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第5話 姿無き暗殺者(前編)類人猿型UMAアルマス登場
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「随分とあっさりと協力するな」
「あんたのためじゃない。ケイのためだ」黒川の疑問に達人はそう返す。
こいつならもし怪物に変身して襲っても問題ない。
そんなことを考えて黒川博士の息子である黒川ケイがその結果どんな思いをするだろうかと達人は考える。
自分にとっては憎悪を向ける対象でもケイにとっては違うかもしれない。
そう考えて自分が彼に理不尽をもたらす存在になりかねないことに達人は戦慄した。
それは達人にとって最も許しがたい事だった。
黒川ケイは最初から自分達のいた施設にいた訳ではない。
ある時から気が付けばそこに居た。
自分達の生殺与奪を握る所長の息子
そんな立場の彼は当然非難と嫌がらせの対象となった。
だがそれも程なくして無くなった。
その最大の要因は彼のみに施設がいや父親である黒川博士が課した特別訓練だった。
その過酷さを知った達人らはケイへの一種の尊敬の念と同時に我が子にさえこのような仕打ちをするのだから他人である自分達への非情さも当然の事だ、という黒川ら施設の大人達への一種の諦めと畏怖を幼心に刻み込んでいた。
車内は前後に大きな黒いガラスで仕切られており二人の座る後部座席の左右とリアガラスも真っ黒な覆いがかかっていた。
つまりこれからどこへ行くかはわからない仕組みになっているのだった。
このような作りでも昨今の技術の進歩により車載カメラで運転席からも後方を確認できるので問題はなかった。
「こんな車が走っていたら流石に警察に怪しまれるだろ」
「そんな事は心配しなくて良い」達人の疑問を黒川は一蹴する。
既に犯人はこの世にいないとは知らない警察の検問は1週間たった今でもf市内各所で続いておりそれを避ける為か車はやたら左に右に揺れて脇道に入っているらしかった。
(それと俺に経路を悟らせないためか)
いくら景色が見えないといっても周囲の音や車の振動、動きで道の状態や状況は推測できる。
トランクに積み込まれている鎧は委員会が血眼になって探していた『超兵器』だ。
ほぼ確実に中に入ったら外へ逃さないだろう。
(その時は)
達人がそう考えた時車が停車し降りるよう促される。
その敷地内に建てられた研究所は達人にとってはなじみのそして嫌悪の対象でもあった。
そこは一見すると児童施設とか公民館に似た建物なのだがその地下では数々の非人道的な訓練や意味不明の実験が行われていた恐怖と絶望の館だった。
「!?」何かに見られているような気がして達人は周囲を見回す。
だがそれらしきものは影も形もない。
暫く様子を窺うも風に揺れる木々が見えるだけだった。
(過去のトラウマを思い出して気が立っているのか)建物に入っていく達人をその直感通り、確かにこれまでの一部始終を見ている「モノ」があった。
「…報告は以上です」
「よくやったぞ。内部に潜入させるか?フライング・ヒューマノイド」
「素晴らしい。さすがは『忍のアルマス』と呼ばれるだけのことはありますね。イエティは有能な部下に恵まれていますね。引き続き監視ともう一つこれは可能であればでいいのですがその黒川という人物を暗殺して頂けると助かります」
「善処します」
「あくまで鎧の情報を得ることが最優先です。運悪く何度もニアミスしているのでようやく尻尾をつかめてよかったですよ」
達人らを監視していた骸骨状の頭部と忍者のような姿をしたアルマスの報告に異世界にて待機していたイエティとフライング・ヒューマノイドは満足げに頷いた。
アルマスが消えるとフライング・ヒューマノイドは仲間であるナウエリトとイエティに向かって
「私はこれから少し出かけてきます。ナウエリト、この件に関しては介入しないように。アルマスに全て任せること。いいですね。イエティ後は頼みましたよ」
