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因縁編
これで終わり?
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「そうね、生きてるみたい。死に損なったわ」
「佐和子さん、その体型……」
彩美が不思議そうに呟けば、佐和子はワンピースの裾を摘みヒラヒラとなびかせる。それは初日に見たものと同じブラウンの麻のワンピースであったが、腰の辺りで絞られた紐は美しいくびれを作り出していた。
「激痩せしちゃった、なんてね。芹さんの指示で、体型を誤魔化すために厚手の布を着込んでいたの。おかげで彼に刺された時、身体の芯まではナイフが到達しなかったみたい。まさか渡された布の中に血糊が仕込まれているとは思わなかったけれどね」
「彼?」
「私の身体にナイフを突き立てたのは、段田慎之介よ」
佐和子が言い終わると同時に、キュッと蛇口が閉まる。濡れた手の滴を振り払いながら、マリアは佐和子に振り返った。
「へえ。おばさん刺したの、段田だったんだ。さすがイカれ野郎、もうここまでくると病気だね」
その言葉に、佐和子はギュッと拳を握った。
「そもそもあなたが、今皆さんにもしたように私に毒を盛ったのよね? 私の身体は動かなくなり、倒れた私は段田にトドメを刺された。おかげで目を開けちゃったわよ。幸い、竹林さんが目を閉じてくれて助かったけれど」
「ふうん。でもまさか、そんな小細工していたなんてね」
「ええ。助けられてしまった」
「芹の仕業だね」
「そのようね」
その会話の内容に、彩美は疑問を口にする。
「この計画の意図はなんなんですか? おふたりは仲間なんじゃ」
「仲間? 冗談でしょ。言ったじゃん、マリアはこのおばさんのことも憎んでるって。でもこれであんたのいう首謀者はハッキリしたんじゃない? 芹だよ。あいつ、マリアにうまいこと言っときながら裏でこのおばさんとも繋がってやがった」
ふんっ、と不満げに息を吐いたマリアは、テーブルに残ったミニトマトをひとつ摘んで、口に放った。
「芹と知り合ったのは1ヶ月くらい前だったかな。突然スマホに妙なメールが入ったの。“あなたの人生、高額買取致します”って」
自分と同じ境遇の話に、海里の眉毛がピクっと反応する。
「興味半分で会ってみたらさ、事件のこともマリアの恨みも全部知っていて。聞いたらスマホの検索履歴だっけ? あれ、普通にやばいよね。このご時世、情報なんか全部筒抜け」
それは同感だ、と海里。
「そっからは多分みんなとおんなじ。この館で過ごす代わりに、報酬をあげるって。最初はお金なんてもらってもって思ったけど、芹はお金でない報酬でも受け付けるって言った。だから復讐でもいいのかって訊いたら、あいつ笑って言ったよ、『勿論』ってね」
暁人の弁護を放棄した佐和子の夫、大柳勝紀。
検事として理不尽に追い詰めた千聖の父、相澤光正。
デタラメ記事で世間を煽った、権堂薫。
そして真犯人、段田慎之介。
マリアが名前を伝え復讐を依頼すれば、芹は言った。
「該当人物を館に集める、だから自分で手を下せ、って。だけど大柳弁護士は既に死んじゃってて、相澤検事はこんな妙な話には乗ってこなかった。だから代打であんた達ってワケ」
マリアは気だるそうに佐和子と千聖を指差した。
「あとは全部、芹の指示。ヒ素をもらって、なんで自分達がこんな目に遭うのか知らしめてやれって。まあ、段田には言いつけ破って致死量盛っちゃったけど。その様子だとたぶんこの薬、ヒ素なんて代物じゃないのかも。でしょ、解毒して回ってるそこの看護婦さん?」
「あ……」
権堂のそばに寄り添っていた彩美は、咄嗟に持っていた注射器を後ろ手に隠した。
「やっぱ、そっか。芹は最初から、この館で死人を出す気なんてなかったんだ」
マリアは円卓から椅子をひとつ引くと、ちょこんと腰掛ける。引っ詰めたポニーテールに結われた髪ゴムを強引に引き抜き、垂れ落ちた髪をかき上げるその姿はもう毒気が抜かれていた。
