魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第49話 探し求めた仇敵 ハイエナ型上級UMAジェヴォ―ダンの獣 登場

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 「さて、今夜は・・ここで寝ますか」

夜の公園

ここに鈴宮玲がやって来た。

目当ては公園中央にある大きな滑り台だった。

この滑り台は中の一部をくりぬいたトンネルになっていた。

野宿が多い玲には10月下旬の冷たい風を凌げるだけでも有難かった。

背中の箱を下ろしてふう、と一息ついた彼女はぼんやりと外を見る。

穴の正面からは勾配のきつい階段が見える。

階段は公園正門から見て左側の道が坂道になっておりそこからも入れる配慮だが子供や老人にはこれはきついのではないか。

玲がそんな事を考えたのは今まさに一人の男性がその階段から転げ落ちたからである。

「ハッ、ハッ、ハァッ・・・!」

息を切らせて振り返る男性。

その後ろから6人の量産型魔甲闘士ハスカールが姿を現す。

(マズイ所に出くわしましたね)

そう思った玲がトンネルの奥に隠れようと腰を上げるのとハスカールの1体が発砲するのは同時だった。

ビームの光が辺りを照らし玲の小柄な影を浮かび上がらせる。

「ズアッ、俺は君達と同じ人間だ。急に変身できるようになったんだよ。本当だっ信じてくれ」

だが右足を撃ち抜かれもだえ苦しみながら懇願する男に横一列の横陣から歩前に踏み出した、隊長らしき人物は冷酷に言い放った。

「それも俺達を欺く芝居だろうが。いいか、普通の人間は化け物になったりしない。そして化け物は人間の敵なんだよ。例外はねえ。各員、戦闘用に出力を上げろ」

隊長の命令に従い隊員たちが各々熱線銃グレイブラスターの出力を『探査』から『戦闘』に切り替える。

最もUMA『探査』用の出力でも常人なら当たり所が悪ければ即死するレベルであるが

羊の頭を持った哀れな『怪物』を取り囲んだ一斉射でハスカール隊はUMAを殲滅する。

「そしてそこにいる奴出てこい。夜の公園にいる怪しい人間は取り締まらないとな」

「いつから警察の仕事まで横取りするようになったんですかね?」

トンネルから出ながら玲はあえて挑発的な態度をとる。こういう手合いは調子に乗れば隙を出すと踏んでの事である。

「最初からだよ。異常生命体対策基本法6条補足。異常生命体関連の事件において我々は警察・自衛隊を指揮下に組み入れることができる。つまり俺達が法であり正義ってわけだ」

得意げに語る隊長に部下の1人が

「隊長。こいつ本部のブラックリストに載っていたプロトマルスでは?」

「ン、データ照会。これは運がいい。大手柄だ」

全隊員が熱線銃グレイブラスターを玲に向ける。

玲は軽く舌打ちしながら後方に大きくジャンプしトンネル内に消える。

そして遠隔操作で既に箱形態から戦闘モードへと変形させていたプロトマルスに入りこむ。

装着を終えた玲の耳に困惑と悲鳴そして何かが破裂する音が聞こえた。

トンネルから飛び出すと玲は2体の首なしハスカールが倒れるのと残りの4体が野獣の唸り声を上げる1体の大型のネコ科動物の様な頭部をしたUMAと戦っているのを目にした。

