先まで眺めて
「その格好で行ったワケ?」
「問題ないだろう。まさか八重島さんの服を着て行く訳にもいかないしな」
彼はこの家に来た次の日からそれまで来ていたボロ雑巾のような服からこの家の主人である八重島修一郎の服を貸してもらっていた。
それを着て警察にも行ったのである。
ところが今回は以前から着ていた服をわざわざ引っ張り出してそれを着て行ったのである。
「人目を惹きすぎでしょ、その格好」
「?ああ、この箱は確かに目立つな」背中の金属製の箱を見て達人は言う。
「いやいやそれもだけどその服装はねえ」
「あそこへはこのままでいい。その方が都合がいいからな」
「どんな都合よ。ああごめん。ここに立っていると入れないわよね」
紗良は後ろに下がって達人を家の中に入れる。
達人は言われた通り洗面台で手洗いとうがいをしてリビングに行った。
家主にも報告の義務があると感じた為だ。
「戻りました」
「よかった、帰ってきたか。行ったが最後監禁されて戻ってこないんじゃないかと話していたんだ」
達人の姿を見て修一郎が安堵したようにそう言った。
「連中も恐らくそのつもりだったでしょうが都合よく邪魔が入りましてね」そう言いながら達人は庭に出る。
「怪物が現れたっていうのか」
「まあ大変だったわねぇ」その報告に修一郎と梓が驚いた。
鎧を箱から出して点検する。
先程の戦いでナウエリトに付けられた篭手の傷の具合を検めた。
両方の篭手の甲部分に大きな傷が走っていて幸い機能面での問題はないが後どのくらい耐えられるかは分からなかった。
『生きている鎧』と言われるだけあって『治癒』機能があるらしく最初の戦いで付けられた胸の傷はほぼ無くなっているがそれも人体同様瞬時にふさがるわけではない。
(メンテナンスも素人の俺には限界があるしな)
簡単に死ぬつもりはないがその瞬間がいつ来るのかは分らないのだ。
そう感じるから達人は服装だのに気を遣うことに意義を見出せない。
ただ借り物の服では元の持ち主に申し訳がないから今回着替えたのである。
「よかったわ。その服捨てなくて。やっぱり自分の私物が愛着あるわよね」梓は達人の考えを誤解してそう言う。
「でもそれだけじゃ不便だろうから・・ああ紗良、今度達人君と一緒に新しい服買いに行ったら?他にも入用なものがあるだろうし」リビングに入ってきた紗良に梓がそんな提案をする。
「それはいいけど。あんた大丈夫なの?」
「梓さん、前にも行ったが俺は」
「それでもよ。私は達人君には普通の人の人生がどんなものかを知ってほしいの。戦いだけの人生なんてつまらないわよ」
「分りました。ご息女の為にもできるだけ短時間で済ませてきます」
「それは気にしなくていいから。二人ともデート楽しんできてね」
「デートだと!?そんなことが・・・我が家にもついにこんな事態が来るとは・・」梓の言葉に衝撃を受けて修一郎が呆然とする。
「ショック受けすぎでしょ。お父さんが考えてる事絶対ないから」その父の様子に紗良は呆れた声を出す。
(これが『普通』の家族の会話なのか)
不思議とこういうのも悪くないと思う達人だった。
「アルマス、お前は自分の任務を果たせ。奴は俺が仕留める」
そして達人に向かって「ようやく出会えたな。貴様のために仲間が何体も死んだ。その落とし前を着けてやる」
そう言って達人に向かってオール状の左手を伸ばしてきた。
達人はそれを躱すがオールが突き刺さった床が瞬く間に砂状になり穴を開ける。
同時にアルマスが再び部屋に向けて飛び上がる
「あの腕まさか高周波振動しているのか?あれに当たったらどんな固い物体もバラバラだ。うわまた来た」
古川がそう分析し、蹲る間にも達人目掛けてナウエリトが高周波ランサーを突き出す。
達人は顔の前で両腕を交差させ、両肘を曲げながら屈みトイコス(ギリシア語で壁の意)と叫び伸びあがると同時に両腕を開く。そして両腕を合わせて地面に向かって振り下ろす。
逆三角形の下の頂点の間に横線を引いた形の土の図形を描いたのだ。
この方法は四つの属性を詰め込まれていわば「混線」している鎧に何をするのかを指示する上で有用だった。
古川と黒川の四方と達人の前方に半透明の灰色の壁が現れる。
(土は防御か。消費エナジーも水に次いで低い。風はどうやら分析や伝達能力に長けるらしいがエナジー消費が大きいな)
達人はこれまでの戦いからそんな感触を得た。
彼の鎧は新たに現れた怪物は先程まで戦ってきた忍者の化け物の2倍の内在エナジーがある事を装着者に示した。
壁はアルマスの攻撃を弾くが件の高周波ランサーには二秒ほどで分解され灰色の粒子に戻り消えていった。
「そんな手品が通用するか!」ナウエリトが自身の眼球から熱線を放つ。
達人は反射魔法のため両腕を顔の前に出すが直撃したエナジーを吸収できず火花と爆発を散らして両腕の装甲が煙を上げて達人は後方に吹き飛ぶ。
「反射できる限界があるのか?だが」
すぐに立ち上がり、ナウエリト目掛けて右腕で三角形を描き火球フロギストンを放つ。
しかしナウエリトは微動だにせず火球はその目前で散った。
「目の前に何かある。バリアか?」
「手品は通じないと言っただろ。アルマス、奴を倒すのに手を貸せ。そうすりゃあの目障りな壁も死ねば消えるだろうよ」
「承知」アルマスがブツブツ何か唱えるとその姿が消える。
この隠形術はエナジーをかなり消費するため使わないつもりだったが高い攻撃力を持つナウエリトのサポート役としてその身体能力と相まって敵に対する牽制としては理想的なものだ。
(どこにいるんだ?)