「なあ、ひとつ聞いてもいいか」
そう口を開いたのは海里だ。
「佐和子さん、その体型……」
彩美が不思議そうに呟けば、佐和子はワンピースの裾を摘みヒラヒラとなびかせる。それは初日に見たものと同じブラウンの麻のワンピースであったが、腰の辺りで絞られた紐は美しいくびれを作り出していた。
「激痩せしちゃった、なんてね。芹さんの指示で、体型を誤魔化すために厚手の布を着込んでいたの。おかげで彼に刺された時、身体の芯まではナイフが到達しなかったみたい。まさか渡された布の中に血糊が仕込まれているとは思わなかったけれどね」
「彼?」
「私の身体にナイフを突き立てたのは、段田慎之介よ」
佐和子が言い終わると同時に、キュッと蛇口が閉まる。濡れた手の滴を振り払いながら、マリアは佐和子に振り返った。
「へえ。おばさん刺したの、段田だったんだ。さすがイカれ野郎、もうここまでくると病気だね」
その言葉に、佐和子はギュッと拳を握った。
「そもそもあなたが、今皆さんにもしたように私に毒を盛ったのよね? 私の身体は動かなくなり、倒れた私は段田にトドメを刺された。おかげで目を開けちゃったわよ。幸い、竹林さんが目を閉じてくれて助かったけれど」
「ふうん。でもまさか、そんな小細工していたなんてね」
「ええ。助けられてしまった」
「芹の仕業だね」
「そのようね」
その会話の内容に、彩美は疑問を口にする。
「この計画の意図はなんなんですか? おふたりは仲間なんじゃ」
「仲間? 冗談でしょ。言ったじゃん、マリアはこのおばさんのことも憎んでるって。でもこれであんたのいう首謀者はハッキリしたんじゃない? 芹だよ。あいつ、マリアにうまいこと言っときながら裏でこのおばさんとも繋がってやがった」
ふんっ、と不満げに息を吐いたマリアは、テーブルに残ったミニトマトをひとつ摘んで、口に放った。
「芹と知り合ったのは1ヶ月くらい前だったかな。突然スマホに妙なメールが入ったの。“あなたの人生、高額買取致します”って」
自分と同じ境遇の話に、海里の眉毛がピクっと反応する。
「興味半分で会ってみたらさ、事件のこともマリアの恨みも全部知っていて。聞いたらスマホの検索履歴だっけ? あれ、普通にやばいよね。このご時世、情報なんか全部筒抜け」
それは同感だ、と海里。
「そっからは多分みんなとおんなじ。この館で過ごす代わりに、報酬をあげるって。最初はお金なんてもらってもって思ったけど、芹はお金でない報酬でも受け付けるって言った。だから復讐でもいいのかって訊いたら、あいつ笑って言ったよ、『勿論』ってね」
暁人の弁護を放棄した佐和子の夫、大柳勝紀。
検事として理不尽に追い詰めた千聖の父、相澤光正。
デタラメ記事で世間を煽った、権堂薫。
そして真犯人、段田慎之介。
マリアが名前を伝え復讐を依頼すれば、芹は言った。
「該当人物を館に集める、だから自分で手を下せ、って。だけど大柳弁護士は既に死んじゃってて、相澤検事はこんな妙な話には乗ってこなかった。だから代打であんた達ってワケ」
マリアは気だるそうに佐和子と千聖を指差した。
「あとは全部、芹の指示。ヒ素をもらって、なんで自分達がこんな目に遭うのか知らしめてやれって。まあ、段田には言いつけ破って致死量盛っちゃったけど。その様子だとたぶんこの薬、ヒ素なんて代物じゃないのかも。でしょ、解毒して回ってるそこの看護婦さん?」
「あ……」
権堂のそばに寄り添っていた彩美は、咄嗟に持っていた注射器を後ろ手に隠した。
「やっぱ、そっか。芹は最初から、この館で死人を出す気なんてなかったんだ」
マリアは円卓から椅子をひとつ引くと、ちょこんと腰掛ける。引っ詰めたポニーテールに結われた髪ゴムを強引に引き抜き、垂れ落ちた髪をかき上げるその姿はもう毒気が抜かれていた。
「なあ、ひとつ聞いてもいいか」
そう口を開いたのは海里だ。
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