僕はボーナス加護で伸し上がりました

根鳥 泰造

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第四章 僕が神様なんかになっていいのかな

4-8 運が尽きたのか最悪の選択ばかりしてしまいます

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 オークの里に戻る際、僕は無性に納得できず、不満で一杯になっていた。
 アクネルが救援に来てくれた事に対する不満ではない。フェンのレベルアップの件だ。
 レベル25までは、魔力量増加も踏まえ、フェンを早くレベルアップさせたい意図もあり、僕がレベル29の時フェンはレベル27と肉薄していても、なんとも思わなかったが、今回の同時進化はどうしても納得がいかない。
 同じようにダメージを与えていたと思っていたが、いつもフェンの方が与ダメージを多く与えているということに他ならないからだ。
 僕がタンク役になり、攻撃を受けていたので、与ダメージではフェンが上だったのかもしれないが、レベル28、29になったのを教えないなんて、絶対に狡い。それを知っていたら、遠慮なくバンバン僕がダメージを与え続けていた。
 大人げないと言われるかもしれないし、今更、言っても仕方がない事ではあるが、フェンと同じ能力レベルというのは、やはり納得できず、不満に思えてしまう。

 里に着くと直ぐ、ピッチがそれなりのサイズの服を用意してくれた。ズボン丈は短いが、文句は言えない。
 その新しい服を着て、今回の討伐報告を族長にした。
「そうか、アクネス様が来てくれ、全てを掃討してくれたのか。それは良かった。流石はアクネス様だ」
 族長は、僕らへの労いの言葉もなく、アクネスが来てくれたことに感激していた。
 仕方がない事ではあるが、なんかやりきれない。

 その後、直ぐに祝勝会の準備をすると言ってくれたが、僕は辞退した。
「嬉しいんですが、今日は凄く疲れていて、お風呂で疲れを取って、直ぐに寝たい気分なんです」
 本当は、早く進化したかったのだ。

 ピッチには、今日はもう三助もマッサージもいらないからと言ってから、お風呂場に行き、二人順番に進化することにした。
 今度成長すると、おそらく220センチ、体重130キロ超の大巨人になりそうなので、全裸の方が良いという判断と、フェンの胸がどうなるのかをちゃんと見ておきたいと思ったからだ。

 まずは、僕から。今回も三、四分時間が掛かり、予想通りに大きくなった。
 そして、いよいよフェンの進化。アソコにタオルを掛けて、進化を始めた。
 既に、大人の身体なので、今度の進化は、巨大化の予想で、乳房や指が再生してくれることも期待していた。
 僕の予想通りで、身体が一回り大きくなっていったが、残念なことに、指も、胸も再生しないままだった。
 だが、大きくなるのが止まると、指が生え始め、胸も膨らみだした。
 進化は10分にも及び、フェンは激痛に苦しむことになったが、ちゃんと指も生えそろい、胸も乳首もきちんとある175センチ程の大女になった。

「フェン、本当に良かった。元に戻ってくれてありがとう」
「ちょっと痛いって。飛んでもない力で思いっきり抱きしめないでよ」
 それほど強く抱きしめたつもりはなかったので、急いで僕を鑑定してみた。

   攻撃力 18716
   防御力 19473
   耐久力 25304
   精神力 13756
   機動力 14569
   知力  2501
   創造力 2012

 とんでもない能力値に上昇していた。
 僕はこれまで精神力がスバ抜けていて、最近のレベルアップで、徐々に全てのパラメータが並んできていたが、今回の進化で、攻撃力・防御力・耐久力が大きく上昇し、耐久力なんかは倍増した感じになっていた。
 しかも、今回取得したスキルの並列思考は、とんでもない。戦闘中にもう一人の自分が魔法を発動できるのだ。これでヒールは掛け放題だし、同時に二つの魔法を発動することもできる。前回取得した高速思考スキルにより、とっさの判断速度も、詠唱速度も、二倍に上昇しているので、とんでもない化け物になってしまった。

