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終章
235-I care for you, yet I crave to be cast away by you...
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数年前。
俺は成長した妹が、段々と俺の手から仕事を奪っていくのを見て、感動していた。
だが同時に、危機感も抱いていた。
「お兄ちゃん、テストの順位、一位だったよ!」
「凄いでしょ、陸上の大会で優勝したよ!」
「陸上はもういいから、剣道で優勝することにしたんだ!」
俺は妹に挫折を味わわせることにした。
俺が散々味わったそれを味わわせることで、妹はより高い位階に羽ばたける。
その才能には挫折が必要だ。
そう思っていたが、妹は一度も失敗しなかった。
それに、
「テレビの取材? 全部蹴ったよ! お兄ちゃんと一緒に過ごす時間がなくなっちゃうもん」
どうでもいい事を気にかけて、輝くチャンスを自らふいにしていた。
俺は背景でしかない。
妹を育てる機械であり、時間が来れば踏み台として役割を終えるはずの機械。
そんな俺に、執着する理由は無い。
「お兄ちゃんはいつも凄いね」
「ああ、そうだな」
「お兄ちゃんなら何でもできるね」
「ああ、そうだな」
俺は最高の兄で居続ける必要があった。
そのためには、削っていいものは全て削った。
睡眠時間、自由時間。
そんなものは不要だった。
俺の人生には価値がない。
だが、妹にとっての「親」でいられるならば、その価値は無限大なのだ。
そんな俺でも、趣味が出来た。
Star System Conquestor、通称「SSC」。
数百万人のプレイヤー人口を持ち、所謂盆栽ゲームと呼ばれる部類のものだ。
船を操り、プレイヤー同士で組み、最終的に同盟に辿り着く。
悪くない、そう思った。
「お兄ちゃん、このアカウント貰ってもいいの?」
「ああ」
「本当に?」
「もう必要ないからな」
俺は妹に前にやっていたゲームの「Star Novas Online(SNO)」のアカウントを託した。
流石に両立は出来なかった。
思えば、他人にとってのゲームと、自分にとってのゲームは、大分毛色が違うものだったように思える。
妹の為に完璧でいなければならなかったが、ゲームの中で俺は完璧ではなかった。
その不完全さを楽しんでいた。
だが、それももう終わった。
Noa-Tunは崩壊し、俺は現実に引き戻された。
「.........」
最早、世界が変わり、Noa-Tunが俺の元に戻ってこようと。
それは変わらない不変の事実だ。
ただ、時が来たのだ。
妹をより高い位階へと引き上げる、無視することはできない不可避の試練。
妹を縛る枷を解き放ち、その才能を遺憾なく発揮できるように、
流歌に.......何の柵もなく幸福になってもらうために。
「来たか」
俺は目を開ける。
ずっと立って待っていただけに、来なかったらどうしようかと思っていた。
戦闘指揮所に行って非戦闘員を殺すのも選択肢にあっただろうが、
「お前は優しいな。そして――――俺はそれが嫌いだった」
「(本当は、その優しさもお前の長所だ)」
俺は部屋の中央に進み出る。
そして、視線を真正面.....流歌に合わせた。
記憶より、少し大きくなったような気がするな。
「.......お兄ちゃん」
「お前にも、頼れる仲間が出来たか」
「(良い事だ、それは人生を輝かせてくれる存在だからな)」
「うん」
「だが、そいつらは皆死んだ」
俺は背後に映像を投影する。
ファイス。
ノルス。
シトリン。
ケイン。
ラビ。
エンテ。
そして、今回戦闘には参加していなかったが、アドアステラの内部で最後まで抵抗した二人。
ソフ。
ハディーマ。
彼等の死体が、そこら中に表示される。
「どうして......ファイスは、人間相手に負ける程弱くないはず.....」
「インプラントだよ、流歌」
