【完結】カエルレア探偵事務所《下》 〜ねじれ鏡の披露宴〜

千鶴

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第一部

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大滝輝子おおたきてるこ。その元夫である三越喜一みつこしきいちは、この三越家の長男でいらっしゃいますね」
 
 すみれの瞳が、揺れる。
 
 その一瞬の隙、夏代は持っていたナイフで威嚇するように空間を切ると、一、二歩下がって距離を取った。
 
「だめだ……やめろ……それ以上喋るな!」
 
 きびすを返した夏代は、凄まじい速さで廊下を走る。
 角を曲がる前に、と遥が追いかける姿勢を取れば、すみれが素早くその腕を掴んだ。
 
「今追いかけたら、殺されますよ」
「でも涼子さんが!」
「大丈夫。お連れ様は無事です。今は兎角、わたくしの部屋へ」
 
 

 ◇◇◇
 

 
「少しは落ち着かれましたか?」
 
 すみれの部屋。薄暗い部屋の壁には無数のモニターが設置されており、その白黒の画面が一定時間で切り替わる。
 
 赤い和紙の貼られた照明に照らされ、そこはまるで写真現像に使われる暗室のようだと遥は思った。
 
「まあ、そう言いながら落ち着かない部屋で申し訳ありません」
 
 すみれの口調は先程の京訛りを改めている。遥はそのことを気にしつつも、まずは本題にと口を開いた。
 
「あなたの娘……夏代さんは、一体何者ですか。あの雰囲気、それにあなたも含めた身のこなし。到底一般人とは思えない」
 
 適当に用意された椅子に座り、遥はモニターを隈なく眺めるすみれの後頭部を睨み付けるように見つめる。
 
「伊東遥さんと仰いましたね。に読める名前には、どうにも敏感になってしまいます」
 
 首、肩、腰。順に振り向くすみれの視線が、ようやく遥と噛み合った。
 
「さて。どこから話せば良いのやら……おっしゃる通り、我が三越家の人間は一般の家庭に生まれた方達より特殊なことを認めましょう。しかし、それを説明するには長い時間を要してしまう。かいつまんでお話しても、あなた方一般人には到底理解できない事実をお伝えしなければならない」
「遠慮は要りません。既に人知を越えるものには理解があります」
「それはどういう?」
「神の存在。現世に実在する神と、私は会ったことがある。傷を治癒する花や不老不死。人の記憶を操り、瞬間移動をする場面にも居合わせたことがあります。むしろ私の話を信じていただけるのなら、こちらも説明の手間が省ける」
 
 すみれは驚いたように眉を上げるが、すぐに凛とした表情に戻る。
 
「やはり、あなた様は賢い」
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