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エピローグ 流水
第177話 有終の美
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「志樹! こっちこっち!」
「悪い、遅れた」
人混みをかき分け、手を挙げる蛍の下へ向かう。
「遅かったけど何かあった?」
「ちょっと知り合いに会ってな」
「知り合い……? ――あ、始まったよ!」
舞台へ顔を向ける蛍につられて見ると、綺麗に並べられた松明に照らされた豪華絢爛な舞台の奥から、巫女服姿の少女――吾御崎が厳かに歩いてきていた。
いつか見た巫女服だけでなく髪飾りなどの装飾もしっかりされていて、一時行動を共にした少女と同一人物だとは思えない品格を纏っている。
「吾御崎……!」
その姿を見て思わず声が出た。吾御崎神社に行くと決めてから再び逢えるだろうと予想していたが、最後に見た彼女の姿が凄惨なものであっただけに、こうして目の前にすると込み上げてくるものがある。
そうして舞台の中央まで来た吾御崎は、緩やかに舞の構えをとった。
その完成された美しい姿に、観客は息を飲んで今か今かと見つめ――そして場の緊張がピークに達したその時、太鼓の音と共に舞が始まった。視線のひとつひとつ、指先に至るまで意識が行き届いていて、どこを切り取っても絵になるだろう。
その姿に見惚れていると偶然吾御崎と目が合い、そうして彼女はほんの少し目を見開いたかと思うと、微かに笑みを浮かべウィンクを飛ばしてきた。
「あいつ……!」
その行動に思わず笑みが零れる。これだけ観客が多いのだ、別の誰かに送ったもの――いや、もしかしたら偶然目を閉じただけなのかもしれない。
けれど、ただなんとなく、あれは自分に向けられたものなのだという確信があった。
「――美しい……ッ!」
その時、背後から興奮を抑えきれないと言いたげな声が聞こえてきた。思考を分断させるのに充分なほど喧しい声。
「……まさか……」
聞き間違えようの無い声とワードチョイス。勘違いであってくれと祈りながら、ゆっくり背後を振り向く。
「げ……」
やはりというべきか、そこには――おそらく――花柳がいた。
変装の為か翁面こそ付けていたものの、PLOWで見た時とは違い服装は至って普通。ファーの付いたダウンジャケットを着ている。
どうしてここに花柳が? と思うも、そういえば花柳と吾御崎は繋がりがあったのだと思い出す。
……しかし、単純に吾御崎の晴れ舞台を見に来たのであればもう少し大人しくしていてほしいところだ。……そもそも花柳の後ろにいる人は舞台をちゃんと見れているのだろうか……?
と、そんなことを思っていると、視線に気づいたのか花柳が俺を見た。
「あらごめんなさい、うるさかったかしら。〝美〟を邪魔する行為はしたくないのだけれど、つい。許して頂戴」
「分かった分かった」
隣に居る蛍は不自然なほどにこちらを見ようとしない。花柳の存在には気付いているようだが、こっちを見るなという無言の圧を感じる。俺のように絡まれたくないのだろう。
「へえ……アンタもなかなかの美しさね。一二五点、あと一歩ってとこかしら」
面を外した花柳は俺を見ながらそんなことを口にする。
「…………えっ、俺⁉」
「そうよ」
確か初めて会った時は美しくないと言われた気がするが。……いや、それより百点満点ではなかったのか。
「……ちょっと、静かにしてよ」
「ああ、悪い」
いい加減スルーするのも限界だったのか、蛍が横腹を突いてくる。
「あら、カップルだったの? ごめんなさいね。口説いてたわけじゃないのよ」
「知ってます。……それとカップルじゃないですから」
不愛想にそれだけ返して、蛍は再び舞台に視線を戻す。
「あら、違うの? なーんだ、お似合いなのに」
……お似合い。やはり以前の花柳とは言ってることが違う。PLOWで会った時と今の言葉、どちらが本心なのか。それともどちらも本心で、俺が変わったのか――。
「……どっちでもいいか」
大人しくなった花柳を背後に感じつつ、俺と蛍は吾御崎の舞を見届ける。
――そうして舞台が終わった後、立ち去ろうとする花柳にある疑問を投げかけてみた。
「お前はどうやって〝美〟ってものを見極めてるんだ?」
俺に美を感じると言ったその判断基準を是非とも聞いてみたかった。
「あら良い質問ね。でも残念だけどあーしもまだまだ道半ば、この審美眼が曇る時もあるから偉そうに言えたもんじゃないんだけど。そうね、自らの未熟を知った上で、それでも足掻き続ける者の中にこそ〝美〟は生まれる。だから、見極める方法としては、そこに詫美寂美があるかどうかってことになるわね」
……どうしてか、今の花柳の詫び寂びという言葉が間違って聞こえたような気もするが、俺の気のせいだろう。
「まぁでもこの世に完璧な人間なんて存在しないんだし、美は見る者の心に宿る――と言っても過言じゃないか」
「そうか、勉強になったよ」
「なら良かったわ。――じゃ、あーしはもう行くから。またね、美しいお二人さん。後で獅子舞になる予定だから見つけたら噛んであげる」
「ああ、じゃあな」
俺が美しいかどうかは置いておいて、別れの言葉は告げておく。
