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ラバニエル王国編
第38話 押し寄せる脅威
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カルビーンお爺さんのお家でテーブルを囲み楽しく話をする私達。本来の目的はウイスキー販売の打ち合わせだが、ダルタンさんの目の事やカルビーンお爺さんの足の怪我、そしてサーシャさんの病気の事など話題が尽きず脱線してばかりである。でもその話の全てはハッピーエンド。だからみんなの笑顔は止まらない。そしてお酒の勢いも止まらなかった。
「ぐはははは!お前まだワシの足の怪我の事でグジグジ悩んでたのか?ワシなんかずっとビッグボアにヤられたと言ってたから本当にビッグボアの仕業だと勘違いしとったわい!」
そうはしゃぐカルビーンお爺さんが手に持つ物は、私が聖女の力『清涼』で雑味と水分を浄化させたエールだ。ウイスキー20年物の小樽はすでに空っぽでカルビーンお爺さんの家に置いていた元チェリー酒小樽のウイスキーも空っぽになっている。因みに50年物はエルフィーさんが頑固としてアイテム袋から出すことは無かった。なのでこれ以上ウイスキーを飲むと酔っ払って話にならないと思い、カルビーンお爺さんにエールの小樽を出してもらったのだ。
「カルビーンさん、勘違いって‥‥‥それはあんまりじゃないですか?」
そう言って項垂れるダルタンさんだが、その顔からは後悔が消えスッキリとしている。そしてカルビーンさん、周りのみんなは気が付いてるよ。少しでも心を軽くしてあげようとワザと勘違いした振りをしてることを。
そして今度は項垂れていたダルタンさんが話し出す。
「カルビーンさん、なんか前より元気になってますね。今から騎士団に戻っても無敵なんじゃないんですか?」
それを聞いたカルビーンお爺さんはニヤリと笑い私の肩をバンバン叩いて喋り出す。(物凄く痛いんですけどー)
「ぐふ、そう見えるか?見えちゃうだろうなぁ。なんせ、この奏嬢ちゃんがチョチョイのチョイでワシの体の悪いところをじぇーんぶ治しちまったからな!だから物置に仕舞ってある大剣を使って明日から城の芝生相手に無双するんじゃ!無敵の庭師見参!なんてな。もう芝生の未来の姿が見えるようじゃ。ダルタン、お前の頭のようにツルツルのな!がはははは」
すると隣でニコニコしていたサーシャさんが優しい目をして酔っ払いカルビーンお爺さんに語り掛けた。
「それじゃあ元気になった私は今から漆黒の両剣を持ってきて、そこの悪酔いお爺さんにその体で味わってもらおうかしら?」
その言葉を聞いたカルビーンお爺さんの顔色は真っ赤から真っ青に変わり、椅子から立ち上がり後ろに行くとすかさず土下座した。
「誠に申し訳ございませんでした」
そんな一幕を見て私は思った。
『こんなに楽しくて幸せな気持ちになれて今日は最高の1日だ!』
そして楽しい夜の時間は過ぎていき、みんな笑顔で帰って行った。そして私も宿を探す予定だったけど、カルビーン夫婦が「泊まっていけ」とその言葉に甘えてもう1日お世話になることにした。そして私は心地よい体の疲れを感じながらベッドに横になった。
(あれ?ウイスキー販売の打ち合わせ‥‥‥‥楽しかったからまぁいいか!)
