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「……んせい。水野先生!」
東伍は再び車内で目覚める。だがその状態は最悪で、寝汗はびっしょり、気分はどんよりと落ち込んでいた。
「須藤先生、どうも。すみません、また眠ってしまって」
「いやまあ、それはいつものことなんでもう諦めてますけど。なんだか顔色悪いですね。嫌な夢でも?」
「ええ、まあ」
東伍は言葉を濁す。それは本当に悪夢を見たからだった。
薄暗い箱。その箱の中で目を覚ました東伍は、何やら怖い顔をして箱を飛び出す。開けた世界は無機質で灰色。何やら物々しい重機や精密機器が並ぶ、工場のような場所だった。
だが、夢の中の東伍はそれらの機器には見向きもしない。颯爽と、まるで最初から出口を知っている様子でひたすらに歩みを進める。
工場を出てからもひたすらに。汗をびっしょりかき、疲弊が見える足取りでも、ただひたすらに歩く。そうしてたどり着いた場所は、淑和学院の水泳部の更衣室だった。
東伍はそこで一人、天に向かって手を伸ばす。何かを掴みたいのか、それとも引き留めているのか。
そうして最後には、更衣室の隅に向かって目一杯伸ばした手首の先から、塵のように身体が崩れ始めるのだ。
ふっと力の抜けた身体は、右に傾く。
「どうしましょう。具合が悪いのなら断りましょうか」
「断る?」
「水野先生に来客が来ているんですよ。なんでも、数年ぶりに会う旧友だとかなんとか」
「旧友……」
東伍は来客に会いに校舎へと戻る。職員室の隣の会議室で、その若い女性は東伍を待っているとあすかは言った。
若い女性に心当たりはなかった。恋人だった小林陽子は、四年前に姿を消してから行方知れず。最後にもらったメッセージは別れたい、ただそれだけだった。
職員室を通り過ぎ、東伍が会議室の扉を開けると、中には女性が一人。
「あの」
声をかければ、窓側を向いていた女性が振り向く。くるくるにカールした黒髪を靡かせ、少女のように微笑む女性の口元には、特徴的な黒子。
「どうも。久しぶりだね。うーん、二十……二年ぶり?」
小首を傾げて笑う女性に、東伍もつられて首を傾げた。
「えっと……卒業生、な訳ないですよね。年齢がおかしいし」
「年齢? ぼくは今確か、二十八だったかな」
「ぼく?」
「七年に一度しか表に出てこられないんだよ。難儀だよね。あ、泉は頭がいいからさ。こう見えていろんな言葉知ってるんだ、ぼく」
なんとなく話が噛み合わないことを感じながら、東伍は会話を続ける。
「久しぶりということは、どこかで会ったことがあるのだと思うんですけど、すみません、私あんまり記憶には自信がなくて」
「ああ、いいのいいの。ぼくにもあんまり時間はないし、報告だけしてすぐに帰るから」
「報告、ですか」
「ラボは潰れたよ。サーバーはすべてシャットダウン。後から調べてデータが出ても、検体が見つからなければあんなもの、机上の空論でしかないからね」
「はあ」
「そうだ、これ」
そう言って、見た目より幾分幼い印象の女性はあるものを東伍に手渡す。
「おみくじ?」
「うん。昔一緒に旅をした友達が引いたんだけどね。ぼくに残された時間で何ができるのかって考えた時、真っ先にこれはきみに渡したほうがいいんじゃないかって思ったんだ」
「それは、どうしてですか?」
「いつか思い出した時、悲しくならないように、かな」
東伍が開いてみると、運勢は大吉。
様々な項目が並ぶ中、赤いペンで丸く印がつけられている部分が目につく。
【待ち人 来る たよりあり】
「よしっ! じゃあぼくは帰るよ。お邪魔しました」
「え? あ、ちょっと」
