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第九章:奪還作戦と、国の闇

381:冒険譚

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「……おい、俺はこんなの嫌だぞ?」
「分かっている、仮にもこの人たちはここを救った英雄だぞ」
「だがどうする、イズン様には逆らえん……」

 建物の中に入り窓のない部屋へ入った瞬間、そんな声が目の前から聞こえる。見れば指揮官クラスの兵士三人が流を見て顔をしかめていた。

「え~と、アンタたちは?」
「あぁ、俺たちはイズン様の配下で百人規模の隊長をしている。先程は助かった、まさか龍人が出てきて、しかもあの数だろう? もう終わったかと思ったぞ」
「俺も同じだ。リザードマンまで駆逐してもらって、感謝の言葉しか無い」
「しかもセリア様まで救って貰えるとは、感謝しかない。しかし、このままではこの人は殺されるぞ?」
「「「んんん……」」」

 悩む隊長三名を見て、流はどうやらいい人そうだと判断する。そして懐から封筒を出すと、隊長の一人へと手渡す。

「あぁ、悩んでるところ悪いがコレを見てくれないか?」
「ん? なんだ一体――ッ!? これは!?」
「「どうした?」」
「見ろ、トエトリー家の紋章だ」
「「なッ!?」」
「本物だぞ。たしか鑑定する魔具があったろう?」
「いや、必要ない。俺たちはその紋章のために戦っている。だからこそ分かる、コイツは本物だ」

 隊長三人は顔を見合わせると、同時に頷き流へと頭を下げる。

「「「トエトリーの正式な使いとして、貴方を歓迎いたします!!」」」
「ありがとう。では悪いが、それをここの領主へと渡してもらえないだろうか?」
「「「ハッ!!」」」

 隊長たちはイズンへの対策として、二人残り、一人の男「ヨルム」がその任にあたる事になった。

「私の名はヨルムと申します。貴方は?」
「俺は流、古廻 流と言う。巷では『巨滅の英雄++』で最近は有名らしい」
「巨滅の英雄++ってオイ!?」
「ああ、最近噂の凄い冒険者ってヤツだ!!」
「あれだろ!? 殺盗団を一人で壊滅させたって英雄だ!!」
「よしてくれ。そう面と向かって言われると恥ずかしいものだな……まぁ、俺の事だ!!」

 流は言葉とは裏腹にサムズアップをキメ、妙にいい笑顔で微笑む。そんな流を見てワン太郎は「ダメなあるじだワン」と呟き、Lはあまりの格好のよさに失神寸前になる。

『ほら、馬鹿な事してないで先にすすめないと?』
「ぬ? あぁすまない。じゃあヨルム、頼むよ」
「お任せあれ! 必ず領主のセルガルド様へお届けします!!」

 ヨルムは丁寧に封筒を預かると、鎧の中にしまい込む。そして流へと頭を下げると、そのまま足早に出ていくのだった。
 その後、これから起こる楽しいイベントを聞きながら、流は疲れた表情で壁により掛かる。

「はぁ。つまり俺はここで尋問の末に、今回の騒乱の首謀者として処刑されると?」
「そうなります。私達三名がその尋問を担当しています。さらに拷問官も控えており、ナガレさんが罪を認めないと、それらが投入予定です」
「マイ・マスター。やはりこの街を壊滅させて、マイ・マスターへの無礼の見せしめにしましょう」
「お前は〆の可愛らしいバージョンか? まったく、どうして俺の周りにはおかしな奴らが集まるんだ……」
『ご自分がおかしいからでは?』
「辛辣だねぇ美琴ちゃん。キミ、自分の存在をよ~っく鏡で見ようか?」

 そのやり取りを聞いていた隊長二人は顔を見合わせてから、恐る恐る声をかける。

「あのぅ……ナガレさん。先程から気になっていたんですが、その青髪で左に角がある娘さんは?」
「そしてその……誰とお話になってるんですか?」
「あぁ、まず見えない誰かは幽霊って言われてる存在だ。この刀に宿ってる。んで、コッチの青髪のHENTAI娘は、ここを襲ってきた龍人の片割れだ」
「「なッ!?」」

 驚愕の隊長二人。特に龍人の娘については報告と違う容姿であり、驚きが倍増する。
 そんな事もお構いなしに、流は続きを話す。

「驚くのも無理はない。コイツ片方角がないだろう? 龍人は角が命とも、誇りとも言えるものなんだが、そこを利用されてな。操られていたのを俺が開放した。んで……」
「そうです!! マイ・マスターは天上の御方であり、あたし達の救い人! だからこの身も心も何もかも……そう! 内蔵の一つ一つすべてマイ・マスターの名前入りです!!」
「ああもういい、気色悪いこと言うな。そんなわけで、頭が少しおかしいが俺の配下となったわけだ」
「り、龍人を配下に? プライドの塊のような奴らを、え……」
「嘘だろう!? あの人間などゴミ同然に思っている、災害のような奴らが?」
「失敬ですね、あたしは生まれ変わったのです! 人族はマイ・マスターの敵以外は、愛でる対象であると!!」
「「おおお……」」
「と、言うわけだ。それでこれからどうする?」

 とりあえずイズンが来るまで、尋問官としてのながれを聞き、もう少しで吐きそうだと言う体で取り繕うことにする。
 時間もあるのでコレまでの英雄譚を聞きたいと言うから、流は隊長とLへ目一杯サービスして語り尽くす。
 時には驚き、時には嘆き、時には涙をながしながら聞く三人。
 たまに小技をはさみ、尋問してるんだ!! を演出してるために「ぐあああ」とか「ぐえええ」と、悲鳴を上げる事を忘れない流に隊長とLの拍手が起こったりする。
 そんな彼らを見て、美琴とワン太郎はガクリと肩を落とすのだった。

「マイ・マスター!! もぅ一生どこへでもついていきます! トイレの中から棺の中までも!!」

 本当にブレないHENTAIだと思いながらも、ワン太郎は外にいる嵐影を気にかける。どうやら大人しくしているのは飽きたらしく、気配を探るとこの建物の上方から感じた。

「ワレもお外でのんびりとしたいワンねぇ……」

 そんな呟きが聞こえないように、熱が入る流の冒険譚を熱心に聞く三人は、実にたのしそうであった。
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