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第31話 その名は戦神(マルス) プラナリア型UMA ジェニー・ハニバー登場
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「レジリエンスがまた新たな姿になったそうだな」
「しかし、これ以上計画を延長する事は出来ない。スポンサーも早くマルスを投入しろとお怒りだ」
文明存続委員会の本部ビルの一室で黒川博士とティブロンが話をしていた。
「性能はほぼ予定通りです。ただ黒川博士の要求が高すぎるというだけの話だと思いますよ」
「これからの事を考えれば性能は高いに越したことはない」
「そうですけどね。これ以降は実際に運用しながらの改良という形がいいと思います」
技術主任の古川努は2人の会話に割って入る。
「ビハイクル・トーテムは『ぺッカー』が相変わらず難航していますが残り2つはいつでも行けますよ。それに量産型は半年いや3か月もあれば量産体制が整います」
「そうか。引き続きレジリエンスとプロトマルスの監視を怠るな。我らが救世主のデビュー戦は華々しく行きたいからな」
「彼らの処遇はどうします?レジリエンスはともかくプロトマルスに関してはもはや用済みといっていいかと」
「適当な所で支援を打ち切ればいい。レジリエンスも折を見て始末せねばならん。あれは危険すぎる代物だ」
「いくら何でも酷すぎませんか?彼らの奮闘でこれらのデータが取れたのに。彼らは今も人類の為に戦っています」
古川の提案に対して酷薄な決定をしたティブロンに笠井恵美が抗議する。
「自分達の為に、ではないかね。彼らは彼らの理由があって戦っている。今我々に必要なのは人類の、人類による、人類の為だけに戦う戦士だ。非常に個人的な理由やまして地球の為の戦士だのは求められていない」
笠井の抗議を黒川は一蹴する。そして
「君は彼らと接する内に情が移ったのではないか?プロトマルスに関しては君が一番難色を示していたと記憶しているが。だがこれからはマルスのサポートをしてもらう。君は色々と優秀だからな」
そう告げて会議を打ち切り、個々の仕事に戻っていく。
笠井恵美だけがやりきれない思いを抱えながら。
「先程の話ではないですが、マルスの仮想敵はUMA共ではなく、レジリエンスを含めた魔甲闘士それも四元将です。ご子息は芹沢達人と同じ釜の飯を食った仲でしょう?彼に出来ますかね?」
「出来るとも。その為に今日まで鍛え上げてきたのだ」
ティブロンの疑問に黒川はまるで動じない。
「ならいいのですがね」
ティブロンはそれ以上何も言わず、部屋を出た。
8月
本来ならば高校生は夏休みだが、藤栄高等学校は数度の休校を繰り返していた為そこに通う生徒達は補習の形で授業
が行われていた。
八重島紗良もその例外ではなく、午前中の授業が終わって家に帰ってきていた。
「お母さん、今日は夕方からまた出かけるから」
「ええ。s川の清掃頑張ってね」
「うん」
s川は以前身元不明の焼死体が見つかった場所だ。
その身元がつい最近藤栄高等学校に勤務する大川覚だという事が判明したのだった。
その供養も兼ねて学校側はs川の清掃ボランティアを実施する事にした。
紗良はそれに志願したのである。
以前の彼女ならそんな事には無関心か、そうでなくとも嫌々参加していた事だろうが今回は違った。
その変化は明らかに3か月前からこの家に居候するようになった男の影響だろうと八重島梓は見ていた。
「俺も参加しても良かったんだよな」
「部外者だけどむしろそっちの方がいいって。3時からだから遅れないでよね」
このボランティアに芹沢達人も参加の意思を示した。林間学校での戦い以来彼には思うところがあった。
(俺が彼の死の原因を担った事は事実だ。彼の家族に謝罪して、この活動に参加しても俺の罪が消える訳じゃないが、それでもやらなければ)
達人の脳裏に先日謝罪に行った際に大川の家族の悲しみと怒りと諦めの混じった表情がよぎる。
「一緒に行けば良いのに」
「私は先にやる事があるの。それと達人、あまり思いつめない方がいいよ。私達がいつまでも暗いままじゃ先生も浮かばれないよ」
