魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第51話 復讐の終わり ハイエナ型上級UMAジェヴォ―ダンの獣 登場

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「あのジェヴォ―ダンを退治するまでの間一時的に休戦協定を結びたいと思いましてね」

「それは他の2体も同意しているのか」

突然の申し出に芹沢達人は訝りながらもフライング・ヒューマノイドに尋ねる

「さんざ渋っていましたがね、何とか理解してもらいましたよ」

「お前達に何のメリットがあるんだ。同じUMAだろう」

ケイの疑問に

「人間に善人と悪人がいるように我々にも度し難いはぐれ者がいるという事ですよ。そいつを止めるには殺すしかないときていて、明らかに厄介な能力を持っているとなれば」

「共闘以外手はないという事か」

「理解が早くて助かります。それでどうですか?」

「私は奴に止めをさせれば何でも構いません」

玲は即答する。

「ケイは?」

「俺は・・俺達にもこちらの成算がある。そちらを巻き込む形になっても構わないなら」

「いいでしょう。所詮一時的なものですからね。利用しあうのは前提としましょう。全員賛成という形でよろしいですね」

そう言うとフライング・ヒューマノイドは右手を差し出す。

達人もそれに応じて握手をする。

「では作戦の共同部分について話し合いましょう」

「人間とUMAお互いの担当領域から出ない事。後は連絡方法ですが」

「私がオトリになりましょう」

「貴方が?」

鈴宮玲の提案にフライング・ヒューマノイドは首を傾げる。

「再戦を約して一度見逃されていますからね。恐らく食いついてくると」

「だと良いのですがね。それとマルス、あなたは例のハスカールなる部隊に手を出させない様に掛け合って下さいよ。余計な邪魔が入るのは避けたい」

「了解。ただ僕や達人さんを狙う可能性もあるからその時は連絡する事」

黒川ケイは芹沢達人と玲に報告の徹底を確認する。

「我々はそのエナジ―を感知し異世界側の座標で待機。それと断っておきますが誰が奴を倒しても恨みっこ無しという事で」

そう言うとフライング・ヒューマノイドは立ち上がり帰ろうとする。

「ああ最後に」

ケイが彼を引き留める。

「何か?」

「『担当領域から出ない』とは物理的にという意味だよな」

「そうですね。下手に奴を負って次元移動するのは得策とは言えませんからね」

「いや分かっている。確認しておきたかっただけだ」

「?まあいいでしょう。では御武運を」

「そちらもな。だがここを知っていて何故今まで襲ってこなかった?」

「芹沢達人、我々いや私にも礼節や誇りはありますよ。少なくとも好敵手の安住の地を汚さない程度にはね」

「そこは喜ぶべきか?」

「さあ?では今度こそお暇しますよ」

そう言ってフライング・ヒューマノイドは次元移動し、消えた。


翌日から玲はなるべく一人でこれ見よがしに人通りの少ない所を歩き回った。

しかし怪物が彼女の前に現れる事は無く3日が経過した。

(もっと何か有効な手はないだろうか?)

内心焦るが怪物の現れる場所は完全にランダムで何か法則というものは見られなかった。

(公園か)

あの時とは場所は違うが大きさは同じくらいの公園に玲は入っていく。

「ナンパはお断りですよ。最もコソコソしているのはタイプではありませんが」

彼女は先程から自分を尾行している男達に声を掛ける。

「鈴宮玲。お前には仲間を何人も殺された」

「人殺しをした覚えはありませんが。人違いでは?」

「俺達はEスリーの生き残りだ。逮捕されていたが今はハスカール特殊部隊として恩赦されたのさ。本部の同志達をやられた仇を取らせてもらう」

そう言うと男達は服を脱ぐ。

服の下からハスカールの装甲が現れ、各々ヘルメットを被る。

「全く、報連相ができないのはブラック企業の特徴ですよ」

「抜かせ!」

ハスカールの熱線銃が火を噴く。

彼らは玲がプロトマルスの装着をする前にケリをつけるつもりだった。

だが彼らの間にジェヴォ―ダンの獣が姿を現した。

「出ましたよ、達人、ケイ」

怪物がハスカール隊を瞬殺する様を見ながら連絡を入れる。

「鎧の修理は終わったのか」

「ええ。何故私の家族を襲ったのです?」

「意味はない。俺は俺の中の衝動に従っているだけだ。他の生物の血しぶきや肉と骨の軋む音が俺を落ち着かせる。稀に抵抗されると愉悦を感じる。強い奴のそういう音は最高の音楽だからな」