インプラントを満載した、サイバネティクスマシマシのアインスに、ファイスは直接殴り殺されたのだ。
他の指揮官も、インプラントとドリップによって最大限強化されている。
「まあ、副作用も酷いんだがな.....」
「お兄ちゃんは、どうして.....どうしてそんな酷いことを、部下に強制するの?」
「強制?」
強制ではない。
「俺が最初に手術を行ったからな、皆しぶしぶ応じてくれたさ」
「.....ッ!?」
俺はもう、ノーマルな人間体ではない。
副作用で廃人になるレベルのインプラントを身体に盛り込み、流歌との最終決戦に臨んでいる。
後の事は考えなくていい。
今、この瞬間が重要なのだ。
「俺は....俺は、流歌。お前を殺す。」
「(嘘だ。だけどな.....)」
「どうして? 私は、お兄ちゃんのためならなんだって捨てられるよ! お兄ちゃんさえ居てくれれば....だから、そんな事言わないでよ!」
「その甘さは、俺の失敗だった。お前の次に期待する」
「(流歌、お前に代わりはいない)」
嘘をつきながら、俺は脳波操作でとあるプログラムを起動する。
「お願い、何が悪かったの!? 悪い所があれば、何でも言ってよ、お兄ちゃんっ!!」
「説明しても、お前には分からない。分かるはずがない」
「何でもわかるよ! お兄ちゃんのためだったら、宇宙の謎だって解明できる!」
「........」
会話は一方通行。
だが、俺の心は決まっている。
「話し合いは無駄だ、結果が全てを物語る」
「どうして....」
俺の背後に、音を立てて何かが着地する。
俺は伸ばされた「手」に乗り、その中へと入る。
直ぐにコンソールが起動し、呆然とする流歌の姿が映し出される。
『お兄ちゃん!! 新輝お兄ちゃん!!』
「さようなら、流歌。お前は最悪の妹だったよ」
「(さようなら、流歌。俺はお前の結果に満足だ)」
俺は機体に神経接続を試み、それが成功するのを確認した。
『私、戦うよ』
「死ね。無意味に死ね」
『メインフレーム、戦闘システムに移行します』
オーロラの声とともに、俺の乗機、ケテルが起動した。
勢いのまま、俺は流歌へと襲い掛かった。
俺は成長した妹が、段々と俺の手から仕事を奪っていくのを見て、感動していた。
だが同時に、危機感も抱いていた。
「お兄ちゃん、テストの順位、一位だったよ!」
「凄いでしょ、陸上の大会で優勝したよ!」
「陸上はもういいから、剣道で優勝することにしたんだ!」
俺は妹に挫折を味わわせることにした。
俺が散々味わったそれを味わわせることで、妹はより高い位階に羽ばたける。
その才能には挫折が必要だ。
そう思っていたが、妹は一度も失敗しなかった。
それに、
「テレビの取材? 全部蹴ったよ! お兄ちゃんと一緒に過ごす時間がなくなっちゃうもん」
どうでもいい事を気にかけて、輝くチャンスを自らふいにしていた。
俺は背景でしかない。
妹を育てる機械であり、時間が来れば踏み台として役割を終えるはずの機械。
そんな俺に、執着する理由は無い。
「お兄ちゃんはいつも凄いね」
「ああ、そうだな」
「お兄ちゃんなら何でもできるね」
「ああ、そうだな」
俺は最高の兄で居続ける必要があった。
そのためには、削っていいものは全て削った。
睡眠時間、自由時間。
そんなものは不要だった。
俺の人生には価値がない。
だが、妹にとっての「親」でいられるならば、その価値は無限大なのだ。
そんな俺でも、趣味が出来た。
Star System Conquestor、通称「SSC」。
数百万人のプレイヤー人口を持ち、所謂盆栽ゲームと呼ばれる部類のものだ。
船を操り、プレイヤー同士で組み、最終的に同盟に辿り着く。
悪くない、そう思った。
「お兄ちゃん、このアカウント貰ってもいいの?」
「ああ」
「本当に?」
「もう必要ないからな」
俺は妹に前にやっていたゲームの「Star Novas Online(SNO)」のアカウントを託した。
流石に両立は出来なかった。