「ああ」
そう言われたものの、居室で一人考え込んでいると悪い方へ考えが向かう。
それを振り払う為達人も集合時間よりかなり早く現地に向かった。
s川にはまだ清掃ボランティアらしき学生は誰もいなかった。
達人は焼死体が発見されたという現場で手を合わせ黙祷した。
(スタッフの人はもういるから、先に始めていても問題ないか)
達人はそう思い、ふと対岸を見ると1人のホームレスが目に入った。
その人物に見覚えのあった達人は自分の直感を確かめるべく男の許へ向かった。
無視すればよい。
そう思っても確かめたい、いや確かめねばならない。
それは血を分けた親子という呪いだった。
その男が顔を上げた。
「お前達人か?」
「だとしたら?」
達人は努めて無感情に振舞おうとしたが、声は震えていた。
「この親不孝者め。あの女といい、貴様もいなくなりやがって。こっちは金ズルがなくって大変だってのに」
その言葉に達人は内心安堵する。
(母さんは生きている可能性があるわけだ。あの人がきっと)
いつかのよく似た母子が脳裏に浮かぶ。
「おい、いい服着てるな。いなくなってた分また稼いで来い。なんたって子は親にしたがうものだからなあ」
「そうだな。まずは母さんに謝れよ」
「馬鹿か。この場にいない奴に謝るとか訳が分からん」
馬鹿にしたような口調で吐き捨てたこの男(父親と思った事は一度たりとも無い)を達人は胸倉を掴むと川の中に放り込んだ。
「プハッ、んな、何しあがる。親をこんな目に合わせて」
「親?ただ血が繋がっているだけだろ。父親らしい事は何もしなかったくせに。それとも空腹なら子供を襲って食べようとするのが親のする事なのか!?」
「当たり前だろうが。親がいれば子供なんぞはいくらでも作れガウッ」
「もう一度言う。母さんに謝るんだ」
既に時間は3時を回り紗良を含めた学生達も清掃に参加していた。
達人はその事に気がつかず男の後頭部を踏みつける。
もがき続ける男からは切れ切れに自分や母への罵倒の言葉が聞こえてくるだけだ。
そこに叫び声が上がる。
(チッ、こいつとの事を釈明せねばならないか)
そう思い達人が声のした方を見るとボランティアの人々が一体の怪物に襲われていた。
三角形の体に縦に割れた単眼と胸の部分から呼吸音とも唸り声ともつかない不気味な音を発するその怪物には首や肩、腰といったものが見当たらない。
怪物は頭(もしくは体)と一体化した細い腕の先に備えた爪を振り回し川を歩いていた。
(こいつを救う事になるのか)
そう考えた達人はこの男と他の人々の命を天秤にかけた事を恥じる。
(バカな。俺の下らんこだわりの為に無関係の人の命を危険に晒していいわけがない)
数秒男を睨みつけた後達人は川岸に上がりレジリエンスの箱を召喚する。
召喚にかかる時間がいつもより遅い。
それは彼の心が平常でない事の証だった。
ようやく現れた箱に入り、かさぶた状の修復痕の目立つ鎧を装着すると箱を飛び出して怪物目掛けて体当たりする。
そのまま強引にその細い右腕を引き千切って、無造作に川に投げ捨てた。
怪物はちぎれた腕を瞬時に再生させ、レジリエンスに腕を振るう。
レジリエンスの後ろから現れたもう一体の怪物と共に。
「こいつ、どこに潜んでいたんだ」
後ろから攻撃を受けたレジリエンスの背中の装甲がはじけ飛ぶ。
鎧はまだ先日の戦いと融合合身の『副作用』から回復しきっていない。
そしてレジリエンスは新たな敵がちぎれた腕から復元・増殖したものだとは気づかない。
「まとめて斬り飛ばすまでだ」
杖の先端から炎の剣フレイムキャリバーを発生させ、一体を縦に、もう一体を爪の攻撃を躱しながら横に切り裂いた。
「な、何ッ」
達人は自分の目を疑う。
切り裂かれた怪物2体それぞれが切られた箇所から瞬時に再生し、斬られて川に落ちた残骸も同様に再生した事で計4体に増えたのだ。
細胞が一かけらでも残っていればそこから増殖分裂を繰り返す『不死の生物』
これこそがプラナリア型UMAジェニー・ハニバーの唯一の能力だった。
それを知らない、気づくことのできない今の精神状態の達人は最大出力の火球『フロギストン』を放つ。
火球が敵に命中直後に防壁魔法『トイコス』を唱えジェニー・ハニバーの群れを球状の壁の中に閉じ込める。