 因みにフェンは、精神力が大幅上昇したものの、機動力も含め、全てが僕より大きく劣る値になってしまった。

   攻撃力 10112
   防御力  9898
   耐久力 10571
   精神力 10106
   機動力 14319
   知力   1801
   創造力   987

 それでも、とんでもなく強いが、これからどうパラメーター成長させるのかを改めて考えさせられてしまう。

「これなら、健斗を満足させることができるよね。今晩、約束だよ」
 そういえば、それがあったが、さてどこまでしていいやら。それにフェンのトラウマからくる性嫌悪症もあり、頭が痛い。
「今日は、私が身体を洗ってあげるね」
 そんな訳で、今日はフェンが三助になることになったが、やはりフェンはとんでもない女だ。タオルではなく身体で、洗い出したのだ。
「おい、何をしてるんだ」拒もうとしても、「洗わせてくれるっていったでしょう。おとなしくしてて」と胸を背中に押し付けてくるし、手で前面側も洗ってきて、アソコまで洗い出した。
「面白い。どんどん大きくなってきた」
 今回も、アソコが大きくなったが、ふと考えてしまった。僕から見ると変わらなく見えるが、直径45ミリもあることになる。
 フェイもドリーもミリーも、固くて大きいと大喜びしていたが、マームは卵管が壊れちゃうと大変なことになった。それが更に大きくなったのだ。フィスト程ではないにしろ、流石に大きすぎ、女性器を壊しかねないサイズだ。
 まあ、フェンとエッチはしない約束になってるし、自慰する分には関係ないからかまわないかと割り切ることにした。
「今度は、俺が洗ってやるからな」
 結局、二人でじゃれあってしまった。
 
 それでも、変な雰囲気にはならず、じゃれあった後、泡を流し、お風呂に二人で浸かったのだが、フェンがそのまま寝てしまった。
 進化は、身体の変化が大きい程、体力を消耗する。さっきまで元気にふるまっていたが、フェンは相当な疲れていたらしい。フェンをお姫様だっこして、脱衣所にいくと、今日もお風呂上りの準備がきちんとされていた。
 ピッチは本当に、気が利く良い女だ。

 フェンを起こさない様に身体を拭いて、パンツを穿かそうと思ったが、大変そうなのでそれはパスして、バスローブを羽織らせ、僕もバスロープを着て、彼女を寝室へと運んだ。

 エッチの為に起こす義理はないので、そのまま彼女の部屋に寝かせ、僕も疲れているので、自分の客間に戻り、寝ることにした。

 その夜、僕はフェンの夢をみた。
 また随分と大きくなったのねと呆れられたが、互いにセックス好き同志。いつものように愛し合った。だが、いざ本番となって、「ちょっと無理、そんな大きいと壊れちゃうから」と拒絶されて、蹴り飛ばされた。
 それで目を覚ましたのたが、ニキータの盛りのついた声が聞こえていた。
 どうやら、あの声の所為で、あんな夢をみてしまったらしい。
 まだ眠いし、寝ようとしたが、悶々としてしまい、寝むれない。
 いっその事、フェンの部屋を訪れて、約束を果たそうかと思ったが、今の僕だと自制が利かない気がする。
 自慰しようかとも思ったが、二日前に出したばかりだ。
 羊でも数えて寝るかと、何もせずに寝ることにしたが、三千匹を数えても寝れず、結局、静かになるまで、寝付けなかった。

 その所為か、朝、ピッチが着替え等を持って来てくれまで、眠っていた。
 彼女は、僕を見て、目を丸くして驚いていたが、進化すると身体が大きくなるんだと説明し、フェンも大きくなっていると話した。
「それならあのドレスも着られなくるわよね。どうしましょう」と、大慌て。
「少し大きめのロープを準備してくれるだけでいい。装備の服は、作ってもらえる当てがあるから」
 僕は、ピッチに一番大きいガウンを用意してもらい、それを着たが、やはりそれでもつんつるてんだ。
 この恰好で族長に会う訳にもいかないから、朝食も部屋に持って来てもらって、僕の客間でフェンと二人で朝食をとることにした。