ーーここは『聖女の森』前の防衛拠点ーー
大きなタープの下でテーブルの上に地図と報告書の束を広げ悩む男とその周りを忙しく動く兵士達が居た。そして森の方から血だらけの兵士が3人走ってくる。そのタープの下で悩む男に向かって。
「カール第2部隊隊長!」
その3人に気が付いた悩む男はカルビーンの1人息子のカールだ。そのカールは落ち着いた表情で周りの兵士に指示を出す。
「おい、トムソン。すぐに治癒魔法士とありったけのポーションを持ってこい!ハルミトン、お前は3人が来た方向に向かって偵察だ!部下を10人連れて行け!まだ生き残りの兵士が居れば人命優先だ。判ったな!」
「「はい!」」
カールは指示を出しながら折り畳みのベッドを3つ準備して、目の前まで来た血だらけの兵士に横になるように命令した。
「任務ご苦労だった。報告は治療の後で構わない。まずはここに横になれ。そして少しだけ寝ろ。これは命令だ」
そのカールの命令に躊躇する3人の兵士。だがもっとも信頼する隊長の命令だと思い、3人は簡易ベッドに横になり死んだように眠りに着いた。そこにトムソンがポーションの瓶が複数入った箱を大事そうに両手で持ち抱え、後ろに治癒魔法士を連れて戻ってきた。
「カール隊長!治癒魔法士を連れて来ました。今治癒魔法を使える者は1人だけです。あとの者はもう魔力がありません!それと保管していたポーションはあとこれだけです。それ以外は各自手持ちの分だけとなります!」
そのトムソンが手に抱えている箱には手のひらに収まる試験管のような瓶がズラリと並んでいる。その数は200ほどだろうか。
そしてトムソンが連れて来た治癒魔法士は、血だらけで横になる3人の兵士の治療を始めた。その治癒魔法は長い詠唱で発現し、淡い光がその兵士を包み込む。すると小さなキズが無くなり大きく深いキズは小さく浅くなった。
それから治癒魔法士は寝ている3人を起こし箱から取り出したポーションを1本ずつ3人に飲ませ、また寝るようにと指示を出す。そして立ち上がりカールの元へと歩き出した。
「カール隊長、私の治癒魔法で大方のキズは治りましたが深いキズは少し残りました。その後にポーションを飲ませたので安静にしていれば1時間程で治ると思います」
それを聞いたカールは「ご苦労だったな」と治癒魔法士を労うと再びテーブルに広げた地図と報告書の束を前にして悩み始めた。
(ここ数日で森から出てくる狂暴種の数が徐々に増えてきている。それとあの森の最奥から流れてくる飛沫が濃く多くなってきている。お陰でポーションを服用している兵士の中にも発病するものが出始めた。
そして森の最奥の調査に行った第1騎士団は偵察に出したあの血だらけで戻ってきた3人の様子からして全滅に近いか最奥過ぎてたどり着かなかったのだろう。このままでは悪くなる一方だ。そろそろ決断すべきか‥‥‥)
そう悩み考えているカールの元に偵察に出ていたハルミトンが部下を連れて戻ってきた。その部下の数は7人。3人少なくなっていた。
「カール隊長、申し訳ありません。部下を3人失いました。それで森の中ですが動き回る狂暴種の数がまた増えていました。それで途中まででこれ以上は無理と判断し戻って来ました。その偵察範囲内には第1騎士団の痕跡は見当たりませんでした。たぶん森の最奥までなんとか行き、そこでなにかあったのかと‥‥‥」
そこまで言って悔しそうに塞ぎ混むハルミトン。そしてカールは決断を下す事にした。
「ハルミトン、悪いが動ける兵士を全員集めろ。今からこの第1防衛拠点を放棄し撤退する。そして第3、第4騎士団が守る第2防衛拠点にて全騎士団をもって狂暴種から守り抜くことにする」
その言葉を聞いたハルミトンは驚愕しカールに問い掛けた。
「そ、それでは森の最奥に行った第1騎士団はどうなるのですか‥‥‥‥」
そのカールはハルミトンの言葉を無視して第2騎士団唯一のドラゴンライダーであるトムソンに命令する。
「トムソン、お前は今から飛竜で王都に戻りダジール女王陛下に現状の報告をし援軍を要請しろ。そしてこれは国を揺るがす一大事だと必ず言え。判ったか!」
「はっ!すぐに王都に報告に向かいます。それまで必ずご無事でいてください。ここでカール隊長を失うのは国の損失です!」
トムソンはなにかを悟っているのか真剣な顔でカールにそう言うと敬礼をし、念を押すかのようにもう一度カールの目を見て頷いてから王都に向かう準備を始めた。
そのカールが再び口を開く。
「この撤退の指揮は副隊長のランブルが取る。任せたぞ、ランブル!そして私は救助隊を編成し森の最奥へと向かう。その救助隊は志願者を募る。人員は10名だ」
カールはそう言って副隊長のランブルを見ると仕方なさそうに頷いていた。そして次に不服そうにしていたハルミトンに向かって言った。
「ハルミトン、救助隊の編成は志願者としてしているが索敵能力が高いお前はどうしても必要だ。悪いが私に付いてきてくれるか?」
その言葉に歓喜し涙するハルミトン。
「もちろんです!すぐに動ける兵士を集め、撤退する人員の編成と救助隊の編成を行います!ランブル副隊長!撤退人員の編成が終わったらあとはお願いします!」
ハルミトンはそう言って準備に向かった。そして私の隣にくるランブル副隊長。
「なあカール、俺達は新兵の時からの付き合いだ。だからお前がこうする事もなんとなく判っていた。あのトムソンもな。絶対に無茶をするなよ。危なくなったら第1騎士団の事は諦めて引き返せ。トムソンも言ってたがお前を失なう事はこの国の損失だ。お前はあのオヤジのようにこの国の最強の男になれる英傑だ。それにサーシャさんに嫁さんも孫も見せずに死んだら、漆黒の両剣で穴だらけにされるぞ」
ランブルはそう言ってカールの肩を強く叩き撤退準備に取り掛る。そしてカールは1人森の奥を睨み付けていた。
(父さん、母さん、このバカ息子にこの国最強と言われた大剣使いの力と両剣使いの巧みな技。その2つの力を貸してくれ!)
