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第二章 まぁ、そう簡単にはいかないようで
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「……こんばんわ、素敵な夜ね」
満月の光に照らされて、そこに立っていた人物へと目を向けた
なんだか耳にかかるその声は少し痒くて耳を塞ぎたくなる
こんばんわ、初めましてかな、なんて笑って見せれば彼女は驚いた
「えぇ、そうね。貴女は私のことを知っていたみたいだけれど、私は初めて貴方を知ったわ」
「あぁ、だろうね。初めまして、ライム」
不思議な感覚
ライム、と呼んだ彼女は、私の姿をしていた
勿論、その足は透けていて、手を伸ばそうと触れられる様子はない
ただ、その姿は懐かしかった
私は元々、前髪を気にして鏡を持ち歩く様な女子ではなかったし、オシャレに興味を示すこともなかった
けど、まぁ、人並みに自分の容姿は理解していた
だから、こうやって、鏡に写っているわけでも、自分で自分の体を見下ろす訳でも無い今の光景が、えらく新鮮に感じた
「嗚呼、やっぱり…驚かないのね、貴女は」
「…………これでも驚いてるんだ。死んだはずの私が目の前に現れるなんてさ」
まぁ、考えられる話ではある
ライムの体には、私が入っている
なら、元々この体に入っていたライムの意識は何処へ行ったか
私が入ったことで、弾き出してしまった彼女の意識の行先は、可能性として考えていたが、本当に私の体に行っているのは想定外だった
あの体は、想像したくもないが車に轢かれて、バラバラだろう
だから、確認する術もないし、可能性の域を超えていなかった
だが、こう、幽霊のように目の前に現れたらそれはもう事実としか言い様がない
「……そう…でも、よかった。貴女と話がしたかったから、逃げられたらどうしようかと思っていたの」
「…まぁ、とにかく座りなよ。お茶も何も出せないけどさ」
ぽふぽふ、とベットを叩きここに座れ、と促す私は平常そのものでした
きっと、彼女がこの世界の人だったなら、いいお友達になれたのでしょう
ただ、彼女の体は、もう限界でした
彼女の記憶が構成している体ではありますが、それが維持出来なくなる…ということは…そう、いうこと…なのでしょう
「……ごめんなさい、私、ここにいるのも精一杯で…」
「…そっか、それで?話って?」
嗚呼、ゆっくりと話せないのが本当に残念です
彼女は、ベットから立ち上がると私に近寄りました
首を傾げる動作は我ながら可愛らしく思えて、少しだけ、胸がきゅん、としました
ですが、今はそれどころではありません
時間が許すのなら、いっぱい話したいことはあります
きっと、私が知らない植物をいっぱい知っているし、彼女が知らない植物を私は知っています
けれど、それを語り合うことは神様がお許しになられないでしょう
こうやって、彼女と話せることも、神様がくれた慈悲。
友を庇い、命を落とした彼女を哀れに思ったのです
だから、私に最後のチャンスをくださった
「そう、ですね。私からは謝罪と感謝を。……魔法樹を、貴方に任せてしまって、ごめんなさい。それから、彼らを導く選択をしてくれて、ありがとう。」
全てを知った今だからこそ、私の彼女に対する罪悪感は強くなりました
魔法樹を育てるのは難しい。それは元々知っていました
だから、自分で育てたかったのです
誰かを犠牲にして成り立つその木を、私は終わらせたかった
もう、人の死を、仕方ないで終わらせたくなかった
きっと、私の考えに同調してくれる人なんていないのでしょう
小娘一人の力なんてたかがしれています
偽善者だ、と言う人もいるのでしょう
それでも、私は……。
「何言ってんだ?別に、私は自分で選んだだけだ。アンタにお礼を言われる筋合いもないよ。」
随分と、思い詰めた表情の私
だが、その心配やら不安やらは私には関係の無いものだ
彼女は、魔法樹を育てることを選ばせてしまったと考えているらしい