 その朝食の時、フェンが変な事をいいだした。
「猫女は大嫌いだけど、ピッチなら大好きだから、健斗のお嫁さんに迎えてもいいよ。昨晩も私のこと抱いてくれなかったし、健斗にとって私は嫁ではなく、娘の様なものなんでしょう。だから、ピッチをフェイさんの代わりにして」
 昨晩、何もしなかったのが、最悪な事態になってしまった。
「僕の心の中には、未だにフェイが生き続けているんだ。だから、フェンを嫁にはできないし、ピッチを娶ることも考えられない。僕ら、家族だろう。今までの儘でもいいじゃないか。それより、早く食事を終わりにして、早く服を作ってもらいにいこう」
「そうだよね。家族だものね」
 少し間があり、納得していないのは分かったが、やはりフェンを抱く事はできない。
「それで、もうエルフの秘薬は不要になったけど、旅はどうするの?」
 確かに、もうエルフの里に向かう必要はない。

 それからも、会う人毎に、驚かれていろいろと大変な事はあったが、ニキータに、エルフの里に案内しても貰う必要はなくなったと告げて別れ、魚人族の里に空間跳躍テレポで戻り、ドリーとミリーとに、今の僕たちのサイズにぴったりの服を作ってもらい、魚人族の族長と面談した。

 族長に、守り神になると決めたと話すと、大喜びしてくれたが、守り神になるには、この地の領主である竜神ルネーラ様に会って、了承を貰わなければならないとのこと。
 でも、竜神ルネーラがどこにいるのかは、族長は知らないとの話で、エルフの里は、竜神自らが守り神として統治しているので、エルフの里の長に訊けばいいとの話となった。
 そんな事なら、ニキータの道案内を断るんではなかった。

 急いで、オークの里に飛んだが、既にニキータは出発した後だった。
 急いで追いかけようかと思ったが、ピッチが「よろしければ私が案内しましょうか」と言ってくれた。
 族長も「それがいい」と何故か乗り気で、嫌な気がしたが、ピッチと三人で旅をすることになった。
 
 昼に出発したので、その日は、獣道から少し離れた藪で、野宿することにした。
 あと三時間ほど歩けば、兎獣人の里に付けるとの話だが、そうすると深夜になるし、腹もペコペコだったので、僕はここでの野営を選択した。

 ピッチはリュックに沢山の食材を持って来てくれていて、彼女の手料理をご馳走になったが、本当に美味しく、彼女が一緒に居てくれることに感謝した。
 フェンとピッチは仲が良いので、三人で楽しく話をして過ごし、僕らは二時間半交代で焚火番を兼ねた見張りをすることになった。
 真ん中の見張りは、まとめて睡眠がとれず、一番つらいので、ピッチ、僕、フェンの順番で見張りをすることにした。

 その最初の睡眠中、僕は昨晩に引き続き、フェイの夢を見た。
 全裸の彼女が、にっこりとほほ笑んで、僕を手招きして呼んでいる。
 でも、僕が近づくと、くすっと笑って態と逃げる。
「健斗さん、しっかりして」
 何故か、ビッチが僕の夢の出てきて、前に立ちはだかったが、僕の夢に入って来るなと突き飛ばし、フェイを追いかけ続けた。
 僕が近づき抱きつこうすると、さっと交わして遠ざかるの繰り返し。
 仕方なく、僕は瞬歩まで使い、背後から彼女を捕まえ、押し倒した。
 そして愛撫して彼女を行かせ、今日こそ、本番までするぞと、足を抱えると、やはり拒否してきた。
 でも、今日は蹴り飛ばしたりはせず、にっこりとほほ笑んで、「私が自分でいれるから、そこに寝て」と言ってくれた。
 それなら構わないと仰向けに寝ると、「本当に信じられない程大きいわね」とフェラを始めた。
「ぎゃあ」 フェイが、僕のペニスを食べ始めたのだ。
 いや、フェイが別人に変わっていく。周りの景色も変わっていき、現実だと思われるが、野営地からかなり離れた藪の中にいた。
 女の頭には、角が生えていて、背中には羽根が生え、猫獣人より太い尻尾も生えている。
 サキュバスに違いない。そう思ったが、僕はなぜか全く力がだせない。こんな状態なのに、強烈な色欲に支配されていて、女王様に虐められているM男の気分で、恍惚感すら感じている。
 再びガブリと噛みつかれ、僕の血液がどんどん流れ出て行き、意識が朦朧としてきたが、それでも幸せな気分だ。