その口調は丁寧だが有無を言わさぬ強さがあった。
「何をしてくるんだ?」イエティの質問に
「各地の他種族へ協力の要請をね」フライング・ヒューマノイドの返答に
「情報を知りたければ直接戦りあえばいいだろ?そこまで慎重になる理由が分らん」
「いいですか。すでに同胞が何体も彼又は彼女に敗れていますからね。我々の相手はもし私の予想通りなら一体で人
間の国の一つ二つ滅ぼせるほどの力を持っているのです。遠い昔四体で大陸一つを次元の彼方に吹き飛ばした実績もありますしね。私は若い頃にその力を目の当たりにしているからこそまだ若いお二人に無駄死にしてほしくないのですよ」
そう言って彼は空へ開けた次元の穴に消えていった。
彼が消えて暫く後ナウエリトは空に次元の穴をあけ始めた。
「言いつけを破るつもりか」
「もちろんだ、ようやく敵討ちの機会が来た。奴らが入っていったのは研究所だろ。ならこれ以上パワーアップされる前に片を付けなけりゃ大変なことになるだろうが。それに俺と奴との戦いで気が逸れるならアルマスも仕事しやすくなるってもんだ」
そう言ってナウエリトも穴の中に消えていった。
「芹沢達人君。ではあなたが『異世界』に送られた後のことを話してちょうだい。もちろん話したくないことはあるだろうけれど正確な情報をこちらも知りたいのよ」
施設に来て早々に通された殺風景な部屋の一室で向かいあって座る笠井恵美は芹沢達人にこう切り出した
「随分と謙虚だな。自白剤や拷問の類を想像していたんだが」
「あなたもやけにあっさり切札を私達に渡したのだからお互い様じゃないの?」
「勝算があるからな。しかしあんたを見たことがないがとんでもなく心の広い『寮長』がいると聞いたことはあるな」
「・・・夢破れた先輩の精一杯の気づかいという訳よ。あの過酷な訓練や適性試験に落ちた先輩のね」
心底悔しそうな表情をする笠井に達人は上の連中の判断は間違っていないとも思う。
感性が普通過ぎるのだ。この戦いを勝ち抜くにはどこか精神的に壊れた者でなければならないと達人は感じていた。
「分っている範囲は話す。だが俺も理解していない事が多い。ここは秘密主義者の集まりだからな」
そして達人はこれまでの戦闘を語り始めた。
同時刻
施設の実験室の一つに置かれた件の金属製の箱と鎧を研究員が様々な器具で調べようとしたがすべて無駄に終わった。
箱も鎧も近づく者を周囲に電流を流すことで威嚇し、それをかい潜って表面に触れたロボットアームやドローンを炎上させた。
その様子を別室のモニターで見ていた技術開発部主任の古川努は所内の内線に怒鳴っていた。
「何?そんなバカなことがあるか。もう一度調べなおせ。全く頭が変になりそうだ」
「どうしたのかね。古川君。新しい事は何かわかったかね」
やってきた黒川博士もモニターを見て「随分と癇癪を起しているな」とつぶやいた。
「まあ一つだけ。あまり重要ではなさそうですよ。それを含めて途方もなくこいつは頑固で融通が利かないやつです
よ」
「その新しい事とは?」
「先日破壊されたドローンの記録を修復してそれと比較したんですがね、あの鎧太陽光や天然の砂と比べて電灯やコンクリートのような人工物から吸収するエナジー量は十分の一になるんです」
「炭素測定は?」
「それが・・信じられますか1万2千年前だというのですよ!しかも公園から採取したごく少量の破片や画像の解析からあの鎧は青銅と現在地球上に存在しない未知の金属との合金で出来ているとかいうとんでもない結果が出ている。機械が狂っているか,そうでなければ研究員が計算違いをしたかどちらかですよ」
「では実際に動いている所を見てみるか」
「そうします」
古川は近くの内線を使い笠井恵美のいる部屋の番号を呼び出した。
「そんな事があったなんて。ちょっと信じられないわ」
「話している俺もそうだ。だが実際この目で見たからな」
笠井の聞き取り調査に達人は彼女が拍子抜けするほど素直に応じていた。
