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第七章:新たな力を求めるもの
282:それぞれの別れ
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「流よ……感謝する」
「親父殿、目覚めたのか」
「ああ。お前に斬られ命が尽きる前に、神の慈悲でそうなるようになっていた。今は痛みも無く僅かな時間だが話せよう。美琴はどうなった?」
美琴は悲恋から抜け出すと、姿が元に戻った父の下へ駆けつける。
「父上……お陰で美琴は呪縛から解放されました。今は悲恋の怨念も消え、私の意識も以前より時間がかからずに、間違いなく覚醒すると思います」
「そう、か……。お前には数百年もの長きに渡り迷惑をかけた、そしてこれからも試練の旅が待っているだろう。だが今度は孤独ではない。お前には最良の伴侶がおるのだからな」
「は、伴侶だなんて!? 恥ずかしいです……」
「くくくっ、あの美琴がこんな顔をするとはな。まったく馬鹿な夢を追いかけたものだ……。こんなに大事で愛おしい娘がすぐそこにいたと言うのにな」
「ぐすっ……ぢぢうぇ……」
「美琴や泣くでない、この愚かな父を笑顔でおくってくれ」
「あ゛い゛!!」
美琴は泣き笑いの顔で典膳の顔に触れる。そして最後の時が来る。
「どうやらここまでのようだ……。二人共世話になった、そして未来での旅が良きものになるように心から願う…………さらばだ」
そう最後に言い残し、典膳は実に安らかな表情でこの世を去る。
その生涯は御物と言う遥か天上を目指し、生き方を誤り修羅の道を歩む。だが最後に神の奇跡に救われ、一度は恨まれた娘と和解し、その生涯を終えた。
「父上……刀照宮美琴は貴方の娘として、幽霊だけど強く生きて行く事を誓います。どうか安らかにお眠りください」
「親父殿、約束は必ず守ろう。どうか安らかに眠ってくれ」
その後、事の顛末を伝えるため、外で待つ静音へ元へと行く。
流の顔を見た瞬間、全てを悟ったかのように頷く静音。その後静かに話し始めた。
「そうですか……あの人も本望でしょう。ありがとうございました」
そう流へと伝えると、一筋の涙をながす。その美琴に似た美しい瞳は、どこまでも高い青い月を見上げるのだった。
すでにこうなる事が分かっていた静音は、双牙と共に棺桶を用意してあった。
その夜のうちに墓地へ埋葬を済ませる手はずが整っていたらしく、その始末は分家の身内のみで行い、そのまま典膳は埋葬された。
やがて夜が明け、いよいよ別れの時が来る。
「美琴ちゃん、未来でも元気でね。あの世から応援するわ」
「もぅ、母上までそんな事を……。でもありがとうございます! 今日までお世話になりました、兄上達には会えなかったけど、よろしくお伝えください」
「ええ伝えとくわ。流様、美琴ちゃんをお願いしますね。少々抜けている所がありますが、心根はとても優しい子なので」
「はい、お任せください。貴女にも必ず約束を守ると誓いましょう」
どこかで「ちょっとー! 私は抜けてなんてないです!」と声がしたきがするが、心霊現象なのだろうか? 昼間から不気味だ。
静音は、その流の返事にとても満足げに三度頷く。そしてゆっくりと流を上から下まで、ゆっくりと見つめる。
「それにしても流様……本当に見れば見る程、お姿が変わられましたね」
「ははは……いきなり訳の分からない存在に変えられてしまって困っていますよ。まぁ、向こうへ戻れば元に戻る方法も分かるかも知れませんが」
「そうですか……。では美琴ちゃん、これでお別れです。未来で存分に人生を謳歌して、これまでの分を取り戻すのですよ?」
「はい、母上もどうかご壮健で」
静音は「ありがとう」と言うと、美琴を抱きしめる。
そして「さようなら私の愛しい娘」と言うと大粒の涙を流し、しばらくの間、娘を強く抱きしめる。
それに美琴は肩を振るわせ泣きながら、しっかりと抱き返して母の温もりを忘れまいとしているようだった。
そこへ双牙が池の石橋を渡りやって来る。