「どりゃ」 フェンがサキュバスの背後から、その頭部に強烈な蹴りを入れ、彼女を吹っ飛ばした。
「大丈夫ですか。直ぐに治療しますね」ビッチが直ぐに止血処理してくれたが、僕は色欲に支配されていて、彼女の巨乳と戯れたい欲望で一杯にだった。
「ちょっと、健斗さん、何をするの」
 抵抗してきたが、今は抱きたい一心だ。
 唇を奪い、柔らかな胸を服の上から揉むと、彼女は抵抗をやめて、抱き着いてきた。
 そこからは彼女も協力的で、服を脱がせて、柔らか胸を揉みながら、乳首にしゃぶりついた。
 そして愛撫で行かせ、足を持ち上げ、挿入しようとしたが、僕のがない。金玉も完全になく、女の子の様な割れ目になっていた。
「どりゃ」 僕は頭部に強烈な蹴りを受けて吹っ飛ばされた。
「この色欲魔。ビッチさんをお嫁さんにしてもいいとは言ったけど、こんなところでしないでよ」
 僕は、漸く我に返り、立ち上がったが、やはり貧血で立ちくらみ。
「なに、それ。健斗が女の子になってる。それじゃ、何もできないね。うふふ」
「フェンさん、酷いですよ。もう一生、できなくなっちゃんですよ。それを笑うなんていけません」
 ピッチは、いつの間にか、服を着ていた。
「次の進化で、ちゃんと元に戻るから心配しなくても大丈夫。それまでは立ちションもできないけど、少しは反省した方がいいのよ。さっさと、寝ましょう」
 フェンは、心配そうなビッチの手を引いて引いて、僕を置き去りに戻って行った。

 あの時、野営を選択せず、兎獣人の里まで歩き続けていれば、こんなことにはならなかったのに……。
 僕は、激しく後悔したが、今更、どうにもならない。

 焚火の場所に戻ると、既にフェンは毛布をかぶって寝ていて、ビッチが薪をくべていた。
「フェンさん、私達が夫婦になる事、許してくれたんですね。どうか宜しくお願いします。それから、これ造血剤です。少しは貧血が改善すると思います。ゆっくり寝るのが一番ですが、もう交代の時間なので、見張り、宜しくお願いしますね。おやすみなさい」
 最初の宜しくお願いしますの意味が分からないが、とんでもないことになってしまった。
 サキュバスの魅了に掛かり、本番まではしてないとはいえ、ビッチを襲ってしまったのは確かだ。
 今日は、本当に失敗続きの一日だった。

 翌朝、藪に入って、ちゃんと野ションできたが、アソコが濡れてしまって、紙も持って来ていなかったので、こまったことになった。手で拭くしかないかと思っていると、ピッチが「どうぞこれを使ってください」と紙を持って来てくれた。本当に良く気が利く女だ。

「あのお。お急ぎの所、恐縮なんですが、少し寄り道してもいいですか」
 昨晩、選択を誤った兎獣人の里に立ち寄りたいとの話だった。そこもアクネルが守り神をしている里で、同じ守り神に守護してもらっている立場なので、里長さとおさに挨拶しておきたいのだとか。
 一昨日、アクネルが話していたルッツというのは、この族長の事なのだそう。

 そういう訳て、簡単な朝食をとって、直ぐに出発し、兎獣人の里へ行くことにした。

 ここの兎獣人は、今までの獣人とは違い、二足歩行する兎の様な獣人だ。身体も一メートル半もない小柄で、全身がもふもふの毛でおおわれていて、足もうさきに近く、靴ではなく泥除けのビニールカバーを付けている。
 体毛以外に、髪の毛も生えているが、顔は兎顔で、口は三口に割れていて、女性にも髭がある。
 一応、服は着ているが、全身毛におおわれているので、全裸でも、恥ずかしくない感じだ。
 年齢は、見掛けの年齢の半分くらいで、能力値は機動力が高めだ。男女差で能力値の傾向は明確にちがいがあり、男性は攻撃力が高く、女性は精神力が高い。男が前線で戦い、女が魔法で支援する戦い方をするにちがいない。
 
