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終章
205-新規雇用の三バカ
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守るべきものを失った王国艦隊だったが、未だカルラプライム軌道上に移動し展開していた。
そこには急遽増設されたアウトポストがあり、続くジント星系への戦力終結・民間人避難の時間稼ぎをしなければいけないのだ。
「はーダル......なんであたしが出なきゃいけないのよう.....帝王様にいっぱい甘えたかったのに! ねー、メメ」
『はい、御嬢様。シン司令官は我々に一層の期待をしております』
「期待じゃなくて~....あたしは番になりたいだけなのにー....」
『では、なれるように誠意努力なされてはいかがですか?』
いつの間にかブリッジに置かれた巨大なクッションの上に寝転び、ズィーヴェンは面倒くさそうに喉を鳴らしていた。
彼女は投薬によってむこう23時間は眠る事が出来ず、期待されている役割はメメントモリの提案にYESと答えるだけである。
シンは元から彼女に期待などしていないが、メメントモリに罪悪感や背徳感と言った余計な感情はない。
常に角が立たないように振舞うだけだ。
『今回は我々のような新規参入指揮官との合同火力演習です、シン司令官に失望されることのない様に努力してください』
「どーせ、あたしの役割なんて....」
メメントモリはズィーヴェンの愚痴を聞き流す。
『あら、あなた方は楽でいいですわね』
その時。
オレブ=ザラクのブリッジに耳心地のいい声が響く。
オレブ=ザラクと並行で飛ぶ、黒い機体――――ビナーに乗るアハトの声だ。
「楽じゃないんだけど」
『アラ、情報収集と敵の無力化があなたに出来て? AIの付属品でしかないのですから、楽ですわよねぇ?』
「あに~?」
通信越しに睨み合う二人。
その通信を聞き、溜息をつく存在が一人いた。
「はぁ......やる気はあるのでしょうか?」
第九指揮官、ノルンである。
黒髪黒目のノーザン・ライツの女性型義体であり、アインスの弟子でもある。
今回のカルラ星系最終決戦において、指揮権を一任されている人物だ。
二人はノルンには絡んでこない。
人工生命体である以上、最終的にはコバルトやメメントモリと同類であるためだ。
『ノルン様、敵艦隊に動きが』
「.....はぁ、仕方ありません。二人とも。」
コバルトはノルンを上位存在として扱う。
頼りにされて困った様子を投影したノルンは、冷え切った声で言う。
それに、ズィーヴェンとアハトはしぶしぶと従う。
『はい』
『....はーい』
「.....十、十一、十二指揮官は純粋なエリートであり、我々使い捨ての出来損ないとは違う存在なのですよ? この任務、彼女たちと比較されていることを少しは自覚して行動しなさい」
『畏まりましたわ、ノルン様』
『ふん、あたしはシン様と番になる運命だから!』
艦隊は動き出す。
多少問題はあるものの、彼女たちは教育を受けた連邦軍の中でのエリートである事に変わりはない。
コバルトが艦隊運用を行う以上、致命的な事は何も起こらない。
『シールドウェーブを展開する事を提案します』
『承認っ!』
艦隊の各所で、シールドを強化するナノウェーブが投下され、ノルンの判断で追加でコンバットウェーブとスピードウェーブが展開される。
『インフォモーフ・リーダー展開!』
ビナーの流線型の機体が変形し、側面から水色に発光する機構が突き出る。
その直後、ビナーは「インフォモーフ・ネットワーク」と呼ばれる領域を周辺宙域半径100万kmに展開し、疑似的な精神ネットワークを構築する。
人間の思考がその空間に流出するものの、それを知覚できるのはインフォモーフ化手術を受け、機体に直接接続されているアハトだけである。
『人の心は複雑怪奇ですわ。けれど......今の私には、理解できる。だからこそ、私は貴方を信じるのです、シン様!』
