480 / 486
第九章:奪還作戦と、国の闇
480:二度あることは三度ある
しおりを挟む
朝が早いとは言え、アルマークの町は賑わっている。とくに経済特区という事もあり、商人たちの賑わいは朝から盛況だ。
その商人たちが〝びくり〟と震え、その原因がする方を本能的に確認してしまう。
「な、なんだこの悪寒は――ひぃ!?」
「なに青い顔をしていやが――ひゃぅ!!」
「おいどうした? って、嘘だろ!?」
「だ、だれか衛兵を呼べ!! 魔物が出たぞおおおお!!」
白い町を疾走する氷のバケモノに、商人たちは恐怖に駆られ後ずさる。
一人ひとりの起こす音は小さいが、それが一斉に重なると〝ゾヴァ〟っとした音と共に道が開く。
「氷狐王、絶妙な妖気の放出だな」
「ハッ。お褒めにあずかり光栄! だがここまでです、これ以上妖気を放つと死んでしまいかねませんから」
「ほんとにあの子狐ちゃんとは思えませんわねぇ。あ、その角を右に曲がって、そのまま東の大門へと向かってね?」
「承知。そのまま壁を超えても?」
「そうだな、まぁいいだろう。この町はエルヴィスの爺さんの町だしな。なんとでもなるだろうさ」
やがて大門が見えてくると、衛兵が騒ぎ出すのが見える。突如町中に現れた氷のバケモノに、恐怖するもそこはプロである。
恐怖心を投げ捨てるように奮い立つと、門番長は大声で叫ぶ。
「敵襲!! 総員迎撃体勢!! 門は開けたままにしろ!! 抜けるようならそのまま行かせる!!」
「りょ、了解しましたッ!!」
衛兵たる門番たちは即座に防御姿勢に入る。それを見た流は驚きの声と共に、衛兵たちの練度が高いと評価した。
「お~優秀な隊長さんだねぇ」
「まったくですわ。とっさの判断。そして内側からの攻撃だと言うのに、もうあそこまで防御陣形を敷けるとは見事ですわ」
「しかもほら、門は開放しているぞ?」
「そうですわね。あれは勝てないと判断し、無理に押し留めようとせず、被害を最小限にするという行動ですわ。門番としてはどうかとは思いますけれど」
「なるほどね……氷狐王、彼らに一切のダメージを与えず抜けれるか?」
「愚問。我にかかれば、ぞうさも無きことです」
「なら任せた。じゃあ高みの見物といきますかね」
流は文字通り氷狐王の背中から門番たちを、氷の長イスに寝そべりながら見下ろす。
それに気がついた門番長は、青い顔だったものが怒りで赤く染まると、自慢の投擲用の槍を構える。
「馬鹿にしおって! 総員、バケモノの歩みを止めるのは無理だろう。が、背中のナメタ奴だけはよく狙って撃ち落せ!!」
「「「ハッ!!」」」
隊長の号令で浮足立っていた門番たちは、一斉に投擲用の武器や弓を流へと向ける。
「あらまぁ。流のせいで、わたくしたちは悪者ですわよ?」
「それは困ったねぇ、どうしたものかねぇ……」
「全然困っていないのに、困った表情のマイ・マスターもステキですッ♪」
「おいL。俺が性格の悪やつみたいな事を言うのはやめてくれ」
『流様、そういいながらニヤついていますが……鏡ご用意しましょうか?』
「おっといけねぇ。どうも妖人になると悪い顔になっちまうねぇ」
流は妖人になると、さらに周囲を威圧しはじめる。
氷狐王の妖気は繊細な調整は難しいらしく、これ以上強くすると死人が出かねない。
そこで流が、恐怖心が「正気を保てるギリギリの幅」を狙い妖気を放つ。
「ぐぅぅッ!? 何だこのプレシャーは!!」
「門番長。ね……狙いが定まりません……」
「俺もです、指が震えて……」
恐怖心で狙いが定まらず、あたふたとする兵士たち。自然と体が氷狐王との直線上にいる事を拒否し、その視線から少しでもはずれようと左右に分かれる。
そこに追い打ちをかける氷狐王は、口を開き氷の塊を吐き出す。
いびつな氷の塊は、兵士が割れた中央付近に着弾すると、そこから蜘蛛の巣のように氷が急速に広まり。
「も、門番長ぉぉ足があああああああ!?」
「なッ? 凍りつくだと!? くそおおおおおッ」
「悪いね。苦情はこの町の代表に言ってくれ! 俺は古廻 流! 領都級の商人だ!!」
氷のバケモノに乗った自称商人が右手を振りながら、大門をくぐり抜ける。それを苦虫を噛み締めた表情で睨みつけながら、門番長は絶叫する。
「そんな商人がいてたまるかあああああああああああ!!」
「も、門番長……いったいアイツらは……」
「知らん!! クソッ、久々の朝番だと言うのに、なんて日だ。とりあえず全員足の拘束を外せ。その後リッジ様へ報告へ行く。それと副長は冒険者ギルドへも通報へ行け」
「「「ハッ!!」」」
門番長はバケモノが去った方向を睨みつつ、独りごちる。
「クソ……一体何が起きている……」
あまりの現実感の無さに一瞬夢かと思うが、足元の氷を見ればそれが真実だと認識する。