怪物は熱線をものともせずに的確に相手の頭を粉砕していく。

「ガッ」

「グっ」

あっという間にハスカール隊を全滅させる怪物の手法に玲は全身総毛だった。

それは彼女の家族が殺されたのと同じ傷跡や殺害方法だった。

「お前が、お前が私の家族を殺した仇だったのか・・!」

新たな標的を見つけた怪物はプロトマルスに襲いかかる。

頭部を狙って突き出される腕の上下には可動式のクロ―がありこれが猛獣の口の様に開閉することで標的の頭部を確実に破壊する仕組みになっていた。

そのクロ―を首をすくめて回避するプロトマルス。

怪物の腕はプロトマルスの右肩の装甲を紙の様に噛み砕いた。

途端プロトマルスは全身から火花を発し仰向けに倒れる。

「しまった!こんな時に」

プロトマルスは高出力の反面出力の不安定さという『意図的な欠陥』を抱えていた。

それが今機能停止という形で現れたのだ。こうなるともはや指1本動かす事が出来なくなる。

「俺を仇と言ったな」

怪物は問いかける。

「そうです。お前を倒せるならばどんな事をしてでも」

「追われるってのも久々だ。お前は見逃してやろう。次に会う時までに直してこい」

そう言うといきなり怪物はプロトマルスの前から姿を消した。

「仇を目の前にしながらこのポンコツめ!!」

玲は動かない鎧の中で悪態をつくしかなかった。

鎧が動くようになったのは怪物が姿を消してから15分も経ってからだった。




世界各国でのハスカールの急速な配備は9月末のホラディラの影響が大きかった。

あの1件で世界規模での危機が人類に迫りつつある事を認識した各国政府はこの超兵器を有する文明存続委員会を法的に認め、同時に超法規的措置を与えたのだった。

こうして文明存続委員会は歴史の表舞台に踊り出た。

それは人類のUMAに対する組織的反抗という光と同時に陰惨な闇を同時に投げかけるのだった。


八重島紗良と黒川ケイが下校中の事だった。

完全武装したハスカールの小隊を乗せたトレーそれをラーが通り過ぎるのを恨みがましい目で見ながら

「アレ、どうにかならなかったの?もう少し穏便な方法とかさ」

「だよなあ。どうも悪い方向にしか行ってないんだけど、それを決めたはずの上層部でも賛否両論というか意見が対立してるんだよ」

ケイはゲンナリしたように返す。

この件でケイ=魔甲闘士マルスはかなり微妙な立ち位置に立たされることになった。

組織としては同じ施設出身者で固められたハスカール隊の隊長を任される立場になっていたが彼はこの手の『治安活動』には参加せずあくまで脅威となるUMA撲滅の任務、つまりマルスは普段はあくまで1人として任務を負い、集団で当たる必要のある場合のみハスカールと連携するという、ある意味では以前と何も変わらない運用をされていた。

問題はそれ以外のハスカール隊の構成員にある。警察官や自衛隊から選抜した部隊はまだいい。態度が横柄だというのも見方を変えれば任務に忠実と言えなくもないからだ。最悪なのは囚人、それもEスリー残党を特務隊として運用するというティブロンの意見が強引に採用された事だった。一部の市民や委員会の非難は主にこの特務隊の横暴から来ていた。

しかし表立って廃止論が出る事は無かった。整備・運用を文明存続委員会が独占している以上は彼らを引き上げるという事はどこに潜んでいるか分からないUMAを排撃出来ない事を意味していたからである。つまるところ各国政府も市民も自分達の安全の為の『税金』としてこれらの不満を買ったと言えなくもない。

