怠惰の神の使徒となり、異世界でのんびりする。筈がなんでこんなに忙しいの?異世界と日本で怠惰の魔法を使って駆け巡る。

七転び早起き

文字の大きさ
35 / 35
サルバルート王国とアズール家族

第33話 今の僕に出来ること(3)

しおりを挟む
 僕は今森の奥へと進んでいる。この手で何かを殺すために‥‥‥

 そして歩くこと10分ほど。森の雰囲気が変わり始めた。それは体に纏わりつく嫌な気配。何かが僕を見ているように感じる。僕は歩きながら深呼吸をして気持ちを落ち着け、いつでも怠惰の防御を発動出来るようにキョロキョロと周りを見るのではなく、視野を大きく広げるように心掛けた。

 実は強固な防御力を誇る結界だが、移動している状態では発動出来ても追尾させる事が出来なかった。もしそれが出来ていれば無敵になれたのにと悔やまれる。だが、今出来ないだけで鍛練を重ねれば可能になると思いたい。

「グウォー!」

 そんな事を考えていると少し離れた場所から威嚇するような咆哮が聞こえてきた。そして何かと草木が擦れる音が徐々に近付いてくる。
 僕は音がする方向に体を向けて身構えた。右手に持つ剣鉈を強く握り締めて。そしてその右手は見てすぐ判るほどに震えていた。

「くそっ!覚悟はしてたつもりなのに体の震えが止まらないや。負けるなよ春馬!」

 そして僕の前に現れたのは身長が僕より頭二つ分高く、分厚い筋肉に包まれた赤い肌をした魔物だ。その魔物はご馳走を見付けたと言わんばかりに醜い笑顔を見せた。

「あれはオーガってヤツじゃないか?この森ってゴブリンしか居ないんじゃなかったの?ラスカルそう言ってたよね?」

 動揺している僕にオーガは手に握るゴツい剣を振りかぶり、そして僕の頭上に鋭く振り下ろした。

「ガキィーン!」「うがっ!」

 僕は咄嗟に出した左腕に纏わりつくようにように結界を張った。そしてオーガの剣を防いだ僕はその勢いに吹き飛ばされ後ろにあった木に体を強くぶつけてしまうのであった。

「ぐはっ!これはキツい。体に纏わせる結界は使い方を間違えると危ないぞ」

 僕はすぐに怠惰の休息を発動して痛みを消す。そして怠惰の防御で僕の周りに半径1メートルのドーム状の結界を作った。

「ふう、取りあえず一息入れて仕切り直しだ。それにしてもあのオーガ、凄い力だな。結界をせずに受け止めてたら腕が無くなってたんじゃないかな?」

 僕は地べたに腰を下ろし魔法の腕輪からスポーツドリンクを取り出して飲んだ。余程緊張していたのだろう。思った以上に喉がカラカラだった。

 目の前に結界に剣を叩き付けるオーガ。とても恐ろしい顔をしている。だが、結界はオーガの力でもビクともしなかった。

「うん、怠惰の防御って凄いね。これをどう上手く使うかで戦況は大きく変わるだろうな。鎧みたいに纏わせて動ければ最強なんだけど」

 僕は左腕を体の前に構えて結界を纏わりつかせる。それは肘から手先まである半透明の筒状のモノ。そしてその腕を左右に振ってみると少しは付いてくるが、何故か筒なのに腕をすり抜けて制御を失いその場に落ちて霧散してしまうのだ。

「僕の意識が結界は固定されているものと思っているからなのか?」

 それから何度もやってみたが結果は同じ。試しに板状のモノを腕の前に出してみたが、僅かな時間で制御を失い地面に落ちて霧散する。
 今の僕がオーガの攻撃に耐える方法は、攻撃が来る方向に地面から伸びた結界の壁を出すしかない。だがこれでは僕も攻撃することが出来ないのだ。

 頭を悩ませている僕の前には未だに結界に剣を叩き付けているオーガが居る。ガンガンと何度も叩き付ける音がうるさくて仕方がない。

「お前ちょっとうるさいよ」

 そう言って僕はオーガをBOX状の結界を発動して閉じ込めた。その結界はオーガの一回り大きいサイズのモノで、閉じ込められたオーガは剣を振ることも出来ず唸るだけになった。
 それを見て僕は思い付く。「これってあの結界に一部だけ小さな穴を開けて剣を突き刺せばいいんじゃね?」と。

