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シーズン1-クロトザク戦線

026-ハラス

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カウエッガ採掘拠点を背後に、クロトザク旗艦は戦闘を続けていた。
もっとも、その戦闘は一方的なものだったが。

『何なのだ.....何なのだ一体!』

戦場には、無数のドローンが飛び交い、データリンク中のバンクラバーを目指す巡航ミサイルを撃墜していた。
そして、艦列を乱してまで逃げようとする船には、容赦なくジャンプスパイダーによって沈められていた。
対して、モルドレッドを先頭とするスレイプニル艦隊は、足を止めたまま砲撃もせず砲撃に耐えていた。

「(何だ....? 一体何が目的だ.....?)」

データリンク網は、不正な接続を感知すれば即座に切断される。
それ故、このような末端の基地をハッキングで奪い取っても、何の利益にもなり得ない。
それを知るクライスは、敵の目的を図りかねていた。

『敵艦、後退を開始しました!』
『なんだと!?』

そして。
その時、信じられない報告が舞い込んでくる。
バンクラバーと共に、艦隊が撤退を始めたのである。

『シン司令官、このような行為にはなんの意味があるのですか?』
「ああ、これは「ハラス」と呼ばれる行為でな、何度か短期戦を繰り返すことで、相手が常に警戒を怠れず、周辺の戦力を呼び寄せてくれる事を期待して取る遅滞戦術だ」

シンの意図を測りかねていたオーロラは、それで納得して黙る。
実を言うと、艦隊を殲滅し基地を破壊する程度の戦力なら、Noa-Tunには余裕で用意されている。
何故それをしないのか?
理由は単純だった。

「あの程度の基地でも、こちらが襲ってくる以上は援軍を呼ばざるを得ず、そしてその移動にはコストも時間もかかるからな」

わざと航跡を残して、周辺衛星に基地があるような偽装もしている。
辺境に敵艦を集め、首都周辺のアウトポストを潰しやすくするのだ。

「読んでくるかと思ったが、相手の指揮官は無能みたいだな」
『いえ、あまりに戦術が飛躍的すぎるせいかと。これを実現するには圧倒的なワープ技術が必要です』
「そうかもな」

向こうのワープ技術では、頑張ったところで1秒に1光年進むのが限界だ。
だが、こちらは最も遅い船でも1秒で10光年を移動できる。
技術のレベルが違いすぎるのだろう。

「L3艦を出す必要もないか」

艦船には技術レベルがあり、L1、L2と上がっていく。
現状最高はL5だが、今回の作戦はL2のジャンプスパイダーとバンクラバーだけの参加だ。
L3艦船を出す必要がないのは、こちらとしてもありがたい。

「とはいえ、いつまで誤魔化せるかもわからないな」

工城の完成を急がないといけない。
「強化」モードにも限界はあるからな。

「今後三回の短期襲撃の後、敵艦隊の増援を確認後に、逆方向の基地を潰す。偵察、初期戦略の立案は任せる」
『わかりました』

支援などさせるものか。
理想は、基地殲滅の通告を受けた上層部が艦隊を各基地に分散配置することだ。
雷撃戦に持ち込めばこちらの勝利は確定なので、脆いうえに小さい標的に当てずらい雷撃艦を守れるよう立ち回る必要がある。

「こういうのはあまり好かないけどな...」

ちゃんと地盤を固めている相手と戦いたいものだ。
これじゃあタダの技術パンチで虐めていると言っても過言ではないわけだからな。

『基地の人員は救助しますか?』
「必要ない。死体撃ちするほど悪趣味でもないが、助けてやるほど義理もない」
『了解です、司令官』

俺が今の所助けてやるのは、眼下に広がる惑星の獣人だけだ。
それ以外は皆等しく、俺のNoa-Tunに貢献して死んでくれ。
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