花柳は吾御崎のもとへ向かうのだろう。その言葉を最後に、ヒラリと片手を上げ舞台袖へと消えていった。
「悪い、遅れた」
人混みをかき分け、手を挙げる蛍の下へ向かう。
「遅かったけど何かあった?」
「ちょっと知り合いに会ってな」
「知り合い……? ――あ、始まったよ!」
舞台へ顔を向ける蛍につられて見ると、綺麗に並べられた松明に照らされた豪華絢爛な舞台の奥から、巫女服姿の少女――吾御崎が厳かに歩いてきていた。
いつか見た巫女服だけでなく髪飾りなどの装飾もしっかりされていて、一時行動を共にした少女と同一人物だとは思えない品格を纏っている。
「吾御崎……!」
その姿を見て思わず声が出た。吾御崎神社に行くと決めてから再び逢えるだろうと予想していたが、最後に見た彼女の姿が凄惨なものであっただけに、こうして目の前にすると込み上げてくるものがある。
そうして舞台の中央まで来た吾御崎は、緩やかに舞の構えをとった。
その完成された美しい姿に、観客は息を飲んで今か今かと見つめ――そして場の緊張がピークに達したその時、太鼓の音と共に舞が始まった。視線のひとつひとつ、指先に至るまで意識が行き届いていて、どこを切り取っても絵になるだろう。
その姿に見惚れていると偶然吾御崎と目が合い、そうして彼女はほんの少し目を見開いたかと思うと、微かに笑みを浮かべウィンクを飛ばしてきた。
「あいつ……!」
その行動に思わず笑みが零れる。これだけ観客が多いのだ、別の誰かに送ったもの――いや、もしかしたら偶然目を閉じただけなのかもしれない。
けれど、ただなんとなく、あれは自分に向けられたものなのだという確信があった。
「――美しい……ッ!」
その時、背後から興奮を抑えきれないと言いたげな声が聞こえてきた。思考を分断させるのに充分なほど喧しい声。
「……まさか……」
聞き間違えようの無い声とワードチョイス。勘違いであってくれと祈りながら、ゆっくり背後を振り向く。
「げ……」
やはりというべきか、そこには――おそらく――花柳がいた。
変装の為か翁面こそ付けていたものの、PLOWで見た時とは違い服装は至って普通。ファーの付いたダウンジャケットを着ている。
どうしてここに花柳が? と思うも、そういえば花柳と吾御崎は繋がりがあったのだと思い出す。
……しかし、単純に吾御崎の晴れ舞台を見に来たのであればもう少し大人しくしていてほしいところだ。……そもそも花柳の後ろにいる人は舞台をちゃんと見れているのだろうか……?
と、そんなことを思っていると、視線に気づいたのか花柳が俺を見た。
「あらごめんなさい、うるさかったかしら。〝美〟を邪魔する行為はしたくないのだけれど、つい。許して頂戴」
「分かった分かった」
隣に居る蛍は不自然なほどにこちらを見ようとしない。花柳の存在には気付いているようだが、こっちを見るなという無言の圧を感じる。俺のように絡まれたくないのだろう。
「へえ……アンタもなかなかの美しさね。一二五点、あと一歩ってとこかしら」
面を外した花柳は俺を見ながらそんなことを口にする。
「…………えっ、俺⁉」
「そうよ」
確か初めて会った時は美しくないと言われた気がするが。……いや、それより百点満点ではなかったのか。
「……ちょっと、静かにしてよ」
「ああ、悪い」
いい加減スルーするのも限界だったのか、蛍が横腹を突いてくる。
「あら、カップルだったの? ごめんなさいね。口説いてたわけじゃないのよ」
「知ってます。……それとカップルじゃないですから」
不愛想にそれだけ返して、蛍は再び舞台に視線を戻す。
「あら、違うの? なーんだ、お似合いなのに」
……お似合い。やはり以前の花柳とは言ってることが違う。PLOWで会った時と今の言葉、どちらが本心なのか。それともどちらも本心で、俺が変わったのか――。
「……どっちでもいいか」
大人しくなった花柳を背後に感じつつ、俺と蛍は吾御崎の舞を見届ける。
――そうして舞台が終わった後、立ち去ろうとする花柳にある疑問を投げかけてみた。
「お前はどうやって〝美〟ってものを見極めてるんだ?」
俺に美を感じると言ったその判断基準を是非とも聞いてみたかった。
「あら良い質問ね。でも残念だけどあーしもまだまだ道半ば、この審美眼が曇る時もあるから偉そうに言えたもんじゃないんだけど。そうね、自らの未熟を知った上で、それでも足掻き続ける者の中にこそ〝美〟は生まれる。だから、見極める方法としては、そこに詫美寂美があるかどうかってことになるわね」
……どうしてか、今の花柳の詫び寂びという言葉が間違って聞こえたような気もするが、俺の気のせいだろう。
「まぁでもこの世に完璧な人間なんて存在しないんだし、美は見る者の心に宿る――と言っても過言じゃないか」
「そうか、勉強になったよ」
「なら良かったわ。――じゃ、あーしはもう行くから。またね、美しいお二人さん。後で獅子舞になる予定だから見つけたら噛んであげる」
「ああ、じゃあな」
俺が美しいかどうかは置いておいて、別れの言葉は告げておく。
花柳は吾御崎のもとへ向かうのだろう。その言葉を最後に、ヒラリと片手を上げ舞台袖へと消えていった。
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