「どうして通れないんだよ!家はすぐそこだ。たかが5mいいじゃないか」

2人は歩道で中年の男性とハスカールが押し問答をしている所に行き会った。

2軒先の家の前でトレーラーが停まっていた。そのペイントの部隊カラーで例の悪名高い特務隊だと分かる。

「任務中だ。市民からUMA予備軍の通報があった。危険だから終わるまで待っていろ」

「しかしねえ、もっと柔軟に」

「もし連中の影響でお前がUMA化した場合我々はお前を射殺せねばならん。それでもいいのか?」

命を盾にした脅迫に男性は渋々引き下がるしかなかった。

「ちょっと僕達を通してくれないか」

「何だお前は?」

その様子に一計を案じたケイは紗良と共にハスカールへ近づいた。

だがケイが文明存続委員会のロゴの入った左腕のブレスレットを見せると

「し、失礼しました」

ハスカールはライオンから子猫へと態度が変わり、敬礼しながら2人へ道を譲る。彼は紗良もケイの同僚と見たらしい。

「ずるいぞ。何でこいつらは通れるんだ」

「御二方は我々と同じ任務で通るのだ」

そのハスカールにケイは

「なあ、この場合公務執行妨害は適応されるかな?」

「多分」

それは肯定寄りの意味を含んでいた。

ケイはマルスへ『変身』すると

「そういう事だ。あんた公務執行妨害で連行する」

「ケイ君、ちょっとやりすぎじゃ」

紗良の非難をよそに怯える男性の手を掴みマルスは5m前進する。

「権力の横暴だ。冤罪だ」

「そうですね。勘違いでした。お詫びいたします」

男性の自宅前でマルスは手を放し男性を開放する。

「あんたまさか」

男性が自分の為に一芝居打ったのかと尋ねようとした所

「うちのココちゃんは違います。UMAなんかじゃありません!」

トレーラー前の家の主婦らしき女性の金切り声が響く。

「近隣住民から通報があった。お宅の犬がUMAではないかと。詳しく検査せねばならん」

「そんな事絶対にありません!!この子はいい子なんです!!私の唯一の家族なんです!!」

ハスカールの1人がワンワンやかましく吠えて手足をばたつかせる犬を強引にトレーラーに押し込もうとする様を見ながら

「見たか。あの家の犬がやかましいから黙らせろと何度言っても知らん顔するからこんな目に合うんだ。ざまァないね」

普通の人間なら誰にも聞かれない程の男性の呟きをマルスのヘルメットが拾いケイは顔をしかめる。

「おい、確か死骸でも反応は調べられるよな?」

「そうだったな」

犬の扱いに手を焼いているハスカールに同僚が『助け船』を出す。

次の瞬間銃声が響き、犬が吠える事は永久に無くなった。

「いやああああ!」

ハスカール隊はわっと泣き出す主婦を見ながら

「おい、彼女も影響を受けているかもしれん。至急検査だ」

女性を愛犬の死骸のすぐ側へ放り込むとハスカール隊はトレーラーと共に去って行った。

事の次第にバツが悪くなった男性はそそくさと家に入る。

(これが、こんな事が人間の為に必要なのか?)

変身を解除したケイは無言で紗良と歩く

「あの密告制度のおかげで文化祭中止になったんだよね。何言われるか分からないからって、誰かが連行されたらどうなるか分からないからって」

「その・・・ごめん。なんか父さんやティブロンさんが色々引っかき回して」

「ケイ君が悪い訳じゃないのは分かっているんだけど。でも・・・私の方もごめん」

「いや、ちょっと父さん達に掛け合ってみるよ。やっぱりこういうのはおかしい」

文明存続委員会が表社会に出てきて最初にやった事はUMAという存在の公表だった。その主張は最初こそ半信半疑だったが実際に怪物化する人間やペットが増えてくるにつれて、その存在を市民が通報する事態が日に日に増えてきた。その内のいくつかは先程の事例のような『気に入らない奴』の排除に使われることもあった。

ケイはその足で文明存続委員会本部へ向かうと本部が大騒ぎになっているのを見て職員に尋ねる。

「何かあったんですか?」

「プロトマルスが来たんですよ。修理させろって。彼女、ブラックリスト入りでしょう?上は対応で大わらわですよ」

「鈴宮玲は今どこに?」

「最上階に行ったきり見ていませんが」

「どうもありがとう」

果たして鈴宮玲は最上階の一室にいた。

「話以上に豪胆ですね、先輩」

「誰です?ああ、あなたがマルスですか。私や芹沢達人に感謝して欲しいですね」

悠然と座る玲の前にケイも腰を下ろす。

「もちろん感謝しきれませんよ。しかし深刻な破損をするとは派手にやりあったんですね」

「遂に仇敵を見つけたんですよ。それを報告したら二つ返事で修理を請け負ってくれました」

「父さん達はそいつを近頃また始まった連続猟奇殺人の犯人と考えたのか」

興奮気味に話す玲にケイは考え込む。

1年ほど前に頭部を激しく損傷した死体が立て続けに全国で見つかった。

事件は10日程で100人以上の被害者を出した後ぱったりと止んだ。

(犯人が何故再び動き出したのか)