「奥様、準備が整いましてございます」
「……そうですか。じゃあ行きましょうか」
四人は手入れされた見事な庭園を歩く。流はその途中にある池で、赤が多めの錦鯉達を愛でるのも最後だと思うと寂しくなる。
そんな寂しさを紛らわすように、お気に入りの「秀吉」を探すと、あちらも流に気が付いたのか寄って来るのが見えた。
「じゃあな秀吉、お前も達者で泳げよ」
「秀吉様ですか? あの関白だった?」
「ええ、そうなんですよ。そこの金色の鯉の頭にある顔がそっくりです」
「未来の方は色々とご存じなのですね。秀吉様はこんなお顔でしたのねぇ」
そんな話をしながら、四人は双牙と流が作った小屋の前に来る。
双牙が小屋の扉を開けると、中にある時空石が緑色に発光していた。
「これは!? 流よ、お前が言っていた通り本当に光りおったな……」
「ああ。俺も半信半疑だったが、この石を鑑定眼で見た時に分かった情報の一つさ」
「神の力、か。ほんに凄いお力よのぉ……」
ちらりと双牙は静音と美琴を見る。二人は別れを惜しみ、抱擁し合って泣いていた。
それを確認してから、まだ少し時間があると思った双牙は、流へと注意を促す。
「流よ、お前のその姿は半人半妖と言ったところだ。基本的には人に仇なす存在と呼ばれる側になってしまった。しかし力は振るう者次第で善にも悪にもなる、お前は間違えないと思うが、決して力に溺れる事の無いようにな」
「分かった、その言葉を肝に銘じ、生涯忘れない事にするよ」
「うむうむ、お前なら大丈夫じゃろう。古廻……いや、鍵鈴の未来は頼んだぞ」
「お任せください。ご先祖様たちの無念は、俺がきっと晴らしてみせましょう!」
そう双牙に告げると、彼は満足気に何度も頷く。
そして美琴達も別れを済ませ、流の下へとやって来た。
流と美琴は互いに目を見つめ、どちらともなく手を握る。そのまま時空石の中央まで進むと、円形に敷かれている石畳の中心部分から、徐々に発光が強くなってくる。
「なるほど、ここで帰還を念じればいいのか……」
「流様……私は不安です……」
「大丈夫、きっと戻れるさ」
美琴は流の手を〝ぎゅっ〟と握ると、静音へ顔を向ける。それを静音はしっかりと見つめ、先程とは違い凛とした表情で娘たちを見つめるのだった。
「親父殿、目覚めたのか」
「ああ。お前に斬られ命が尽きる前に、神の慈悲でそうなるようになっていた。今は痛みも無く僅かな時間だが話せよう。美琴はどうなった?」
美琴は悲恋から抜け出すと、姿が元に戻った父の下へ駆けつける。
「父上……お陰で美琴は呪縛から解放されました。今は悲恋の怨念も消え、私の意識も以前より時間がかからずに、間違いなく覚醒すると思います」
「そう、か……。お前には数百年もの長きに渡り迷惑をかけた、そしてこれからも試練の旅が待っているだろう。だが今度は孤独ではない。お前には最良の伴侶がおるのだからな」
「は、伴侶だなんて!? 恥ずかしいです……」
「くくくっ、あの美琴がこんな顔をするとはな。まったく馬鹿な夢を追いかけたものだ……。こんなに大事で愛おしい娘がすぐそこにいたと言うのにな」
「ぐすっ……ぢぢうぇ……」
「美琴や泣くでない、この愚かな父を笑顔でおくってくれ」
「あ゛い゛!!」
美琴は泣き笑いの顔で典膳の顔に触れる。そして最後の時が来る。
「どうやらここまでのようだ……。二人共世話になった、そして未来での旅が良きものになるように心から願う…………さらばだ」
そう最後に言い残し、典膳は実に安らかな表情でこの世を去る。
その生涯は御物と言う遥か天上を目指し、生き方を誤り修羅の道を歩む。だが最後に神の奇跡に救われ、一度は恨まれた娘と和解し、その生涯を終えた。
「父上……刀照宮美琴は貴方の娘として、幽霊だけど強く生きて行く事を誓います。どうか安らかにお眠りください」
「親父殿、約束は必ず守ろう。どうか安らかに眠ってくれ」
その後、事の顛末を伝えるため、外で待つ静音へ元へと行く。
流の顔を見た瞬間、全てを悟ったかのように頷く静音。その後静かに話し始めた。
「そうですか……あの人も本望でしょう。ありがとうございました」