ビナーの役割は、インフォモーフ・ネットワークを利用した敵作戦の盗聴・情報収集である。
あくまで思考を盗聴できるのはインフォモーフ・ネットワークの範囲内であるため、技術限界に達しているNoa-Tun連邦ではこれ以上のアップグレードには時間が掛かる。
無意識領域に接続されている人間に対して、優位的侵襲精神破壊を行ったりする事も出来るが、今回の場合は範囲内に味方がいるため不可能だ。
ビナーの攻撃手段はそれ以外存在しないため、直接的な戦闘力は低いというわけだ。
『ノルン様、敵の戦闘機編隊が右翼から四編隊分、左翼から六編隊分向かって来ています』
「こちらも艦載機を出しましょう、ユリシーズより艦載機編隊を七編隊、無人艦載機を十二編隊発進させましょう、それから、ホワイトグリッド艦隊はドローンを全機出撃させてください」
『分かりました』
ユリシーズ.....かつては貴重な長物とされていたそれは、今では量産されノルン率いる艦隊にも七隻配備されている。
『ブラッド、ホーン、クロウ、トゥース、およびブルー、グリーン、レッド編隊は直ちに出撃してください』
「行くぞ!」
指令を受けた獣人たちは、一斉に艦載機へと乗り込む。
現在艦載機支援型母艦ユリシーズに積載されている艦載機は軽戦闘機のみであり、甲板に持ち上げられた軽戦闘機「センチネル」は畳まれていた翼を広げ、レールによって滑走路の中央まで運ばれる。
ブラスト・ディフレクターがその背面に展開され、勢いよく飛び出したセンチネルはスラスターを全開にして加速、そのままノルンの乗機である「ネツァク」の周囲を旋回する。
そして、ホワイトグリッド級重戦術巡洋艦艦隊から、無数の機影が飛び出す。
格納庫から飛び出した戦闘型ドローン「アルティメイタム」は、左右の推進器を展開すると、一斉に加速を開始する。
小さい対象に対する大きな攻撃力を発揮するドローンである。
「.....シン様、貴方の目指した理想はここにありますよ」
ノルンはシンの真意を知らない。
それ故に、無人艦隊を見て感極まったように呟いた。
そして、当然のように。
カルラ星系は陥落することとなったのであった。
そこには急遽増設されたアウトポストがあり、続くジント星系への戦力終結・民間人避難の時間稼ぎをしなければいけないのだ。
「はーダル......なんであたしが出なきゃいけないのよう.....帝王様にいっぱい甘えたかったのに! ねー、メメ」
『はい、御嬢様。シン司令官は我々に一層の期待をしております』
「期待じゃなくて~....あたしは番になりたいだけなのにー....」
『では、なれるように誠意努力なされてはいかがですか?』
いつの間にかブリッジに置かれた巨大なクッションの上に寝転び、ズィーヴェンは面倒くさそうに喉を鳴らしていた。
彼女は投薬によってむこう23時間は眠る事が出来ず、期待されている役割はメメントモリの提案にYESと答えるだけである。
シンは元から彼女に期待などしていないが、メメントモリに罪悪感や背徳感と言った余計な感情はない。
常に角が立たないように振舞うだけだ。
『今回は我々のような新規参入指揮官との合同火力演習です、シン司令官に失望されることのない様に努力してください』
「どーせ、あたしの役割なんて....」
メメントモリはズィーヴェンの愚痴を聞き流す。
『あら、あなた方は楽でいいですわね』
その時。
オレブ=ザラクのブリッジに耳心地のいい声が響く。
オレブ=ザラクと並行で飛ぶ、黒い機体――――ビナーに乗るアハトの声だ。
「楽じゃないんだけど」
『アラ、情報収集と敵の無力化があなたに出来て? AIの付属品でしかないのですから、楽ですわよねぇ?』
「あに~?」
通信越しに睨み合う二人。
その通信を聞き、溜息をつく存在が一人いた。
「はぁ......やる気はあるのでしょうか?」
第九指揮官、ノルンである。
黒髪黒目のノーザン・ライツの女性型義体であり、アインスの弟子でもある。
今回のカルラ星系最終決戦において、指揮権を一任されている人物だ。