 皆、警戒心が強く、僕らを見ると、さっと隠れてしまって、族長の家すらなかなか聞けなかったが、パン屋が有ったので、その親仁を捕まえて、族長の家の場所を聞き出した。
 族長の家は、一軒家だったが、豚獣人のロード邸とはことなり、まさにウサギ小屋と呼ぶのがふさわしい小さな家だった。
 族長のルッツは、ついさっき、魔物の見回りに出たという話で、「どうぞおあがり下さい」と言われたが、辞退して、結局挨拶できずに、そのまま里をでて、エルフの里へと向かう事にした。

 その際、その奥さんから、「エルフの里へ向かうなら」と、いろいろと注意された。
 エルフの里は、あと六時間ほどの距離らしいが、獣道から藪に入ると魔虫が沢山いるし、一年程前から、魔族領で何かあったのか、魔物の目撃情報が頻繁になったのだそう。
 それでも最初の内は、身を潜めて大人しくしていたが、最近は村人を襲う様になって、この街の周辺は物騒になっているとの話だった。
 それを事前に知っていれば、あんなところで、野宿なんて選択はしなかった。

 僕らは、獣道を少し戻り、再び、エルフへの里へと、歩き出したが、二匹の子熊が僕たちに気づき、走り寄ってきた。
「あっ、可愛い子熊」
「本当だ。ヒグマの赤ちゃんかな」
「近づいたら駄目です」 ビッチがそう言ってきたが、もう遅かった。
 フェンは、よしよしと、子熊と戯れてしまっていた。
 近くに親熊が居る筈で、子供を守ろうと襲ってくる可能性はあるが、その時は『覇王の威厳』で硬直させ、逃げればいいだけの話だ。
 そう思って、僕も、その一匹を抱きかかえて、念のため鑑定してみると、獣ではなく、魔獣ヘル・グリズリーの赤ちゃんだった。
 となれば、覇王の威厳は利かず、戦わざるを得なくなる。
「フェン、この子たち、魔獣の赤ちゃんだ。母親に見つからない内に逃げるぞ」
 そういう事で、進行方向の獣道沿いに、三人で全速力で逃げ出した。
 だが、子熊は追いかけっこだと勘違いして、追いかけてくる。
 それでも、距離が開いていき、これなら撒けると思ったが、甘かった。
 行く手を阻む様に、三メートル以上もある母熊が飛び出して来て、立ち塞がってきたのだ。
 レベル86で、能力値はフェンより少し上程度だ。
 戦ってもいいが、子熊の事を思うと殺す訳にはいかない。
 引き返す手もあるが、子熊の方に戻ると、さらに母親の怒りを買い、戦闘回避困難になる。

