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第一章:素敵な出会い、それは狂った妖刀でした

014:伯爵家の令嬢、その名は……

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 必殺の『奥義・太刀魚』でプをほふった流は、流石に疲労困憊でその場に崩れ落ちる。
 両手は熱を帯び、しばらく使い物になりそうも無かった。

 首すら動かすのも億劫だったが、斬り落としたプの首が、もしかしたら生えて来るかもと思い、観察眼と気配察知で確認するが生体反応は無く、弱点も表示されない。
 やがて話す位は体力が戻り一安心した流は、今だ呆然としているクッコロさんに話しかける。

「やぁ、騎士様。無事で何よりだったよ」

 さっきまでは緊迫していたので容姿を見るのが適当だったが、女騎士を改めて見ると年齢は流とそう変わらないように見える。
 正に容姿端麗と言った感じで、太陽に照らされたまるで黄金のような綺麗な金髪をハーフアップにまとめ、その髪を引き立たせる様な青い瞳で、とても美しい白い肌の娘だった。
 
 状況が良く分かってない女騎士は放心していたが、死体となったプを見ると、自分は助かったのだと理解する。

「あ、ありがとう。まさかあの姿勢からどうやったか分からないけど、ゴブリン酋長を倒すなんて……」

 やっと実感が湧いたのか、女騎士は次第にテンションが上がって来る。

「ううん、凄いなんてものじゃないわ!! 一人でこの集落を殲滅したんでしょ!? とんでもない偉業よ! ゴブリンくらいだったら、それなりの使い手が数人も居たら殲滅出来たでしょうけど、酋長よ! あの酋長が居たのよ!! 酋滅級は間違いないわ! いえ、一人で倒したんだから、酋滅級++は確実よ!!」

 言っている意味が良く分からないが、クッコロさんは大興奮で流へ拳を強く握りアピールする。

「そ、そうか。良く分からんが良かったな?」
「何を言っているのよ! あなたの事よ! あのままなら大規模な拠点を作られてもおかしくなかったのよ? それにあなたは何処の町の冒険者なの? どう、ウチの家に雇われない? 絶対後悔させないわ!」
「その前にお前は何処のどいつ様なんですかね?」
「失礼な物言いね、まぁ命の恩人だし許してあげるわ。私はクコロー伯爵家の次女、セリアよ!」

 そう騎士の娘セリアは言うと、腰に両手を当てて胸を張る。

「マジでクッコロさんかよ。異世界テンプレもここまで来ると驚かねーぞ……って言うか、クコローが名前じゃないのか? 俺が知っている貴族の常識では、クコローが『名』で、セリアが『姓』なんだが?」
「え、そうなの? この国や周辺国では苗字が先になって、名前は後になるのが普通ね」
「異界言語理解の悪意を感じるぞ……」

 疲労困憊の流は今のが精一杯のツッコミだったが、セリアはどこ吹く風だった。

「俺は古廻流って言うんだ、古廻が性で流が名前な。流って呼んでくれ」
「コマワリ・ナガレ? 性があるって事は貴族か、町や村の長かしら?」
「いや、俺は異世界から……と言うか、違う国から来た骨董品をこよなく愛でるただの庶民さ」
「イセカイ? 聞いた事が無い国ね。それに庶民はこんな事出来ないわよ、まあいいわ。これからよろしくね、ナガレ! 私の事はセリアって呼んでね」

 セリアはそう言うと、大輪の花が咲いたかのような笑顔で微笑んでいた。

 普通の男なら目を奪われ、そして一目惚れするのは確実な程に、可憐で品のある笑顔だったが……。
 しかし流は骨董しか興味が無く、その魅力が分からない心底残念な漢であった。

「それより何でお前はこんな所に居たんだ? 俺がここに来たのもお前が連れ去られてるのを見たからなんだが」
「お前じゃなくてセ・リ・ア」
「あ、ああ。すまないセリア。それで?」

 するとセリアの表情が夜に萎む花のように消沈する。

「私を見つけてくれて……そうだったのね、重ねてお礼を言うわ。もしあなたが来てくれなかったら、私はあの獣どもの苗床として、壊れるまで奴らの子供を産んでいたでしょうね。そして最後は……」

 セリアは焚火の方に落ちている、人の一部だった物を一瞥する。

「なるほどな、そこもテンプレって訳か。異世界やばすぎだろう。でもセリアは一人でこんな所で何をしてたんだ?」

「一人じゃなかったわ。護衛の騎士五名と一緒に、ここの付近まで探索に来たのよ。この辺りで最近若い女ばかり連れ去られ、男は惨殺されているって聞いてね。その犯人はすぐに検討が付いたわ。でもゴブリンの集落が見つからず、仕方なく一時撤退しようとしたら、ゴブリンドッグ三匹とリーダー含むゴブリン五体。さらに酋長にまでに襲われたの。ドッグは二匹倒したけど、あっという間に護衛達が倒されてね……私一人が生き残ったの」

 流はその話を聞いて驚く、まさかゴブリンだったとは思わず、しかも犬はゴブリンドックと言うらしい。
 そう言えばあの犬の顔は、どちらかと言えば人に近い人面犬のようだったと思い出し、気持ち悪さがこみあげて来る。

「それは災難だったな……まぁ、俺としてはセリア一人でも助ける事が出来て良かったよ」
「ありがとう、本当に感謝しているわ。まさかこんな浅い場所に酋長がいるなんて思ってもみなかったから」

 プとの闘いの後を見回しながら、辺りを見るうちに流は思い出す。

「そう言えば小屋の中に居る人の気配はまだあるようだが、中の人達は無事なのか?」
「ええ、一応は無事ね。奇跡的にあなたが来てくれたから、まだ犯された感じはしないし、多分連れてこられたばかりじゃないかしら? 前の苗床だった人は……食べられた直後みたいだしね」
「なんとも胸糞が悪い話だな。緑の小人……いや、ゴブリンは見つけ次第殲滅確定だな」
「ええ、そうして貰えると助かるわ。アイツ等は――女の怨敵よ!!」
 
 セリアは怒りを目に宿したまま、ゴブリンが食べ残した誰かの左手をそっと持ち上げる。

「貴女達の無念はナガレが晴らしてくれたよ。だから安心して旅立ってね……」

 セリアはそう言うと焚火の中へ残った手を放り込み、傍にあった薪を沢山くべて犠牲者に黙祷する。
 流もセリアの背後から娘だったであろう左手が、積み上げられる薪で見えなくなるまで見つめ、その後無事に天へ行けるように方合掌をし黙祷を捧げた。

「セリアはこれからどうするんだ? 俺はしばらく動けそうもないからここに居る」
「私は多分隣の小屋に武器もあるし、ここから少し離れた場所に馬も居るから町まで行って応援を呼んで来るわ。そう言えばゴブリンは全部で何匹倒したの?」
「えっと、初めに二匹とゴブドッグが一匹。それにここに来て、プを含めて十一匹だから合計十四匹かな」
「本当に凄いわね……あらためて聞いても冗談にしか思えないわ」

 流はそんなものかと首をひねる、確かに中ボスとプは別格だったが、ゴブリンは雑魚だったのだから。
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