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四廻目 零れた境界線
第93話 逃げ場無し
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爆発で内外の気圧が狂ったのか、頭痛と共に疲労した身体に鞭打って一階まで降りてくる。すると、階段のすぐ近くでAIに混ざって避難誘導をしている蛍の姿を見つけることができた。
「はぁっ、はぁっ……蛍っ!」
「志樹! 良かった無事だったのね!」
「ああ、それよりすぐにここから出るぞ!」
「待って!」
「駄目だ。全員が避難するのを待ってたら俺たちも死ぬ」
「そうじゃなくて、春ちゃんが見当たらないの」
「なにっ⁉」
その言葉に辺りを見回す。
人がごった返しているのもあってか、春佳の姿は見当たらない。
「一緒にいたんじゃなかったのか⁉」
「途中までは一緒だったんだけど、気付いたら……」
「くっ、こんな時に……! リリィ、春佳はどこにいる⁉」
言ってリリィを見るも、すでに探した後だったのか、リリィは青ざめた顔で呟く。
「っ‼ 一〇〇階、最上階です……!」
「最上階⁉ どうして――まさかっ!」
どうして春佳がそんな場所に向かったのか、考えるまでもない。霧山さんを助けに行ったのだろう。だとすると、行き違いになったか……!
今から最上階まで行って戻ってくるのは、この様子からして不可能。一縷の望みを託して迎えに行く手も考えたが、そうすると今度は蛍が助からない。俺が春佳を迎えに行くと分かれば、蛍も逃げずに誘導を続けてしまうだろう。
「――柊さんは星菜さんと一緒に外に出てください」
そんなことを考えていると、リリィが一切の反論も許さない声音で言い放つ。珍しく口調は強く、これは決定事項だとでも言わんばかりの有無も言わさない態度。
「お二人の気持ちは分かります。ですが春ちゃんの友人なら、なおの事危険に晒すわけにはいきません。春ちゃんもそう思ったからこそ、星菜さんに何も言わず向かったんだと思います」
「だけど……‼」
「お二人が友人なら私は彼女たちの母親です。ここは私に任せてください」
それでもと追い縋ろうとした俺の未練を断ち切るように、リリィはきっぱりと自身の立場を告げた。
AIではなく、母親。その言葉を聞くまでは、まだ何か言うことができたかもしれない。だが、リリィが春佳を――あの二人を娘だと言うのであれば、これ以上口を挟むことは出来なかった。
「……お願いします」
大丈夫なのかという答えの分かりきった疑問を投げることはせず、ただそれだけを口にする。
「はい」
俺たちを安心させようとしてか、作った笑みを浮かべた後リリィは姿を消す。
その後すぐに蛍の手を掴んで走り出したものの、遠くに見えた出口付近には人の波――というより、塊のようになるまで密集していて、混雑などという生易しい言葉では到底片付けられないほどだった。
いつ群集雪崩が起きてもおかしくない。焦って近付いては巻き込まれる可能性がある。一分一秒を争うが、前の集団が外に出るまでは待つべきだろう。
「志樹……リリィは……」
「……今は考えるな」
「……そうね……」
春佳たちの無事を祈りながら、俺はまるで別のことを考えていた。それは本当に外に出ていいのだろうかという思い。
これまでは俺が死ぬのと同時に時間が戻った。ミキはUtopia計画を阻止しなければ――と言っていたが、死なずに生き残ることができた場合、〝時間の接合点〝は一体どこになるのだろうか?
――などと考えていたが、すぐにそれは益体の無い考えだったということを悟る。前の集団がいつまで経っても動かないのだ。それなのにどんどん人だけが増えていく。
早く進め、といった罵声を耳にしながら、どうしたものかと近くにあった瓦礫に登り――俺はその理由を見た。
「……どうしたの……?」
顔面蒼白となった俺の顔を見て、恐る恐る蛍が聞いてくる。
その疑問に、顔を歪めながら答えるしかなかった。
「……瓦礫が出口を塞いでる」
「瓦礫……って……」
「大勢の人が束になって退かそうとしているが、あれは……重機が無ければどうにもできない」
「そ、そんな……」
もう助からないと知って冷静になったのか、嫌に落ち着いた頭で思い至る。
よく考えなくても分かることだったのかもしれない。無﨑のことだ、どこで爆発を起こせばどうやって瓦礫が落ちてくるか。どう出口を塞ぐことが出来るか、なんてことも容易に計算できる――いや、そうした上で爆破させたのだろう。
PLOWにいる人たちを一人も逃がすことなく殺し、そうしてUtopia計画を完遂する。
「遠いッ……‼」
外界まで距離にして約五〇メートル。だが、それは途方もなく遠い目の前。
――排水出来なくなったのか、後方からは滝のように荒れ狂った水が勢いよく迫ってきていた。
「はぁっ、はぁっ……蛍っ!」
「志樹! 良かった無事だったのね!」
「ああ、それよりすぐにここから出るぞ!」
「待って!」
「駄目だ。全員が避難するのを待ってたら俺たちも死ぬ」
「そうじゃなくて、春ちゃんが見当たらないの」
「なにっ⁉」
その言葉に辺りを見回す。
人がごった返しているのもあってか、春佳の姿は見当たらない。
「一緒にいたんじゃなかったのか⁉」
「途中までは一緒だったんだけど、気付いたら……」
「くっ、こんな時に……! リリィ、春佳はどこにいる⁉」
言ってリリィを見るも、すでに探した後だったのか、リリィは青ざめた顔で呟く。
「っ‼ 一〇〇階、最上階です……!」
「最上階⁉ どうして――まさかっ!」
どうして春佳がそんな場所に向かったのか、考えるまでもない。霧山さんを助けに行ったのだろう。だとすると、行き違いになったか……!
