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第八章:塔の管理者達と、新たな敵
319:過去からの遺物
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「ふ~む、感動の再会を邪魔するとはまったく無粋な。大体なんですか三割とは……全額出しても難しいと言うのが分からないのですかねぇ? だからアナタは小物なのですよ」
今まで黙って見ていた商人の男がそう呟く。ふとそちらを見ると、口の周りを品よく囲み、アゴ下まで伸びた黒ひげを撫でながら、呆れたようにアルレアン子爵を見ていた。
「それでその余裕の商人さんとしては……お前が黒幕か?」
「ふ~む。これはこれは、お初にお目にかかりますな。わたくしは……まぁ今更ですな。ここで商いをしております、アルマーク商会のトエトリー支部長で、エスポワールと申します。以後、お見知りおきを」
そう言うとエスポワールは慇懃に頭を下げる。それを黙ってみている流はどうも様子がおかしい。
(なんだ……コイツ……いつの間にメリサの隣に来たんだ!? 今まで逆方向にいたろう? しかもちょっと目を離した隙に、一体どうやって来やがった?)
「ふ~む、どうされましたかな?」
「……いや、体型のわりには随分と俊敏な商人と思っただけさ」
「はっはっは! よく言われますね。時に……古廻様どうでしょうか、今度はあんな小物と違い、本物の取引をいたしませんか? 無論、あんなバカな条件とは違い、同じ商人として自信を持てる内容となっております。いかがでございましょうか?」
瞬間「ゾっ」とした。美琴やワン太郎が警戒していたものの正体が分かった。そう分かってしまった。
まずは耳でそれを認識し、つぎはそこから来る違和感。それらを総合すると――。
「お前……なぜ日本語を話せる?」
「ふ~む、世界を相手に商う、商人なれば当然の嗜みかと?」
「……質問を変えよう。どうして『俺が日本人』と分かった?」
エスポワールは濁った目を更に濁らせ、実に気色の悪い笑みを浮かべ答える。
「ハハハ。これはしてやられましたかな? そうですなぁ……強いて言えばですが、アナタ様を知っている……と、言う事でいかがでございますか?」
「ほぅ、俺は異世界に知り合いは、最近までいなかったはずだが?」
「そうでございましょう。我らもまさかコチラへのこのこおいで下さるとは、夢にも思いませなんだ」
「……なるほど。で、オマエらは何が目的だ?」
その質問にエスポワールは、我が意を得たりとばかりに歓喜して答える。
「そう! 正にそれがお話したかった事です!! もうスパイスはどうでもよろしい。お好きになされて結構です。そこでご提案なのですが、我らの庇護下にはいり、この国……いえ、世界を一緒に掌握いたしませぬか? 報酬はこの国全てと、国民を奴隷として好きにできる権利。無論、王族も含めてです」
「商売のしすぎで頭が腐ったのか? たかが一商家風情が、国をどうこう出来るとでも?」
「ハッハッハ! それこそ、日ノ本の言葉を借りれば『井の中の蛙大海を知らず』と言ったところですかな」
そんな事まで知っているのかと内心驚くが、顔には出さずその前にあった言葉「日ノ本」と言う言葉に反応する。
「日ノ本ねぇ……随分と古風な呼び名じゃないか。いつそれを知った?」
「ふ~む、これはいけませんな。口を滑らせてしまいましたかな。と、言っても別に隠すようなことではありませぬゆえ、お答えいたします。これは以前会ったことある武士から伝わった事でございます」
「武士だと……? まさか数百年前にココへ来た奴らか?」
「ふ~む、左様にてございます。その時に貴方様、古廻様の事を知った……と言うわけでございますれば」
そう言うと、エスポワールは腰の巾着に手を入れると、中から一振りの短刀が出てくる。どやらあの巾着もアイテムバッグの類らしい。
「これを見たことがございますか? そう、ココ。この部分でございます」
「……ッ!? なぜオマエが古廻の家紋を知ってる!!」
「ぷッ!? ぶあ~っはっはっはっは!! やっぱり、そう! やはり貴方様でございましたか!! お待ちしておりましたよ、古廻……いや、鍵鈴様!!」
流は確信した。コイツは確実に自分の、そして古廻の敵であると。
ざわめく妖力が背筋をつたい、妖人になりそうになるのをギリギリ抑えながら、流は冷静に商人の男、エスポワールへと問う。
「……オマエは一体何者だ?」
「ふ~む、ご存じないのは当然ですな。まぁ、その答えは別の機会に……と言うことで」
エスポワールはそう言うと、あの小物……アルレアン子爵がいる方向へと視線を向ける。
見れば内出血した紫の汚い肉団子のようになった男が、何やら装置の前で操作をしているようだった。
「ぐっぞヴぁああああッ!! ごうなったヴぁ、この水塔ごどブッ殺してやヴ!!」
そうアルレアン子爵が叫びながら、装置に右手を置く。
「お、お待ち下さい管理官!! それは増水弁です! それを発動したらこの水塔の給水機能はおろか、水圧で水塔が崩壊します!!」
「ぢっだ事ガアアアアアアアア!!」
流やワン太郎が動き出そうとしたが、時すでに遅かった。
アルレアン子爵が装置の上に置いた手に魔力を込め、何かの認証が完了したと空間に出た次の瞬間、水塔が〝ゴゴゴゴ〟と鈍い音を響かせながら揺れる。
直後、足元が抜けるのではないかと言う振動が発生し、下層が破壊される轟音が水塔内部に衝撃波のように反響するのだった。
今まで黙って見ていた商人の男がそう呟く。ふとそちらを見ると、口の周りを品よく囲み、アゴ下まで伸びた黒ひげを撫でながら、呆れたようにアルレアン子爵を見ていた。
「それでその余裕の商人さんとしては……お前が黒幕か?」
「ふ~む。これはこれは、お初にお目にかかりますな。わたくしは……まぁ今更ですな。ここで商いをしております、アルマーク商会のトエトリー支部長で、エスポワールと申します。以後、お見知りおきを」
そう言うとエスポワールは慇懃に頭を下げる。それを黙ってみている流はどうも様子がおかしい。
(なんだ……コイツ……いつの間にメリサの隣に来たんだ!? 今まで逆方向にいたろう? しかもちょっと目を離した隙に、一体どうやって来やがった?)
