魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第54話 ドゥ―ムズデイ③ 破滅へのカウントダウン

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  その日異世界にあるエリクシリオの治める町はいつもと変わらない日常を送っていた。

お昼時で活気のある市場を視察中突如地響きが発生するまでは。

「まさか、地震?皆建物から離れて。中にいる人達も外に出るか、身を守れる場所に隠れて」

エリクシリオは人々に呼びかける最中にふと見上げた異世界の赤黒い太陽が大きくなったと感じる。

「俺達、空を飛んでないか?」

その誰かの言葉を裏付けるような浮遊感を全員が覚える。

「太陽に激突しちまう」

また別の言葉に人々はパニックに陥る。

「落ち着いて。ゆっくり城塞の方へ行くのです。まだ太陽との距離はあります。落ち着いてゆっくり進むのです」

混乱を鎮める為エリクシリオは自身言葉をゆっくりと話す。

それでも言葉の端々に震えを隠せなかったが、それに気づく者はいなかった。

彼女の言葉に従い続々と丘の上の城塞に人々が集まって来た。

やがて空が割れて奥から黒々とした虚無ともいえる空間が現れ、彼らは急速に割れ目へと『引っ張り』上げられる。
「障壁を」

エリクシリオはそう言うと住民を守る為に周りの他の集落も青白いエレメンタル・バリアーを張り始めているのを見た。

「うわーっ」

「怖いよー」

バリア―越しにも次元移動の振動は凄まじく城塞の一部が崩落するのではないかと思われた。

「爺、ここをお願いします。私は障壁の調整を」

「お気をつけて」

イオアンネスにそう言うと衛兵の1人と共にエリクシリオは制御室へ入る。

「首長、このままでは魔力が持ちません」

「パリノス技師長、私の魔力を使います」

「しかしそんなことをしたら」

「障壁が破れたら皆助かりません。あのように」

パリノスらは彼らの頭上をバリアーが切れ、街ごと虚空へ消えていく人々を見て

「この先が人間の住める世界だと良いですがね」

「信じましょう」

そう言うとエリクシリオは制御版に魔力を流し始める。

(タツト、力を貸して)


そうしてどの位立っただろうか

急に周りの景色が黒から青に変わった。

その色の中に帯状に群れる魚群が見える。

「海だ、海だ」

「全員衝撃に備えてください。もう障壁が保てません」

言い終わる前に町は、いやアトランティス大陸の一部が大西洋上へ浮上する。

だが土地のいくつかはエナジーの力に引き裂かれ、全く別の場所へ現れた。

エリクシリオらの町はK県f市付近の海岸に出現した

それはアトランティス人の1万2千年ぶりの現世への帰還だった。

「あの光が原因か?」

科学者であるからか立ち直りの早かったパリノスはタワーの役目を分析する。

タワー周辺には時折爆光が咲くが遠目には塔には何の影響も無い様子だった。

「もしやタツト達がそこで戦っているのかも知れません。障壁の復旧にはどの位かかりますか?」

「単に魔力の使い過ぎってだけですからすぐ元通りになりますよ」

「ありがとう。ここをお願い致します。あれはとても不吉なものです」

そう言うとアイディオンの鎧を纏い、エリクシリオはタワーへと向かった。



アトランティス大陸浮上によって高波や津波が発生した。

同時に放出された大量の高濃度エレメンタル・エナジーは急激な気温上昇を北極・南極付近でもたらした。

それは地球全土に壊滅的な海面上昇を齎し、いくつかの島や低地が海の底に沈み、そうでない国にも国土の浸食という被害をもたらした。

その元凶ともいえる『タワー』のある国・日本も例外でなくこの時東京湾は従来の1.5倍ほどに広がった。

「馬鹿な!あの塔に核攻撃を掛けるですって!!大統領考えなおしてください!」

「あれが元凶なのは言うまでもないだろう、首相。もはや人類滅亡の時だ。それに比べれば被爆地が2か所から3か所へ増える位どうって事あるまい。それとも貴国はこの責任をどう取るというのかね?」

「大統領、それは今我が国の自衛隊が・・」

「一向に成果を上げていないと聞いているが?それに世界各地で暴れまわるハスカールだったか?そいつらも元をただせば貴国の所の物だと聞く。混乱が終わった後どれほどの賠償をしてくれるか見ものだな。いいか、決定は覆らん。今から6時間後国連軍の核ミサイルをあの忌々しいタワーへ向ける。以上だ」