しかし閉鎖空間内で何倍にも増幅された爆発にも怪物の細胞は耐え抜いた。
目に見えない細胞1つ1つから新たな個体が生み出され、怪物の数は川は埋め尽くされんばかりに増えていた。
達人はすぐ後ろにいる男への怒りからこの危機的状況にも関わらずサンダーバードやガッシングラムを呼ぶという選択肢が頭に浮かぶ事がない。
ただし、呼んだ所でこの時運悪くサンダーバードは狩猟中、ガッシングラムも自分の種族間の仲裁とそれぞれの用事からすぐに来れたかは分からなかったが。
ジェニー・ハニバー出現の報は文明存続委員会にも届いていた。
「マルスはいつでも発進できます。ガンウルフも異常ありません」
「マルス発進」
黒川博士の許可を聞いた笠井は建物にあるゲートを解放する。そこから独特の駆動音を響かせて狼を模した大型バイクに跨った人影が飛び出した。
夥しい数のジェニー・ハニバーに周りを囲まれ数の暴力による爪の攻撃を受け続けたレジリエンスの鎧は限界を迎えていた。
1体1体は大した攻撃力は無く、その攻撃もただ腕を振り回すだけの単調極まるものだが彼らは損傷を恐れる必要が無い。
味方の攻撃で傷ついた先から新たな仲間が増え攻撃の手数は増えていく。
その攻撃によって装甲が破壊されれば、外部から供給されるエナジーは減っていく。
その為既に大幅にエナジーを消耗したレジリエンスはもはやまともに動くことも出来ない。
怪物の一体が胸の装甲を切り裂く。
それを皮切りに十数体が一斉に腕を突き出す。
両肩・両脚を串刺し状態にされ、ある一体がその胸の裂け目に爪を突き入れる。
レジリエンスは口から血を吹き出しながらその場に崩れ落ちた。
「いやぁぁー!」
その光景に紗良を含めた橋の上に避難していた人々の間から悲鳴が上がる。
芹沢達人はどんな状況でも最後には勝つ。
紗良はそう信じていた。
だがこの状況を覆すことができないのは誰が見ても明らかだった。
怪物達は川岸に上陸していく。
だが怪物達は知らない。
自分達の呼吸音と獲物らの悲鳴に紛れて近づいてくる、彼らを絶滅に導く足音を。
そのバイクに跨った人影は紗良達の反対側の土手に現れた。
「もしかして鈴宮さん?」
紗良は駆動音を聞いてその音の方向に目をやると緑と銀のツートンカラーの鎧というよりも装甲服を纏った戦士が赤いラインの入った白いバイクに跨っていた。
その姿は頭がプロトマルス、首から下はレジリエンスに似ていた。
頭部はプロトマルスのエナジー・バルカンに代わり左側に通信用アンテナを装備し、右腰にはホルスターに入った拳銃を下げている。
ATLー001マルス
それがこの新たな戦士の名である。
マルスは戦場を一瞥すると専用バイクであるATL-SP1ビハイクル・トーテム『ガンウルフ』のコンソールを操作していく。
ガンウルフのカウルが展開し大型の照準モニターとなり、川中に溢れた怪物の群れの全てをロックオンしていく。
同時に機首に備えられた狼の口内が白く染まっていく。
「人類の敵を消滅させる」
ヘルメットのバイザー奥の鋭い双眼が黄色く輝く。
そこから聞こえるくぐもった、しかし確かな宣戦布告と同時にマルスは右ハンドルにあるトリガーを引いた。
オオカミの頭を模したカウル部分からいくつもの白色光が放たれる。
この光の正体は反物質であり物質に当たるとそれらを瞬時に対消滅させる最終兵器である。
この武器の調整に文明存続委員会は長い時間をかけていたのだった。
そして今この絶滅の光を受けたジェニー・ハニバーの大群は文字通り声も細胞も一つ残さず対消滅し、光が消えた川辺には静けさが戻る。
瀕死のレジリエンスを残して。
マルスは敵がいなくなった事を確認するとガンウルフの機首を回してその場から去って行った。
その通信アンテナを通して送られてくる映像を黒川博士以下、文明存続委員会のメンバーもその様子を固唾をのんで見守っていた
「マルス、『ディバイン・ジャッジメント』照射。ガンウルフに異常見られず。マルスの装甲と装着者のバイタル異常ありません」
「いいぞ、敵は跡形も無い。黒川博士、反物質砲は成功ですよ。時間をかけて調整した甲斐がありましたよ」
笠井の報告に技術主任の古川が興奮気味に黒川に言う。
文明存続委員会本部は魔甲闘士マルスの初陣の勝利に沸き立っていた。