そんな中卓上の内線が鳴った。
「はい、笠井です。ええ順調ですよ。分かりました。彼にそう伝えます」
「所長からか?」
「ええ。実地訓練らしいわよ」
完全武装した達人は黒川と古川の話している部屋の下にある訓練場にやってきた。
彼らの話している場所はこの訓練場の監視や分析がしやすいよう床が張り出していた。
最も各種の機材のコントロールや本格的な記録は別室の分析室と彼らが呼んでいる所で行われるのだが。
この訓練場で彼らが最も興味を持っていた「魔法」のテストを行うのだ。
そしてその魔法の中でも攻撃用の魔法がいかなるものかを見ようというのだった。
「計測開始だ。準備を。どうした大丈夫か?」古川は指示を出した別室の部下の様子がおかしいのに気づき声をかける。
やる事が多くて、との返答に
「まあそうだろうな。だが歴史的瞬間に立ち会えるんだ。その功績は計り知れないよ。的を十個ほど準備してくれ」と返す。
分析室に白衣を着た研究員が倒れていた。死んではいない。気絶しているだけである。
先程のやり取りは施設に侵入したアルマスが行ったものだった。
姿を消す『隠形』を使える彼はここからどうするか考える。
いくつかプランを考えたが結局敵の能力を見定めておくことにした。
暗殺は容易い。だが鎧を装着したものがいる以上は交戦する可能性が高い。
さらに姿を消した自分を見破る事も十分考えられる。
アルマスは今しばらくここで敵の観察を続ける事にした。
それは人間の指示に従うという屈辱に耐える事でもある。
(後で数倍にして返してもらう)アルマスは内心で憎悪と闘争心を静かに燃やすのだった。
訓練場の壁に十個の丸い的が用意される。
「その的に魔法を当ててみろ」黒川が指示を出す。
的に向かって達人の唱えた火球フロギストンが飛んでいく。
次々と発射される火球はそのスピードもまちまちでさらに大きさも威力も様々で的を焼き尽くすものからそもそも飛んでいる途中で消えてしまう物もあった。
「おい、ちゃんとやれ」
マイクを通して響く古川の檄に達人は振り向きながら「やっている」と返した。
彼自身今気が付いたのだがどうも鎧に意思の伝わり方が安定していない。
それは逆に鎧から自身に示される情報が切れ切れである事にも関係しているかもしれない、と達人は思った。
「達人、それは火の魔法だな。なら三角形を描くように腕を動かしてみろ」
「普通の三角形か?」
「そうだ。上向きの一般的なものだ」
「それは何か意味があるんですか?」
「四元素の火を表す図形だ。水は下向きの三角形で風が上の三角形の途中に横向きの線が入っている物、土が風の形を下向きしたものだ」
古沢の疑問に黒川が答える。
達人は胸の前で両腕を交差させ肩幅に開きながら上にあげる。
左手を右腕に添えるようにして三角形を描きながら先ほどの呪文を唱え右腕を黒川らのいる部屋に向ける。
「おい、何のつもりだ」
古川が抗議するのと彼が扉を開けて部屋に現れた怪物を確認するのは同時だった。
達人は火球を黒川らに襲い掛かってきた怪物に向かって発射し同時に跳躍して部屋に飛び込む。
部屋へ侵入したそいつはそのまま前方へ走る。
その動きに1拍遅れて火球はガラスを溶かし壁に当たって燃える。
アルマスは黒川を殺すため手に持った苦無を振り上げるが窓ガラスを割りながら部屋に飛び込んできた達人に阻まれることとなった。
人間側にとって有利だったのは襲撃してきたアルマスが次元移動を苦手としていたことだった。
そうでなければ既に黒川は亡き者になっていた。
達人はアルマスに組み付きそれを振りほどこうとするアルマスと揉みあう内に下の訓練所に諸共落下する。
アルマスは忍者が使う苦無を、達人は杖を取り出し相対する。
達人としては自分の鎧と同等の身体能力を持つアルマスが逃走を図るのか、黒川暗殺をまだ諦めていないのであれば
その忍者然とした外見からも何かまだ隠し玉があるのではと疑わざるを得ない。
