異世界の宇宙に転移しましたが、お兄ちゃんのいない宇宙には住めないので、お兄ちゃんを探す事にしました!〜男装ブラコン少女の宇宙冒険記〜

黴男

文字の大きさ
38 / 272
シーズン1-ブライトプライム編

038-慈悲と勇気

しおりを挟む
ヤベエ。
アルゴの頭の中は、それで占められていた。
三千万MSCの修理費を稼ぐため、安い船で高い依頼ばかり受けていたのかあだになったと。

『避けるのが上手いな!』
「そりゃ....どうも」

アルゴの船は、追跡船四隻の砲撃を躱しながら飛んでいた。
ワープドライブが故障してワープできなくなったアルゴの船は、このまま逃げきれなければ掴まる運命にあった。
右エンジンの調子が悪く、整備不良による異常が起きていると思われた。

「お前ら、慈悲ってもんはねえのかよ!?」
『悪いなァ、それならさっき売っちまったぜ!
『ぎゃはははは!!』

アルゴの船にはシールドが無く、海賊の持つ火力であれば一瞬でハチの巣にされている。
だが、アルゴも伊達ではなく、持ち前の操縦技術で回避を続けていた。

『それで、いくらで売れたか聞きたいかよ?』
『企業秘密だけどな!』

海賊たちは余裕そうに通信を垂れ流す。
だが、その射撃が止むことはない。
アルゴの船は一撃でも喰らえば気密が保てなくなり、ジリ貧がさらに加速してしまう。

『俺はちょーっと、思うんだがよォ、お前はもう少し勇気を買ったほうがいいぞ』
『逃げてばかりじゃつまらないからなぁ!』
「(調子いいことばっかりいいやって...)」

アルゴに向かって放たれたミサイルを、二門のガトリング砲が撃墜する。
自動追尾なので照準の必要はないが、実体弾であるために尽きればおしまいだ。
現在の速度ではミサイルを振り切れない。

「クソっ!」

アルゴは急旋回し、海賊たちの船の頭上を通り過ぎようとする。
だが、それを見た海賊のリーダーは笑った。

『バカめ! 網を放て!』

海賊艦から放たれたミサイルが、旋回で速度の落ちたアルゴの船に迫る。

「くそぉ!!」

アルゴはそれを撃墜しようとするが、直後ミサイルが爆ぜ、中から大量のボールが飛び出した。
そのボールはアルゴの船の船体装甲を貫く......ことはせず、アルゴの船を覆う。
直後、ボール同士がエネルギーの網を形成し、重力でその場に固定される。

「しまった!」
『袋のネズミ、だな?』
『買った勇気が粗悪品だったみたいだな!』
『死ね』

砲塔がアルゴの船を向き、アルゴが死を覚悟したその時。
海賊を、電磁嵐が襲った。

『な、なんだ!? くそ、センサーがロックできない...!』
『ちょっとお聞きしたいのだが』

混乱する通信に、聞きなれない声が混じる。
直後、海賊のレーダー機器に艦影が映った。

『慈悲を売って勇気を買いたいのだが、どこで売買しているのかな?』
「カル!」
『な、なんだお前は!』
「カル・クロカワ...しがない傭兵だよ」

通信に、マスクをつけた人影が映った。
海賊たちはその異様な出で立ちに一瞬硬直するが、すぐに笑い出した。

『ぶわははははははは! なんだその変な仮面は!』
『顔に傷でもあるのかよ? 情けねえなぁ、そういうのは見せるもんだぜ!』

海賊艦から先程の網が放たれる。
それは通常通りの働きをして、アドアステラを包囲する。

『ホラ、動けねぇだろう?』
『かっちょいい船だな、落とすのが勿体無いぜ...』

海賊艦による砲撃が始まるが、アドアステラのシールドは無事だ。
そして...

『船を褒めてくれてありがとう、仮面の件は不問にしてあげよう』

アドアステラが衝撃波を放ち、周囲のボールを一斉に無力化する。
同時に、砲塔が一斉に静止している船を狙い撃つ。
シールドなど一瞬で剥げ、その船は高出力のレーザーによって機関部に被弾、爆発轟沈した。

『お、親分! たすけ――――』
『テメエ...!』

海賊艦は一斉に動き出し、三隻でアドアステラを囲む。
だが、アドアステラの姿は消え去り、少し遠くに出現する。

『逃すか!』
『別に誰も、逃げるなどとは言っていないだろう?』

アドアステラのMSDが起動し、アドアステラは亜光速で海賊たちに迫る。
すれ違うその一瞬に、カルは砲撃を置いた・・・

『では、アデュー』
『うわあああああっ――――』

また一隻が沈む。
リーダーはその時点で、負けを確信し逃げようとする。
だが、アドアステラにワープ妨害を掛けられ、機関に異常をきたした。

『逃げるな、海賊よ。殺す側なら、殺される覚悟は常にしておかなければな』

ファイスとアリアに奇妙な目で見られながら、カルは幸福の絶頂にいた。
お兄ちゃんの台詞をそっくりそのまま相手に叩きつけてやれたと。
直後にアドアステラからスマートミサイルが放たれ、フラグメント弾頭によりシールドを削り取る。

『い、嫌だ! 待て、死にたくない!』
『悪いが』

砲塔がそれぞれ二隻を射角に入れる。

『俺は売る慈悲もないんでな、アデュー』
『クソ、クソォォォォ!!』

爆散する海賊艦を尻目に、カルは通信を繋ぐ。

『大丈夫か、アルゴ』
『あ、ああ...助かったぜ...』

アルゴは頭を掻いて、ため息を吐いた。
彼の船は故障箇所が多く、長くは航行できない。

『悪いが、お前の船に乗せてくれないか…? この船はもうダメだ』
『構わないが、その船はどうする?』
『私物は…しょうがないとして積荷は…その、ちょっとヤバいんだ。依頼料は払うから!』
『……仕方ないな』

ヤバい組織に絡まれてそうだけど、その分報酬は美味しそうだ。
こいつと折半すればいい、とカルは判断したのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...