しかし黒川博士はそこでマルスへ通信を入れる。
「ケイ、戻ってレジリエンスを始末せよ。あの程度死ぬ男ではない事はお前が良く知っているはずだ」
だが通信機からは彼の予期せぬ言葉が返ってくる。
「もちろん。しかしね父さん。現状僕1人だけでは人類どころかこのf市を守るので手一杯だよ。本当の意味で僕らが人類の守護者となる時までは生かしておいた方が得だよ」
「今はそうだ。だがそうならない内に敵対しないとどうしていえる?」
その言葉の真の意味に感づいた黒川は息子に釘を刺す。
「その時は使命を果たすまでさ」
「その覚悟があるならば良かろう」
それは黒川ケイが自身へ言い聞かせるような声音であるのを父親は聞き、頷いた
紗良と藤栄高等学校生徒達は誰もいなくなったs川に降りて行った。
「達人、達人」
声を掛けても反応は無かった。
「まさかし」
生徒の1人が口に出しかけて押し黙る。
「まだ生きているぞ」
サンダーバードが異変を感知して舞い降りる。
「
「助かるんですか?」
「生命反応は微弱だが消えていない」
紗良にそう答えた霊鳥はその体にレジリエンスを包み込み、消え去った。
その数時間後
s川
真夜中に芹沢達人の父達久は全身の体の痛みにのたうち回っていた。
「おい、大丈夫か」
ホームレスの1人が声を掛けるが悲鳴を上げてその場を逃げ出す。
大量のジェニー・ハニバーのエナジーの波動を受けた達久の体は悪魔の様な姿に変貌するとホームレスを光弾で殺害すると、自身の新たな姿と力に歓喜の笑いを上げながら翼を広げ空へと飛び去った。
「しかし、これ以上計画を延長する事は出来ない。スポンサーも早くマルスを投入しろとお怒りだ」
文明存続委員会の本部ビルの一室で黒川博士とティブロンが話をしていた。
「性能はほぼ予定通りです。ただ黒川博士の要求が高すぎるというだけの話だと思いますよ」
「これからの事を考えれば性能は高いに越したことはない」
「そうですけどね。これ以降は実際に運用しながらの改良という形がいいと思います」
技術主任の古川努は2人の会話に割って入る。
「ビハイクル・トーテムは『ぺッカー』が相変わらず難航していますが残り2つはいつでも行けますよ。それに量産型は半年いや3か月もあれば量産体制が整います」
「そうか。引き続きレジリエンスとプロトマルスの監視を怠るな。我らが救世主のデビュー戦は華々しく行きたいからな」
「彼らの処遇はどうします?レジリエンスはともかくプロトマルスに関してはもはや用済みといっていいかと」
「適当な所で支援を打ち切ればいい。レジリエンスも折を見て始末せねばならん。あれは危険すぎる代物だ」
「いくら何でも酷すぎませんか?彼らの奮闘でこれらのデータが取れたのに。彼らは今も人類の為に戦っています」
古川の提案に対して酷薄な決定をしたティブロンに笠井恵美が抗議する。
「自分達の為に、ではないかね。彼らは彼らの理由があって戦っている。今我々に必要なのは人類の、人類による、人類の為だけに戦う戦士だ。非常に個人的な理由やまして地球の為の戦士だのは求められていない」
笠井の抗議を黒川は一蹴する。そして
「君は彼らと接する内に情が移ったのではないか?プロトマルスに関しては君が一番難色を示していたと記憶しているが。だがこれからはマルスのサポートをしてもらう。君は色々と優秀だからな」
そう告げて会議を打ち切り、個々の仕事に戻っていく。
笠井恵美だけがやりきれない思いを抱えながら。
「先程の話ではないですが、マルスの仮想敵はUMA共ではなく、レジリエンスを含めた魔甲闘士それも四元将です。ご子息は芹沢達人と同じ釜の飯を食った仲でしょう?彼に出来ますかね?」
「出来るとも。その為に今日まで鍛え上げてきたのだ」
ティブロンの疑問に黒川はまるで動じない。
「ならいいのですがね」
ティブロンはそれ以上何も言わず、部屋を出た。
8月
本来ならば高校生は夏休みだが、藤栄高等学校は数度の休校を繰り返していた為そこに通う生徒達は補習の形で授業
が行われていた。
八重島紗良もその例外ではなく、午前中の授業が終わって家に帰ってきていた。
「お母さん、今日は夕方からまた出かけるから」
「ええ。s川の清掃頑張ってね」