そのため次に取る行動も相手の動きによって変わってくるためこちらから下手に仕掛けられなかった。
しかし鎧のセンサーが次元移動してくるものを告げる。
突如地面から新手の怪物ナウエリトが出現した。
「あんたのためじゃない。ケイのためだ」黒川の疑問に達人はそう返す。
こいつならもし怪物に変身して襲っても問題ない。
そんなことを考えて黒川博士の息子である黒川ケイがその結果どんな思いをするだろうかと達人は考える。
自分にとっては憎悪を向ける対象でもケイにとっては違うかもしれない。
そう考えて自分が彼に理不尽をもたらす存在になりかねないことに達人は戦慄した。
それは達人にとって最も許しがたい事だった。
黒川ケイは最初から自分達のいた施設にいた訳ではない。
ある時から気が付けばそこに居た。
自分達の生殺与奪を握る所長の息子
そんな立場の彼は当然非難と嫌がらせの対象となった。
だがそれも程なくして無くなった。
その最大の要因は彼のみに施設がいや父親である黒川博士が課した特別訓練だった。
その過酷さを知った達人らはケイへの一種の尊敬の念と同時に我が子にさえこのような仕打ちをするのだから他人である自分達への非情さも当然の事だ、という黒川ら施設の大人達への一種の諦めと畏怖を幼心に刻み込んでいた。
車内は前後に大きな黒いガラスで仕切られており二人の座る後部座席の左右とリアガラスも真っ黒な覆いがかかっていた。
つまりこれからどこへ行くかはわからない仕組みになっているのだった。
このような作りでも昨今の技術の進歩により車載カメラで運転席からも後方を確認できるので問題はなかった。
「こんな車が走っていたら流石に警察に怪しまれるだろ」
「そんな事は心配しなくて良い」達人の疑問を黒川は一蹴する。
既に犯人はこの世にいないとは知らない警察の検問は1週間たった今でもf市内各所で続いておりそれを避ける為か車はやたら左に右に揺れて脇道に入っているらしかった。
(それと俺に経路を悟らせないためか)
いくら景色が見えないといっても周囲の音や車の振動、動きで道の状態や状況は推測できる。
トランクに積み込まれている鎧は委員会が血眼になって探していた『超兵器』だ。
ほぼ確実に中に入ったら外へ逃さないだろう。
(その時は)
達人がそう考えた時車が停車し降りるよう促される。
その敷地内に建てられた研究所は達人にとってはなじみのそして嫌悪の対象でもあった。
そこは一見すると児童施設とか公民館に似た建物なのだがその地下では数々の非人道的な訓練や意味不明の実験が行われていた恐怖と絶望の館だった。
「!?」何かに見られているような気がして達人は周囲を見回す。
だがそれらしきものは影も形もない。
暫く様子を窺うも風に揺れる木々が見えるだけだった。
(過去のトラウマを思い出して気が立っているのか)建物に入っていく達人をその直感通り、確かにこれまでの一部始終を見ている「モノ」があった。
「…報告は以上です」
「よくやったぞ。内部に潜入させるか?フライング・ヒューマノイド」
「素晴らしい。さすがは『忍のアルマス』と呼ばれるだけのことはありますね。イエティは有能な部下に恵まれていますね。引き続き監視ともう一つこれは可能であればでいいのですがその黒川という人物を暗殺して頂けると助かります」
「善処します」
「あくまで鎧の情報を得ることが最優先です。運悪く何度もニアミスしているのでようやく尻尾をつかめてよかったですよ」
達人らを監視していた骸骨状の頭部と忍者のような姿をしたアルマスの報告に異世界にて待機していたイエティとフライング・ヒューマノイドは満足げに頷いた。
アルマスが消えるとフライング・ヒューマノイドは仲間であるナウエリトとイエティに向かって
「私はこれから少し出かけてきます。ナウエリト、この件に関しては介入しないように。アルマスに全て任せること。いいですね。イエティ後は頼みましたよ」
その口調は丁寧だが有無を言わさぬ強さがあった。
「何をしてくるんだ?」イエティの質問に