今から最上階まで行って戻ってくるのは、この様子からして不可能。一縷の望みを託して迎えに行く手も考えたが、そうすると今度は蛍が助からない。俺が春佳を迎えに行くと分かれば、蛍も逃げずに誘導を続けてしまうだろう。
「――柊さんは星菜さんと一緒に外に出てください」
そんなことを考えていると、リリィが一切の反論も許さない声音で言い放つ。珍しく口調は強く、これは決定事項だとでも言わんばかりの有無も言わさない態度。
「お二人の気持ちは分かります。ですが春ちゃんの友人なら、なおの事危険に晒すわけにはいきません。春ちゃんもそう思ったからこそ、星菜さんに何も言わず向かったんだと思います」
「だけど……‼」
「お二人が友人なら私は彼女たちの母親です。ここは私に任せてください」
それでもと追い縋ろうとした俺の未練を断ち切るように、リリィはきっぱりと自身の立場を告げた。
AIではなく、母親。その言葉を聞くまでは、まだ何か言うことができたかもしれない。だが、リリィが春佳を――あの二人を娘だと言うのであれば、これ以上口を挟むことは出来なかった。
「……お願いします」
大丈夫なのかという答えの分かりきった疑問を投げることはせず、ただそれだけを口にする。
「はい」
俺たちを安心させようとしてか、作った笑みを浮かべた後リリィは姿を消す。
その後すぐに蛍の手を掴んで走り出したものの、遠くに見えた出口付近には人の波――というより、塊のようになるまで密集していて、混雑などという生易しい言葉では到底片付けられないほどだった。
いつ群集雪崩が起きてもおかしくない。焦って近付いては巻き込まれる可能性がある。一分一秒を争うが、前の集団が外に出るまでは待つべきだろう。
「志樹……リリィは……」
「……今は考えるな」
「……そうね……」
春佳たちの無事を祈りながら、俺はまるで別のことを考えていた。それは本当に外に出ていいのだろうかという思い。
これまでは俺が死ぬのと同時に時間が戻った。ミキはUtopia計画を阻止しなければ――と言っていたが、死なずに生き残ることができた場合、〝時間の接合点〝は一体どこになるのだろうか?
――などと考えていたが、すぐにそれは益体の無い考えだったということを悟る。前の集団がいつまで経っても動かないのだ。それなのにどんどん人だけが増えていく。
早く進め、といった罵声を耳にしながら、どうしたものかと近くにあった瓦礫に登り――俺はその理由を見た。
「……どうしたの……?」
顔面蒼白となった俺の顔を見て、恐る恐る蛍が聞いてくる。
その疑問に、顔を歪めながら答えるしかなかった。
「……瓦礫が出口を塞いでる」
「瓦礫……って……」
「大勢の人が束になって退かそうとしているが、あれは……重機が無ければどうにもできない」
「そ、そんな……」
もう助からないと知って冷静になったのか、嫌に落ち着いた頭で思い至る。
よく考えなくても分かることだったのかもしれない。無﨑のことだ、どこで爆発を起こせばどうやって瓦礫が落ちてくるか。どう出口を塞ぐことが出来るか、なんてことも容易に計算できる――いや、そうした上で爆破させたのだろう。
PLOWにいる人たちを一人も逃がすことなく殺し、そうしてUtopia計画を完遂する。
「遠いッ……‼」
外界まで距離にして約五〇メートル。だが、それは途方もなく遠い目の前。
――排水出来なくなったのか、後方からは滝のように荒れ狂った水が勢いよく迫ってきていた。
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