魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第52話 ドゥームズデイ① 空が無くなる日

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  文明存続委員会本部

指令室のモニターにはレジリエンス、マルスそしてプロトマルスの3闘士とジェヴォ―ダンの獣との戦いが映し出されていた。

パワードスマッシャーが次元を超えてビームを発射する場面が映し出されると

「成功だ!これで狼・猪・キツツキの3聖獣のトーテムメカも揃った。これでマルスは完全に機能している事になる」

興奮冷めやらぬ古川努技術主任に

「まあ猪はマルスのギリシア版たるアレスの聖獣だがね」

「まあそう言わず、ミスターティブロン。これでタワーも基幹部分が完成し、残る懸念事項は」

「それも今取り除かれたようだぞ」

モニターにはプロトマルスの鎧ごと鈴宮玲が怪物を切り裂き、画面は爆発と閃光に満たされる。

「試作機1機と引きかえならば安い物か」

黒川博士のつぶやきに笠井恵美が険のある声音で

「これで彼女が、鈴宮玲を私達が追う理由もなくなりますよね?」

「何が言いたい?」

「プロトマルスの突然のブラックリスト入り、本部直属の特殊部隊の人員に元Eスリー残党を使う、極めつけは密告制度の黙認、これらが組織ひいては社会不安を助長している事についてどうお考えでしょうか?」

「密告は制度化していない。あくまで任意だ。Eスリー共は牢屋で遊ばせておくよりこうした方が有効だからだよ。いざとなればここから自爆させられるからな」

ティブロンは顔色一つ変えず言い切る。その手の中の正方形の自爆装置の起爆ボタンを弄りながら。

「所長、本当に異世界やUMAの真相をこの情勢で公表していいのですか?私は破滅的な結果をもたらしかねないと思います」

「予定は変わらんよ、笠井君。古川君、タワーの最終的な完成は年末までに間に合うのだね?」

「はい。クリスマスまでには完成しますよ」

「あと2ヶ月弱か。それまで何もない事を祈ろう」

「黒川博士、レジリエンスの処遇は?」

「仕掛けてこない限りは手を出さなくていい。もはや奴1人でどうにか出来る情勢ではないからだ」

博士の返答にティブロンは不満げな様子だったが

「わかりました。今はタワー完成に全力を尽くしましょう。それが世界を救う最終手段となりますからね」



その1週間後の11月5日

黒川博士は全世界へ向けてこんな発表をした

『現在の日本及び世界の大きな関心事は謎の生物の襲撃である事は論を俟(ま)たない所であります。では彼らはどこから来て何故人を襲うのか?彼らはこの世界とは異なる次元に存在する異世界から地球を我が物とする為に現在の地球の覇者たる人類に戦いを挑んでいるのであります。その根本を絶つべく我々は彼らの根拠地たる異世界そのものを消し去る光線を放つタワーを建造中です。これにより以前の平穏な世界が来ることを、人類の繁栄が永遠に続くことを私達は皆さまに約束致します。どうか落ち着いて理性ある行動をタワー完成までの1か月お願いしたい』

多くの人々はこの宣言に懐疑的だったが万が一にも日常が戻ってくるのであればという期待も確かにあった。そしてこの宣言が人間以外の生物の反感を買うであろうことも。専門家達がこぞって否定しようとも人々はUMAがただの化け物ではなく、知性がある事を感づき始めていた。だからこそやられる前にやれの精神で怪物連中が人類を総攻撃するという噂が世界中で乱れ飛んでいた。そうなれば当然人間達のやる事は周囲の生物を無差別に殺して回るという事態に発展していた。

「うわっ、ミミズだ。殺さなきゃ」

f市藤栄高等学校の男子生徒の1人が怯えた様子で花壇の土を這いまわっているミミズを踏みつけようとする。

「やめなよ。刺激しなければ大丈夫だって」

「そうとも。ミミズに親でも殺されたか?」

その様子に呆れ顔の柏木英輔と白井良子が声を掛ける。

「柏木よう、林間学校の時に俺らがミミズの化け物に襲われたのを忘れた訳じゃないだろ?」

「だけどさ」

その間にもこの、このと生徒は地面を踏みつける。

しかしいつ怪物になって襲ってくるかという恐怖心とこいつには罪はないのだという葛藤から足はミミズを踏むことができないでいた。だから彼は教室からTVの緊急速報の内容とそれによるクラスメイト達のざわめきが起こった事に大きく安堵の息を漏らしたのだった。