二人はノルンには絡んでこない。
人工生命体である以上、最終的にはコバルトやメメントモリと同類であるためだ。
『ノルン様、敵艦隊に動きが』
「.....はぁ、仕方ありません。二人とも。」
コバルトはノルンを上位存在として扱う。
頼りにされて困った様子を投影したノルンは、冷え切った声で言う。
それに、ズィーヴェンとアハトはしぶしぶと従う。
『はい』
『....はーい』
「.....十、十一、十二指揮官は純粋なエリートであり、我々使い捨ての出来損ないとは違う存在なのですよ? この任務、彼女たちと比較されていることを少しは自覚して行動しなさい」
『畏まりましたわ、ノルン様』
『ふん、あたしはシン様と番になる運命だから!』
艦隊は動き出す。
多少問題はあるものの、彼女たちは教育を受けた連邦軍の中でのエリートである事に変わりはない。
コバルトが艦隊運用を行う以上、致命的な事は何も起こらない。
『シールドウェーブを展開する事を提案します』
『承認っ!』
艦隊の各所で、シールドを強化するナノウェーブが投下され、ノルンの判断で追加でコンバットウェーブとスピードウェーブが展開される。
『インフォモーフ・リーダー展開!』
ビナーの流線型の機体が変形し、側面から水色に発光する機構が突き出る。
その直後、ビナーは「インフォモーフ・ネットワーク」と呼ばれる領域を周辺宙域半径100万kmに展開し、疑似的な精神ネットワークを構築する。
人間の思考がその空間に流出するものの、それを知覚できるのはインフォモーフ化手術を受け、機体に直接接続されているアハトだけである。
『人の心は複雑怪奇ですわ。けれど......今の私には、理解できる。だからこそ、私は貴方を信じるのです、シン様!』
ビナーの役割は、インフォモーフ・ネットワークを利用した敵作戦の盗聴・情報収集である。
あくまで思考を盗聴できるのはインフォモーフ・ネットワークの範囲内であるため、技術限界に達しているNoa-Tun連邦ではこれ以上のアップグレードには時間が掛かる。
無意識領域に接続されている人間に対して、優位的侵襲精神破壊を行ったりする事も出来るが、今回の場合は範囲内に味方がいるため不可能だ。
ビナーの攻撃手段はそれ以外存在しないため、直接的な戦闘力は低いというわけだ。
『ノルン様、敵の戦闘機編隊が右翼から四編隊分、左翼から六編隊分向かって来ています』
「こちらも艦載機を出しましょう、ユリシーズより艦載機編隊を七編隊、無人艦載機を十二編隊発進させましょう、それから、ホワイトグリッド艦隊はドローンを全機出撃させてください」
『分かりました』
ユリシーズ.....かつては貴重な長物とされていたそれは、今では量産されノルン率いる艦隊にも七隻配備されている。
『ブラッド、ホーン、クロウ、トゥース、およびブルー、グリーン、レッド編隊は直ちに出撃してください』
「行くぞ!」
指令を受けた獣人たちは、一斉に艦載機へと乗り込む。
現在艦載機支援型母艦ユリシーズに積載されている艦載機は軽戦闘機のみであり、甲板に持ち上げられた軽戦闘機「センチネル」は畳まれていた翼を広げ、レールによって滑走路の中央まで運ばれる。
ブラスト・ディフレクターがその背面に展開され、勢いよく飛び出したセンチネルはスラスターを全開にして加速、そのままノルンの乗機である「ネツァク」の周囲を旋回する。
そして、ホワイトグリッド級重戦術巡洋艦艦隊から、無数の機影が飛び出す。
格納庫から飛び出した戦闘型ドローン「アルティメイタム」は、左右の推進器を展開すると、一斉に加速を開始する。
小さい対象に対する大きな攻撃力を発揮するドローンである。
「.....シン様、貴方の目指した理想はここにありますよ」
ノルンはシンの真意を知らない。
それ故に、無人艦隊を見て感極まったように呟いた。
そして、当然のように。
カルラ星系は陥落することとなったのであった。
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