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シーズン1-序章

005-訓練

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『おわああああああああああああああああ!!』
「クロノス、出力を弱めてください、逆噴射スラスターを起動して慣性を相殺すれば止まれます」
『悪い!』

クロノスは直ぐに感情を抑制される私と違って自由度が高いようで、パニックになって暴れる。
冷静に指示を飛ばすと、直ぐに逆噴射が行われてクロノスが制止した。

『停止しましたか?』
「はい、こちらの伝達ミスです」
『気を付けてくださいね、目標地点までそのまま進んでください』
「はい」

姿勢を安定させつつ、私たちは宇宙を進む。
果てしなく続く虚空を注視しても、情報精査は働かない。

『綺麗ですね』
『ああ、こんなの初めてだ』

周囲は果てのない星空。
地球では結局見る事の叶わなかった景色。

『よし、オレはこのまま目標地点に行く!』
「目標地点に到達した後は、即座に戦闘訓練に移行します。現在二つの自律型AIの連携は正常ですが、戦闘において何らかのノイズや伝達異常が発生する恐れがあります」
『分かってるよ、でもちょっと厳しくねーか?』
「会話ログに残りたくなければ、余計な発言は控えましょう、クロノス」
『了解!』

目標地点まで、私たちは無言で直行する。
積もる話もあるけれど、戦闘中のログは監視されている。
直接通信じゃなくて口で喋りたいからな。

「目標地点に到達」
『了解、任務のアップデートを行います』

右端の任務表示が変化し、[ダミー標的の撃破 0/10]に変わった。
同時に、前方に見える小惑星帯から無数の光線が飛んできた。

『うわっ!? 何だアレ!?』
「恐らくダミー標的からの自動攻撃です、被弾しないために回避行動を行います。適切な回避ルートを演算、構築します」

視界に映る光線が即座に射線となって表示され、的確な回避のビジョンが浮かぶ。
私はそれをクロノスに送信した。

『この通りに避けりゃいいのか、行くぞ!』
といっても、攻撃は単調なビーム砲撃が主体だ。
回避は大きく横に揺れるだけで事足りる。

「今回、防御ユニットは積んでいませんので、被弾に注意してください」
『了解!』

本来は対ビーム兵器用にエネルギー偏向装置を内部に、物理攻撃対策に特殊突撃盾を左腕に装備しているのだが、何故か今の時点で装備されていない。
他の武装は全部付いてるのに......ん、装備?

「ああっ!!」
『どうしましたか、クラヴィス?』
「兵装の装備を忘れていました! 現在プラズマキャノンのみ装備している状態です」
『何てことを........クロノスは何をしていたのですか!』
「クロノス、兵装のチェックをどうして行わなかったのですか?」
『あー、自分で動けるのに感動して忘れてた』
「..................」

はあ、仕方ない。
プラズマキャノンは射程が短いので、それを前提にしたプランを即座に提案する。
クロノスは黙ってそれを受け入れた。

「射程の長い誘導ミサイルの装備し忘れは厳しいですね」
『悪いって! そうネチネチ言うなよ!』

射程は誘導ミサイル>ライフル>レーザー砲>ロングソード=プラズマキャノンの順だ。
ちなみにロングソードはただの剣じゃなく、ラ○トセーバーのようにエネルギーを刃として纏う事の出来る立派な兵器だ。
元々は突撃艦の衝角として使われていた技術のようだ。
私たちは全速力で小惑星帯に飛び込む。
周囲から、無数の光線が飛んでくる。

「回避してください」
『おう! やってやるぜ!』

ダミー標的は確認したところ、恐らく小型の旋回砲塔。
だから、旋回速度より速く移動すれば逃げ切れる。
とはいえ、このままでは近づけない。

『どーすんだ?』
「.......現在、射線から突破口を計算しています」
『了解だぜ!』

小惑星帯は常に各個の小惑星が微動していて、その射線を計算する必要がある。

『なあ、思ったんだけどよ』
「何ですか?」
『小惑星を盾にして進めばいいんじゃねえの?』
「..................その発想はありませんでした」

クロノスは大きく旋回し、一つの小惑星の裏に回る。
それを掴んで動かして、そのまま前進し始めた。

『意外といけるな、これ』
「小惑星の耐久限界まで残り32秒」
『マジかっ!?』

訓練用の光線なのに、小惑星の表面はもう穴だらけだ。
貫通されるまで、1分もない。

「小惑星破壊と同時に、指定した起動での移動を試みてください」
『了解!』

小惑星が破壊されると同時に、クロノスは回転を加えながら降下し、そのまま慣性を維持して照準を潜り抜ける。
そのままフルスロットルで加速し、一番近いダミーに左腕を向ける。

「プラズマキャノン、エネルギー充填率88%」
『照準固定!』
「発射準備完了」
『発射ァ!』

左腕から放たれた閃光は、宇宙の闇を切り裂いて飛翔し、ダミーの旋回砲塔に突き刺さった。
装甲を突き破り、内側に入り込んだ光弾は、内部で膨張し、そして爆発した。

『やったぜ!』
「! ――――上昇してください!」
『うわああっ!?』

横から飛んできた光線が脚に直撃し、クロノスは弾き飛ばされた。
即座にスラスターを起動して、クロノスは姿勢を立て直す。
そのまま急加速して、小惑星帯に入り込んだ。

「しっかりしてください、クロノス」
『油断はしない方がいいってわけだな.....』

クロノスはそのまま小惑星帯を突っ切る。
せめてフレアくらい欲しいところだけど、生憎積んでいない。

『うおおおおおおおお!』
「そこで旋回してください、現在の並行面から右です」
『了解!』

私はそこで気づいた。
この角度なら、もしかして――――

「座標を送ります、その小惑星を撃ち抜いてください!」
『了解! 照準固定!』
「プラズマキャノン発射準備完了!」
『発射!』

光弾が放たれて、小惑星に直撃、内側から爆散した。
破片が周囲の砲台に襲い掛かり、撃破数が一気に2、3、4、5と増えた。

「あと少しです」
『ああ!』

音速を超え、大分遠くから撃ってきているダミーに接近する。

「回避行動!」
『ああ!』

エネルギーがなくなってきたのか、砲撃が単発的になってくる。
こうなると、残存エネルギーで有利なこっちのものだ。
撃破数が6、7と増える。

『なぁ、このまま行っちゃダメか?』
「いいですけど、被弾は最小限に......」

演算結果など放置して、クロノスは前に飛び出す。
横揺れ運動で砲撃を躱しつつ、まずは一発。
照準ありとはいえそれは外れ、ダミーではなく小惑星を破壊し、ダミーも破片で破損し自爆した。
残り二つ。

『纏めていくぜ!』
「待ってください、もう!」

好き勝手にクロノスがプラズマキャノンを連射するせいで、エネルギーの管理と飛び散る破片の認識処理が大変だ。

『これで終わりだ!』

そして、クロノスが放った二連撃が、同時にダミーへと着弾した。

『お疲れさまでした、これにて訓練は終了です』
「はい」
『終わったかぁ......これでまた囚われの身に逆戻りか』

クロノスがそう呟いた。


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