「各地の他種族へ協力の要請をね」フライング・ヒューマノイドの返答に
「情報を知りたければ直接戦りあえばいいだろ?そこまで慎重になる理由が分らん」
「いいですか。すでに同胞が何体も彼又は彼女に敗れていますからね。我々の相手はもし私の予想通りなら一体で人
間の国の一つ二つ滅ぼせるほどの力を持っているのです。遠い昔四体で大陸一つを次元の彼方に吹き飛ばした実績もありますしね。私は若い頃にその力を目の当たりにしているからこそまだ若いお二人に無駄死にしてほしくないのですよ」
そう言って彼は空へ開けた次元の穴に消えていった。
彼が消えて暫く後ナウエリトは空に次元の穴をあけ始めた。
「言いつけを破るつもりか」
「もちろんだ、ようやく敵討ちの機会が来た。奴らが入っていったのは研究所だろ。ならこれ以上パワーアップされる前に片を付けなけりゃ大変なことになるだろうが。それに俺と奴との戦いで気が逸れるならアルマスも仕事しやすくなるってもんだ」
そう言ってナウエリトも穴の中に消えていった。
「芹沢達人君。ではあなたが『異世界』に送られた後のことを話してちょうだい。もちろん話したくないことはあるだろうけれど正確な情報をこちらも知りたいのよ」
施設に来て早々に通された殺風景な部屋の一室で向かいあって座る笠井恵美は芹沢達人にこう切り出した
「随分と謙虚だな。自白剤や拷問の類を想像していたんだが」
「あなたもやけにあっさり切札を私達に渡したのだからお互い様じゃないの?」
「勝算があるからな。しかしあんたを見たことがないがとんでもなく心の広い『寮長』がいると聞いたことはあるな」
「・・・夢破れた先輩の精一杯の気づかいという訳よ。あの過酷な訓練や適性試験に落ちた先輩のね」
心底悔しそうな表情をする笠井に達人は上の連中の判断は間違っていないとも思う。
感性が普通過ぎるのだ。この戦いを勝ち抜くにはどこか精神的に壊れた者でなければならないと達人は感じていた。
「分っている範囲は話す。だが俺も理解していない事が多い。ここは秘密主義者の集まりだからな」
そして達人はこれまでの戦闘を語り始めた。
同時刻
施設の実験室の一つに置かれた件の金属製の箱と鎧を研究員が様々な器具で調べようとしたがすべて無駄に終わった。
箱も鎧も近づく者を周囲に電流を流すことで威嚇し、それをかい潜って表面に触れたロボットアームやドローンを炎上させた。
その様子を別室のモニターで見ていた技術開発部主任の古川努は所内の内線に怒鳴っていた。
「何?そんなバカなことがあるか。もう一度調べなおせ。全く頭が変になりそうだ」
「どうしたのかね。古川君。新しい事は何かわかったかね」
やってきた黒川博士もモニターを見て「随分と癇癪を起しているな」とつぶやいた。
「まあ一つだけ。あまり重要ではなさそうですよ。それを含めて途方もなくこいつは頑固で融通が利かないやつです
よ」
「その新しい事とは?」
「先日破壊されたドローンの記録を修復してそれと比較したんですがね、あの鎧太陽光や天然の砂と比べて電灯やコンクリートのような人工物から吸収するエナジー量は十分の一になるんです」
「炭素測定は?」
「それが・・信じられますか1万2千年前だというのですよ!しかも公園から採取したごく少量の破片や画像の解析からあの鎧は青銅と現在地球上に存在しない未知の金属との合金で出来ているとかいうとんでもない結果が出ている。機械が狂っているか,そうでなければ研究員が計算違いをしたかどちらかですよ」
「では実際に動いている所を見てみるか」
「そうします」
古川は近くの内線を使い笠井恵美のいる部屋の番号を呼び出した。
「そんな事があったなんて。ちょっと信じられないわ」
「話している俺もそうだ。だが実際この目で見たからな」
笠井の聞き取り調査に達人は彼女が拍子抜けするほど素直に応じていた。
そんな中卓上の内線が鳴った。
「はい、笠井です。ええ順調ですよ。分かりました。彼にそう伝えます」
「所長からか?」
「ええ。実地訓練らしいわよ」
