36 / 41
036-砕け散った自尊心を拾って
しおりを挟む
『ナユタって奴、強くね?』
『ミユキが防戦一方だったのに...』
『パトリック王子も反則行為をしてたんだ、ミユキが勝てなくて当たり前だ』
『それを真っ向から打ち破っちまうナユタ、カッケー! 俺は前からすごい奴だと思ってたんだ』
『嘘おっしゃい、新入生よ』
流れていくのは、学内ネットの自由掲示板であった。
貴族は基本的に下品さを嫌い閲覧しないものの、暗い部屋でそれを眺めている男がいた。
パトリックである。
「なぜ、なぜ、なぜ、なぜ」
その口からは、声が漏れていた。
彼は今、無期限の謹慎を受けていた。
貴族専用のネットから遮断され、庶民用の掲示板を見るしかないのだ。
昨日まで、自分が無敵だと信じて疑わなかった彼は、人生で初めての挫折に屈したのである。
「何故だ! うわぁあああっ!」
パトリックは、ベッドサイドにあった花瓶を叩き落とす。
宇宙では貴重なセラミックの花瓶は、カーペットに落ちた瞬間に縁が地面に直撃し、音を立ててその場所が欠ける。
それを追いかけたパトリックは、花瓶を両手で持ち上げ、また床に叩き付ける。
生けられていた白い花が散り、花瓶が砕け散った。
「うぇええええん、母上!」
パトリックは泣き喚く。
幼い頃から、そうすれば母親がやってきて、自分の障害を排除してくれたからだ。
だが、誰も救ってくれはしない。
「くそ、くそ、くそ、くそ、ぎゃああああああ!」
床をめちゃくちゃに殴りつけていたパトリックは、花瓶の破片で指を切り叫ぶ。
庶民なら指を舐めるが、パトリックにはどうすれば良いか分からない。
パトリックには継承権第一位という絶対的な地位があり、それに必要な知識以外は何も身につけてはいなかったからだ。
「わ、私、私が何を、何をした!」
パトリックは咆哮する。
自分がやったことが悪行ではないと本気で信じている、純粋な蒼い瞳で。
「こ、この私の! 求婚を断るなど、ご、言語道断だったのではないか!」
血が流れ出るという生命の危機に体が過剰に反応し、パトリックは血まみれになって床を転がり、走馬灯のように流れる自分の行いを俯瞰していた。
「そうだ、ジェインも...ルーカスだって...私に賛同した! あ、あの雌豚が全ていけないのだ!」
正当化を繰り返すパトリック。
彼を慈しむ者も、蔑む者もこの部屋にはいない。
「だいいち...何がズルだというのか! ぐ、軍用のKFAを使う事が!」
明確にはバドックⅢ-Ωは軍用ではあるが、正式採用されず少数のみが生産されたものである。
先代の王のコレクションであったそれを、勝手に持ち出したのはパトリックである。
「そうだ...そもそも私は圧倒していた...ズルなどではなく、私の実力の筈だ」
では何故負けたのか?
そちらの思考に傾いた時、気に食わない虫けらの顔が、パトリックの脳裏に浮かんだ。
「があぁあああああああああああああ!! そうだ、そうだ、そうだそうだそうだ! あのクソガキィだぁ!」
自分を貶めたのは誰か。
圧倒していて、実力だけで優っていた自分をズルして倒したのは誰か。
パトリックの妄想は止まることを知らない。
そして、彼の中で物語が出来上がっていく。
「おお...私は何と哀れなのだ。全てあのナユラ...ナルタだったか...? とにかくあのガキの企てた、王子である私を蹴落とすための罠だったのだ! アハハハハハ!フハハハハハーッ! ククククク、イヒヒヒヒヒ!」
妄想でナユタを悪者にし、精神の均衡を保つ彼だったが...