『北海道にて家畜の殺処分に向かったハスカール第203小隊とレジリエンスが只今交戦中とのニュースが入りました』

その生徒のスマホからのニュースも同じ内容を伝える。


あの演説の後世界中で人間の間では『消極的ベジタリアン』が急増していた。

彼らの言い分によれば家畜を屠殺して肉類を生産する行為や魚の漁獲はいたずらに家畜や海の生き物の恨みを買い、人類を攻撃する口実を与えるだけだというのである。

畜産業や漁業関係者そのあおりを受けて廃業に追い込まれるか、病気等の家畜の殺処分の『依頼』を委員会へ求める業者が後を絶たなかった。

だが今戦いの舞台となっている北海道のk市の畜産農家は事情が異なる。

この牧場は同業者からあらぬ恨みを受け『密告』されたのだった。

それを内部告発の形で情報をうけたレジリエンスが急行したのである。

家畜や牧場で働く人々を連行していたハスカール達は現れたレジリエンスに対してハスカールの1人が連行していた業者の1人に熱線銃を突きつける。

「分かっているな?変なマネをすればこいつらが死ぬぞ?」

レジリエンスが杖を投げ捨て両手を上げると同時にハスカール隊の全員が熱線銃グレイブラスターを向けたその時だった。
ハスカール隊の背後からサンダーバードが飛来し、サンダーナイトへと合身すると超音速移動で業者を敵部隊から救出すると超スピードによる攻撃でいまだ何が起こったか判らず混乱するハスカール隊を次々と撃破していく。

「あの、ありがとうございました」

家畜や彼の家族の無事を確認した彼は業者の言葉を背に受けながら次元の穴へ消えていった。



八重島家の庭に戻って来た達人はレジリエンスの鎧を脱いでふらつきながらリビングへ入った。

「達人君、少し休まないとだめよ」

倒れこむように椅子に腰かけた達人に八重島梓が心配しながら麦茶を持ってくる。

「少し休んだらまた出ます。これが今日最後ですよ。それと帰ったらお話が」

梓を気遣って笑顔で応じる達人は真顔に戻ってそう言った。

その言葉に並々ならぬ迫力と不安を感じた梓は頷く事しか出来なかった。

10分後鎧を再装着した達人は再び次元の穴へと姿を消した。先程と同じような理不尽な密告から人々や他の生き物を守る為に。



「達人君に連絡しておいたわ。これで不正な密告による被害は少しは防げるけど、少し気が引けるわね」

文明存続委員会本部の1室で笠井恵美がPCを操作しながら呟く。

「そもそもあのタワーってのはどこから出てきたんです?」

その隣で黒川ケイは眉間にしわを寄せながらキーボードを叩く。ホラディラの事件以来彼らは秘密裡にティブロンの裏切りの証拠を集めているのだ。

「あれ自体は元々所長の構想なのよ。異世界そのものを消し去れば高濃度エナジーの浸出を阻止できると考えてね。でもどこで作られているのかは私達にも知らされていない」

ケイの質問に笠井はPCの画面から目をそらさずに答える。

「で、追いやられてきたUMAの対処にハスカール隊やマルスがいる、と。理に適っているが果たして予告されている機能の物かは怪しいですね。そもそも開いた穴からも高濃度のエナジーが降り注ぐでしょう?」

「だからティブロンの陰謀を考えてこうして探っているのでしょ。あら、これは」

笠井はあるデータを見て目を丸くする。

「どうしました?」

ケイはPCをのぞき込む。

画面には『ATL-002アポロ開発中止』とアポロの設計図が描かれていた。

「設計データをコピーした形跡がある。しかもこれって」

「俺達の知らない、知らされていない魔甲闘士?しかもこんな物を作って何をするつもりだったんだ、父さん達は」

「この性能は・・・・本気で世界を敵に回して戦うつもりだったのね」

「・・・・でも僕はそれでもタワーを守る為に戦いますよ。父さんやティブロンの思惑がどうあれ僕はこの世界の人間だから」

ケイは両手を血がにじむほど握りしめる。必ず芹沢達人はいやレジリエンスはやってくる。この世界と向こうの世界の全ての命を守る為に。

その確信があるから今マルスは大幅なアップデートを急ピッチで行っているのだ。

彼の手はマルスの改良予定図を呼び出していた。本体の出力強化に加えて前回のパワードペッカーとの合体時の僅かな不具合の修正とADプレートの強化案、そして開発チームの悲願とも言うべきある武装の追加。

