怠惰の神の使徒となり、異世界でのんびりする。筈がなんでこんなに忙しいの?異世界と日本で怠惰の魔法を使って駆け巡る。

七転び早起き

文字の大きさ
31 / 35
サルバルート王国とアズール家族

第29話 SIDE : アズール家族①(桜子解説あり)

しおりを挟む
 私は「神の施し」で、ラブポン(段ボール箱の呼称だな)を一人一箱送ってから、キッチンに行って冷蔵庫からビール三本とツマミを持って急いで春馬ちゃんの部屋に戻った。

 その私はノートパソコンの前に座り、アズール家族の様子を見る。娘には昨日夜に今日少しだけ遅くなる事を伝えてあるので気が楽だ。
 私はツマミの袋を開けて三本のビールをテーブルに並べる。このビールは私のお気に入りの「海老っす」。一欠片も海老の要素が入って無いのに、このネーミング。

「だがそれがいい」

 私はその「海老っす」を豪快にイッキ飲みして二本目を開ける。ツマミは駄菓子定番の「よっちゃんイカが?」だ。いったい何を聞いているのか興味があるが、今はそれよりアズール家族の方が興味津々なのだ。

 私は「よっちゃんイカが?」をチュパチュパしながらモニターに映る愛しの獲物達を眺める。そのアズール家族達は各自ラブポンをテーブルの上に置いて、椅子に座って話をしているようだった。(面白いの期待してるよ!)
 _______________

 アズール家族の三人は、ラブポンを開けずに話をしていた。

「テーブルにあるこの箱は女神様が送ってくれたんだよね!なにも言ってくれなかったけど聞き逃したのかな?お母さん、タルク、女神様からお告げがあった?」

(あ~、ラブポン送って満足して忘れてたわ。でも私からだと判ってるみたいだな)

「「ううん、なにもないよ」」

 ミーナの問い掛けに首を横に振る二人。

「でも女神様で間違いないよ!だって箱に似顔絵が書いてあるんだよ。神様の時は無かったからね」

(毎回描かないといけないのか‥‥‥)

「うひひ、凄い楽しみだね!最初はお母さんから開けてみようよ。その次はタルク。そして最後は私が開けるね!」

 ミーナはよほど楽しみなのか、銀色の長いシッポが左右に大きく揺れていた。そしてミスカが「判ったわ。それじゃあ開けてみるね」と言って椅子から立ち上がり、右手を天高く持ち上げた。(ま、まさか!とうとう見れるのか。初代ミスカの必殺技が!)

 そのミスカは天高くあげた拳を手刀にし、ラブポンの蓋に向けて振り下ろした。

「ふんっ!」

(でたー!伝家の宝刀パーチョップ!ぶはっ、すげーおもしれー、最高だ!対面でミーナが目を細めて妖しい顔で微笑んで見てるしー!母親の技を盗もうとしてるのか?技を?)

 そして少し破れたラブポンの蓋を開け、中のモノを取り出すミスカ。出てきたのは圧縮袋に入ったワンピースだった。そのペチャンコになっている袋を不思議そうに眺めるミスカ。

 それを見てタルクが母親に話した。

「お母さん、それ、中身は服のようだね。たぶん袋の中の空気を抜いて小さくしてるんだよ。箱が小さいからね。服にキズが付かないように袋の端に穴を開ければいいと思うよ」

(すげー、マジすげーぞタルク。その観察眼と解析力が今後お前の力になるだろう)

 その話を聞いたミスカは台所の包丁差しからナイフを持ってきて、袋の端にそっとナイフの刃を滑らせた。すると小さかった袋がフワッと膨らみ大きくなり、中のワンピースがよく見えるようになった。

「あら、とっても素敵な服だわ。色も可愛くて肌触りも凄くいい。私がこんな素晴らしい服を着てもいいのかしら?」

 ミスカは袋からワンピースを取り出して、嬉しそうに眺めていた。そして満面の笑みをしたミスカは着ている服をその場で脱ぎ、水色のワンピースを着始めた。

「どう?似合ってるかしら」

 そう言って子供達の前で一回転するミスカは、何処かの貴族のご令嬢と言ってもいいくらい可愛かった。

「「お母さん、凄く似合ってて可愛い!」」

 ミーナとタルクが手を叩きながら揃って誉めると、「うふふ、誉めてくれてありがとう」とスカートの裾を両手で持って綺麗なお辞儀をするミスカだった。

(うん、我ながら良いものを選んだな)

 それから黄色のワンピースにも着替え、子供達に誉めてもらったミスカは満足し、残りのモノを見ようと席に戻った。そしてラブポンから取り出そうとしていたミスカだが、その袋の中身を見て固まっていた。

「の、残りも服みたいだから後で見ることにするわ。た、楽しみは少しずつ味わいたいからね。ほ、ほらタルクの番よ」

(ぶふっ、スケスケネグリジェに気が付いたな。焦ってる顔がそそるじゃねーか)

 その焦る母親からバトンを受けたタルクは「うん、判った!」と言って椅子の上に立ち、ラブポンの蓋を丁寧に左右に開いた。それを見ていたミスカとミーナは無反応だった。

 ラブポンの蓋を開けて中を覗き込んだタルク。そのタルクの顔は、世界中全ての人が和むのではと思えるほど、幼い子供が見せる最高の笑顔だった。

「お母さん!凄いカッコいいリュックが入ってた!全体が綺麗な青色で、真ん中にドラゴンが描いてあるんだ!凄ーい!」

 タルクはリュックを取り出して、描かれたドラゴンをじっくり見たあとに、そのリュックを背負いミスカとミーナの前まで行って、「カッコいいでしょ!」と何度も見せていた。

(うん、うん、子供らしくて可愛いよ。七つのボールには無反応みたいだけどね)

 そのあとタルクはノートと一緒に入っていたラクガキ帳に鉛筆でミーナの妖しい微笑みの顔を描いて三人で笑い合い、色鉛筆も使ってワンピース姿のミスカを描くと喜んでいた。
 そして最後に父親を含めた四人が笑顔で手を繋いで並んでいる風景を描いたタルク。それを見たミーナとミスカは静かに涙を流していた。

(ぐふっ、まさか私が泣かされるとは思わなかったぜ。タルク、お前はいい男になるぞ)

 そしてその絵を玄関に張り付けて、毎日出掛ける時に見えるようにしたミーナだった。

(ミーナ、お前もなかなかやるな!はぁ、もう面白いやら感動するやらで私は大満足だよ。でもまだ残ってるんだよな。特別枠の天然ゴリ押し女ミーナが‥‥‥)

 次回予告、「女神サクーラのミーナアサシン化計画始動」なんてね。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...