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第六章:商いをする漢

216:物騒な三馬鹿

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 メリサが買って来た果実水はヤシの実ジュースの甘味を強くした感じで、濃厚でまるでシェイクのようだった。
 
 そんな面白い喉越しを楽しみながら流はふとメイドを見ると、チンピラ達に掃除を手伝わせていた。
 ――無論あの男は気絶したまま転がっている。

「時にナガレ。今でもスパイスとしては驚異的な輸入量だが、その……どこから仕入れているんだ? 先日ああは言ったが、何となく気になったのでな。無論答えなくてもいいぞ?」

 バーツは聞きにくそうに流に言う。
 その話がいずれあるだろう、いや、今までなかった方が不自然な程バーツは知らないふりをしてくれていたのは分かる。
 だからこそ答えは用意してあった。

「それはアレですね」

 そう言うと流は空を指す。

「空?」
「空と言うより、空間魔術です」
「……ふむ」
「え、ナガレ様、魔術とは一体?」
「ここだけの話だが、俺の家の者が空間と空間を繋ぐ、魔法のようなものを使えるんだよ」
「なる程な、それでお前の故郷から品を輸送していると?」
「ええ、その通りです。ただその魔術を行使するにあたり、色々制約があるので、そこをクリアすればもう少し輸送も可能となると思いますね」

 バーツは思う、やはり「日ノ本」から取り寄せているのだと。

「凄いですね! そんな魔法があるのですか!?」
「まぁ魔法では無いが、それに似たようなものだな」
「なるほど、得心した。メリサ、分かっていると思うが……」
「はい、他言は一切しません」
「うむ。ナガレ、貴重な話を聞かせてくれて感謝する」
「いやいや、大した情報ではないですがね。では二人とも、早急に帰って確認して来ますので、今日の所は失礼します。あ、バーツさん、それにメリサ。助けに来てくれてありがとうございます、あのまま知らずにアノ男まで大けが負わせたらまた面倒な事になっていたかも知れなかったからね」
「こっちこそ遅くなってすまなかったな、じゃあ早急に検討してくれ」
「ナガレ様、気を付けて帰って下さいね」
「ああ、ではまた!」

 流はメイド達が帰館用意を済ませた販売車へと向かう。
 それに乗り込むと、バーツ達に手を振って去って行った。

「さて……どうなるか」
「きっとナガレ様なら大丈夫ですよ」
「ああ、そうだったな。あいつなら問題あるまい。よし、では俺達も戻るぞ! 全員馬車へ乗れ!」
「「「はい!」」」

 バーツは客席で揺られながら、窓の外を見る。
 そこには何時もより高く立ち昇る入道雲が、トエトリーに大きく影を落としていた。


◇◇◇


 流は幽霊屋敷へ戻ると、使用人達への挨拶もそこそこに執務室へと入る。
 扉が開くと全員が帰館の挨拶をする。そこには既に骨董屋さん組三人と執事達が待っていた。

「お? 全員揃っているとは流石だな」
「お帰りなさいなさいませ。メイド達が古廻様が急いでいるとの報告がありましたもので」
「少し前に下で言ったばかりなのだが……。まあいい、今さらだったな」

 呆れたように感心すると、本題へと入る。

「さて、大問題が発生した」
「なる程、ではこの街を滅ぼしましょう」
「フム。愚妹は何を言っているのですかな!」
「壱:せやぞ! アホか愚妹め」
「失言でした、そうでしたね……」

「「「国を滅ぼしましょう!!」」」

「お前らは何を言っているんだ!! どうしてそうなる!?」
「え、古廻様への狼藉ろうぜきは滅ぼすのが正義かと?」
「フム。ですな、ですな!」
「壱:首謀者は鼻から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたるさかい」

 過剰なまでの反応に流は無論、三大悪魔もドン引きしていた。

「まったく……その気持ちは嬉しいが、ちょっと落ち着け!」
「は!? 私とした事がつい……」
「フム。申し訳も無く」
「壱:すんまへん、熱くなりすぎました」
「はぁ~、困った三馬鹿だよ。で、その問題なんだが――」

 先程あった事と、先日の事を全員に話して聞かせる。

「――そんな感じで面倒な事になった訳だ」
「「「やっぱり国を滅ぼしましょう、特に王都を千回灰燼かいじんに!!」」」
「だからやめーい!! どうしてそう物騒な思考なんだ、お前らは……」

 滅ぼすループに入りそうだったのを見かねて、セバスが流へと助け船を出す。

「お館様、すると今後の対策として何かお考えが?」
「流石セバス、良い質問だ! どこかの三馬鹿とは違うな、ウンウン」
「ぐぐぐ、セバス」
「フムゥゥゥ」
「壱:くッ。セバスめ! 僕の次にやりおるわい」

 三人は無念の表情(一名は落書きのような顔)を浮かべ、流の話の続きを待つ。

「異超門の通常物品の最大通行量って、俺の力に関係あるんだよな?」
「はい、多分そうなります。力ある道具に関しては、骨董屋さんに置いてある愚物共の許可が必要となりますが、通常の物品に関しては未知数な所があります。ただ、古廻様の予想が多分正しく思います」
「やはりそうか……。そこで方針を変更して、これからダンジョンへと向かう!!」

 その言葉に驚く面々。

「そ、それはお待ちください! 確かにダンジョンへはいずれ、おいで頂きたく思いますが、今はまだ……」
「フム。妹が言いにくそうなので私が代わりに。僭越ながら申し上げます。今はまだ古廻様のお力が足りぬ故、雷蔵様がおいでになってから向かうのがよろしいかと愚考します」
「壱:せやで。こんな事を言いたくは無いんやが、まだ古廻はんは修行不足やさかい」

 流も自分の未熟さには気が付いてた、確かにここまでは「強者」として運があった。
 しかしやはり「運」なのだ。プの時も、巨滅兵の時も、先生との時も、オルドラ大使の時も、ラミアの時も、実力でねじ伏せたのでは無く、色々な状況が流に有利な風に傾き、その結果勝てただけだと、誰よりも一番痛感していた。
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