(俺はこの世界の人類を守る為に為すべきことをする。今度こそどちらかが倒れるまで戦う事になる)

ケイは来るべき戦いに備えて訓練室に向かう。



異世界・アゲシラオス博士の秘密研究室

「遂に計画を遂行する時が来た。1万2千年も待った以上失敗は許されん」

「分かっているとも。だがいいのかね?不満分子共をそのままにしておいて」

「計画はすぐにでも実行可能だ。問題はアトランティス大陸と人民に対策が不徹底な事だ。始まってしまえば、そして我々が予定通りに動けば連中など造作もない」

「ある程度の犠牲はどの道覚悟せねばならん。その為の計画もあるのだからな」

アゲシラオスはアポロのフルフェイスヘルメットから無感動な声を出す。

「娘には勧告を?」

「出すと思うかね?彼女なら町を守る為に奔走するだろうし、私とやりあう可能性だってあるのだよ。君の言う新世界に相応しい人間かどうかはアトランティス人にだって適用されて然るべきだと思うが」

ティブロンはその意見には反対してきた。それは今も変わらない。だが計画を前倒しする可能性も考えれば彼の意見も尤もだとも思う。助かる術を持っているのにそれをしないのは怠慢以外の何物でもなく、そんな人間は確かに彼の構想する新秩序には不要な存在だった。