それがケイの疑問だった。

犯行の再開はホラディラの事件直後から再び始まり、既に被害者はハスカール隊員含め40人以上に及んでいる。

世間は横暴に振る舞うハスカール隊の醜態に溜飲を下げると同時に対処が後手に回っている事を非難していた。

(それを躱す為にも事態の収拾に躍起になった結果がこれか)

父親達としては犯人とプロトマルスの相打ちさえ目論んでいる可能性も捨てきれないがそう簡単に事は運ばないだろうとケイは思っていた。

そこまで考えた時ケイのブレスレットに通信が入る。

「どうしました?」

「例の殺人鬼の反応を確認。レジリエンスと現在交戦中」

「ケイ、パワードペッカーを使え。テストも兼ねてな」

笠井恵美の通信に黒川博士が割り込む。

「完成したんですか?」

「ようやくな」

「後輩のお手並み拝見と行きましょうか」

「先輩に恥じない戦いを心がけますよ」

玲の皮肉交じりの激励を躱しながらもケイは心の中でこの人と仲良くなれそうには無いと感じていた。



その日八重島家では梓の私塾の小学生達がいた。

芹沢達人と紗良が子供達の宿題や学校で分からない事を手伝っている最中

突如鈴宮玲の追う怪物が私塾の場である八重島家のリビングに現れた。

「ちょっとどこから!?皆逃げて」

紗良の言葉が終わらない内に怪物の腕が子供の1人に迫る。

「やめろ!」

達人は無意識に右腕を突き出した。

拳から小さな火球が飛び出し怪物の腕を焦がす。それに興味を覚えたのか怪物は達人へと向き直るとその腕を相手の頭目掛けて突き出した。達人は素早く庭へと飛び出すとレジリエンスの箱を開き

「装着」

掛け声と同時に巨大化した箱の中に入り鎧を纏って飛び出す。

怪物も庭に飛び出し、闇雲に両腕を箱を打ち付けるが結界に阻まれ、苛立ちの咆哮を上げる。箱の上部から飛び出したレジリエンスはそのまま怪物を誘導すべく八重島家から離れていく。

「そうだ。こっちに来い」

怪物の攻撃を紙一重で躱しながらレジリエンスは右腰のスイッチを操作し次元移動の穴を作るとそこに飛び込む。

怪物も後を追う。

(なんて奴だ。かすっただけでこんな傷がつくとは。しかも高周波振動などの特殊能力もないのだ)

移動中にレジリエンスは己の右腕や胸甲に走るギザギザの傷跡を見て戦慄を覚える。

異世界の荒野でレジリエンスに追いついた怪物の左腕が迫る。

レジリエンスも杖先から火のエナジーで形成した炎の剣フレイム・キャリバーを振り向きざま逆袈裟に切り上げる。

剣は怪物の腕に食い込むが怪物は腕の上下のクロ―を展開し剣身を強引に噛み砕いた。

「何ッ」

だがレジリエンスはその腕の勢いのまま杖先に地のエナジーで作った戦鎚ランド・キャリバーを作り出すと同時に振り下ろした。

瞬間怪物の姿が消えた。

そしてレジリエンスの背後に突如現れ右腕を振るう。

「馬鹿な?何の反応もなく瞬間移動するだと?」

クローによる噛みつきをハンマーの頭で防ぎながら蹴りを放つとまたもや怪物は姿を消す。

レジリエンスは後ろに振り向き火球を放つ。

読みは当たり、火球は怪物に直撃した。

だがさしてダメージを負ったようには見えないながらも怪物は数歩後ずさりした後に消える。

暫く辺りの様子を窺ったレジリエンスは怪物が撤退したと判断した。

(さすがに分が悪いと悟って逃げたか)

相手は何か別の目的があるのでは無く戦うだけ、殺す為だけに動く。その即死級の一撃一撃とタフさを持つ強敵の出現に達人大きく息をつく。

現世の被害が増える事を危惧したレジリエンスも帰還するべく次元の穴を作るのだった。
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