五感を総動員しつつ、更に別の探知方法を探るがその回答が鎧側から来るより早く、あざ笑うかのような見えない一撃を背中に受けよろめく達人に高周波ランサーが迫った。
衝撃に逆らわずランサーを前方へ跳んで紙一重にかわした先に姿を消したアルマスが待ち構えており胸に苦無を突き刺される。
火花が散りぼんやりと忍者の姿が浮かび上がる。
間を置かず迫るランサーを右前方に飛んで避けるが着地点を予測したナウエリトが放った熱線が右足をかすめ倒れる。
すかさず連続で放たれるランサーを達人は転がりながらかわしていく。
彼の後を追う高周波ランサーの為に施設の床は穴だらけとなっていく。
(どうにかしてアルマスの位置を割り出さなければ。このままでは勝ち目はない)
達人がそう考える間に勢い余ったのかランサーが彼の背後の建物の壁を破壊する。
空いた穴から西日が差し込み、外から入ってきた微風に砂状になった施設の残骸が舞う。
ふと目についたその光景に天啓を得たと達人は思った。
(あの槍の高周波振動しているのは穂先だけ、つまり人間でいう所の掌のみか。ならば後は問題はエナジーが足りるかだけだな?風は思いのほかエナジーを食うみたいだからな)
だが迷っている暇はなかった。
胸の前で腕を交差させ両腕で三角形を描くそして腕を頭上で再び交差させ横に開きながら風の図形を描き強風プノエーを唱える。
風が巻き起こり部屋全体に砂が舞い上がる。
同時に杖を風のエレメンタル・エナジーによるクロスボウに変化させ、アルマスに狙いを定める
「今度はそよ風の手品か。面白くないんだよ」ナウエリトは毒づくが目の前に妙なものが立っているのに気づく。
それが全身に砂ぼこりを着けられたアルマスと気づく。
「あいつ、こんな方法でアルマスの位置を割り出しやがった」
言いながらランサーをアルマスの盾とすべく引き戻そうとするがもう間に合わない。
その伸ばした腕の部分がアルマスの前に来たその瞬間にクロスボウの矢が左腕を吹き飛ばしその勢いのままアルマスを貫いた。
風のエレメンタル・エナジーを受けたアルマスの体は徐々に風化し一陣の風となって消滅した。
「しまった!アルマス」ナウエリトは切り飛ばされた腕を右腕に抱えながら任務失敗を悟る。
苦い思いを抱えてナウエリト次元の穴の中に消える。
フライング・ヒューマノイドからの制裁があるだろうがナウエリトは甘んじて受けるつもりだった。
そのくらいのけじめは彼にもあった。
「あのまま返していいんですか?せっかく手に入れたのに」
戦闘終了後破壊された壁を利用して逃げ出した芹沢達人を捕らえないのかと古川は進言したが
「今は好きにさせた方がいい。そちらの方が有用だよ」
古沢に黒川がそう告げる。
「戦闘力は我々のマルスと大差ない。ならここで飼い殺しにするよりこちらのプロトマルス同様好き勝手暴れさせてあわよくば怪物どもと相打ちしてくれるのが一番いいシナリオだ」
「そううまくいきますかね」
「必要なデータと人員は揃った。後は資金だけだ」
手元のコンソールに映る設計図を見て黒川はそう呟いた。
「グオオッ命令を破ったのは悪かったよ。その手をどけてくれ」
懇願するナウエリトの頭にフライング・ヒューマノイドが手をのせていた。
制裁を覚悟してはいたが予想以上の苦痛に思わずナウエリトが抗議する。
フライング・ヒューマノイドは手傷を負って帰ってきたナウエリトの説明がまるで要領を得ないため懲罰を兼ねてその記憶を直接読み取っていたのだった。
なお記憶を読み取る時に高圧電流が流れるのである。
彼としても今回のナウエリトの失態は許しがたいが今回は彼も別のUMAグループの説得に失敗していた。
フライング・ヒューマノイドとしてはUMAの各部族が各地で一斉蜂起することが人類攻撃に最も有効だと考えていた。
だがUMAはその大多数が人間以外の生物に由来する生命体である。彼らは基本的に縄張りから出たがらない。彼らが人を襲うのはその縄張りの範囲内に限られていた。
最もそれに縛られない個体もいる。今いるこの三体がそうであったがこういう個体はかなり珍しいのである。
その観点やナウエリトが高周波ランサーというUMA全般を見ても殆ど見かけない能力を持っていることがフライング・ヒューマノイドに彼の粛清をためらわせていた。
ただ全くのお咎めなしという訳にはいかないのでこのような『制裁』を加えることにしたのである。