「それより例の魔甲闘神とやらは」

「9割方、いや事実上完成しているというべきか」

「また不具合があるのか」

「そうだ。それを人間は受け入れるしかない」

「それを怠慢というのだ」

「違う。神が人間に理解できる存在ではないという事を我々は忘れがちだという事さ」

「使う側に立ってほしい物だな」

「謙虚さがあれば良いだけだ」

そこにティブロンの持つ端末に通信が入る

「アゲシラオス、計画遂行だ。タワーを嗅ぎつけられた」

「良かろう。後は神のみぞ知る、だな」



「新宿の地下にこんな物を作っていたとはな」

「こちらの諜報員は有能でしょう?しかし大都市の地下に建造しているとは灯台元暗しですね」

レジリエンスはハスカール隊阻止に向かった先でフライング・ヒューマノイド、イエティ、ナウエリトらと遭遇した。

彼らはハスカール隊の抹殺と共にタワー破壊の計画を練っていた。

そしてこのタワーの居場所を突き止めたのだった。

彼らとしてはUMAを生み出す高濃度のエナジーが無くなる事は絶対に阻止すべき事態だからである。

その計画にレジリエンスは乗った。

彼としてもアトランティスをというよりエリクシリオ達を死なせる真似はしたくないからだった。

タワーは全長10m程で台形を積み重ねた形状で先端が針の様に尖っていた。

この塔の中ほどに控え壁がありそこに2つの人影があった。

「お前は、アポロとティブロンか?」

「久しぶりだな。レジリエンス。そしてまだ生きていたかフライング・ヒューマノイド」

「貴方もね、アゲシラオス博士。ティブロン君、お互いに小僧だった時の決着をつけにきましたか」

「フ、まさか。私は崇高な使命の為にここにいる。下らん世界は今日終わるのだ」

ティブロンの声と同時に振動が地下全体に広がる。

「地上に向かっているのか」

「おい、あれを破壊しようぜ。その為に来たんだろ」

ナウエリトが左腕の高周波ランサーをタワーへ伸ばす。

だがタワーの周囲には強力なバリアーがあり、弾かれる。

「ティブロン、先に行け。私は改良したこの鎧の力を試してみたい」

「良いだろう」

ティブロンが次元移動するのと同時にアポロの全身の突起が体から離れる。

「あれは攻撃端末だ」

レジリエンスの言葉が終わらぬ内に以前とは比べ物にならないスピードで端末は移動しビームを放つ。

「以前より強化されている?だがこんな狭い所では性能を発揮できまい」

「以前見せなかった物をお見せしよう」

そう言うとアポロは端末全てをフライング・ヒューマノイドへ向けて移動させる。

「チッ」

高速で迫る端末のいくつかが彼の体に突き刺さる。

「グっ、これは」

「どうした?フライング・ヒューマノイド」

イエティの言葉に

「さあ、フライング・ヒューマノイド、敵を倒せ」

アポロの声と同時に端末はフライング・ヒューマノイドの体を離れると同時に彼はイエティへ電撃を放つ。

「一体どうしたんだ、正気に戻れ」

「生物に対しては成功だ。後は」

そう言ったアポロの頭上で地上へ出たタワーの先端が展開しその中心部から光を放つ。

その衝撃でアポロを除く面々は吹き飛ばされる。

仰向けに地面に叩きつけられたレジリエンスの視界に信じられない光景が映る。

「空が…消える!?」

タワーの光で空が割れ、割れ目から白い壁の様な物が覗く。

割れ目は光と共に広がっていく。

「あの割れ目から高濃度のエレメンタル・エナジーが放出されている?」

「そうとも。あれは次元の通り道だ。レジリエンス、幾度となく君も見てきたはずだ。そこから間もなくアトランティス大陸がやってくるのだ」



この世の地獄

一日で地球はその形容が相応しい惑星と化した。

空から降り注ぐ大量の高濃度エレメンタル・エナジーによって完全に環境バランスの崩れさった地球全土で竜巻、台

風、山火事、熱波、津波といったあらゆる自然災害をもたらした。

だがそれに巻き込まれた人間は実は少ない。

最も多くの犠牲となったのはこれらの高濃度エナジーを浴びて適合できず黒い霧となって消えていった人々だった。

その光景を見ながら黒川ケイはマルスの装甲服を装着し、原因となるタワーの破壊を目指してトレーラーから飛び出した。

直後ガンウルフの内蔵機器が妙な音を立てる。

「これは操作が利かない?笠井さんそちらは」

マルスの通信機からはザーザーとノイズが入るのみだった。

そしてケイはマルスの腕が自分の意思とは無関係に動いているのを見て

「こっちもか。どこへ連れていくつもりだ?」




「そんな事が出来るのか」

イエティにアポロが向き直ると

「出来る。今君の仲間にしているようにこれから現生人類共には共食いをしてもらう。なにせこっちは数が少ないのでね」

そう言うとアポロは各端末を元の位置に戻す。そして端末から緑色の光が放たれる。

「貴様、何をした」

「私にしたのと同じですよ、ナウエリト。私にウイルスを仕込み操っているように」

「まだ自我があったか。だがすぐにそれも消える。疫病の神でもあるアポロンの名を関するこの鎧の力は伊達ではないぞ」

「全てがお前の思い通りにはならないぞ、アゲシラオス」

フライング・ヒューマノイドの体が光を放つ。

「同胞を手に掛ける位ならばっ!後を頼みましたよイエティ、ナウエリト」

そう言うとフライング・ヒューマノイドはタワーへ向かうが力及ばず自爆して果てた。

「フム、生体ではすぐに抗体ができてしまうのか?それとも奴だからできた事か?」

「貴様は、貴様だけは許さねえ!」

目の前の出来事を冷徹に分析するアポロにナウエリトとイエティそしてレジリエンスが熱線と冷気、火球を放つ。

それらは全てタワーのバリアーに阻まれる。

「君達が相手にするのは私ではない。そう彼だ」

アポロの視線の先にはマルスがいた。

「ケイ、無事か」

「それが、勝手に動いていて」

「そう。このアポロには有機体をそして機械を狂わせ従える病原菌をまき散らす機能がついている。最もそれは君達現生人類がそう設計した物だがな」

そしてレジリエンスに向かって

「君も自分の戦場に向かいたまえ。君の父上が決着をお望みだ。彼なりのおもてなしがあるそうだ」

その言葉に嫌な物を感じたレジリエンス

「行けよ。フライング・ヒューマノイドの言い分じゃないが奴の思い通りにはならねえ」

「皆を頼みます、達人さん」

「分かった。死ぬなよ」

サンダーナイトへ合身したレジリエンスはジャージーデビルを追って拡大する破滅の空を飛んだ。
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