 仕方なく、脇に逸れ、藪の中を逃げたのが、それは最悪の選択だった。
 逃げた藪の奥は、『魔蜘蛛 ルーンチック』の巣だったのだ。
 魔蜘蛛となっているが、ダニの魔物で、大小の様々な大きさのダニが無数にいて、一斉に襲い掛かって来た。
 母熊は、子熊を守る様にダニを撃退し、子供も母熊の許に戻って行ったが、僕ら三人は、身体中をダニに食われることになった。
「きゃっ、この変態」
 大きいダニは、服の上からでも、噛むことができるが、小さいダニは、肌の上からしか噛めないらしく、服の中にはいりこもうとしてくるのだ。
 僕と、ビッチは襟まである服なので、簡単には入れないが、露出の多いドレスを着ているフェンは、ドレスの中に沢山のダニが潜り込んでいるらしい。
 しかも、そのダニは、吸血スキルを持ち、噛まれるとヘパリンという抗凝固薬を身体に流し込み、血が固まらなくしてくる。
 僕は、並列思考でリジェネやヒールを掛け続けて出血を押さえ、取り付いたダニを引っぺがして、踏みつぶし、それからは斧無双の範囲攻撃で、噛まれない様に対処した。
 フェンは魔法防壁で、自らに雷撃を落として、ダニを痺れさせて落とし、火炎放射で焼き払ったり、雷撃で叩き落としたりして、極力ダニが噛めない様に対処し、出血量が多くならない様に務めていた。
 たが、ピッチだけは体中から血を吸われて、どうにもならない。僕とフェンで、必死に彼女に取り付くダニを剥がして、ダニが彼女を噛まない様に務めたが、彼女自身で、ヒールで傷口を止血しても、傷が増える方が遥かに早く、全身血まみれになり、出血が止まらない。
 小型なダニはレベルも低く、一撃で殺せ、残りは、身体の大きいダニが十三匹となったが、その時には、ピッチは出血多量で意識喪失してしまっていた。
 フェンも貧血状態で、既にふらふらだ。吸血されない様にしていても身体中を噛まれていて、傷口からの出血が止まらないので、大量出血してしまったのだ。
 しかも、残りのダニは五十センチ強もあり、全てレベル70以上。八十センチ程ある最大のものはレベル82もある。
 幸い、熊の親子はもういなくなっているので、獣道に戻る選択がある。
「フェンは、ピッチを安全な場所まで運んでくれ。僕はこいつらを片付ける」
 今の僕なら、この程度の敵、一人で対処できるし、早く進化可能にしたかった。それに、フェンに再び差をつけるチャンスでもある。

 そのダニを屠っていると、やはり予想通りにレベルアップした。
 そして、全て片付け、二人の許に戻ろうとして、気配感知で確認すると、赤い点がなんと五個。どうやら、また熊との戦闘になってしまったらしい。
 急いで向かうと、フェンは大怪我を負って、殺されかけていた。
 僕が、レベル差を付けようなんて考えたばかりに、フェンに大怪我を負わせてしまった。

 母熊は、レベル86で、フェンより能力値は上だが、魔法もスキルもあるので、普通なら一人でも負ける相手ではない。だが、吸血ダニにより貧血状態でふらふらだったため、致命傷を負う事になってしまった。
 僕は、子熊の為にその母熊を倒す気はなかったが、フェンが大怪我したことで、また冷静さを失って悪魔になってしまった。
 殺さなくてもいいのに、その親熊に止めをさしてしまったのだ。
 またも女神の声が聞こえてきて、子熊がHP0となった母熊にすり寄っている光景も見て、漸く冷静になり、何てことしてしまったんだろうと思った。
 だが、子熊二匹を生かしておいても、逆に苦しむだけになる。
 子熊を育てるという選択肢もあるが、僕は無情に、その子熊二匹の首も跳ね、親元に送ってあげることにした。

 その後、フェンの治療をして、彼女を鑑定してみたら、フェンもレベル31になっていて、差は一つだけしかついていなかった。

 その後、その場で休憩していると、ビッチが目をさました。
「足は引っ張らない自信があったのに、足手まといになってしまって申し訳ありません」
「気にしないで。僕たち二人じゃ、ここまでこれなかったし、そもそも僕たちが熊と戯れようとしたのがいけないのだから」
 彼女は、背中のリュックを下し、何かを探し、昨日と同じ薬瓶を渡して来た。
「これが最後の造血剤なので、フェンさんに飲ませてあげてください」
 昨晩、僕が飲んでしまったので、これ一本しか残っていないらしい。
「それは君が飲むべきだ。あいつは魔物を食らって、体力回復できるから」
「でも、役立たずの私より、戦闘ができるフェンさんが飲むべきです」
 そういう事で、二人で半分ずつのむことにしたのだが、その選択も誤りだった。
 一人だけでも全快になっていれば、もう一人を僕が背負って移動できたのに、二人とも全快にできず、貧血状態のため、この場にとどまるしかなくなってしまったのだ。
 最近の僕の判断は、全て裏目に出ていて、本当に何をやってもうまくいかない。
 ここにずっと留まることになったことで、僕はとんでもない地獄をみることになった。

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