「うん」
s川は以前身元不明の焼死体が見つかった場所だ。
その身元がつい最近藤栄高等学校に勤務する大川覚だという事が判明したのだった。
その供養も兼ねて学校側はs川の清掃ボランティアを実施する事にした。
紗良はそれに志願したのである。
以前の彼女ならそんな事には無関心か、そうでなくとも嫌々参加していた事だろうが今回は違った。
その変化は明らかに3か月前からこの家に居候するようになった男の影響だろうと八重島梓は見ていた。
「俺も参加しても良かったんだよな」
「部外者だけどむしろそっちの方がいいって。3時からだから遅れないでよね」
このボランティアに芹沢達人も参加の意思を示した。林間学校での戦い以来彼には思うところがあった。
(俺が彼の死の原因を担った事は事実だ。彼の家族に謝罪して、この活動に参加しても俺の罪が消える訳じゃないが、それでもやらなければ)
達人の脳裏に先日謝罪に行った際に大川の家族の悲しみと怒りと諦めの混じった表情がよぎる。
「一緒に行けば良いのに」
「私は先にやる事があるの。それと達人、あまり思いつめない方がいいよ。私達がいつまでも暗いままじゃ先生も浮かばれないよ」
「ああ」
そう言われたものの、居室で一人考え込んでいると悪い方へ考えが向かう。
それを振り払う為達人も集合時間よりかなり早く現地に向かった。
s川にはまだ清掃ボランティアらしき学生は誰もいなかった。
達人は焼死体が発見されたという現場で手を合わせ黙祷した。
(スタッフの人はもういるから、先に始めていても問題ないか)
達人はそう思い、ふと対岸を見ると1人のホームレスが目に入った。
その人物に見覚えのあった達人は自分の直感を確かめるべく男の許へ向かった。
無視すればよい。
そう思っても確かめたい、いや確かめねばならない。
それは血を分けた親子という呪いだった。
その男が顔を上げた。
「お前達人か?」
「だとしたら?」
達人は努めて無感情に振舞おうとしたが、声は震えていた。
「この親不孝者め。あの女といい、貴様もいなくなりやがって。こっちは金ズルがなくって大変だってのに」
その言葉に達人は内心安堵する。
(母さんは生きている可能性があるわけだ。あの人がきっと)
いつかのよく似た母子が脳裏に浮かぶ。
「おい、いい服着てるな。いなくなってた分また稼いで来い。なんたって子は親にしたがうものだからなあ」
「そうだな。まずは母さんに謝れよ」
「馬鹿か。この場にいない奴に謝るとか訳が分からん」
馬鹿にしたような口調で吐き捨てたこの男(父親と思った事は一度たりとも無い)を達人は胸倉を掴むと川の中に放り込んだ。
「プハッ、んな、何しあがる。親をこんな目に合わせて」
「親?ただ血が繋がっているだけだろ。父親らしい事は何もしなかったくせに。それとも空腹なら子供を襲って食べようとするのが親のする事なのか!?」
「当たり前だろうが。親がいれば子供なんぞはいくらでも作れガウッ」
「もう一度言う。母さんに謝るんだ」
既に時間は3時を回り紗良を含めた学生達も清掃に参加していた。
達人はその事に気がつかず男の後頭部を踏みつける。
もがき続ける男からは切れ切れに自分や母への罵倒の言葉が聞こえてくるだけだ。
そこに叫び声が上がる。
(チッ、こいつとの事を釈明せねばならないか)
そう思い達人が声のした方を見るとボランティアの人々が一体の怪物に襲われていた。
三角形の体に縦に割れた単眼と胸の部分から呼吸音とも唸り声ともつかない不気味な音を発するその怪物には首や肩、腰といったものが見当たらない。
怪物は頭(もしくは体)と一体化した細い腕の先に備えた爪を振り回し川を歩いていた。
(こいつを救う事になるのか)
そう考えた達人はこの男と他の人々の命を天秤にかけた事を恥じる。
(バカな。俺の下らんこだわりの為に無関係の人の命を危険に晒していいわけがない)
数秒男を睨みつけた後達人は川岸に上がりレジリエンスの箱を召喚する。
召喚にかかる時間がいつもより遅い。
それは彼の心が平常でない事の証だった。
ようやく現れた箱に入り、かさぶた状の修復痕の目立つ鎧を装着すると箱を飛び出して怪物目掛けて体当たりする。
そのまま強引にその細い右腕を引き千切って、無造作に川に投げ捨てた。