「あれほど動くなといったでしょう。おかげで優秀な諜報員を失いました。あれほどの個体はそう見つからないというのに。フム、相手はあなたより頭がいいみたいですね」
UMAにも種族や個体差がある。今回のアルマスは同族内でも特に諜報能力と高い知能を持った個体だった
そういった能力と知性を兼ね備えた個体は少ないのだ。
「いうな!今度会ったら」
「今度会ったら?どうするんだ?」部下を失い怒り心頭のイエティが聞き返す。
「いや。大人しくするよ」
その剣幕に押されナウエリトも小さくならざるを得なかった。
夜九時。
八重島家のドアを叩く音で八重島紗良が玄関を開けると芹沢達人が立っていた。
「ただいま」はた目には何事もなかったかのように無表情である。
「おかえりなさい、よしよし。じゃあ次は?」
途端に考えだす相手を見てまだまだ先は長いなと思う。
「帰ってきてくれたんだ」
「そうだな。何故かここに帰ってきたくなったんだ。何故だかな」無感情に達人はそう返す。
「はいはい。で次は手を洗ってうがいをする。これが一般的な人間のスタイルだからね」
「そうかい」
「そういうものなの。で」
紗良は達人を頭の上からつま先まで眺めて
「その格好で行ったワケ?」
「問題ないだろう。まさか八重島さんの服を着て行く訳にもいかないしな」
彼はこの家に来た次の日からそれまで来ていたボロ雑巾のような服からこの家の主人である八重島修一郎の服を貸してもらっていた。
それを着て警察にも行ったのである。
ところが今回は以前から着ていた服をわざわざ引っ張り出してそれを着て行ったのである。
「人目を惹きすぎでしょ、その格好」
「?ああ、この箱は確かに目立つな」背中の金属製の箱を見て達人は言う。
「いやいやそれもだけどその服装はねえ」
「あそこへはこのままでいい。その方が都合がいいからな」
「どんな都合よ。ああごめん。ここに立っていると入れないわよね」
紗良は後ろに下がって達人を家の中に入れる。
達人は言われた通り洗面台で手洗いとうがいをしてリビングに行った。
家主にも報告の義務があると感じた為だ。
「戻りました」
「よかった、帰ってきたか。行ったが最後監禁されて戻ってこないんじゃないかと話していたんだ」
達人の姿を見て修一郎が安堵したようにそう言った。
「連中も恐らくそのつもりだったでしょうが都合よく邪魔が入りましてね」そう言いながら達人は庭に出る。
「怪物が現れたっていうのか」
「まあ大変だったわねぇ」その報告に修一郎と梓が驚いた。
鎧を箱から出して点検する。
先程の戦いでナウエリトに付けられた篭手の傷の具合を検めた。
両方の篭手の甲部分に大きな傷が走っていて幸い機能面での問題はないが後どのくらい耐えられるかは分からなかった。
『生きている鎧』と言われるだけあって『治癒』機能があるらしく最初の戦いで付けられた胸の傷はほぼ無くなっているがそれも人体同様瞬時にふさがるわけではない。
(メンテナンスも素人の俺には限界があるしな)
簡単に死ぬつもりはないがその瞬間がいつ来るのかは分らないのだ。
そう感じるから達人は服装だのに気を遣うことに意義を見出せない。
ただ借り物の服では元の持ち主に申し訳がないから今回着替えたのである。
「よかったわ。その服捨てなくて。やっぱり自分の私物が愛着あるわよね」梓は達人の考えを誤解してそう言う。
「でもそれだけじゃ不便だろうから・・ああ紗良、今度達人君と一緒に新しい服買いに行ったら?他にも入用なものがあるだろうし」リビングに入ってきた紗良に梓がそんな提案をする。
「それはいいけど。あんた大丈夫なの?」
「梓さん、前にも行ったが俺は」
「それでもよ。私は達人君には普通の人の人生がどんなものかを知ってほしいの。戦いだけの人生なんてつまらないわよ」
「分りました。ご息女の為にもできるだけ短時間で済ませてきます」
「それは気にしなくていいから。二人ともデート楽しんできてね」
「デートだと!?そんなことが・・・我が家にもついにこんな事態が来るとは・・」梓の言葉に衝撃を受けて修一郎が呆然とする。
「ショック受けすぎでしょ。お父さんが考えてる事絶対ないから」その父の様子に紗良は呆れた声を出す。
(これが『普通』の家族の会話なのか)
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