完全武装した達人は黒川と古川の話している部屋の下にある訓練場にやってきた。
彼らの話している場所はこの訓練場の監視や分析がしやすいよう床が張り出していた。
最も各種の機材のコントロールや本格的な記録は別室の分析室と彼らが呼んでいる所で行われるのだが。
この訓練場で彼らが最も興味を持っていた「魔法」のテストを行うのだ。
そしてその魔法の中でも攻撃用の魔法がいかなるものかを見ようというのだった。
「計測開始だ。準備を。どうした大丈夫か?」古川は指示を出した別室の部下の様子がおかしいのに気づき声をかける。
やる事が多くて、との返答に
「まあそうだろうな。だが歴史的瞬間に立ち会えるんだ。その功績は計り知れないよ。的を十個ほど準備してくれ」と返す。
分析室に白衣を着た研究員が倒れていた。死んではいない。気絶しているだけである。
先程のやり取りは施設に侵入したアルマスが行ったものだった。
姿を消す『隠形』を使える彼はここからどうするか考える。
いくつかプランを考えたが結局敵の能力を見定めておくことにした。
暗殺は容易い。だが鎧を装着したものがいる以上は交戦する可能性が高い。
さらに姿を消した自分を見破る事も十分考えられる。
アルマスは今しばらくここで敵の観察を続ける事にした。
それは人間の指示に従うという屈辱に耐える事でもある。
(後で数倍にして返してもらう)アルマスは内心で憎悪と闘争心を静かに燃やすのだった。
訓練場の壁に十個の丸い的が用意される。
「その的に魔法を当ててみろ」黒川が指示を出す。
的に向かって達人の唱えた火球フロギストンが飛んでいく。
次々と発射される火球はそのスピードもまちまちでさらに大きさも威力も様々で的を焼き尽くすものからそもそも飛んでいる途中で消えてしまう物もあった。
「おい、ちゃんとやれ」
マイクを通して響く古川の檄に達人は振り向きながら「やっている」と返した。
彼自身今気が付いたのだがどうも鎧に意思の伝わり方が安定していない。
それは逆に鎧から自身に示される情報が切れ切れである事にも関係しているかもしれない、と達人は思った。
「達人、それは火の魔法だな。なら三角形を描くように腕を動かしてみろ」
「普通の三角形か?」
「そうだ。上向きの一般的なものだ」
「それは何か意味があるんですか?」
「四元素の火を表す図形だ。水は下向きの三角形で風が上の三角形の途中に横向きの線が入っている物、土が風の形を下向きしたものだ」
古沢の疑問に黒川が答える。
達人は胸の前で両腕を交差させ肩幅に開きながら上にあげる。
左手を右腕に添えるようにして三角形を描きながら先ほどの呪文を唱え右腕を黒川らのいる部屋に向ける。
「おい、何のつもりだ」
古川が抗議するのと彼が扉を開けて部屋に現れた怪物を確認するのは同時だった。
達人は火球を黒川らに襲い掛かってきた怪物に向かって発射し同時に跳躍して部屋に飛び込む。
部屋へ侵入したそいつはそのまま前方へ走る。
その動きに1拍遅れて火球はガラスを溶かし壁に当たって燃える。
アルマスは黒川を殺すため手に持った苦無を振り上げるが窓ガラスを割りながら部屋に飛び込んできた達人に阻まれることとなった。
人間側にとって有利だったのは襲撃してきたアルマスが次元移動を苦手としていたことだった。
そうでなければ既に黒川は亡き者になっていた。
達人はアルマスに組み付きそれを振りほどこうとするアルマスと揉みあう内に下の訓練所に諸共落下する。
アルマスは忍者が使う苦無を、達人は杖を取り出し相対する。
達人としては自分の鎧と同等の身体能力を持つアルマスが逃走を図るのか、黒川暗殺をまだ諦めていないのであれば
その忍者然とした外見からも何かまだ隠し玉があるのではと疑わざるを得ない。
そのため次に取る行動も相手の動きによって変わってくるためこちらから下手に仕掛けられなかった。
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