……それは違う
先日出会ったばかりの赤の他人だろうと、死んでしまうのは悲しい
そんな終焉を、何もせずに迎えてしまうというのなら、せめて、私は抗いたいだけ
理不尽に、決まった未来に向けて進むくらいならロードローラーだか、戦車だか、無理矢理にでも用意して、足掻きたいだけ
だから、きっと、私に貴方のような慈愛は無いのだ
随分と優しい子だな、と初めて聞いた時に思った
きっと、私とライムとの違いはそこなのだろう
「……そう……ですか。…………ありがとう。…ごめんなさい。私は、貴方を…」
ぞっ、とする寒気が、体を襲いました
本格的に、時間が無い。
振り返れば、そこには無数の手が迫っています
私には、もう時間がありません
嗚呼、どうかお許しください
貴方に、私としての生き方を、押し付けようとしたことを
意識が、薄れてくのを感じました
ダメです。きっと、このままではいけない
どうか、どうか、まだ……
「わすれ、ないで。……名前、を!」
「え…………」
光の粒になって、その姿は消えてゆく
すがりつくようなその言葉に、私ははっ、とした
名前。……私の、名前は
「───。」
それを、口にして、やっと、肩の力が抜ける
いつだか、有名な映画でやっていた
名前を忘れてしまえば、帰り道が分からなくなる、と
まさに、今はその状況に当たるのだろう
だが、私自身の体はもう死んでいるのだから帰り道もなにもないはずなのだが…
ふと、視線を落とせば、きらりと光るカードが目に入った
お誕生日おめでとう、──。
「……ぁ」
懐かしい、数年前の誕生日に貰ったカード
金箔のラインに、草を混ぜてあしらった和紙
達筆とはいえない文字で書かれた祝いの言葉と私の名前
律儀に、財布に入れて持ち歩いていたことを、何となく思い出した
……きっと、彼女は私がライムになることを望んでいたのだろう
だが、最後の最後で、コレを遺してくれた
「…………ありがとう、ライム」
カードをそっと、布で包んで、引き出しの奥底へと仕舞う
鍵をかけて、誰にも見られず、捨てられないように
私自身を……捨てないように
ロードローラーが敷いた道は、酷く歪でガタガタ
それでも、着実に、前へ、前へと進んでく
満月の光に照らされて、そこに立っていた人物へと目を向けた
なんだか耳にかかるその声は少し痒くて耳を塞ぎたくなる
こんばんわ、初めましてかな、なんて笑って見せれば彼女は驚いた
「えぇ、そうね。貴女は私のことを知っていたみたいだけれど、私は初めて貴方を知ったわ」
「あぁ、だろうね。初めまして、ライム」
不思議な感覚
ライム、と呼んだ彼女は、私の姿をしていた
勿論、その足は透けていて、手を伸ばそうと触れられる様子はない
ただ、その姿は懐かしかった
私は元々、前髪を気にして鏡を持ち歩く様な女子ではなかったし、オシャレに興味を示すこともなかった
けど、まぁ、人並みに自分の容姿は理解していた
だから、こうやって、鏡に写っているわけでも、自分で自分の体を見下ろす訳でも無い今の光景が、えらく新鮮に感じた
「嗚呼、やっぱり…驚かないのね、貴女は」
「…………これでも驚いてるんだ。死んだはずの私が目の前に現れるなんてさ」
まぁ、考えられる話ではある
ライムの体には、私が入っている
なら、元々この体に入っていたライムの意識は何処へ行ったか
私が入ったことで、弾き出してしまった彼女の意識の行先は、可能性として考えていたが、本当に私の体に行っているのは想定外だった
あの体は、想像したくもないが車に轢かれて、バラバラだろう
だから、確認する術もないし、可能性の域を超えていなかった
だが、こう、幽霊のように目の前に現れたらそれはもう事実としか言い様がない
「……そう…でも、よかった。貴女と話がしたかったから、逃げられたらどうしようかと思っていたの」
「…まぁ、とにかく座りなよ。お茶も何も出せないけどさ」
ぽふぽふ、とベットを叩きここに座れ、と促す私は平常そのものでした
きっと、彼女がこの世界の人だったなら、いいお友達になれたのでしょう
