結婚前に経験を積むのは悪い事じゃない

祐月なこ

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その1 婚約者の噂

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ウォリス伯爵家の長女セシリアとマクファーレン侯爵家の嫡男クリスが婚約をしたのは2人がまだ8歳と11歳という幼い頃だった。

 領地が隣接して交流があり、共同で営む事業も沢山ある。おまけに父親同士が王都の中央学園の同級生で仲が良い。とくれば自然と子供達を婚約させて更なる関係の強化を図るのは自然の流れだった。


 セシリアには3歳年上の兄ジェフリーがいる。つまりクリスと同い年の兄がいたのだが、セシリアは兄とクリスに大変可愛がられて育った。


 セシリアは5歳の頃にクリスと出会い、ジェフリーと共に互いの領地を行き来し、頻繁に遊んだ。


 2人の兄に可愛がられ、甘え上手なセシリアは自他共に認める妖精のように可憐な娘に育った。ぱっと見は純真無垢そのもので、世の穢れなんて知らなさそうな清らかな雰囲気を醸し出している。

 しかしその内面はごく普通の令嬢で、泣いたり笑ったり怒ったり悲しんだり感情豊かだった。


 この国では初等教育と中等教育は各領地に学校が建設されており、国が支援金を払い教師を派遣し全員が受けることができる仕組みとなっている。

 国の支援金のみで賄われている公立学校は主に平民が通い、支援金と一定の寄付金を支払うことで通うことができる私立の学園は裕福な商人や貴族の子息子女が通っていた。


 そして中等教育を修めた大半の貴族と一部の裕福な商家の子息等は15歳から18歳までの3年間、王都の中央学園へ通う。ここで様々な人脈を作ったり、未来に向けて必要な高等教育を受ける。

 
 セシリアが中等教育を受けている頃、クリスは王都の中央学院に通っていた。長期休暇には領地に戻ってきて頻繁に交流をもち、学園のある時期は手紙のやりとりをしていた。


 クリスが中央学園に通い始めてから、会える頻度が減りセシリアは寂しかった。3歳年上のクリスは思春期になり、ぐんと背が伸びて大人っぽくなった。女の子からも注目され、憧れだけではない恋心をもつ人も沢山いるのではないか、など考えた。


『早く王都の学園に通って、もっとお兄様に会えるようになりたいわ。こちらにはお兄様がいないから寂しいわ』

『俺もだよ。王都にはセシーがいないからつまらないよ。セシーとの未来の為に、今は試練と思って頑張るよ』

『私も。お兄様に釣り合う女性になるために、いっぱい頑張るわね』

『有難う。セシーはどんどん素敵な女性になっていくから、心配だな』

『私だって、お兄様が素敵でカッコイイから心配よ』


 そんな会話や手紙のやり取りを何度もして、クリスはセシリアを甘い目で見つめ、セシリアへの愛を会う度に伝えてくれた。その目の甘さはセシリアが成長するたびに増していき、セシリアのことを妹から完全に女性として見るようになっていた。

 そしてセシリアも、どんどん大人の男性になっていくクリスを次第に意識するようになり、自然と恋心を抱くようになっていた。


 兄からは、クリスは学園の勉強が忙しく女の子とも距離をとって接しているから大丈夫だと教えてもらっていたから、不安もあったがセシリアはクリスを信じる事にした。





 時が経ち、中等教育を修了したセシリアは王都の中央学園に通うため王都のタウンハウスに引っ越した。そして、中央学園を卒業して王宮に文官として出仕することになったクリスと、前より会えるようになると思っていた。


 しかし、セシリアもクリスも平日は学園や仕事があり、同じ王都で暮らしていてもゆっくりと会うことが出来ずにすれ違うことが多かった。

 おまけに、クリスの方は休日にも仕事が入ることがあり2人が会えるのは月に2、3回程度であった。


 セシリアはあどけない少女から少しずつ大人の雰囲気をもつようになり、学園でもその可愛らしさに憧れる子息が沢山いた。おまけに努力家で学業の方も高成績で、学園では才色兼備の高嶺の花となっていた。


 次期侯爵となるクリスは、侯爵位を継ぐまでは王宮に出仕して人脈作りや領地経営に役立ちそうな知識を得るために働いている。そのため、王宮に出仕を始めて早々に社交界デビューを果たした。