突然の帰宅宣言に、東伍は咄嗟に女性を引き止める。
「どうしたの? 何かぼくに訊きたいことでもある?」
「えっと。そもそも、名前を聞いていなかったなって」
「ああ、名前ね。ぼくは朔夜」
「朔夜さん……きみは私の知り合い、なんだよね?」
「そうだね。知り合いっていうかまあ、キス? した仲かな」
「き、キス?!」
東伍は驚く。キスなんて、恋人だった陽子とすらしたことがなかったからだ。
「そんな。きみは、私と誰かを勘違いしているのではないですか?」
「そんなはずないよ。ぼくはきみに鍵を渡したこと、はっきり覚えてる」
「鍵?」
その時ふと、東伍はポケットに入った鍵を思い出し、外側から触れる。
「今となっちゃ昔話だよ。それじゃあね」
「あ、待って」
「ごめん東伍。悪いけど本当に時間がないんだ。ぼくから伝えられることはもうないよ」
「なら、最後に一つだけ。きみの知る昔の私は、今の私と同じ水野東伍、なのかな」
質問したは良いものの、東伍は自分の口から出た言葉の不明瞭さに慌てて訂正する。
「あ、いや、ごめん。やっぱりなんでもないです。引き留めた上、変なことを訊いてしまってすみません」
「違わないよ」
そう言って、朔夜は笑う。
「ぼくの知る水野東伍は、一人だけだから」
◇◇◇
無くしてしまった鍵が、思いもよらぬところから見つかるのは、よくある話で。
かくいう東伍も、つい先日自宅のソファの隙間から見つけた鍵の詳細を考えている最中であった。
自宅の鍵にしては小ぶりで、自転車の鍵にしては少々凝っている。金庫の鍵でもなければ職場のロッカーの鍵でもなく、東伍は雨の流れるフロントガラスを眺めながら、街灯のライトの灯りに件の鍵をかざしていた。
「やっぱり、思い出せない」
夕刻、朔夜と名乗る妙な少女が東伍を訪ねてきてから、空が暗くなるまで東伍は物思いに耽る。
謂れのない犯罪疑惑に巻き込まれてから四年。あすかの署名が功を奏し、なんとか疑惑も晴れて職場に復帰したのは良いものの、東伍はそれ以来喉の奥に小骨がつっかえたような、妙な不快感を感じるようになった。
あったはずの何かが消え、記憶にない事実に度々触れる。大事なものをなくしているような、思い出したくないものを閉じ込めているような危うさを抱えて、東伍はここ数年を生きているような感覚だった。
じっと、鍵を持つ手を見つめる。
その時不意に、指先から蒸気が上がったような気がした東伍は驚いて鍵を落とした。
「なんなんだよ、もう」
ドアを開け、雨に背中を打たれながら足元に落ちた鍵を探す。
夢で見た光景が脳裏を駆け巡り、シートの下から見つけ出した鍵を再び見れば、突然夢の続きがフラッシュバックした。
それは水泳部の更衣室。
夢の中で手を伸ばした先にあったのは——
「……ロッカーだ」
東伍は駆け出した。
思いの外大粒で降り注ぐ雨を顔面に受けながらプールの門の前までたどり着いた東伍は、つい最近男子生徒から聞いた裏技を試みる。
「紙、紙、……あ、」
ポケットには、先ほど朔夜からもらったおみくじ。東伍はそれを広げると、壁と門の隙間に挟み込み、持っていた鍵を鍵穴へと差し込む。ガチャガチャと何回か左右に回せば、門の鍵穴は無防備な解鍵音を響かせた。
門を開け、更衣室へと急ぐ。電気をつけ、びしょ濡れな顔を手でひと拭いすると、部屋の隅にあるロッカーを見上げた。
「鍵、ついてる」
壁際に陳列するロッカー、そのすべてのボックスには鍵が刺さっていて、東伍の持つ鍵が差し込めるロッカーは見当たらない。
惰性で全部のロッカーを開閉してみても、中身はほとんど空っぽで、ちらほらゴーグルやタオルの忘れ物があるだけだった。