「父もそうだったと思いますよ。遺体は刀を握っていましたから」

「そうか。だからお前に既視感を感じていたのかもな。そろそろ限界だ。お前の音を聞かせてくれ」

「もう二つ増えるぞ。ジェヴォ―ダン」

公園の別の入り口から達人とケイが現れ、玲の左右に立つ。

「面白い!お前達の音を聞ければ俺も眠れるだろう。さあ鎧を纏え。最高の音を俺に聞かせてくれ」

怪物の愉悦の声を聞きながら

装着

3人はそれぞれの掛け声と共に

達人が箱の中に入りレジリエンスの鎧を纏い

玲が箱の変形したプロトマルスの内部に入り

ケイがブレスレットから伝送されたマルスの鎧を纏う。


戦いが始まった。

プロトマルスがマルスソードを、レジリエンスが炎の剣を構えて突っ込みそして同時に跳んだ。

その後ろでマルスがガトリングを連射する。

不意を突かれた怪物はまともにその光弾を受けるがよろめいただけだった。

そこにふくらはぎのブースターを吹かしたプロトマルスとレジリエンスが空中から同時に斬りかかる。

だが斬撃が当たる直前に怪物の姿が消えた。

「来い、パワードペッカー」

マルスはブレスレットへの音声入力でパワードペッカーを呼び出す。

ATL―SP3キツツキ型トーテム・ビハイクル パワードペッカー

「ユニオン」

鳥の頭が180度回転し、背中側に倒れる。

両翼が前方へスライドする。

この状態でマルスブラスターと合体した状態を『パワードスマッシャー』と呼称する。

このメカはマルスに飛行能力だけでなく戦闘力も向上させる。

「さあいつでもこい」

マルスは周囲を油断なく睨む。


異世界へ瞬間移動した怪物の目の前にイエティの大剣が迫る。

怪物の背後にはナウエリトが高周波ランサーを伸ばす。

怪物とてそうすぐにはこの能力を使えない。

再使用には10数秒のインターバルが必要だった。

「やってくれる」

怪物は唸りながら大剣に足を掛けバック宙をするとなおも追ってくるランサーの付け根に着地し、イエティに襲いかかる。

そこにフライング・ヒューマノイドが下半身を円盤状にして回転させながら怪物に体当たりする。

吹き飛んだ怪物はそれでも勢いを利用して起き上がった。

「ジェヴォ―ダン、あなたの様な存在はUMAにとっても害にしかならない。よって粛清します」

「貴様達をやればスッキリするだろう。人間とUMAの最高の音を聞けるんだからな」

怪物は狂喜し、3体に向かって突進する。

3体が身構えた瞬間怪物が消える。

「気を抜かないように。どこから来るか分かりませんからね」


現世へ戻って来た怪物はマルスの足元から襲い掛かった。

「チッ」

防御の間に合わないマルスはランスを盾にして怪物のクローを防ぐ。

そしてパワードスマッシャーから5条のビームを放つ。

同時にプロトマルスが側頭部からエナジ―バルカンを、レジリエンスも火球を放つ。

怪物はスマッシャーを受けたものの、残り2つの攻撃はまたしても瞬間移動して躱した。

「ちゃんとナビゲーションしてくれよ」

マルスはパワードペッカーの嘴に当たる部分を垂直に立てる。

そこには光点が明滅しながら移動していた。

スマッシャーを中央部の光線は次元を超えて標的を追跡するマーカーの役割を果たす物だった。

「2人共離れてください」

そう言うとパワードスマッシャーを何もない公園の一角へ向けて放つ。

銃中央の光線が次元の穴が開き、翼に備えられた4条のビームがその穴に吸い込まれていく。



再び異世界に現れた怪物はナウエリト目掛けて右腕を振るう。

ナウエリトはランサーを体に翳して盾替わりにする。

怪物は動きが止め背後に動こうとする。

いかに怪物の体が常軌を逸した頑丈さを備えるとは言えそのままでは分解されてしまう。

そこへ4条のビームが2体を襲った。

「何ッ」

「野郎、こっちまで巻き込みやがって」