 そう思い付いた僕はオーガを囲む結界を一度消し、すかさず鉈剣が通るくらいの横長の細い穴が開いた結界を作り直した。その穴はオーガの背中側に開けてある。
 僕はオーガが結界を破らないかと様子を見て、問題ないと判ってから自分を囲むドーム状の結界を消しオーガの後ろに回り込んだ。

「えーっと‥‥あとはこの剣鉈を穴に突き刺せばいいだけなんだよな。これってマジックショーでよく見る光景だけど、これは本当に死んじゃうんだよね」

 僕は結界に開いている横に細長い穴をしばらくの間見つめていた。因みに横長の細い穴にしたのは鉈剣の刺す位置を調整しやすくする為だ。そして僕は覚悟を決めた。

「お前は人間を襲う敵。だから僕がここでお前に剣を向ける。他の人々が襲われない為に。そして僕が強くなる為に」

 その時になった僕の心は何故か落ち着いていた。そして右手に持つ剣鉈を肘を引いてから勢いよくオーガの胸の部分にあたる位置に突き刺した。鋭く尖った剣鉈の先は、固い筋肉の抵抗を感じながらも奥深くへと入っていく。
 そして剣鉈が刺さると同時にオーガから苦悶の咆哮が聞こえてくる。僕はその突き刺さった剣鉈をじっと見つめていた。

 どれくらい時間が経ったのだろう。気が付くとオーガから生気を感じられなくなっていた。既に事切れているのだろう。僕はゆっくりと剣鉈をオーガの体から引き抜き目の前に掲げて分厚い刃の部分を見た。その刃にはオーガの血が滴っている。僕と同じ赤い血だ。

「うぐっ‥‥‥」

 僕はその場で膝をつき、胃液が出るまで胃の中のモノを全て吐き出した。

(これは辛い‥‥‥あの手に伝わる感触は、多分ずっと慣れる事は無いだろうな)

 それから僕はドーム状の結界を出し少し休憩する事にした。結界の椅子を出すこともせず地べたに座り、残りのスポーツドリンクを飲み干し一息ついた。そして考えを巡らせる。

(今の僕が発動出来る結界の数は何故か強度、大きさ、継続時間に関わらず10が限界だ。多分それが僕の脳が処理、管理する限界値なんだろう。鍛練して伸びると信じ今後に期待だ。
 次は混戦での防御と怪我をした際での咄嗟の治癒を試した方がいいな。痛いのは嫌だけどぶっつけ本番で痛みで体が萎縮して動かなくなるのは大問題だからな)

「はぁ、僕は何をしてるんだろう。平和な日本だったら考えられないよね。でもあの結界で囲って剣鉈で刺す倒し方はどうなんだろう。カッコよくないと言うか非人道的と言うか」

 僕にはヒーロー願望でもあるのか、そんな事を考えながら立ち上がり次の戦いに向けて動き出した。
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

伊予二名
2022.07.26 伊予二名

19話。40過ぎのヒロイン(違います
あ、もしかして既婚者?

2022.07.27 七転び早起き

ヒロイン……ちょっと違うな。

でも桜子さんのラブロマンスはあるかもです。

解除
伊予二名
2022.07.26 伊予二名

18話。取り敢えず包丁は強度的に戦闘向きでは無いので軍用のサバイバルナイフでも送ってあげたいですね。
段ボールのサイズが許すなら日本刀の小太刀か脇差でも。

桜子さん、そんなキャラ濃ゆい人だったの?w

2022.07.27 七転び早起き

コメントありがとうございます。

包丁は横からの衝撃に弱いですからね。

桜子さんですが愉快なキャラとなります。

意外でしたか?(笑)

解除
伊予二名
2022.06.24 伊予二名
ネタバレ含む
2022.06.24 七転び早起き

ぐはっ!さすがにバレますか。

仕方ない。当分死んだままとこう。

なんてね!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。