SAVE_YOU

星逢もみじ

文字の大きさ
177 / 180
エピローグ 流水

第177話 有終の美

しおりを挟む
「志樹! こっちこっち!」
「悪い、遅れた」

 人混みをかき分け、手を挙げる蛍の下へ向かう。

「遅かったけど何かあった?」
「ちょっと知り合いに会ってな」
「知り合い……? ――あ、始まったよ!」

 舞台へ顔を向ける蛍につられて見ると、綺麗に並べられた松明たいまつに照らされた豪華ごうか絢爛けんらんな舞台の奥から、巫女服姿の少女――吾御崎がおごそかに歩いてきていた。

 いつか見た巫女服だけでなく髪飾りなどの装飾もしっかりされていて、一時行動を共にした少女と同一人物だとは思えない品格をまとっている。

「吾御崎……!」

 その姿を見て思わず声が出た。吾御崎神社に行くと決めてから再び逢えるだろうと予想していたが、最後に見た彼女の姿が凄惨なものであっただけに、こうして目の前にすると込み上げてくるものがある。

 そうして舞台の中央まで来た吾御崎は、緩やかに舞の構えをとった。
 その完成された美しい姿に、観客は息を飲んで今か今かと見つめ――そして場の緊張がピークに達したその時、太鼓の音と共に舞が始まった。視線のひとつひとつ、指先に至るまで意識が行き届いていて、どこを切り取っても絵になるだろう。

 その姿に見惚れていると偶然吾御崎と目が合い、そうして彼女はほんの少し目を見開いたかと思うと、微かに笑みを浮かべウィンクを飛ばしてきた。

「あいつ……!」

 その行動に思わず笑みが零れる。これだけ観客が多いのだ、別の誰かに送ったもの――いや、もしかしたら偶然目を閉じただけなのかもしれない。
 けれど、ただなんとなく、あれは自分に向けられたものなのだという確信があった。

「――美しい……ッ!」

 その時、背後から興奮を抑えきれないと言いたげな声が聞こえてきた。思考を分断させるのに充分なほどやかましい声。

「……まさか……」

 聞き間違えようの無い声とワードチョイス。勘違いであってくれと祈りながら、ゆっくり背後を振り向く。

「げ……」

 やはりというべきか、そこには――おそらく――花柳がいた。
 変装の為かおきな面こそ付けていたものの、PLOWで見た時とは違い服装は至って普通。ファーの付いたダウンジャケットを着ている。

 どうしてここに花柳が? と思うも、そういえば花柳と吾御崎は繋がりがあったのだと思い出す。

 ……しかし、単純に吾御崎の晴れ舞台を見に来たのであればもう少し大人しくしていてほしいところだ。……そもそも花柳の後ろにいる人は舞台をちゃんと見れているのだろうか……?
 と、そんなことを思っていると、視線に気づいたのか花柳が俺を見た。

「あらごめんなさい、うるさかったかしら。〝美〟を邪魔する行為はしたくないのだけれど、つい。許して頂戴」
「分かった分かった」

 隣に居る蛍は不自然なほどにこちらを見ようとしない。花柳の存在には気付いているようだが、こっちを見るなという無言の圧を感じる。俺のように絡まれたくないのだろう。

「へえ……アンタもなかなかの美しさね。一二五点、あと一歩ってとこかしら」

 面を外した花柳は俺を見ながらそんなことを口にする。

「…………えっ、俺⁉」
「そうよ」

 確か初めて会った時は美しくないと言われた気がするが。……いや、それより百点満点ではなかったのか。

「……ちょっと、静かにしてよ」
「ああ、悪い」

 いい加減スルーするのも限界だったのか、蛍が横腹を突いてくる。

「あら、カップルだったの? ごめんなさいね。口説いてたわけじゃないのよ」
「知ってます。……それとカップルじゃないですから」

 不愛想にそれだけ返して、蛍は再び舞台に視線を戻す。

「あら、違うの? なーんだ、お似合いなのに」

 ……お似合い。やはり以前の花柳とは言ってることが違う。PLOWで会った時と今の言葉、どちらが本心なのか。それともどちらも本心で、俺が変わったのか――。

「……どっちでもいいか」

 大人しくなった花柳を背後に感じつつ、俺と蛍は吾御崎の舞を見届ける。
 ――そうして舞台が終わった後、立ち去ろうとする花柳にある疑問を投げかけてみた。

「お前はどうやって〝美〟ってものを見極めてるんだ?」

 俺に美を感じると言ったその判断基準を是非とも聞いてみたかった。

「あら良い質問ね。でも残念だけどあーしもまだまだ道半ば、この審美眼が曇る時もあるから偉そうに言えたもんじゃないんだけど。そうね、自らの未熟を知った上で、それでも足掻き続ける者の中にこそ〝美〟は生まれる。だから、見極める方法としては、そこに詫美寂美わびさびがあるかどうかってことになるわね」

 ……どうしてか、今の花柳の詫び寂びという言葉が間違って聞こえたような気もするが、俺の気のせいだろう。

「まぁでもこの世に完璧な人間なんて存在しないんだし、美は見る者の心に宿る――と言っても過言じゃないか」
「そうか、勉強になったよ」
「なら良かったわ。――じゃ、あーしはもう行くから。またね、美しいお二人さん。後で獅子舞になる予定だから見つけたら噛んであげる」
「ああ、じゃあな」

 俺が美しいかどうかは置いておいて、別れの言葉は告げておく。
 花柳は吾御崎のもとへ向かうのだろう。その言葉を最後に、ヒラリと片手を上げ舞台袖へと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

処理中です...