怪物はちぎれた腕を瞬時に再生させ、レジリエンスに腕を振るう。
レジリエンスの後ろから現れたもう一体の怪物と共に。
「こいつ、どこに潜んでいたんだ」
後ろから攻撃を受けたレジリエンスの背中の装甲がはじけ飛ぶ。
鎧はまだ先日の戦いと融合合身の『副作用』から回復しきっていない。
そしてレジリエンスは新たな敵がちぎれた腕から復元・増殖したものだとは気づかない。
「まとめて斬り飛ばすまでだ」
杖の先端から炎の剣フレイムキャリバーを発生させ、一体を縦に、もう一体を爪の攻撃を躱しながら横に切り裂いた。
「な、何ッ」
達人は自分の目を疑う。
切り裂かれた怪物2体それぞれが切られた箇所から瞬時に再生し、斬られて川に落ちた残骸も同様に再生した事で計4体に増えたのだ。
細胞が一かけらでも残っていればそこから増殖分裂を繰り返す『不死の生物』
これこそがプラナリア型UMAジェニー・ハニバーの唯一の能力だった。
それを知らない、気づくことのできない今の精神状態の達人は最大出力の火球『フロギストン』を放つ。
火球が敵に命中直後に防壁魔法『トイコス』を唱えジェニー・ハニバーの群れを球状の壁の中に閉じ込める。
しかし閉鎖空間内で何倍にも増幅された爆発にも怪物の細胞は耐え抜いた。
目に見えない細胞1つ1つから新たな個体が生み出され、怪物の数は川は埋め尽くされんばかりに増えていた。
達人はすぐ後ろにいる男への怒りからこの危機的状況にも関わらずサンダーバードやガッシングラムを呼ぶという選択肢が頭に浮かぶ事がない。
ただし、呼んだ所でこの時運悪くサンダーバードは狩猟中、ガッシングラムも自分の種族間の仲裁とそれぞれの用事からすぐに来れたかは分からなかったが。
ジェニー・ハニバー出現の報は文明存続委員会にも届いていた。
「マルスはいつでも発進できます。ガンウルフも異常ありません」
「マルス発進」
黒川博士の許可を聞いた笠井は建物にあるゲートを解放する。そこから独特の駆動音を響かせて狼を模した大型バイクに跨った人影が飛び出した。
夥しい数のジェニー・ハニバーに周りを囲まれ数の暴力による爪の攻撃を受け続けたレジリエンスの鎧は限界を迎えていた。
1体1体は大した攻撃力は無く、その攻撃もただ腕を振り回すだけの単調極まるものだが彼らは損傷を恐れる必要が無い。
味方の攻撃で傷ついた先から新たな仲間が増え攻撃の手数は増えていく。
その攻撃によって装甲が破壊されれば、外部から供給されるエナジーは減っていく。
その為既に大幅にエナジーを消耗したレジリエンスはもはやまともに動くことも出来ない。
怪物の一体が胸の装甲を切り裂く。
それを皮切りに十数体が一斉に腕を突き出す。
両肩・両脚を串刺し状態にされ、ある一体がその胸の裂け目に爪を突き入れる。
レジリエンスは口から血を吹き出しながらその場に崩れ落ちた。
「いやぁぁー!」
その光景に紗良を含めた橋の上に避難していた人々の間から悲鳴が上がる。
芹沢達人はどんな状況でも最後には勝つ。
紗良はそう信じていた。
だがこの状況を覆すことができないのは誰が見ても明らかだった。
怪物達は川岸に上陸していく。
だが怪物達は知らない。
自分達の呼吸音と獲物らの悲鳴に紛れて近づいてくる、彼らを絶滅に導く足音を。
そのバイクに跨った人影は紗良達の反対側の土手に現れた。
「もしかして鈴宮さん?」
紗良は駆動音を聞いてその音の方向に目をやると緑と銀のツートンカラーの鎧というよりも装甲服を纏った戦士が赤いラインの入った白いバイクに跨っていた。
その姿は頭がプロトマルス、首から下はレジリエンスに似ていた。
頭部はプロトマルスのエナジー・バルカンに代わり左側に通信用アンテナを装備し、右腰にはホルスターに入った拳銃を下げている。
ATLー001マルス
それがこの新たな戦士の名である。
マルスは戦場を一瞥すると専用バイクであるATL-SP1ビハイクル・トーテム『ガンウルフ』のコンソールを操作していく。
ガンウルフのカウルが展開し大型の照準モニターとなり、川中に溢れた怪物の群れの全てをロックオンしていく。
同時に機首に備えられた狼の口内が白く染まっていく。
「人類の敵を消滅させる」
