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第53話 ドゥ―ムズデイ② アトランティス大陸浮上 類人猿型上級UMAマピングアリ他登場
しおりを挟む空が消えた事に八重島紗良は頭痛や倦怠感に見舞われながら家への道を急いでいた。
道行く人々が黒い霧となりながら消えていく様を見て悲鳴を上げてへたり込んだが遠目に巨大な津波が見えたのを見てまた小さく悲鳴を上げながら坂を駆け上がる。坂の上からは駅の南側まで海水に浸かっているのが見えた。
「どうなっているのよ。これ」
休校となりそれぞれの家に帰ったであろう友人達の安否を確認しようにも電波障害でメールも電話も通じない。
ガチャッっという金属音に彼女が振り向くとそこにハスカールが立っていた。
「ちょっとなにするのよ。放してよ」
無言で近づいて来たハスカールは無理やり紗良を捕らえると強引に乗って来たと思われるトレーラーへ連れていく。
トレーラー周辺には八重島修一郎と八重島梓そして近所の住人達が集められていた。
車の屋根の上に奇怪な生き物が居て悪魔が化石化したような姿のジャージーデビルがハスカールに命令を下していた。
「まだ殺すんじゃねえぞ。この周辺の奴らは五体満足で連れてこい。ああこいつらだ。おい、他の奴らは全員用済みだ。消しちまえ」
その指令に無言でハスカール達が銃を構え、八重島親子以外の人々に狙いを付ける。
だがハスカール達は引き金を引く前に金色の風と稲妻に全員吹き飛ばされる。
「来たか」
サンダーナイトの登場にジャージーデビルはほくそ笑む。
「決着をつけに来たぞ、ジャージーデビル。他の人達を巻き込むな」
「そいつらは別に人質じゃねえ。実験材料さ。この先の世界に生きるに相応しいかのな。もう普通の人間に生きる資格はないんだよ」
ジャージーデビルはそう言いながら尻尾から十本の細い熱線を放つ。
熱線は弧を描いて人々へ向かう。
「お前にそんな事を決める資格はない」
サンダーナイトは剣でそれらの熱線を払いのける。
「俺にはあるんだよ。俺は選ばれた人間だからな。だから俺が決める。お前を最も苦しませる方法をな」
ジャージーデビルの体から黒い塊が飛び出し高速で紗良へと向かう。
「しまった!」
「そんな、紗良!?」
「紗良!」
「えッ、ちょっ、いやあああ!」
塊は紗良の体を包み込み、その姿を死神の様な姿に変貌させる。
類人猿型上級UMAマピングアリ。
「良いねぇ。お前を葬る地獄の使者にピッタリだ」
ジャージーデビルは哄笑しながら空を飛び、頭の角から電撃を放つ。
「くッ、紗良」
サンダーナイトは電撃とマピングアリの振るう鎌を躱すが制限時間からレジリエンスとサンダーバードへ分離してしまう。
「どうやら異世界と同じ大気成分の為か消えないで済むらしい。奴は我に任せろ」
「頼む、サンダーバード。何とか紗良を助けなければ」
レジリエンスは探知魔法プサクフでマピングアリ内部をスキャンする。
(まだジャージーデビルの細胞と完全に融合しきっていない。ならば)
ガッシングラムとレジリエンスは合身し、空ではジャージーデビルとサンダーバードが激突する。
一方文明存続委員会本部はオペレーターからの悲痛な報告で満たされていた。
「ハスカール全部隊が市民に対して発砲しています!」
「ハスカール隊攻撃を直ちにやめろ!聞こえないのか」
運よく生き残った人類は高濃度のエナジーに『汚染された』とみなしたハスカール隊の攻撃に晒され、散っていった。
「これは、ハスカール隊の起動プログラムが完全に乗っ取られている?マルスもか。うわっつ」
文明存続委員会本部指令室で計器を操作していた古川技術主任の近くで火花が散る。
「ここのコンピューターも完全に支配下だ。今は何者かの意思で僕らはこれを見させられているんだよ」
「そう。古川主任。君が設計したアポロの力でね」
古川が振り向くとそこにはティブロンがいた。
「ミスターティブロン!?しかもアポロだって!」
古川はモニターの一つに映っているタワーの控え壁に立っているアポロの姿を認める。
「それで、何をしに来たのかね」
部屋の中央で無言を貫いていた黒川博士が抑揚のない声で問う。
「降伏宣言を出してもらいたい、黒川博士。互いに利用しあってきた仲だ。あなたを含めスタッフには悪いようにはしない」
「それを私が飲むと思うかね?」
「アポロのコンピューターウイルスで今やハスカール隊もマルスもいや世界中のネットワークがこちらの手中にある。抵抗のしようが無いだろう?レジリエンスも間もなく彼の父親に倒される予定だ。まあそちらは期待していないのだが」