 クリスが変わってしまったのは学園を卒業して社交界デビューをしてからだった。

 
 セシリアの学園が始まり、クリスが社交界デビューをして半年が経った頃、セシリアは友人のお茶会に呼ばれていた。次期侯爵夫人となるセシリアも、お茶会を通して人脈作りや貴族のルールを学んでいた。


 その日セシリアは学園で仲良くなった同じ伯爵令嬢のミラ、子爵令嬢のナナリー、公爵令嬢のエリザベスの4人での気軽なお茶会に参加していた。


 いつもと違って少々砕けた雰囲気のお茶会だ。


「セシリア、婚約者さまのお噂はご存知?」

「噂?」


 ミラとナナリーは顔を合わせ、少々困った顔をした。


「あなたを傷つける意図は全く無いと言うことは信じて欲しいの。ただ、セシリアが何も知らないのも、悔しい気がするから…」

「クリスお兄様の、何か悪い噂があるの?」

「落ち着いて聞いてね」


 そう言ってミラが教えてくれた話は、とてもクリス本人の話とは信じがたいものだった。


「クリスお兄様が…浮気?」

「浮気、と言っていいのかしら…。貴族ではよくある“火遊び”だと思うわ」

「?」

「未亡人や後継を産み終わった夫人は、独身の性欲を持て余した貴族令息と関係をよく結ぶのよ」

「ど、どうして?婚約者がいるのに、おかしいわ…」


 セシリアは酷く狼狽えた。あの、可愛い大好きだと言ってくれるクリスが、実はそのような遊びに興じているなど俄に信じられなかった。


「まぁ、利害の一致ってことらしいわ。この国は貴族の務めを果たしたら、お互いの同意があれば自由に愛人や恋人を作れるじゃない?だから、若い独身男性なんて理想の遊び相手よね」

「でも、クリスお兄様に限って、そんな…」


 セシリアは混乱した。政略結婚に近いけど、愛を育んでいると思っていた。妹の様な扱いだったけど、いつしかその瞳にはソレだけじゃない熱もこもっていると感じていた。あれが、演技だったというのだろうか。


「セシリア、ショックなのは分かるけど貴族の男なんて大抵そんなものよ。愛情なんて期待すると馬鹿を見るの。あの人達は笑顔の裏で平気で人を裏切るのよ。セシリア、だから心を預けないで強く持つのよ」

「ミラ、私、どうしたら…?」

「貴族の結婚として割り切るか、セシリアが無理なら婚約解消…かしらね」


 すると、公爵令嬢であるエリザベスが発言した。


「噂だけで判断するのは早計よ。まずは事実確認をした上でセシリアは気持ちに向き合ってごらんなさい」

「でも、…どうやって…」

「そうよね…」


 4人は暫し考え込んだ。夜会などは成人後、つまり18歳になり社交界デビューしてからでないと参加することが出来ないからだ。

 すると、エリザベスが閃く。


「そうだわ。3ヶ月後、お兄様が公爵家うちで夜会を開くの。かなり大規模なものだからあなたの婚約者もきっと呼ばれるわ。その時、ウチでお泊り会をして潜入するわよ!」

「え、大丈夫なの?」

「そうねぇ…、侍女に扮するのはどうかしら?実際には給仕せず、変装して壁の方に控えておくの」

「んー、それならなんとかなるかしら?」


 エリザベスもミラも、ナナリーまで乗り気だ。


「でも、公爵家の夜会で、そんな、浮気なんてするかしら…?」

「分からないわ。でも、セシリアの婚約者の夜会での様子が分かるし、セシリアに見せていない顔が見れるかも知れないわよ」


 セシリアに見せていない裏の顔には興味があった。クリスはいつも甘い顔だが、そうではないときがあるのなら、見てみたいと思った。


「夜会…参加してみるわ」

「そうでないと!それなら、侍女の服などは揃えておくわね。セシリア、どんな結果であれ私たちはあなたを支えるから、頼るのよ」

「うん、有難う…」



 それから夜会までの3ヶ月、休日に時々タウンハウスでお茶をしたり、お洒落なカフェに連れて行ってもらったりと今までと変わらないデートを続けた。クリスは変わらず優しいまま、セシリアとの結婚を待ちわびる発言までしていた。


 これでセシリアのいない所で他の女性と会っているなんて、俄には信じることが出来なかった。それだけ、クリスのセシリアを見つめる視線には甘くて優しい、愛情のようなものが溢れていた。


 
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