そう流へと伝えると、一筋の涙をながす。その美琴に似た美しい瞳は、どこまでも高い青い月を見上げるのだった。
すでにこうなる事が分かっていた静音は、双牙と共に棺桶を用意してあった。
その夜のうちに墓地へ埋葬を済ませる手はずが整っていたらしく、その始末は分家の身内のみで行い、そのまま典膳は埋葬された。
やがて夜が明け、いよいよ別れの時が来る。
「美琴ちゃん、未来でも元気でね。あの世から応援するわ」
「もぅ、母上までそんな事を……。でもありがとうございます! 今日までお世話になりました、兄上達には会えなかったけど、よろしくお伝えください」
「ええ伝えとくわ。流様、美琴ちゃんをお願いしますね。少々抜けている所がありますが、心根はとても優しい子なので」
「はい、お任せください。貴女にも必ず約束を守ると誓いましょう」
どこかで「ちょっとー! 私は抜けてなんてないです!」と声がしたきがするが、心霊現象なのだろうか? 昼間から不気味だ。
静音は、その流の返事にとても満足げに三度頷く。そしてゆっくりと流を上から下まで、ゆっくりと見つめる。
「それにしても流様……本当に見れば見る程、お姿が変わられましたね」
「ははは……いきなり訳の分からない存在に変えられてしまって困っていますよ。まぁ、向こうへ戻れば元に戻る方法も分かるかも知れませんが」
「そうですか……。では美琴ちゃん、これでお別れです。未来で存分に人生を謳歌して、これまでの分を取り戻すのですよ?」
「はい、母上もどうかご壮健で」
静音は「ありがとう」と言うと、美琴を抱きしめる。
そして「さようなら私の愛しい娘」と言うと大粒の涙を流し、しばらくの間、娘を強く抱きしめる。
それに美琴は肩を振るわせ泣きながら、しっかりと抱き返して母の温もりを忘れまいとしているようだった。
そこへ双牙が池の石橋を渡りやって来る。
「奥様、準備が整いましてございます」
「……そうですか。じゃあ行きましょうか」
四人は手入れされた見事な庭園を歩く。流はその途中にある池で、赤が多めの錦鯉達を愛でるのも最後だと思うと寂しくなる。
そんな寂しさを紛らわすように、お気に入りの「秀吉」を探すと、あちらも流に気が付いたのか寄って来るのが見えた。
「じゃあな秀吉、お前も達者で泳げよ」
「秀吉様ですか? あの関白だった?」
「ええ、そうなんですよ。そこの金色の鯉の頭にある顔がそっくりです」
「未来の方は色々とご存じなのですね。秀吉様はこんなお顔でしたのねぇ」
そんな話をしながら、四人は双牙と流が作った小屋の前に来る。
双牙が小屋の扉を開けると、中にある時空石が緑色に発光していた。
「これは!? 流よ、お前が言っていた通り本当に光りおったな……」
「ああ。俺も半信半疑だったが、この石を鑑定眼で見た時に分かった情報の一つさ」
「神の力、か。ほんに凄いお力よのぉ……」
ちらりと双牙は静音と美琴を見る。二人は別れを惜しみ、抱擁し合って泣いていた。
それを確認してから、まだ少し時間があると思った双牙は、流へと注意を促す。
「流よ、お前のその姿は半人半妖と言ったところだ。基本的には人に仇なす存在と呼ばれる側になってしまった。しかし力は振るう者次第で善にも悪にもなる、お前は間違えないと思うが、決して力に溺れる事の無いようにな」
「分かった、その言葉を肝に銘じ、生涯忘れない事にするよ」
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そう双牙に告げると、彼は満足気に何度も頷く。
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流と美琴は互いに目を見つめ、どちらともなく手を握る。そのまま時空石の中央まで進むと、円形に敷かれている石畳の中心部分から、徐々に発光が強くなってくる。
「なるほど、ここで帰還を念じればいいのか……」
「流様……私は不安です……」
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