東伍は落胆する。ピンときた、もうここ以外ない、そんな気持ちで予測した結果が外れた時の無気力感に溢れた。
床に敷かれた簀に横になる。大きく胸で呼吸をし、濡れた衣服の水分が簀に吸収されていく感覚を覚えた、その時。
“水野っち? やっぱりここなんじゃん”
記憶の中で、女の子が明るく笑う。
「女子、更衣室だ」
東伍は起き上がった。男子更衣室の隣、女子更衣室へ移動して扉を開けると、室内は男子のそれとほぼ同じ。ロッカーにはちらほら鍵のかかったボックスがあったが、それでも東伍はまっすぐに左隅のロッカーを見つめる。
東伍は何故だか、覚悟を決めた。開けてはならない背徳感は、ここが女子更衣室だからだろうか。それ以上のパンドラの箱を想定しているからだろうか。
ゆっくり、鍵穴に向かって手元の鍵を差し込めば、ロッカーは見事に、解鍵音をあげた。
中身は一枚の写真。
東伍が手に取ったその写真には、淑和学院の制服を着たカップルがテーブルを挟んで映っていた。
一人は栗色のショートヘア。小麦色に焼けた少女はワイシャツの袖を肘までまくり、両手で目一杯のピースサイン。くしゃっと目を線にして、ニカっと笑う。
対する少年はというと、左手に持ったカメラを気にしているのか、はたまたこの場に緊張しているのか、ぎこちない笑顔。少女より若干色濃く焼けたその顔で、ちらりと、愛おしげな視線を彼女に向けていた。
季節はクリスマスなのだろう。窓にデコレーションされた白いスプレーが、雪だるまやサンタクロース、リースを模ってカップルの時間を彩る。テーブルには、湯気の立った料理が並んでいた。
『なんか食べて帰る?』
少年が言う。
『私ビーフシチュー!』
少女は笑う。
『いいね。じゃあファミレスで話そっか』
『水野くんはファミレスメニュー、何が好き?』
『えーっと、俺はね』
季節が巡っても、時が経っても、変わらないものは、そこにある。
『チキンと……メキシカンピラフ、かな』
了
東伍は再び車内で目覚める。だがその状態は最悪で、寝汗はびっしょり、気分はどんよりと落ち込んでいた。
「須藤先生、どうも。すみません、また眠ってしまって」
「いやまあ、それはいつものことなんでもう諦めてますけど。なんだか顔色悪いですね。嫌な夢でも?」
「ええ、まあ」
東伍は言葉を濁す。それは本当に悪夢を見たからだった。
薄暗い箱。その箱の中で目を覚ました東伍は、何やら怖い顔をして箱を飛び出す。開けた世界は無機質で灰色。何やら物々しい重機や精密機器が並ぶ、工場のような場所だった。
だが、夢の中の東伍はそれらの機器には見向きもしない。颯爽と、まるで最初から出口を知っている様子でひたすらに歩みを進める。
工場を出てからもひたすらに。汗をびっしょりかき、疲弊が見える足取りでも、ただひたすらに歩く。そうしてたどり着いた場所は、淑和学院の水泳部の更衣室だった。
東伍はそこで一人、天に向かって手を伸ばす。何かを掴みたいのか、それとも引き留めているのか。
そうして最後には、更衣室の隅に向かって目一杯伸ばした手首の先から、塵のように身体が崩れ始めるのだ。
ふっと力の抜けた身体は、右に傾く。
「どうしましょう。具合が悪いのなら断りましょうか」
「断る?」
「水野先生に来客が来ているんですよ。なんでも、数年ぶりに会う旧友だとかなんとか」
「旧友……」
東伍は来客に会いに校舎へと戻る。職員室の隣の会議室で、その若い女性は東伍を待っているとあすかは言った。
若い女性に心当たりはなかった。恋人だった小林陽子は、四年前に姿を消してから行方知れず。最後にもらったメッセージは別れたい、ただそれだけだった。
職員室を通り過ぎ、東伍が会議室の扉を開けると、中には女性が一人。
「あの」
声をかければ、窓側を向いていた女性が振り向く。くるくるにカールした黒髪を靡かせ、少女のように微笑む女性の口元には、特徴的な黒子。
「どうも。久しぶりだね。うーん、二十……二年ぶり?」
小首を傾げて笑う女性に、東伍もつられて首を傾げた。
「えっと……卒業生、な訳ないですよね。年齢がおかしいし」
「年齢? ぼくは今確か、二十八だったかな」
「ぼく?」
「七年に一度しか表に出てこられないんだよ。難儀だよね。あ、泉は頭がいいからさ。こう見えていろんな言葉知ってるんだ、ぼく」
なんとなく話が噛み合わないことを感じながら、東伍は会話を続ける。
「久しぶりということは、どこかで会ったことがあるのだと思うんですけど、すみません、私あんまり記憶には自信がなくて」
「ああ、いいのいいの。ぼくにもあんまり時間はないし、報告だけしてすぐに帰るから」
「報告、ですか」
「ラボは潰れたよ。サーバーはすべてシャットダウン。後から調べてデータが出ても、検体が見つからなければあんなもの、机上の空論でしかないからね」
「はあ」
「そうだ、これ」
そう言って、見た目より幾分幼い印象の女性はあるものを東伍に手渡す。
「おみくじ?」
「うん。昔一緒に旅をした友達が引いたんだけどね。ぼくに残された時間で何ができるのかって考えた時、真っ先にこれはきみに渡したほうがいいんじゃないかって思ったんだ」
「それは、どうしてですか?」
「いつか思い出した時、悲しくならないように、かな」
東伍が開いてみると、運勢は大吉。
様々な項目が並ぶ中、赤いペンで丸く印がつけられている部分が目につく。
【待ち人 来る たよりあり】
「よしっ! じゃあぼくは帰るよ。お邪魔しました」
「え? あ、ちょっと」
突然の帰宅宣言に、東伍は咄嗟に女性を引き止める。
「どうしたの? 何かぼくに訊きたいことでもある?」
「えっと。そもそも、名前を聞いていなかったなって」
「ああ、名前ね。ぼくは朔夜」
「朔夜さん……きみは私の知り合い、なんだよね?」
「そうだね。知り合いっていうかまあ、キス? した仲かな」
「き、キス?!」
東伍は驚く。キスなんて、恋人だった陽子とすらしたことがなかったからだ。
「そんな。きみは、私と誰かを勘違いしているのではないですか?」
「そんなはずないよ。ぼくはきみに鍵を渡したこと、はっきり覚えてる」
「鍵?」
その時ふと、東伍はポケットに入った鍵を思い出し、外側から触れる。
「今となっちゃ昔話だよ。それじゃあね」
「あ、待って」
「ごめん東伍。悪いけど本当に時間がないんだ。ぼくから伝えられることはもうないよ」
「なら、最後に一つだけ。きみの知る昔の私は、今の私と同じ水野東伍、なのかな」
質問したは良いものの、東伍は自分の口から出た言葉の不明瞭さに慌てて訂正する。
「あ、いや、ごめん。やっぱりなんでもないです。引き留めた上、変なことを訊いてしまってすみません」
「違わないよ」
そう言って、朔夜は笑う。
「ぼくの知る水野東伍は、一人だけだから」
◇◇◇
無くしてしまった鍵が、思いもよらぬところから見つかるのは、よくある話で。
かくいう東伍も、つい先日自宅のソファの隙間から見つけた鍵の詳細を考えている最中であった。
自宅の鍵にしては小ぶりで、自転車の鍵にしては少々凝っている。金庫の鍵でもなければ職場のロッカーの鍵でもなく、東伍は雨の流れるフロントガラスを眺めながら、街灯のライトの灯りに件の鍵をかざしていた。
「やっぱり、思い出せない」
夕刻、朔夜と名乗る妙な少女が東伍を訪ねてきてから、空が暗くなるまで東伍は物思いに耽る。