ただ、彼女の体は、もう限界でした
彼女の記憶が構成している体ではありますが、それが維持出来なくなる…ということは…そう、いうこと…なのでしょう
「……ごめんなさい、私、ここにいるのも精一杯で…」
「…そっか、それで?話って?」
嗚呼、ゆっくりと話せないのが本当に残念です
彼女は、ベットから立ち上がると私に近寄りました
首を傾げる動作は我ながら可愛らしく思えて、少しだけ、胸がきゅん、としました
ですが、今はそれどころではありません
時間が許すのなら、いっぱい話したいことはあります
きっと、私が知らない植物をいっぱい知っているし、彼女が知らない植物を私は知っています
けれど、それを語り合うことは神様がお許しになられないでしょう
こうやって、彼女と話せることも、神様がくれた慈悲。
友を庇い、命を落とした彼女を哀れに思ったのです
だから、私に最後のチャンスをくださった
「そう、ですね。私からは謝罪と感謝を。……魔法樹を、貴方に任せてしまって、ごめんなさい。それから、彼らを導く選択をしてくれて、ありがとう。」
全てを知った今だからこそ、私の彼女に対する罪悪感は強くなりました
魔法樹を育てるのは難しい。それは元々知っていました
だから、自分で育てたかったのです
誰かを犠牲にして成り立つその木を、私は終わらせたかった
もう、人の死を、仕方ないで終わらせたくなかった
きっと、私の考えに同調してくれる人なんていないのでしょう
小娘一人の力なんてたかがしれています
偽善者だ、と言う人もいるのでしょう
それでも、私は……。
「何言ってんだ?別に、私は自分で選んだだけだ。アンタにお礼を言われる筋合いもないよ。」
随分と、思い詰めた表情の私
だが、その心配やら不安やらは私には関係の無いものだ
彼女は、魔法樹を育てることを選ばせてしまったと考えているらしい
……それは違う
先日出会ったばかりの赤の他人だろうと、死んでしまうのは悲しい
そんな終焉を、何もせずに迎えてしまうというのなら、せめて、私は抗いたいだけ
理不尽に、決まった未来に向けて進むくらいならロードローラーだか、戦車だか、無理矢理にでも用意して、足掻きたいだけ
だから、きっと、私に貴方のような慈愛は無いのだ
随分と優しい子だな、と初めて聞いた時に思った
きっと、私とライムとの違いはそこなのだろう
「……そう……ですか。…………ありがとう。…ごめんなさい。私は、貴方を…」
ぞっ、とする寒気が、体を襲いました
本格的に、時間が無い。
振り返れば、そこには無数の手が迫っています
私には、もう時間がありません
嗚呼、どうかお許しください
貴方に、私としての生き方を、押し付けようとしたことを
意識が、薄れてくのを感じました
ダメです。きっと、このままではいけない
どうか、どうか、まだ……
「わすれ、ないで。……名前、を!」
「え…………」
光の粒になって、その姿は消えてゆく
すがりつくようなその言葉に、私ははっ、とした
名前。……私の、名前は
「───。」
それを、口にして、やっと、肩の力が抜ける
いつだか、有名な映画でやっていた
名前を忘れてしまえば、帰り道が分からなくなる、と
まさに、今はその状況に当たるのだろう
だが、私自身の体はもう死んでいるのだから帰り道もなにもないはずなのだが…
ふと、視線を落とせば、きらりと光るカードが目に入った
お誕生日おめでとう、──。
「……ぁ」
懐かしい、数年前の誕生日に貰ったカード
金箔のラインに、草を混ぜてあしらった和紙
達筆とはいえない文字で書かれた祝いの言葉と私の名前
律儀に、財布に入れて持ち歩いていたことを、何となく思い出した
……きっと、彼女は私がライムになることを望んでいたのだろう
だが、最後の最後で、コレを遺してくれた
「…………ありがとう、ライム」
カードをそっと、布で包んで、引き出しの奥底へと仕舞う
鍵をかけて、誰にも見られず、捨てられないように
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