こうしてラバニエル王国史上最大の防衛戦が始まった。
「ぐはははは!お前まだワシの足の怪我の事でグジグジ悩んでたのか?ワシなんかずっとビッグボアにヤられたと言ってたから本当にビッグボアの仕業だと勘違いしとったわい!」
そうはしゃぐカルビーンお爺さんが手に持つ物は、私が聖女の力『清涼』で雑味と水分を浄化させたエールだ。ウイスキー20年物の小樽はすでに空っぽでカルビーンお爺さんの家に置いていた元チェリー酒小樽のウイスキーも空っぽになっている。因みに50年物はエルフィーさんが頑固としてアイテム袋から出すことは無かった。なのでこれ以上ウイスキーを飲むと酔っ払って話にならないと思い、カルビーンお爺さんにエールの小樽を出してもらったのだ。
「カルビーンさん、勘違いって‥‥‥それはあんまりじゃないですか?」
そう言って項垂れるダルタンさんだが、その顔からは後悔が消えスッキリとしている。そしてカルビーンさん、周りのみんなは気が付いてるよ。少しでも心を軽くしてあげようとワザと勘違いした振りをしてることを。
そして今度は項垂れていたダルタンさんが話し出す。
「カルビーンさん、なんか前より元気になってますね。今から騎士団に戻っても無敵なんじゃないんですか?」
それを聞いたカルビーンお爺さんはニヤリと笑い私の肩をバンバン叩いて喋り出す。(物凄く痛いんですけどー)
「ぐふ、そう見えるか?見えちゃうだろうなぁ。なんせ、この奏嬢ちゃんがチョチョイのチョイでワシの体の悪いところをじぇーんぶ治しちまったからな!だから物置に仕舞ってある大剣を使って明日から城の芝生相手に無双するんじゃ!無敵の庭師見参!なんてな。もう芝生の未来の姿が見えるようじゃ。ダルタン、お前の頭のようにツルツルのな!がはははは」
すると隣でニコニコしていたサーシャさんが優しい目をして酔っ払いカルビーンお爺さんに語り掛けた。
「それじゃあ元気になった私は今から漆黒の両剣を持ってきて、そこの悪酔いお爺さんにその体で味わってもらおうかしら?」
その言葉を聞いたカルビーンお爺さんの顔色は真っ赤から真っ青に変わり、椅子から立ち上がり後ろに行くとすかさず土下座した。
「誠に申し訳ございませんでした」
そんな一幕を見て私は思った。
『こんなに楽しくて幸せな気持ちになれて今日は最高の1日だ!』
そして楽しい夜の時間は過ぎていき、みんな笑顔で帰って行った。そして私も宿を探す予定だったけど、カルビーン夫婦が「泊まっていけ」とその言葉に甘えてもう1日お世話になることにした。そして私は心地よい体の疲れを感じながらベッドに横になった。
(あれ?ウイスキー販売の打ち合わせ‥‥‥‥楽しかったからまぁいいか!)
ーーここは『聖女の森』前の防衛拠点ーー
大きなタープの下でテーブルの上に地図と報告書の束を広げ悩む男とその周りを忙しく動く兵士達が居た。そして森の方から血だらけの兵士が3人走ってくる。そのタープの下で悩む男に向かって。
「カール第2部隊隊長!」
その3人に気が付いた悩む男はカルビーンの1人息子のカールだ。そのカールは落ち着いた表情で周りの兵士に指示を出す。
「おい、トムソン。すぐに治癒魔法士とありったけのポーションを持ってこい!ハルミトン、お前は3人が来た方向に向かって偵察だ!部下を10人連れて行け!まだ生き残りの兵士が居れば人命優先だ。判ったな!」
「「はい!」」
カールは指示を出しながら折り畳みのベッドを3つ準備して、目の前まで来た血だらけの兵士に横になるように命令した。
「任務ご苦労だった。報告は治療の後で構わない。まずはここに横になれ。そして少しだけ寝ろ。これは命令だ」
そのカールの命令に躊躇する3人の兵士。だがもっとも信頼する隊長の命令だと思い、3人は簡易ベッドに横になり死んだように眠りに着いた。そこにトムソンがポーションの瓶が複数入った箱を大事そうに両手で持ち抱え、後ろに治癒魔法士を連れて戻ってきた。
「カール隊長!治癒魔法士を連れて来ました。今治癒魔法を使える者は1人だけです。あとの者はもう魔力がありません!それと保管していたポーションはあとこれだけです。それ以外は各自手持ちの分だけとなります!」
そのトムソンが手に抱えている箱には手のひらに収まる試験管のような瓶がズラリと並んでいる。その数は200ほどだろうか。