哀れなことに、彼の頭脳では、虫けら一匹の名前を覚えることにも苦労していた。
「そうと決まれば...」
彼は謹慎が終わるまで大人しくしている事に決めた。
暇を潰す手段はすでに確保している。
ナユタに対して、憎悪を募らせ、ありもしない悪の大王としての経歴を積み上げ、許せぬ怨敵であるナユタを抹殺するための策を練る。
暗い部屋で、ブツブツと呟き続けるパトリックの心境を知る者は誰もいない。
いつしか血は止まり、固まり黒ずんでいた。
それを気に留めるほど、流した者の余裕はないのだが。
『ミユキが防戦一方だったのに...』
『パトリック王子も反則行為をしてたんだ、ミユキが勝てなくて当たり前だ』
『それを真っ向から打ち破っちまうナユタ、カッケー! 俺は前からすごい奴だと思ってたんだ』
『嘘おっしゃい、新入生よ』
流れていくのは、学内ネットの自由掲示板であった。
貴族は基本的に下品さを嫌い閲覧しないものの、暗い部屋でそれを眺めている男がいた。
パトリックである。
「なぜ、なぜ、なぜ、なぜ」
その口からは、声が漏れていた。
彼は今、無期限の謹慎を受けていた。
貴族専用のネットから遮断され、庶民用の掲示板を見るしかないのだ。
昨日まで、自分が無敵だと信じて疑わなかった彼は、人生で初めての挫折に屈したのである。
「何故だ! うわぁあああっ!」
パトリックは、ベッドサイドにあった花瓶を叩き落とす。
宇宙では貴重なセラミックの花瓶は、カーペットに落ちた瞬間に縁が地面に直撃し、音を立ててその場所が欠ける。
それを追いかけたパトリックは、花瓶を両手で持ち上げ、また床に叩き付ける。
生けられていた白い花が散り、花瓶が砕け散った。
「うぇええええん、母上!」
パトリックは泣き喚く。
幼い頃から、そうすれば母親がやってきて、自分の障害を排除してくれたからだ。
だが、誰も救ってくれはしない。
「くそ、くそ、くそ、くそ、ぎゃああああああ!」
床をめちゃくちゃに殴りつけていたパトリックは、花瓶の破片で指を切り叫ぶ。
庶民なら指を舐めるが、パトリックにはどうすれば良いか分からない。
パトリックには継承権第一位という絶対的な地位があり、それに必要な知識以外は何も身につけてはいなかったからだ。
「わ、私、私が何を、何をした!」
パトリックは咆哮する。
自分がやったことが悪行ではないと本気で信じている、純粋な蒼い瞳で。
「こ、この私の! 求婚を断るなど、ご、言語道断だったのではないか!」
血が流れ出るという生命の危機に体が過剰に反応し、パトリックは血まみれになって床を転がり、走馬灯のように流れる自分の行いを俯瞰していた。
「そうだ、ジェインも...ルーカスだって...私に賛同した! あ、あの雌豚が全ていけないのだ!」
正当化を繰り返すパトリック。
彼を慈しむ者も、蔑む者もこの部屋にはいない。
「だいいち...何がズルだというのか! ぐ、軍用のKFAを使う事が!」
明確にはバドックⅢ-Ωは軍用ではあるが、正式採用されず少数のみが生産されたものである。
先代の王のコレクションであったそれを、勝手に持ち出したのはパトリックである。
「そうだ...そもそも私は圧倒していた...ズルなどではなく、私の実力の筈だ」
では何故負けたのか?
そちらの思考に傾いた時、気に食わない虫けらの顔が、パトリックの脳裏に浮かんだ。
「があぁあああああああああああああ!! そうだ、そうだ、そうだそうだそうだ! あのクソガキィだぁ!」
自分を貶めたのは誰か。
圧倒していて、実力だけで優っていた自分をズルして倒したのは誰か。
パトリックの妄想は止まることを知らない。
そして、彼の中で物語が出来上がっていく。
「おお...私は何と哀れなのだ。全てあのナユラ...ナルタだったか...? とにかくあのガキの企てた、王子である私を蹴落とすための罠だったのだ! アハハハハハ!フハハハハハーッ! ククククク、イヒヒヒヒヒ!」
妄想でナユタを悪者にし、精神の均衡を保つ彼だったが...
哀れなことに、彼の頭脳では、虫けら一匹の名前を覚えることにも苦労していた。
「そうと決まれば...」
彼は謹慎が終わるまで大人しくしている事に決めた。
暇を潰す手段はすでに確保している。
ナユタに対して、憎悪を募らせ、ありもしない悪の大王としての経歴を積み上げ、許せぬ怨敵であるナユタを抹殺するための策を練る。
暗い部屋で、ブツブツと呟き続けるパトリックの心境を知る者は誰もいない。
いつしか血は止まり、固まり黒ずんでいた。
それを気に留めるほど、流した者の余裕はないのだが。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる