凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造

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第二章 勇者一行としての旅

吟遊詩人フレイアの夢

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 翌朝、ゲートを潜って、魔界に入った。

 魔界は、太陽のない闇の世界と聞いていたので、極寒の世界を想像していたが、気温は低く初冬の寒さだが、思ったほど寒くはないし、結構明るい。
 夜空には、大小三つの満月が浮かび、その月明かりで東京の夜よりも明るいのだ。星は明るい星しか見えないが、地球とも、この世界とも配置が違う全く別の異世界だった。
 
 でも、時折強風が吹きすさぶ、何もない荒野には変わりない。木が一本も生えていない岩肌のはげ山があり、土と石の大地には、ところどころに大きな岩がある。雨も降るのか、砂漠ではなく、池の様なものもところどころにあり、その周辺には白や赤のキノコの様な植物が生えている。
 アーロンいわく、これらの植物は結構おいしいのだそう。
 陽の光が当たらないので、木や雑草の様な緑色の植物は生えていないが、昆虫は沢山いるし、それを捕食する食虫植物のようなものも生息している。
 僕らが近づくと、さっと逃げ出してしまうので、どんな形の生き物かはわからないが、素早いネズミや兎のような小動物もいるみたいだ。

 僕らは、第一中央砦へ向け、岩陰等を調べながら、その荒野をひたすら歩いていく。ゲートから第一中央砦までは徒歩で六時間も掛かるのだとか。
 
 斥候が偵察に向かったのは、第一部隊が魔王軍の第一中央砦、第二部隊が第一左翼砦と向かったと言う話だったので、先ずは、ゲートから最も近い第一中央砦へ全員で向かう事に決めたのだ。
 二手に分けなかったのは、勿論ぺセププの様な強敵がこの辺にいる可能性を鑑みたからだ。勇者一行を敗退させたぺセププではないにしろ、かなり強敵の魔人がいる可能性が高く、分散捜索は危険すぎると判断した。
 因みに、魔王軍の砦配置は、絶壁から突き出た魔王城を守る様に、放射状に配置されていて、要の中心に第三砦にあたる最終砦が設けられ、第二砦が、左右に二か所、第一砦が、右、中央、左と三か所配置されている。
 左右の第一砦には、将軍格の魔人が軍勢を率いて守っていて、第一中央砦、左右第二砦、最終砦の四か所は、魔王軍四天王軍が守っている。
 その第一砦三か所を偵察するため、三隊を派遣し、第一右翼砦に偵察に行った第三部隊以外は消息不明となったわけだ。

 魔王軍の第一中央砦へと向かいながら、半日ほど、仲間を捜し歩いて、漸く、手掛かりを発見した。壊された通信魔道具と、沢山の剣や鎧兜が発見されたのだ。第一斥候隊の五人の装備なのだとか。

 その時、まだ装備が発見されただけなのに、無性に悲しくなって、涙を見られないように、夜空を見上げた。
 すると、この魔界の仕組みが分かってしまった。
 なんで、あんなに明るい月があるのに、太陽が昇らないのだろうと思っていたら、この星は自転していないのだ。月にあたる衛星は沢山あるみたいで、今は五つになっていて、衛星の公転速度も違うみたいで、月の配置は様変わりしていたが、星の配置は、魔界と来た時と全く同じで、動いていなかった。
 さほど寒くないのは、この裏側は陽が沈まぬ灼熱の大地になっていて、大気循環してその熱風がこちら側に流れ込んでいるかららしい。きっと、魔界の端には、温暖で緑豊かな白夜の世界が広がっているのだろう。
 そんなことわかっても、何も好転しないが、涙は治まり、彼らがまだ生きていると楽観視できるようにはなった。

 捜索を続けていると魔王軍の第一中央砦付近にて、一人の隊員のむごたらしい遺体を発見した。無数の刺し傷がある惨殺遺体で、手首から先がなかった。
「ぺセププの仕業でないのは確かだけど、鳥型魔物の軍団にでも襲われたのかしら」
「それなら、手がない説明がつかないよ」
「それに、目をナイフのようなもので切られている。刺し傷もおそらくナイフだろう。ユウスケ、どうだ」
 目の傷と刺し傷が同一凶器かは判断できないが、刺し傷はどれも同一で、しかも生体反応が見られた。
「ナイフの様な鋭利な刃物で、生きている状態で何度も刺して甚振り殺したものと判断します」
「魔人は、正々堂々と戦うと思っていたけど、こんな嬲り殺しする魔人もいるのね」
「魔人なんて冷酷非道だ。勇者様は甘すぎる」 ローラントは仲間の遺体を前にユリをなじった。
 今までは、ユリに忠誠を誓っていたローラントだが、仲間の遺体を目の当たりにし、感情を露わにしたのだろう。

 ユリは何も言わず、黙ってその場から離れ、聖剣で遺体を埋葬する穴を掘り始め、ローラが慌てて魔法でスコップを出して、皆も手伝った。ローラだけは遺体に戻り、魔法でその遺体を生前に近い状態に修復し、聖油を塗って、魔法で作った棺に納めた。時間が経つと、魔法の効果がきれ、棺は消えるが、形式だけなので構わないのだそう。
 埋葬の際、今まではマシュウスが祈りの言葉を唱えていたらしいが、今回は聖職者がいないので、全員で黙祷し、フレイアがレクイエムを唄い、埋葬した。そして、最後にローラが魔法で、その墓の周りを花畑に変えた。
 日光が当たらないので、枯れてしまうが、これも皆に安らぎを与えるための形式だ。

 そして、そのまま第一中央砦内に乗り込んだが、そこには更に四体の惨殺遺体があった。どれも、目と手首を切られ、今度は足の腱まで切られていて、一体ずつ、嬲り方が違う惨たらしい遺体だ。
 顔面が三倍に膨れ上がるほど殴られていたり、全身がケロイド状に焼けただれていたり、顔、背中、胸の皮をはがされていたり、傷はないが苦しそうな顔で窒息死していたりした。
「許せん、必ず復讐してやる」
 ローラントは怒り狂って、直ぐに第二偵察部隊五名の捜索に向かうと言い出したが、彼らを埋葬しなければならないし、強行軍を取ると全滅しかねないので、彼をなだめて、その日は、その場で野営することになった。
 
 埋葬は、前回同様に、フレイアがレクイエムを歌って、ローラが花で飾り付けたが、全員、うなだれて元気をなくしてしまっていた。
 それを見て、「ボク、死者を天国に導く舞を踊る」と、フレイアが明るい歌を唄いながら、舞を披露した。
 坊主頭の男装姿でも、その時は天女の舞かと勘違いする程の素敵な歌と踊りだった。
 うなだれていた皆も、少し明るくなり、元気を取り戻したみたいだ。

「凄く素敵だった。今のも何かの支援魔法なの?」
「うん、元気の歌。元気とやる気がでる魔法」
「歌で支援魔法が使えるなんて、知らなかった」
「ボクも、ローラに教えてもらうまで知らなかった。ボク、このチームに入ったのユウスケの八か月前なんだ」
「えっ、SSじゃないの」
「うん、SプラスB。そもそも、ユリとローラに言われるまで、ただの凡人だと思ってた。魔法の才能があるなんて、全く気付かずにいたし、基本能力がSプラスで、スキル持ちだというのも知らなかったんだ」
 S級だと思っていたが、ユリ同様のS級超えの才能持ちだったのかと初めて知った。どうりでたった八ヶ月であんなベテランみたいな動きができるんだと、納得した。
「ユウスケは、十年前、ボクの生まれ故郷とプルキナス王国とが戦争してたの知っている?」
 この大陸では五つの国が覇権争いしていたとは教わっていたが、詳細はしらない。
「ボクの父は、その戦火の領主で……」
 フレイアは、なぜかその十年前の戦争について語り始めた。

 フレイアの父親は、ミリアミス共和国の辺境貴族で、国境沿いの領主だった。だから、その戦争の矢面に立たされたし、彼の領土は戦場となり荒廃し、どんどん侵略され、敗色濃厚になっていた。
 だが、プルキナス王国側は突如兵を引きあげ、停戦協定を結びたいと言い出した。
 願ってもない申し出で、調印したが、なにか裏があると疑い、保険として、プルキナス王国軍を率いていた西方地区辺境伯のモンテ伯爵の息子に、娘を嫁がせることにした。
 まだ、十二歳になったばかりの幼い少女フレイアに、政略結婚を強いたのだ。
 彼女は、大人しく従い、国境を越え、プルキナス王国に入ったのだが、その嫁入りの際、狼の群れを使役する野盗に襲われ、従者は全員殺され、彼女は捕まり、身代金のための人質にされた。
 モンテ伯爵はその身代金の支払いを拒否。彼女は、見せしめに殺されることになった。
 だが、野盗の中にも心優しい男はいる。盗賊の一人が、彼女を逃がしてくれたのだそう。

 必死に逃げたが、地理もわからないし、食料もない。飢え死にしそうになっていたところを、旅芸人の一座に拾われ、一命をとりとめることになった。
 名前を聞かれ、フレイア・モルハルトと正直に応えようとも思ったが、国に戻っても、父は自分を道具としか思っていない。貴族を捨てて、只のフレイアとして一人で生きることに決めた。
 座長が親代わりとして面倒を見てくれることになり、フレイアは、その一座の一員となり、いろんな技術を学んだ。手品のアシスタントとして手品の仕掛けを学び、ピエロとして踊りや大道芸、妙技披露者としてナイフ投げや弓術を身に付けた。

 五年も経つと、身体も女性に変わる。すると演目も男性客を喜ばせるショーへとかわる。露出の激しい衣装を着せ、セクシーダンスを踊らされるようになったのだ。男達の厭らしい視線を浴び、死にたい程恥ずかしかったのだそうだ。
 ショーダンサーになって一年程経ったとき、フレイアはとある貴族に目を付けられ、その貴族の奴隷として売られることになった。父親代わりの座長の命令でも、それだけは嫌で、彼女はその一座から逃走した。
 見つからないよう、髪を坊主刈りにし、胸に晒しを巻いて、男の子に変装した。これが、男装趣味の始まりだった。

 その時、一座は王都近くの街で公演していたので、彼女は王都に逃げ込み、そこで仕事を探した。
 王都にはショーパブの様なお客に見世物を見せる居酒屋があり、フレイアはそこで働くことに決めた。店主に大道芸や歌や踊りを見せ、給仕のボーイとして採用してもらった。
 ウイリアム・テルの様なナイフ投げショーは好評で、ボーイズソプラノの美しい歌声も魅力的だと、アイドル並みの人気だったらしい。
 ユリとローラに知り合ったのもそのころ。とある事件が起き、二人に助けてもらった。
 客席を回り、飲み物グラスを回収していると、親衛隊の騎士に足を引っかけれ転ばされ、飲み物が掛かったと言いがかりをつけてきて、殴り飛ばされた。人気者として、女性客からちやほやされていたのが、気に入らなかったのか、以前から難癖をつけてた人で、ついに暴力を振るってきた。
 だが、それでは済まなかった。馬乗りになって何度も何度も顔を殴りつづけたのだ。お客が、悲鳴を上げる程、顔が張れ、鼻骨まで骨折し、その時は本当に殺されると思ったらしい。
 そこに飛んで来て、止めさせたのが、ユリとローラだった。
 その親衛隊員は二人の知り合いだったみたいで、チッと舌打ちして、大人しくかえっていった。

 その話を聞いて、僕はサイラスを思い出した。今から四年前なので、丁度サイラスが左遷させられた頃にあたる。僕は、世の中は意外と狭いものだと、苦笑いした。仇は僕が討っておいたと教えてあげたかったが、内緒にした。

 彼女の怪我は、ローラがヒールで治療したが、その時、ユリが「女の子の顔をこんなにするなんて許せない」と言ったのだそう。男装していてたことを見抜かれていて、正直、こいつら何者だと怖くなった。
 治療のお礼を言うと、歌を唄って欲しいと言ってきて、歌うとローラがやっぱりといって、王宮に顔を出すように言ってきた。何がやっぱりなのか、その時は分からなかったが、後で教えてもらうと、彼女の歌声から魔力があふれでていたのだとか。
 フレイアは、勿論、無視して行かなかったが、数日後、再び、二人がやってきた。この時は、初見客の聖職者らしき男をつれてきていて、その男は鑑定スキル持ちだった。それで、二人はフレイアはこの子を仲間に引き入れたいと考えたらしい。これほどの凄い才能の持ち主を、こんなところで埋もれていけないと、一緒に修行をしようと言い出した。
 断っても、断っても執拗に勧誘を続けてきたが、有る時から、諦めたのか来なくなった。
 だが、半年程してまたやってきた。勧誘はもうしなかったが、メモを渡し、「これに曲をつけて聞かせて」といってきたのだとか。メモには、意味不明な変な詩が書かれていて、この部分にはこういう気持ちを込めろと注意書きが沢山書かれていた。
 無視して、丸めて捨てようかと思ったが、お得意様のリクエストだったので、自分で作曲して、歌の練習し、次に来店した時に披露した。だが、この節回しではだめだとか、ここはこんな感情をこめてとか、ぼろくそに文句を言われ、頭にきた。
 でもフレイアも負けず嫌い。言われた通りに修正して、練習していると、職場の皆が力が湧いてくると言い出したのだとか。
 その歌こそ『勇気の歌』。歌を聞いたものの基本能力を底上げし、力を漲らせる支援魔法術式だったのだ。ローラがフレイアのために独自に開発した彼女の歌声でしか発動しない魔法だった。
 歌は貴族令嬢だった時から大好きで、歌にこんな力が秘められていると知り、感動し、歌がますます好きになった。
 二人に披露した時、二人が褒めてくれただけでなく、観客全員が拍手喝さいしてくれ、それが何より嬉しかった。
 それからはローラがくれるメモ書きの歌を、次々と習得していったのだそう。勇気の歌、元気の歌、癒しの歌、疾風の歌と、四つの支援魔法は、こうして習得した。
 そして、フレイアは夢を抱くようになった。いつか、沢山の人の前で、歌を披露して喝采を浴びたいという夢だ。
 既に、フレイアの歌は、酒場で全員から喝采され、アンコールまでもらえていたが、もっともっと沢山の人に喜んでもらえる歌手になりたかった。

 だが、世の中そんな上手く行かない。今から一年程前、泥酔したフレイアを、店の同僚が自宅まで介助して送ってくれたのだが、その同僚は、フレイアが女だと感づいていて、突然、襲ってきたのだ。必死に抵抗するも、力では敵わない。その時、果物ナイフが目に留まり、彼を切りつけた。当たり所が悪く、頸動脈を切ってしまい、辺り一面が血で染まる事態に。男は一命をとりとめるも、フレイアは牢獄送りとなった。
 しかも十年以上は出られないらしく、歌手になる夢は閉ざされた。絶望の淵で、彼女を救ったのもまた歌だった。歌を唄うと、囚人や守衛の皆が聞きほれ感激して喜んでくれた。
 そして、三か月ほど過ぎた時、なぜか四人の勇者一行が面会にやってきた。その中にユリとローラが居て、初めてユリが勇者と知ったそうだ。
「一緒に旅するというのなら、牢獄から出してあげるけど、どうする?」とユリに問われ、五人目の仲間になったという話だった。

「だから、最初は足を引っ張ってばかり。歌で支援魔法を掛けて貢献していると言われても、皆に庇ってもらってばかりで、情けなかった。でも、ボクって、手品でいろんな仕掛けを学んでいたし、トラップマスターだから、トラップ解除だけは誰にも負けない自信があった。なのに、それを使う場面なんてめったにない。それでユリがボクに自信をもたそうと、突然、トラップを踏み始めたんだ。トラップの中には、急いで解除しないと逃げられないものもあるだろう。だから、ボクが必要な存在と自覚させるために始めた。まあ、勇者一行の欠かせない一人になれたと思える今も、それが癖になって、ユリはやってるけどね」
 トラップ踏みは、最初は、フレイヤの為に始めた事だったとは知らなかったが、やっぱり痛みが癖になってるマゾじゃないかと、僕は笑いをこらえるのに必死だった。流石に、この状況では笑うことなどできないからだ。

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