「ふ~む、どうされましたかな?」
「……いや、体型のわりには随分と俊敏な商人と思っただけさ」
「はっはっは! よく言われますね。時に……古廻様どうでしょうか、今度はあんな小物と違い、本物の取引をいたしませんか? 無論、あんなバカな条件とは違い、同じ商人として自信を持てる内容となっております。いかがでございましょうか?」
瞬間「ゾっ」とした。美琴やワン太郎が警戒していたものの正体が分かった。そう分かってしまった。
まずは耳でそれを認識し、つぎはそこから来る違和感。それらを総合すると――。
「お前……なぜ日本語を話せる?」
「ふ~む、世界を相手に商う、商人なれば当然の嗜みかと?」
「……質問を変えよう。どうして『俺が日本人』と分かった?」
エスポワールは濁った目を更に濁らせ、実に気色の悪い笑みを浮かべ答える。
「ハハハ。これはしてやられましたかな? そうですなぁ……強いて言えばですが、アナタ様を知っている……と、言う事でいかがでございますか?」
「ほぅ、俺は異世界に知り合いは、最近までいなかったはずだが?」
「そうでございましょう。我らもまさかコチラへのこのこおいで下さるとは、夢にも思いませなんだ」
「……なるほど。で、オマエらは何が目的だ?」
その質問にエスポワールは、我が意を得たりとばかりに歓喜して答える。
「そう! 正にそれがお話したかった事です!! もうスパイスはどうでもよろしい。お好きになされて結構です。そこでご提案なのですが、我らの庇護下にはいり、この国……いえ、世界を一緒に掌握いたしませぬか? 報酬はこの国全てと、国民を奴隷として好きにできる権利。無論、王族も含めてです」
「商売のしすぎで頭が腐ったのか? たかが一商家風情が、国をどうこう出来るとでも?」
「ハッハッハ! それこそ、日ノ本の言葉を借りれば『井の中の蛙大海を知らず』と言ったところですかな」
そんな事まで知っているのかと内心驚くが、顔には出さずその前にあった言葉「日ノ本」と言う言葉に反応する。
「日ノ本ねぇ……随分と古風な呼び名じゃないか。いつそれを知った?」
「ふ~む、これはいけませんな。口を滑らせてしまいましたかな。と、言っても別に隠すようなことではありませぬゆえ、お答えいたします。これは以前会ったことある武士から伝わった事でございます」
「武士だと……? まさか数百年前にココへ来た奴らか?」
「ふ~む、左様にてございます。その時に貴方様、古廻様の事を知った……と言うわけでございますれば」
そう言うと、エスポワールは腰の巾着に手を入れると、中から一振りの短刀が出てくる。どやらあの巾着もアイテムバッグの類らしい。
「これを見たことがございますか? そう、ココ。この部分でございます」
「……ッ!? なぜオマエが古廻の家紋を知ってる!!」
「ぷッ!? ぶあ~っはっはっはっは!! やっぱり、そう! やはり貴方様でございましたか!! お待ちしておりましたよ、古廻……いや、鍵鈴様!!」
流は確信した。コイツは確実に自分の、そして古廻の敵であると。
ざわめく妖力が背筋をつたい、妖人になりそうになるのをギリギリ抑えながら、流は冷静に商人の男、エスポワールへと問う。
「……オマエは一体何者だ?」
「ふ~む、ご存じないのは当然ですな。まぁ、その答えは別の機会に……と言うことで」
エスポワールはそう言うと、あの小物……アルレアン子爵がいる方向へと視線を向ける。
見れば内出血した紫の汚い肉団子のようになった男が、何やら装置の前で操作をしているようだった。
「ぐっぞヴぁああああッ!! ごうなったヴぁ、この水塔ごどブッ殺してやヴ!!」
そうアルレアン子爵が叫びながら、装置に右手を置く。
「お、お待ち下さい管理官!! それは増水弁です! それを発動したらこの水塔の給水機能はおろか、水圧で水塔が崩壊します!!」
「ぢっだ事ガアアアアアアアア!!」
流やワン太郎が動き出そうとしたが、時すでに遅かった。
アルレアン子爵が装置の上に置いた手に魔力を込め、何かの認証が完了したと空間に出た次の瞬間、水塔が〝ゴゴゴゴ〟と鈍い音を響かせながら揺れる。
直後、足元が抜けるのではないかと言う振動が発生し、下層が破壊される轟音が水塔内部に衝撃波のように反響するのだった。
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