ティブロンの声は至って平静だったが、その表情は勝利を確信していた。
「断る」
「敗因は」
黒川に構わずティブロンは続ける。
「君自身だ。君はタワーのあの光が過剰なエナジー毎異世界を消し去ると信じていたようだが事実は逆だ。強い物が弱い物を制す。自然界の掟だ。つまり現世が異世界と同じ状態となるわけだ。後はその力に乗せてアトランティス大陸を浮上させる。なあに、1万年以上あそこで暮らしてきたのだ、今更彼らに動揺もないさ。だが君達は違う。君達に残されたのは我々アトランティス人に隷属しその情けで生き続ける以外に助かる道はない」
「聞こえなかったのか?断るといったのだ」
「フム、君の価値観は普通と違う事を失念していたよ。でなければこの組織を国家権力が潰しに掛かると妄想し有機体と無機物両方を支配するウイルスを備えた兵器を作ろうとは思わないわけだが。ではさらばだ」
そう言うとティブロンは黒川に光弾を放つ。
その光弾を受け黒川の体は回転しながら床に倒れた。
ティブロンと黒川の問答をしているのと同時刻
タワー前ではアポロのコンピューターウイルスに侵されたマルスとナウエリトそしてイエティの戦いが始まっていた。
パワードペッカーと合体し空中戦を仕掛けるマルスは更に遠隔操作でガンウルフとそれに連結させたカノンボアにも攻撃指令を出す。
「グっ、こいつチョコマカと」
「ナウエリト、あいつはあのアポロとかいう奴を守っているようにも見える。ここは」
「分かっているがよ、どう近づく」
「奴に反物質砲を撃たせればいい。そうすればあのバリアーも破れるだろ」
「ってことはマルスを追い込むか。でなくとも奴にはこの間の借りがある」
ナウエリトはマルスの翼から放たれるビームを見ながら言う。
先日ジェヴォ―ダン戦で自分達を襲った熱線の主が彼だと知ったのである。
ナウエリトは左腕の高周波ランサーを伸ばすとその腕の上にイエティが飛び乗り、ジャンプし、切りかかる。
高空にいるマルスは後退し斬撃を躱したが彼の背後に回り込んだランサーが迫る。
だがランサーは空を切る。
マルスが翼を分離したからだ。
彼は両手の火器を撃ちながら落下しながらガンウルフにディバイン・ジャッジメントの起動準備を命じる。
マルスはガンウルフに跨るとそのまま反物質砲を発射した。
ナウエリトとイエティはそれを躱す。
そのままエネルギー波は後ろのタワーへ向かい、バリアーとぶつかり閃光を放ちながら消えた。
「流石に模造品とはいえ光輝の宝珠の力か。自らに触れることを許さぬという訳だ。だが念には念を入れておくか」
アポロは攻撃端末の一つを遠隔操作しガンウルフを破壊させる。
宿主からの攻撃に無防備なまま、マルスは爆発に巻き込まれ、地面に転がる
「馬鹿な。どれだけ強力なバリアーを張っているんだ」
「もはやあれを止める術は・・・ない」
UMA2体は驚きと絶望の声を上げる。
それはマルスも同じだった。
ケイはマルスの頭部モニターに映る、空に広がる虚無を見ながら
「人類の滅亡を見ていろというのか。敵にあやつられたまま何もできず」
だがモニターの一角に父親の姿が映る。
『この映像が流れているという事は組織内で抗争で私が死に、かつマルスが敵の手に渡った事を意味する。私は他人を信用していない。だが人類は愛している。私はこの矛盾を解決するために文明存続委員会を作り、独断でマルスへ新たな機能を追加した。このアルトシステムは考え得る敵のマルス奪取手段を跳ねのける。ケイよ、この力を使い人類の文化文明を人類の明日を守ってほしい。これが私がお前に出来る唯一の事だ。頼んだぞ、ケイ』
その映像が終わると同時にマルスの各部装甲がはじけ飛ぶ。
ヘルメットのバイザーが外れ下の双眼が露出しており、身体各部に血流の様に青白い光が循環している。
最終形態アルトマルス
「こんな物が用意されていたとは。だがその出力では残念ながら塔を破壊できん」
「だが、お前達に一矢報いることは出来る」
アルトマルスはパワースマッシャーを構え中央部から光線を放つ。
「馬鹿な、あれは反物質砲だと!しかも行先は」
「そうだ。あんたがハスカール達の情報をリンクしていたおかげでジャージーデビルの位置を特定できた」
その時凄まじい地震が起こった。
「何だ!急に地震が。しかも大きいぞ」
「諸君、静かにしてくれたまえ。今我が故郷が現世へと帰還するのだ」
アポロは空に映像を映し出す。
そこは大西洋で海が泡立ちながら一つの影が姿を現す。
凄まじい高波と雷鳴を巻き起こしながらアトランティス大陸が浮上した。
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