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シーズン1-序章

056-最後の戦い

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「なんだ!?」

シーレは、咄嗟に叫んだ。
旗艦を中心とする艦隊を襲っていた砲撃が、嘘のように止んだのだ。

「どうなっているのだ?」
「分かりません......敵艦隊、完全に沈黙しました。ただし....艦、戦闘機共に出力を維持しています」
「指令が途絶えたように思えますな.......」

スカーがそう呟く。
彼の視線の先では、シールドに直撃して爆発四散する敵戦闘機があった。

「まさか、ジェシカ大尉が何か行ったのでしょうか?」
「有り得るだろうな」

シーレは顎に手を当てて呟く。
そして直ぐに、指示を飛ばす。

「いつ動き出すか分からん、全体に指令! 突撃し、敵艦隊を殲滅せよ!」
「「「「了解!!!」」」」

旗艦が先鋒を取る形で、突撃を開始する。
敵艦からの応答は一切なく、戦いはもはやシールドを削るだけのものとなった。

「それにしても、何が起きたというのだ?」
「分かりませんな.......中央部へ突入したあの人工知能が何かしたのかもしれません」
「ああ、成程な....中々に骨のあるやつだ」

シーレは腕を組み、何度か頷く。
その時、上部モニターに電源の入る音がした。

「なんだ!?」

シーレが顔を上げると、上部モニターにノイズの混じった映像が映った。

「コロニーからの一方向映像通信です! 優先度は最大、コロニー全体に配信されていると思われます!」
「何の目的で.....いや、待て」

シーレは映像に注視する。
ノイズが徐々に収まり、見覚えのある後姿が映った。

「これは......あの戦闘機体クロノスではないか?!」
「しかし、何故です.....そもそも、何故.........その戦闘機体が二体もいるのですかな?」
「分からん......」

シーレは頭を抱えたのだった。



同時刻。
クロノスとの通信に注視していたジェシカは、モニターの映像を見ていた。

『行くぞ!』
『はい!』

クロノスが左腕を掲げる。
するとそこに、黒い大槌が出現した。
クロノスはそれを両腕で握り、偽クロノスに叩きつけた。

「.....この映像は?」
「分かりません、映像通信のタイトルは空白です」

ジェシカと通信係の会話の間にも、戦闘は続く。
クロノスのミサイルが一斉に放たれ、ハンマーによって衝撃を受けた偽クロノスに全弾直撃する。

「この数字は何でしょうか?」
「分かりませんが、クロノスの攻撃によって減少していますね」

その時、ジェシカたちはモニターに表示された数字に気付く。

「これが0になれば、クロノスが勝利するのではないでしょうか?」
「そう....とは言い切れませんが、恐らくそうでしょう」

二人の目の前で、クロノスが再びハンマーを振り落とし、偽クロノスを地面に叩きつけた。
偽クロノスはプラズマキャノンを展開し、ハンマーを振り下ろした直後のクロノスを狙い撃つ。

「...これは?」
「分からないですが......とにかく、クロノスを応援しましょう」
「全く、意味の分からないことばかり起こるな」

同時刻、様々な場所でそれは配信されていた。
ラウドとハーデンは、中央核の地上でそれを見ていた。
そこらに存在するあらゆるモニターが、同じ光景を映している。

『換装、レールガン!』
『専用オペレーティングシステム解凍』
『撃つぞ!』
『待ってください、3.2秒後に角度を16°上げて発射してください』
『面倒くせぇ......』

クロノスが長い砲身の砲口を上げ、射撃する。
偽クロノスは上昇中の隙を狙われ、加速弾を食らって少し後退する。

「........クラヴィスさんは分かるんですが」
「クロノスは喋るんだねぇ.....それも、あんなに仲良く」
「嫉妬、しちゃいませんか?」
「さあね」

ラウドが画面を見つめる背後で、撃墜された戦闘機が地面に衝突し、そのまま地面を滑って行った。



「ねえ、お母さん....あれ、何?」
「分からないわ.....」

天井が崩壊したショッピングモール内で、子供が母親に尋ねる。
モール全体のモニター、広告、レジスターに到るまで全ての画面を突如占領した映像に、復興のために見回りに来た親子は戸惑うばかりであった。

「でも、とってもかっこいい....よね!」
「そう、かしら......分からないけれど、念のため避難した方がいいかもしれないわ」

その時、映像内でクロノスが偽クロノスを殴りつけ、吹っ飛ばすのが見えた。

「うわぁああ!」
「「「「「「いっけぇええええええ!」」」」」」

その時、モールから何人もの子供の叫び声が聞こえてきた。
クロノスの映像を見て、感嘆の声を上げたのだ。
アニメや映画でしか知ることのない、戦闘を目前にして興奮しない子供がいるだろうか?