そしてトムソンが連れて来た治癒魔法士は、血だらけで横になる3人の兵士の治療を始めた。その治癒魔法は長い詠唱で発現し、淡い光がその兵士を包み込む。すると小さなキズが無くなり大きく深いキズは小さく浅くなった。
それから治癒魔法士は寝ている3人を起こし箱から取り出したポーションを1本ずつ3人に飲ませ、また寝るようにと指示を出す。そして立ち上がりカールの元へと歩き出した。
「カール隊長、私の治癒魔法で大方のキズは治りましたが深いキズは少し残りました。その後にポーションを飲ませたので安静にしていれば1時間程で治ると思います」
それを聞いたカールは「ご苦労だったな」と治癒魔法士を労うと再びテーブルに広げた地図と報告書の束を前にして悩み始めた。
(ここ数日で森から出てくる狂暴種の数が徐々に増えてきている。それとあの森の最奥から流れてくる飛沫が濃く多くなってきている。お陰でポーションを服用している兵士の中にも発病するものが出始めた。
そして森の最奥の調査に行った第1騎士団は偵察に出したあの血だらけで戻ってきた3人の様子からして全滅に近いか最奥過ぎてたどり着かなかったのだろう。このままでは悪くなる一方だ。そろそろ決断すべきか‥‥‥)
そう悩み考えているカールの元に偵察に出ていたハルミトンが部下を連れて戻ってきた。その部下の数は7人。3人少なくなっていた。
「カール隊長、申し訳ありません。部下を3人失いました。それで森の中ですが動き回る狂暴種の数がまた増えていました。それで途中まででこれ以上は無理と判断し戻って来ました。その偵察範囲内には第1騎士団の痕跡は見当たりませんでした。たぶん森の最奥までなんとか行き、そこでなにかあったのかと‥‥‥」
そこまで言って悔しそうに塞ぎ混むハルミトン。そしてカールは決断を下す事にした。
「ハルミトン、悪いが動ける兵士を全員集めろ。今からこの第1防衛拠点を放棄し撤退する。そして第3、第4騎士団が守る第2防衛拠点にて全騎士団をもって狂暴種から守り抜くことにする」
その言葉を聞いたハルミトンは驚愕しカールに問い掛けた。
「そ、それでは森の最奥に行った第1騎士団はどうなるのですか‥‥‥‥」
そのカールはハルミトンの言葉を無視して第2騎士団唯一のドラゴンライダーであるトムソンに命令する。
「トムソン、お前は今から飛竜で王都に戻りダジール女王陛下に現状の報告をし援軍を要請しろ。そしてこれは国を揺るがす一大事だと必ず言え。判ったか!」
「はっ!すぐに王都に報告に向かいます。それまで必ずご無事でいてください。ここでカール隊長を失うのは国の損失です!」
トムソンはなにかを悟っているのか真剣な顔でカールにそう言うと敬礼をし、念を押すかのようにもう一度カールの目を見て頷いてから王都に向かう準備を始めた。
そのカールが再び口を開く。
「この撤退の指揮は副隊長のランブルが取る。任せたぞ、ランブル!そして私は救助隊を編成し森の最奥へと向かう。その救助隊は志願者を募る。人員は10名だ」
カールはそう言って副隊長のランブルを見ると仕方なさそうに頷いていた。そして次に不服そうにしていたハルミトンに向かって言った。
「ハルミトン、救助隊の編成は志願者としてしているが索敵能力が高いお前はどうしても必要だ。悪いが私に付いてきてくれるか?」
その言葉に歓喜し涙するハルミトン。
「もちろんです!すぐに動ける兵士を集め、撤退する人員の編成と救助隊の編成を行います!ランブル副隊長!撤退人員の編成が終わったらあとはお願いします!」
ハルミトンはそう言って準備に向かった。そして私の隣にくるランブル副隊長。
「なあカール、俺達は新兵の時からの付き合いだ。だからお前がこうする事もなんとなく判っていた。あのトムソンもな。絶対に無茶をするなよ。危なくなったら第1騎士団の事は諦めて引き返せ。トムソンも言ってたがお前を失なう事はこの国の損失だ。お前はあのオヤジのようにこの国の最強の男になれる英傑だ。それにサーシャさんに嫁さんも孫も見せずに死んだら、漆黒の両剣で穴だらけにされるぞ」
ランブルはそう言ってカールの肩を強く叩き撤退準備に取り掛る。そしてカールは1人森の奥を睨み付けていた。
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