そう言うとホットラインは切れる。

「首相会見を」

秘書の言葉に

「どうしろというんだ。どこへ逃げろというんだ!?我が国は見捨てられたんだぞ!?」

首相は半狂乱になって官邸の部屋を歩き回るだけだった。



「そらそら、守るべき人間達が死んじまうぞ」

ジャージーデビルは目前のサンダーバードを無視し、地上の人々に向けて尻尾先端と両腰のビーム、そして角からの電撃を放つ。

「おのれ、貴様本当に人の親か」

それをサンダーバードは自身の身を挺して彼らを攻撃から守る。

「そんなつもりは無いな。あいつが勝手に生んだだけよ。ま、都合の良い奴隷が手に入ったと思えば悪くなかったが、それをあのガキは裏切りやがった。だがそれも今日までだ」

ジャージーデビルはせせら笑う。


地上では類人猿型上級UMAマピングアリがグランドウォリア―へ鎌を振るう。

女性の悲鳴のような鳴き声を上げて襲いかかる怪物に、融合されている紗良の痛みを感じ取り、達人は意を決してグランドウォリア―の戦斧を怪物の肩口に振り下ろす。


その直前ジャージーデビルが

「いいのかァ?そいつの細胞は攻撃を受けた箇所の細胞融合速度を飛躍的に高めるぜ。つまり、攻撃すればするほどその娘は助からない確率が高まるわけだ」

「何ッ」

寸止めで斧を止めたグランドウォリア―はマピングアリの剛腕が残薙ぎに払われ吹き飛ばされた。

地面を転がるグランドウォリア―の懐から白井良子から渡された光輝の宝珠の片割れが転がり出た。

「そうか。これを使えば、融合速度を超えて細胞と紗良の体を分離させられるかもしれない」

半球の宝珠に斧を近づけるが、強烈な光が間に奔り同じ極で反発しあう磁石の様に両腕が弾かれる。

『魔力が足りないんだ。宝珠の力にこっちが負けているんだよ』

ガッシングラムが悔しそうに言う。

「しかし」

上空のサンダーバードはそれどころではない。

「もうお前らは詰みなんだよ。大人しく死ねよや」

彼らを見下ろし勝ち誇るジャージーデビルの背後から白色の光線が彼を襲う。

光線は右の翼と下半身を文字通り消滅させ、飛べなくなった悪魔は背中から地表に叩きつけられる。

「一体何なんだ畜生」

喚き散らす悪魔を控えていたハスカール達が回収しトレーラーで去って行く。

「今のは反物質砲か?」

『タツト、どっちで行くんだ?』

「スィスモスで行こう、ガッシングラム。物理ならそっちだ」



遅ればせながらタワー周辺に展開した自衛隊の戦車の砲撃も戦闘機のミサイルもタワーを守るバリアーを突破することは出来なかった。

その様子はアポロによって逐一世界に中継されていた。

「これで現生人類共の戦意を喪失させることができる。我々に何をしても無駄と分からせるにはこれが一番早い」

そう言って全身の突起を分離させ戦闘機や戦車そして執拗に攻撃を加えるナウエリトとイエティへ向ける。

これらの突起は高速で移動し、先端からビームを放つ攻撃端末であり、またあらゆる機械を支配下に置くコンピューターウイルスを大気中のエレメンタル・エナジーを介して送り込む凶悪な代物である。

(その支配から脱する者がいるとはな)

戦闘機と戦車を秒殺したアポロはそれら端末を新マルス、すなわちアルトマルスへと向ける。

超高出力を誇るアルトマルスはエレメントアーチシステムで端末からのビームを曲げる。

「やるな。だがこれはどうかな」

アポロは端末のビーム出力を上げ、攻撃を一点に集中させる。

束ねられたビームがシステムを超える事をマルスのコンピューターがケイに知らせる。

だがビームはマルスに到達する前に巨大な火球に相殺されて消えた。

相対したアイディオンへアポロは声を掛ける。


「来たか。我が娘よ。新世界に生きるに相応しい新人類の1人よ」

「お父様?その鎧はお父様が!?ならばなおの事こんな事はやめて下さい。アトランティスも戻ってこれ以上何を望むのですか?」

「決まっている。アトランティス人主導の新世界・新秩序の構築だ。その為には多すぎる人間の排除が必要だ。この審判の光は全ての人間に生きるに相応しいかの判決を下すのだ」

「ふさわしくない人間は死ぬか、UMAになるというのか」

アルトマルスが割って入る。

「そしてその世界に君臨するのがお父様、あなただというのですか」

「違う。私は世界の設計をしただけだ。君臨するのは神だよ」

「神?」

「そう、間もなく現れる。この世の全てが完全に秩序だって動く、静謐な世界の神だ。その為には9割方の人間には消えてもらう必要があるのでね。その点ではアトランティス人も現生人類も変わらん」

「何故そんな恐ろしい事を考え、実行できるのですか?お父様も同じ人間でしょう?」

娘の叱責にアゲシラオスはゆっくりと兜を取る。

そこには何もなかった。

「鎧に吸収された?それにしては」

驚く一同にアポロの首から声が聞こえる。

「アトランティス人も長命だが肉体の限界はある。そこで精神を鎧そのものに移し替えたのだ。素晴らしいな、人を超えるというのは!この解放感を伝える言葉が無いのが残念だよ」

「人でなくなったから、こんな残酷な事を平然と行えるというのですか」

「間もなくこの世界は終わる。お前も悔いの無いようにしたらどうだ」

アポロは首を元の個所に戻しながらエリクシリオへ諭す。

「・・・そうします」

それが父親の最期の自分への愛情だと感じ取ったエリクシリオは再び自身の町の人々を守る為に踵を返した。

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