思えば、他人にとってのゲームと、自分にとってのゲームは、大分毛色が違うものだったように思える。
妹の為に完璧でいなければならなかったが、ゲームの中で俺は完璧ではなかった。
その不完全さを楽しんでいた。
だが、それももう終わった。
Noa-Tunは崩壊し、俺は現実に引き戻された。
「.........」
最早、世界が変わり、Noa-Tunが俺の元に戻ってこようと。
それは変わらない不変の事実だ。
ただ、時が来たのだ。
妹をより高い位階へと引き上げる、無視することはできない不可避の試練。
妹を縛る枷を解き放ち、その才能を遺憾なく発揮できるように、
流歌に.......何の柵もなく幸福になってもらうために。
「来たか」
俺は目を開ける。
ずっと立って待っていただけに、来なかったらどうしようかと思っていた。
戦闘指揮所に行って非戦闘員を殺すのも選択肢にあっただろうが、
「お前は優しいな。そして――――俺はそれが嫌いだった」
「(本当は、その優しさもお前の長所だ)」
俺は部屋の中央に進み出る。
そして、視線を真正面.....流歌に合わせた。
記憶より、少し大きくなったような気がするな。
「.......お兄ちゃん」
「お前にも、頼れる仲間が出来たか」
「(良い事だ、それは人生を輝かせてくれる存在だからな)」
「うん」
「だが、そいつらは皆死んだ」
俺は背後に映像を投影する。
ファイス。
ノルス。
シトリン。
ケイン。
ラビ。
エンテ。
そして、今回戦闘には参加していなかったが、アドアステラの内部で最後まで抵抗した二人。
ソフ。
ハディーマ。
彼等の死体が、そこら中に表示される。
「どうして......ファイスは、人間相手に負ける程弱くないはず.....」
「インプラントだよ、流歌」
インプラントを満載した、サイバネティクスマシマシのアインスに、ファイスは直接殴り殺されたのだ。
他の指揮官も、インプラントとドリップによって最大限強化されている。
「まあ、副作用も酷いんだがな.....」
「お兄ちゃんは、どうして.....どうしてそんな酷いことを、部下に強制するの?」
「強制?」
強制ではない。
「俺が最初に手術を行ったからな、皆しぶしぶ応じてくれたさ」
「.....ッ!?」
俺はもう、ノーマルな人間体ではない。
副作用で廃人になるレベルのインプラントを身体に盛り込み、流歌との最終決戦に臨んでいる。
後の事は考えなくていい。
今、この瞬間が重要なのだ。
「俺は....俺は、流歌。お前を殺す。」
「(嘘だ。だけどな.....)」
「どうして? 私は、お兄ちゃんのためならなんだって捨てられるよ! お兄ちゃんさえ居てくれれば....だから、そんな事言わないでよ!」
「その甘さは、俺の失敗だった。お前の次に期待する」
「(流歌、お前に代わりはいない)」
嘘をつきながら、俺は脳波操作でとあるプログラムを起動する。
「お願い、何が悪かったの!? 悪い所があれば、何でも言ってよ、お兄ちゃんっ!!」
「説明しても、お前には分からない。分かるはずがない」
「何でもわかるよ! お兄ちゃんのためだったら、宇宙の謎だって解明できる!」
「........」
会話は一方通行。
だが、俺の心は決まっている。
「話し合いは無駄だ、結果が全てを物語る」
「どうして....」
俺の背後に、音を立てて何かが着地する。
俺は伸ばされた「手」に乗り、その中へと入る。
直ぐにコンソールが起動し、呆然とする流歌の姿が映し出される。
『お兄ちゃん!! 新輝お兄ちゃん!!』
「さようなら、流歌。お前は最悪の妹だったよ」
「(さようなら、流歌。俺はお前の結果に満足だ)」
俺は機体に神経接続を試み、それが成功するのを確認した。
『私、戦うよ』
「死ね。無意味に死ね」
『メインフレーム、戦闘システムに移行します』
オーロラの声とともに、俺の乗機、ケテルが起動した。
勢いのまま、俺は流歌へと襲い掛かった。
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