悪態をつきながらもナウエリトはランサーを繰り出し、怪物の右腕を粉砕する。

「グオッ」

右腕を失いながら怪物は頭部に迫るランサーを寸での所で躱す。

地面を転がりながら怪物はまたしても姿を消した。

「大丈夫か、ナウエリト」

「なんてことはねえが、ありゃなんだ?」

「どうも次元の壁を越えて攻撃する術を人間共は手に入れたみたいですね」

フライング・ヒューマノイドは黒川ケイが担当がどうのと言っていた意味はこれだったのかと理解する。

「しかし連中に出来る事は我々にも出来る。そうでしょう、ナウエリト」

「借りは返さねえとなあ」

ナウエリトも笑みを返す。


本能的に瞬間移動した怪物はプロトマルスの背後に出現した。

彼女も振り向きざま刀を横薙ぎにするが怪物の腕より1拍遅い。

(相打ちか)

そう思ったプロトマルスの右側頭部から腰までを灰色の壁が覆う。

レジリエンスがトイコスを唱えたのだ。

だが怪物は壁をバリバリと裂きながらも強引に体を捻って攻撃を躱すと腕を振り上げプロトマルスの手から刀を弾き飛ばす。

同時にレジリエンスが怪物の右側から炎の剣を、背後からマルスがパワードスマッシャーを放つ。

肩を切り裂かれ背中を焼かれても怪物は咆哮を上げて炎と熱線を消し飛ばす。

そしてプロトマルスへ再度腕を突き出す。

そこへ次元の穴が突如開きマルスの背後からビームが襲う。

「うおっ」

ビームはマルスの脇腹を掠めて怪物へ当たる。

(意趣返しのつもりか)

ケイはマルスのヘルメットの中で歯噛みする。

突然の攻撃で体勢を崩した怪物にプロトマルスは抱き着いた。

そしてこの時の為の新装備である『エルボーホーン』を展開する。

両肘から飛び出た長い衝角が怪物とプロトマルスの腰にそれぞれ突き刺さる。

プロトマルスが出力異常を起こし始め出力が急上昇し始める。

「心中のつもりか!?体が動かん?」

エルボーホーンにもカノンボアの銃弾同様UMAの体機能を狂わせる仕掛けがあった。

玲はプロトマルスの背中から離脱する。

「これで決めろ!」

マルスは拾った刀に自らのパワーユニットを突き刺し玲に渡す。

「はい!」

玲は制服のポケットから出した予備のパワーユニットを鍔に装着し

「覚悟!!」

怪物の脳天をプロトマルスの鎧ごと真っ向から切り下げた。

既に暴走を始めていたプロトマルスの鎧は玲と怪物を巻き込んで大爆発を起こした。


「ジェヴォ―ダンの生命反応が消えたな」

「今度こそ確実に絶命しましたよ」

異世界にてイエティとフライング・ヒューマノイドが怪物の死を確認する。

「さて、これで休戦協定も終わり。今度は」

「また今度にしますよ、ナウエリト。我々も傷を癒さなくては」

そう言うと3体のUMAは何処へと去って行った。




爆発に巻き込まれた玲はレジリエンスのトイコスで一命をとりとめていた。

「これで私の戦いは終わりました」

「そうだな。今は怪我を直す事だけ考えればいい」

病院の一室でベッドに座る玲に見舞いに来た達人が言う。

彼女の全身に包帯やガーゼが張られている。

「でもこれからどうするの?」

同じく見舞いに来た紗良に

「それはこれから考えます。まだこっちに来るなと家族に言われましたから。ただ」

「ただ?」

「お腹が空きました。こういう時はメロンが鉄板ですよ。さあ瀕死の怪我人の為に」

「やっぱ図々しい」

「そんな事が言える内はまだ死なないな」

そう言って2人は病室を出ていく。

「どうしました?」

「あるかは分からないが見てくる」

「食べたいんでしょ、メロン」

「はい、お願いします」

玲は2人が見たことのない最高の笑顔で返す。


「もう大丈夫だよね、鈴宮さん」

「ああ心配ないさ」

病室を出た2人は張れやかな気分でメロンを探しに行くのだった。

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