ヘルメットのバイザー奥の鋭い双眼が黄色く輝く。
そこから聞こえるくぐもった、しかし確かな宣戦布告と同時にマルスは右ハンドルにあるトリガーを引いた。
オオカミの頭を模したカウル部分からいくつもの白色光が放たれる。
この光の正体は反物質であり物質に当たるとそれらを瞬時に対消滅させる最終兵器である。
この武器の調整に文明存続委員会は長い時間をかけていたのだった。
そして今この絶滅の光を受けたジェニー・ハニバーの大群は文字通り声も細胞も一つ残さず対消滅し、光が消えた川辺には静けさが戻る。
瀕死のレジリエンスを残して。
マルスは敵がいなくなった事を確認するとガンウルフの機首を回してその場から去って行った。
その通信アンテナを通して送られてくる映像を黒川博士以下、文明存続委員会のメンバーもその様子を固唾をのんで見守っていた
「マルス、『ディバイン・ジャッジメント』照射。ガンウルフに異常見られず。マルスの装甲と装着者のバイタル異常ありません」
「いいぞ、敵は跡形も無い。黒川博士、反物質砲は成功ですよ。時間をかけて調整した甲斐がありましたよ」
笠井の報告に技術主任の古川が興奮気味に黒川に言う。
文明存続委員会本部は魔甲闘士マルスの初陣の勝利に沸き立っていた。
しかし黒川博士はそこでマルスへ通信を入れる。
「ケイ、戻ってレジリエンスを始末せよ。あの程度死ぬ男ではない事はお前が良く知っているはずだ」
だが通信機からは彼の予期せぬ言葉が返ってくる。
「もちろん。しかしね父さん。現状僕1人だけでは人類どころかこのf市を守るので手一杯だよ。本当の意味で僕らが人類の守護者となる時までは生かしておいた方が得だよ」
「今はそうだ。だがそうならない内に敵対しないとどうしていえる?」
その言葉の真の意味に感づいた黒川は息子に釘を刺す。
「その時は使命を果たすまでさ」
「その覚悟があるならば良かろう」
それは黒川ケイが自身へ言い聞かせるような声音であるのを父親は聞き、頷いた
紗良と藤栄高等学校生徒達は誰もいなくなったs川に降りて行った。
「達人、達人」
声を掛けても反応は無かった。
「まさかし」
生徒の1人が口に出しかけて押し黙る。
「まだ生きているぞ」
サンダーバードが異変を感知して舞い降りる。
「
「助かるんですか?」
「生命反応は微弱だが消えていない」
紗良にそう答えた霊鳥はその体にレジリエンスを包み込み、消え去った。
その数時間後
s川
真夜中に芹沢達人の父達久は全身の体の痛みにのたうち回っていた。
「おい、大丈夫か」
ホームレスの1人が声を掛けるが悲鳴を上げてその場を逃げ出す。
大量のジェニー・ハニバーのエナジーの波動を受けた達久の体は悪魔の様な姿に変貌するとホームレスを光弾で殺害すると、自身の新たな姿と力に歓喜の笑いを上げながら翼を広げ空へと飛び去った。
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【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
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貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
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1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
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彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
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そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
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