謂れのない犯罪疑惑に巻き込まれてから四年。あすかの署名が功を奏し、なんとか疑惑も晴れて職場に復帰したのは良いものの、東伍はそれ以来喉の奥に小骨がつっかえたような、妙な不快感を感じるようになった。
あったはずの何かが消え、記憶にない事実に度々触れる。大事なものをなくしているような、思い出したくないものを閉じ込めているような危うさを抱えて、東伍はここ数年を生きているような感覚だった。
じっと、鍵を持つ手を見つめる。
その時不意に、指先から蒸気が上がったような気がした東伍は驚いて鍵を落とした。
「なんなんだよ、もう」
ドアを開け、雨に背中を打たれながら足元に落ちた鍵を探す。
夢で見た光景が脳裏を駆け巡り、シートの下から見つけ出した鍵を再び見れば、突然夢の続きがフラッシュバックした。
それは水泳部の更衣室。
夢の中で手を伸ばした先にあったのは——
「……ロッカーだ」
東伍は駆け出した。
思いの外大粒で降り注ぐ雨を顔面に受けながらプールの門の前までたどり着いた東伍は、つい最近男子生徒から聞いた裏技を試みる。
「紙、紙、……あ、」
ポケットには、先ほど朔夜からもらったおみくじ。東伍はそれを広げると、壁と門の隙間に挟み込み、持っていた鍵を鍵穴へと差し込む。ガチャガチャと何回か左右に回せば、門の鍵穴は無防備な解鍵音を響かせた。
門を開け、更衣室へと急ぐ。電気をつけ、びしょ濡れな顔を手でひと拭いすると、部屋の隅にあるロッカーを見上げた。
「鍵、ついてる」
壁際に陳列するロッカー、そのすべてのボックスには鍵が刺さっていて、東伍の持つ鍵が差し込めるロッカーは見当たらない。
惰性で全部のロッカーを開閉してみても、中身はほとんど空っぽで、ちらほらゴーグルやタオルの忘れ物があるだけだった。
東伍は落胆する。ピンときた、もうここ以外ない、そんな気持ちで予測した結果が外れた時の無気力感に溢れた。
床に敷かれた簀に横になる。大きく胸で呼吸をし、濡れた衣服の水分が簀に吸収されていく感覚を覚えた、その時。
“水野っち? やっぱりここなんじゃん”
記憶の中で、女の子が明るく笑う。
「女子、更衣室だ」
東伍は起き上がった。男子更衣室の隣、女子更衣室へ移動して扉を開けると、室内は男子のそれとほぼ同じ。ロッカーにはちらほら鍵のかかったボックスがあったが、それでも東伍はまっすぐに左隅のロッカーを見つめる。
東伍は何故だか、覚悟を決めた。開けてはならない背徳感は、ここが女子更衣室だからだろうか。それ以上のパンドラの箱を想定しているからだろうか。
ゆっくり、鍵穴に向かって手元の鍵を差し込めば、ロッカーは見事に、解鍵音をあげた。
中身は一枚の写真。
東伍が手に取ったその写真には、淑和学院の制服を着たカップルがテーブルを挟んで映っていた。
一人は栗色のショートヘア。小麦色に焼けた少女はワイシャツの袖を肘までまくり、両手で目一杯のピースサイン。くしゃっと目を線にして、ニカっと笑う。
対する少年はというと、左手に持ったカメラを気にしているのか、はたまたこの場に緊張しているのか、ぎこちない笑顔。少女より若干色濃く焼けたその顔で、ちらりと、愛おしげな視線を彼女に向けていた。
季節はクリスマスなのだろう。窓にデコレーションされた白いスプレーが、雪だるまやサンタクロース、リースを模ってカップルの時間を彩る。テーブルには、湯気の立った料理が並んでいた。
『なんか食べて帰る?』
少年が言う。
『私ビーフシチュー!』
少女は笑う。
『いいね。じゃあファミレスで話そっか』
『水野くんはファミレスメニュー、何が好き?』
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