「頑張れー!」
「負けんなよ!」
「そこだ! 吹っ飛ばせ!」

気付けば、黙って見ていたその子供も、手を振り上げてクロノスの一挙一動に一喜一憂していた。

「....しょうがないわね」

母親も、それを黙って見つめるのだった。



「今度こそ終わらせるぞ!」
「何を使うのですか?」

クロノスは、レールガンを消した。
クラヴィスが何を使うのかと尋ねると、クロノスは自慢げにこう答えた。

「刀だ!」
「刀.....? 常備しているブレードでいいのでは?」

至極真っ当なクラヴィスの言葉に、クロノスは腕を振り上げて力説する。

「ダメだ! 夢が足りない、夢が!」
「そうですか.......」
「換装、カタナ!」

この世界にも刀はあった。
とある星の英雄が持っていた神刀が複製され、広まっていったのだ。
クロノスの左手に、一振りの巨大な刀が現れる。
ほぼ同時に、偽クロノスも抜剣する。

「最後は剣でケリをつける!」
「分かりました、支援します」
「おう!」

クロノスはスラスターを噴射し、偽クロノスに近づく。
偽クロノスもクロノスに接近し、両者は互いの得物を振る。

「くっ!」
「来ます! 軌道データ送信!」
「うおおおっ!」

クロノスは弾き飛ばされるものの、スラスターを噴射しながら身を捩り、刀を重心に反転する。
そして、偽クロノスの斬撃を回避し、その胴に斬撃を叩き込もうとする。

「弾かれたっ!」
「逆噴射を停止! 距離を取りましょう!」
「ああ!」

クロノスは反動を利用して後ろに下がる。
そこに、追撃をするように偽クロノスが突撃してくる。

「電磁盾を!」
「ああ!」

クロノスは盾を構え、片方の剣を受け止める。

「分離!」
「分離だ!」

盾が分離され、その勢いで一瞬腕が持ちあげられる。
その隙を逃さず、クロノスはその剣を切断した。
偽クロノスは右の剣をクロノスに振りぬこうとするが、

「ミサイルを!」
「おおおっ!」

クロノスの背から放たれたミサイルが、偽クロノスに至近距離から直撃する。
偽クロノスはそれを受け、少し後退する。

「喰らえ!」

クロノスはスラスターを最大噴射し、偽クロノスに肉薄する。
そして、その左腕を斬った。

『左腕破損』
『使用不可』

そんなメッセージが出て、偽クロノスの左手から折れた剣が落ちる。

「次でとどめを刺せるか?」
「62%の確率で可能です」
「了解」

クロノスは刀を下段に構え、突撃の姿勢を取る。
偽クロノスも、右腕の剣を中段に構え、クロノスへの迎撃姿勢を整えた。

「行くぞ!」
「ええ!」

クロノスが最大速度で加速する。
偽クロノスはその身を捨てた動きを予測できなかったようで、同じくスラスターを全開にして突っ込んでくる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

そして、両者は交差する。

「.........................見、事」

そして――――――倒れたのは偽クロノスであった。
偽クロノスは崩壊しながら消滅し、メッセージが空間全体を揺らす。

『WINNER CLAVIS AND CHRONUS!』
『戦闘シミュレーターを終了します』

そして、空間が崩壊を始める。

「それじゃあ、お別れだな」
「.......待ってください」

別れようとするクロノスだったが、クラヴィスは外に出ることを拒否した。

「貴方と一緒に行きます」
「了解!」

そして、クラヴィスはクロノスへと帰還した。
コロニー中では、クロノスの勝利を讃える声で満ちていた。

「........英雄劇かね、この終わり方」
「もしや.......全て、茶番だったのですかな? いや......有り得ませんか」

旗艦の艦橋で、シーレは呆れ果て、スカーは静かに呟いたのであった。
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