そのまま悔しさを怒りに変えて、足の氷が解けるのを待つのだった。
その商人たちが〝びくり〟と震え、その原因がする方を本能的に確認してしまう。
「な、なんだこの悪寒は――ひぃ!?」
「なに青い顔をしていやが――ひゃぅ!!」
「おいどうした? って、嘘だろ!?」
「だ、だれか衛兵を呼べ!! 魔物が出たぞおおおお!!」
白い町を疾走する氷のバケモノに、商人たちは恐怖に駆られ後ずさる。
一人ひとりの起こす音は小さいが、それが一斉に重なると〝ゾヴァ〟っとした音と共に道が開く。
「氷狐王、絶妙な妖気の放出だな」
「ハッ。お褒めにあずかり光栄! だがここまでです、これ以上妖気を放つと死んでしまいかねませんから」
「ほんとにあの子狐ちゃんとは思えませんわねぇ。あ、その角を右に曲がって、そのまま東の大門へと向かってね?」
「承知。そのまま壁を超えても?」
「そうだな、まぁいいだろう。この町はエルヴィスの爺さんの町だしな。なんとでもなるだろうさ」
やがて大門が見えてくると、衛兵が騒ぎ出すのが見える。突如町中に現れた氷のバケモノに、恐怖するもそこはプロである。
恐怖心を投げ捨てるように奮い立つと、門番長は大声で叫ぶ。
「敵襲!! 総員迎撃体勢!! 門は開けたままにしろ!! 抜けるようならそのまま行かせる!!」
「りょ、了解しましたッ!!」
衛兵たる門番たちは即座に防御姿勢に入る。それを見た流は驚きの声と共に、衛兵たちの練度が高いと評価した。
「お~優秀な隊長さんだねぇ」
「まったくですわ。とっさの判断。そして内側からの攻撃だと言うのに、もうあそこまで防御陣形を敷けるとは見事ですわ」
「しかもほら、門は開放しているぞ?」
「そうですわね。あれは勝てないと判断し、無理に押し留めようとせず、被害を最小限にするという行動ですわ。門番としてはどうかとは思いますけれど」
「なるほどね……氷狐王、彼らに一切のダメージを与えず抜けれるか?」
「愚問。我にかかれば、ぞうさも無きことです」
「なら任せた。じゃあ高みの見物といきますかね」
流は文字通り氷狐王の背中から門番たちを、氷の長イスに寝そべりながら見下ろす。
それに気がついた門番長は、青い顔だったものが怒りで赤く染まると、自慢の投擲用の槍を構える。
「馬鹿にしおって! 総員、バケモノの歩みを止めるのは無理だろう。が、背中のナメタ奴だけはよく狙って撃ち落せ!!」
「「「ハッ!!」」」
隊長の号令で浮足立っていた門番たちは、一斉に投擲用の武器や弓を流へと向ける。
「あらまぁ。流のせいで、わたくしたちは悪者ですわよ?」
「それは困ったねぇ、どうしたものかねぇ……」
「全然困っていないのに、困った表情のマイ・マスターもステキですッ♪」
「おいL。俺が性格の悪やつみたいな事を言うのはやめてくれ」
『流様、そういいながらニヤついていますが……鏡ご用意しましょうか?』
「おっといけねぇ。どうも妖人になると悪い顔になっちまうねぇ」
流は妖人になると、さらに周囲を威圧しはじめる。
氷狐王の妖気は繊細な調整は難しいらしく、これ以上強くすると死人が出かねない。
そこで流が、恐怖心が「正気を保てるギリギリの幅」を狙い妖気を放つ。
「ぐぅぅッ!? 何だこのプレシャーは!!」
「門番長。ね……狙いが定まりません……」
「俺もです、指が震えて……」
恐怖心で狙いが定まらず、あたふたとする兵士たち。自然と体が氷狐王との直線上にいる事を拒否し、その視線から少しでもはずれようと左右に分かれる。
そこに追い打ちをかける氷狐王は、口を開き氷の塊を吐き出す。
いびつな氷の塊は、兵士が割れた中央付近に着弾すると、そこから蜘蛛の巣のように氷が急速に広まり。
「も、門番長ぉぉ足があああああああ!?」
「なッ? 凍りつくだと!? くそおおおおおッ」
「悪いね。苦情はこの町の代表に言ってくれ! 俺は古廻 流! 領都級の商人だ!!」
氷のバケモノに乗った自称商人が右手を振りながら、大門をくぐり抜ける。それを苦虫を噛み締めた表情で睨みつけながら、門番長は絶叫する。
「そんな商人がいてたまるかあああああああああああ!!」
「も、門番長……いったいアイツらは……」
「知らん!! クソッ、久々の朝番だと言うのに、なんて日だ。とりあえず全員足の拘束を外せ。その後リッジ様へ報告へ行く。それと副長は冒険者ギルドへも通報へ行け」
「「「ハッ!!」」」
門番長はバケモノが去った方向を睨みつつ、独りごちる。
「クソ……一体何が起きている……」
あまりの現実感の無さに一瞬夢かと思うが、足元の氷を見ればそれが真実だと認識する。
そのまま悔しさを怒りに変えて、足の氷が解けるのを待つのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる