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第一章 異世界『ラーメン屋』開業記
1-15 ラーメン屋開業
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開店は、十一時半。この世界のサラリーマンは、どの会社も十二時から一時が昼休憩なので、十二時過ぎまで、誰も来ないはずだ。
そう思いながら、暖簾を掛けに行くと、なんと兎獣人のミミさんが、店が開くのを待っていた。
「やっぱり、ケンタさんのお店だったんだ。このチラシを見て、そんな気がして、来てしまいました」
今日はタートルネックのボディコンワンピ。やはりノーブラで、透け乳が見える。
「ありがとう。いらっしゃい」
「でも、この地図分かりずらいよ。どんどん商店街から離れていくから、本当にこのままでいいのか不安になっちゃった」
商店街の目印なる店名を書き込んでおくべきだったと反省した。
「御免、もう少し、分かりやすい地図にするべきだったね。直ぐにラーメンを作るから、中で待っていて」
急いで暖簾を掛けて、準備中の札を営業中にひっくり返し、店内に入って、ラーメンを作り始めた。
「随分、変わった店構えだね」
この店も、前世の蓬莱軒と同じ作りで、L字のカウンター席のみで、横六席と盾四席の十席しかない。
この世界の食堂は、皆、テーブル席なので、日本では当たりな店構えでも、珍しいのだ。
「でも、作ってるところを見られるのって斬新かも」
俺が、パン、パンと音を立てて、湯切りしていると、ミミさんがそんなことを言ってきた。
俺は、豚骨スープを入れたラーメン丼に、麺を入れ、メンマ、チャーシュー、ナルト、卵、ネギと、紅ショウガを載せ、「お待ちどうさま。熱いので火傷しない様に」と、彼女の前に差し出した。
「これがラーメンなんだ。ラーメンって、具だくさんのスープの事だったんだね」
箸の使い方を教えようと思ったから、テーブルの食器類収納箱からスプーンとフォークを取り出し、麺をフォークでふうふうして食べ始めた。
フォークで麺を食べる様子には違和感を覚えたが、女性が食事している所をじろじろ見るのは失礼なので、見ない様にした。
「これは、何。おもいしろ模様だね」
何だろうと見ると、ナルトだった。
「魚のすり身にジャガイモのでんぷんを入れて固めたもの。ネーデルで特別に作って貰ったんだ」
「これは、とても美味しい」
これは、と言うのが気になった。
そして、その後暫くして、「御馳走様でした」と彼女が席を立った。
見ると、麺がまだ残っているし、スープも全く減っていない。
「もしかして、口にあわなかった?」
「ううん、ダイエットしてるので、残しただけ。とても美味しく斬新だったよ。でも、少し油ほかったかな。それより、たまには店に顔をだしてよね」
彼女は、そう言って、IDカードで精算して出て行った。
だが、俺のラーメンをこんなに残されたことがショックでならない。
確かに、油が浮いていて、ひと目で高カロリーだとわかり、敬遠したくなる気持ちもわかるが、せめて麺だけでも、食べきって欲しかった。
獣人は、高いお金を出しても、美味しいものを食べたい種族と聞いていただけに、ショックが大きい。
その後、客が来ず、正午を過ぎても一人も入店してくれない。
何人かが、様子を見に来てくれ、中を覗くが、誰もいないからか、帰って行く。
十二時半頃になって、漸く二人のサラリーマンが店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
俺は、麺をゆで始め、カウンター越しに水を出した。
「日替わり定食」
客は辺りをきょろきょろと見渡すと、とんでもない注文をしてきた。
「申し訳けありません。うちはラーメンしか置いてないんです」
「日替わり定食もないのか。なんて店だ。出るぞ」
そういって、二人はそのまま出て行ってしまった。
麺が二つ駄目になったが、仕方がない。
その後も、店の前までは来るが、店内には入ってくれず、一時近くになって、漸く一人の熊獣人の労働者風の男がやってきた。
「いらっしゃいませ。ラーメンしかありませんが、いいですか」
「ああ、25ギルもする料理がいったいどんなものか食べにきた」
この人なら、きっと俺のラーメンを正しく判断してもらえる。そう期待して、自慢のラーメンを提供した。
「熱いので注意してお食べ下さい」
「なんだ。たったこれだけか。これで25ギルはぼったくりだろう。それにこれ、どうやって食べるんだ」
「一応、その箸を二つに割って、食べるのが正式ですが、そこのフォークとスプーンで食べて頂て、全く構いません」
彼はスプーンでスープを掬って、一口飲んだ。
「あちっ。なんだこの熱湯は。俺の舌を火傷させる気か。こんなものに金は払えん」
男は怒り狂って、そのまま店を出て行ってしまった。
結局、昼はその客が最後で、夜用の追加の仕込みも必要なく、そのまま店を開け続けることにした。
でも、開店休業状態で、一人も客が来ない。
カレンに手伝ってもらっていたら、何を言われるかわからなかった。
四時過ぎになって、漸く人間の女性が一人で来店した。
アラサーで高級品を身にまとい、品の良い立ち居振る舞いの美女だ。
カレンと少し似た顔立ちだが、漂うオーラは、正反対で気品がある。
こんな時間に独りで来るなんて、どんな人なんだろうと思ったが、結婚指輪をつけているので、主婦らしい。
「いらっしゃい。ラーメンしかないですが構いませんか?」
「そのラーメンを頂きに来ました」
彼女は、きょろきょろと辺りを見渡し、俺がラーメンを作っている所をじっと見て、出したラーメンの写真まで撮り、割りばしを手に不思議そうに眺めている。
「それは割り箸といって、二つに割って、こうやって持って、具材をすくう様にして食べるんです」
俺は、料理用の菜箸で、見本を見せた。
彼女は見様見真似で、箸を使って麺を一口食べた。
「美味しい。こんなの初めて」
そして、今度はスプーンを手にスープを飲んだ。
「こんな美味しい具材入りスープは見た事が無い。これはまさに食の革命ね」
そういって、箸とスプーンを交互に使って、嬉しそうに食べてくれた。
人間は味覚音痴だと、カレンはいっていたが、ちゃんと美味しさが分かるじゃないかと、嬉しかった。
彼女が美味しそうに食べる様子をつい見つめたくなるが、前世の失敗から、彼女を見つめるのはやめた。
「御馳走様でした」
どんぶりを見ると、スープを完全に飲み干していた。
嬉しいことだが、正直、スープを飲み干すのは身体に毒だ。過剰な脂肪摂取は肥満や動脈硬化のリスクになるし、一日の塩分摂取量を遥かに超えているので、高血圧や腎臓病の原因になる。
教えてあげようかとも思ったが、彼女もその辺の認識はあったみたいだ。
「美味しかったけど、これはとても身体に悪そう。油が多い上に塩も多く使っていて、栄養バランスが全くなっていない。これじゃ、病気になっちゃうわ」
そういって、IDカードで精算して帰って行った。
ちゃんと美味しいと評価してくれたが、おそらくもう二度と来てくれない気がする。
この世界の人間は、スチュワートさんが言っていたように、味よりも健康第一という考えがしみついているのかもしれない。
一体どうすればいいんだと、頭を悩ますことになった。
夜になると、酒を飲んで酔っ払っているからか、次々と来客があった。
全員、一口食べて、驚いていたが賛否両論。
凄く美味しいので、また食べにくると言ってくれた客もいれば、栄養バランスが取れていないとか、高すぎると文句を言う客もいる。
でも、皆、完食して、ほとんどの人がスープ迄飲み切ってくれたので、味は満足してもらえたみたいだ。
この日は、結局、一日十三食しかでず、大量の麺を無駄にすることになった。
翌日は、昼休み早々に客が来た。昨晩のお客さんが会社の同僚を連れてきてくれたのだ。
そして、客が沢山いるので、他の人も次々と入って来る。
割りばしを使う人はほとんどなく、ほとんどはフォークで食べるので、洗うのが大変だったが、昼だけで四十二食もでて、午後も追加で仕込みをする必要があった。
この日は結局、七十五食を売り上げ、三日目は五十食ずつ百食を準備したが、売り切れになった。
初日はどうなるかと心配だったが、順調に売り上げを伸ばしていけた。
だが、四日目からぱったり客足が遠のき、その日は大量に製麺したのに、僅か三十食しかでず、五日目は更に売り上げが下がってしまった。
「いったい、どうしたの。閑古鳥がないてるじゃない」
午後六時頃、遠征にでていたカレンが戻って来た。同行したパーティーメンバー四人も、引き連れて来てくれた。獣人ばかりの五人だ。
「いらっしゃい。それとお疲れ様。お客様扱いでいいんだよね」
「勿論、ちゃんとお金を払うわよ。それで、この状況は、どういうこと?」
「俺も良く分からないんだ。初日は散々だったが、順調に客がつきはじめていたのに、昨日から、急に客足が遠のいた」
「それって、もしかして有名人に酷評されたんじゃないのか」
カレンの隣に座った虎顔の獣人がそんなことを言い出した。
彼も人間に近いが、猫獣人より、獣に近いので、虎獣人なのかもしれない。
冒険者ギルドの紋章の金バッチをつけているので、A級冒険者だ。
もしかして、彼が、カレンの元カレのムックなのかもしれない。
もっと若い男だと思ったが、前世の見立てで五十代くらいのベテラン感漂う男だった。
「そういえば、美人女子アナが、食レポしする番組があったよな。確か金曜日の朝の番組」
金曜日と言えば、丁度昨日だ。おそらく、その所為に違いない。どんなこといったのか分からないが、ふと初日の四時頃に来た美女を思い浮かべた。
「その女子アナって、三十歳位の美女か」
「人間だから、年齢はよくわからんが、カレンと見た目が同じ位だから、六十歳は超えているんじゃないか」
俺にはアラサーにしか見えなかったが、この世界の人間の見た目は地球とは全く異なっている。カレンと見た目が同じくらいというのなら、やはりあの女で間違いない。
なら、栄養バランスが悪く身体に悪いとか、あんなのを食べたら早死にするとか、その食レポで酷評したに違いない。
この世界でも、評論家で苦しめられることになった。
「熱いので、くれぐれも火傷しない様にして下さいね」
そう言って、ラーメンを全員に提供した。
食べ方は、カレンが自慢気に見本を見せ、割りばしに苦戦しながらも、ふうふうしながら食べ始めた。
「これは美味い。こんな食べ物が世の中に存在するは奇跡だ」
「そうでしょう。あたいも初めて食べた時、感動した」
「でも熱すぎだ。これじゃ、ろくに味わえない」
「獣人用に温いラーメンが欲しいな。それと、やっぱりこれだけで25ギルは高すぎる」
「そうそう。いくら美味くても、単品で25ギルは高い。25ギル払うなら、いろんなものが食べたいな」
「あたいも、これだけで25ギルは高いと思うのよ。この半分でいいから、他のものも出して定食みたいにしてほしい」
カレンに言われて、半ラーメンセットという手があったと気づいた。
半ラーメンに餃子のセット。
以前は醤油がないからと諦めたが、工夫すれば、餃子のタレでなくても、美味しく食べられる方法は見いだせる。
セットメニューを出すなら、やはりチャーハンも欲しい。半ラーメン、半チャーハン、餃子数切れからなる定食のようなセット。これなら、この世界の皆にも受け入れてもらえる筈だ。
となると、問題は米。
米の入手は、諦めた経緯があるが、この国で生産している地方があるのだから、必ず入手できる筈。
俺は再び、米を入手する手段を真剣に考えるようになった。
そう思いながら、暖簾を掛けに行くと、なんと兎獣人のミミさんが、店が開くのを待っていた。
「やっぱり、ケンタさんのお店だったんだ。このチラシを見て、そんな気がして、来てしまいました」
今日はタートルネックのボディコンワンピ。やはりノーブラで、透け乳が見える。
「ありがとう。いらっしゃい」
「でも、この地図分かりずらいよ。どんどん商店街から離れていくから、本当にこのままでいいのか不安になっちゃった」
商店街の目印なる店名を書き込んでおくべきだったと反省した。
「御免、もう少し、分かりやすい地図にするべきだったね。直ぐにラーメンを作るから、中で待っていて」
急いで暖簾を掛けて、準備中の札を営業中にひっくり返し、店内に入って、ラーメンを作り始めた。
「随分、変わった店構えだね」
この店も、前世の蓬莱軒と同じ作りで、L字のカウンター席のみで、横六席と盾四席の十席しかない。
この世界の食堂は、皆、テーブル席なので、日本では当たりな店構えでも、珍しいのだ。
「でも、作ってるところを見られるのって斬新かも」
俺が、パン、パンと音を立てて、湯切りしていると、ミミさんがそんなことを言ってきた。
俺は、豚骨スープを入れたラーメン丼に、麺を入れ、メンマ、チャーシュー、ナルト、卵、ネギと、紅ショウガを載せ、「お待ちどうさま。熱いので火傷しない様に」と、彼女の前に差し出した。
「これがラーメンなんだ。ラーメンって、具だくさんのスープの事だったんだね」
箸の使い方を教えようと思ったから、テーブルの食器類収納箱からスプーンとフォークを取り出し、麺をフォークでふうふうして食べ始めた。
フォークで麺を食べる様子には違和感を覚えたが、女性が食事している所をじろじろ見るのは失礼なので、見ない様にした。
「これは、何。おもいしろ模様だね」
何だろうと見ると、ナルトだった。
「魚のすり身にジャガイモのでんぷんを入れて固めたもの。ネーデルで特別に作って貰ったんだ」
「これは、とても美味しい」
これは、と言うのが気になった。
そして、その後暫くして、「御馳走様でした」と彼女が席を立った。
見ると、麺がまだ残っているし、スープも全く減っていない。
「もしかして、口にあわなかった?」
「ううん、ダイエットしてるので、残しただけ。とても美味しく斬新だったよ。でも、少し油ほかったかな。それより、たまには店に顔をだしてよね」
彼女は、そう言って、IDカードで精算して出て行った。
だが、俺のラーメンをこんなに残されたことがショックでならない。
確かに、油が浮いていて、ひと目で高カロリーだとわかり、敬遠したくなる気持ちもわかるが、せめて麺だけでも、食べきって欲しかった。
獣人は、高いお金を出しても、美味しいものを食べたい種族と聞いていただけに、ショックが大きい。
その後、客が来ず、正午を過ぎても一人も入店してくれない。
何人かが、様子を見に来てくれ、中を覗くが、誰もいないからか、帰って行く。
十二時半頃になって、漸く二人のサラリーマンが店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
俺は、麺をゆで始め、カウンター越しに水を出した。
「日替わり定食」
客は辺りをきょろきょろと見渡すと、とんでもない注文をしてきた。
「申し訳けありません。うちはラーメンしか置いてないんです」
「日替わり定食もないのか。なんて店だ。出るぞ」
そういって、二人はそのまま出て行ってしまった。
麺が二つ駄目になったが、仕方がない。
その後も、店の前までは来るが、店内には入ってくれず、一時近くになって、漸く一人の熊獣人の労働者風の男がやってきた。
「いらっしゃいませ。ラーメンしかありませんが、いいですか」
「ああ、25ギルもする料理がいったいどんなものか食べにきた」
この人なら、きっと俺のラーメンを正しく判断してもらえる。そう期待して、自慢のラーメンを提供した。
「熱いので注意してお食べ下さい」
「なんだ。たったこれだけか。これで25ギルはぼったくりだろう。それにこれ、どうやって食べるんだ」
「一応、その箸を二つに割って、食べるのが正式ですが、そこのフォークとスプーンで食べて頂て、全く構いません」
彼はスプーンでスープを掬って、一口飲んだ。
「あちっ。なんだこの熱湯は。俺の舌を火傷させる気か。こんなものに金は払えん」
男は怒り狂って、そのまま店を出て行ってしまった。
結局、昼はその客が最後で、夜用の追加の仕込みも必要なく、そのまま店を開け続けることにした。
でも、開店休業状態で、一人も客が来ない。
カレンに手伝ってもらっていたら、何を言われるかわからなかった。
四時過ぎになって、漸く人間の女性が一人で来店した。
アラサーで高級品を身にまとい、品の良い立ち居振る舞いの美女だ。
カレンと少し似た顔立ちだが、漂うオーラは、正反対で気品がある。
こんな時間に独りで来るなんて、どんな人なんだろうと思ったが、結婚指輪をつけているので、主婦らしい。
「いらっしゃい。ラーメンしかないですが構いませんか?」
「そのラーメンを頂きに来ました」
彼女は、きょろきょろと辺りを見渡し、俺がラーメンを作っている所をじっと見て、出したラーメンの写真まで撮り、割りばしを手に不思議そうに眺めている。
「それは割り箸といって、二つに割って、こうやって持って、具材をすくう様にして食べるんです」
俺は、料理用の菜箸で、見本を見せた。
彼女は見様見真似で、箸を使って麺を一口食べた。
「美味しい。こんなの初めて」
そして、今度はスプーンを手にスープを飲んだ。
「こんな美味しい具材入りスープは見た事が無い。これはまさに食の革命ね」
そういって、箸とスプーンを交互に使って、嬉しそうに食べてくれた。
人間は味覚音痴だと、カレンはいっていたが、ちゃんと美味しさが分かるじゃないかと、嬉しかった。
彼女が美味しそうに食べる様子をつい見つめたくなるが、前世の失敗から、彼女を見つめるのはやめた。
「御馳走様でした」
どんぶりを見ると、スープを完全に飲み干していた。
嬉しいことだが、正直、スープを飲み干すのは身体に毒だ。過剰な脂肪摂取は肥満や動脈硬化のリスクになるし、一日の塩分摂取量を遥かに超えているので、高血圧や腎臓病の原因になる。
教えてあげようかとも思ったが、彼女もその辺の認識はあったみたいだ。
「美味しかったけど、これはとても身体に悪そう。油が多い上に塩も多く使っていて、栄養バランスが全くなっていない。これじゃ、病気になっちゃうわ」
そういって、IDカードで精算して帰って行った。
ちゃんと美味しいと評価してくれたが、おそらくもう二度と来てくれない気がする。
この世界の人間は、スチュワートさんが言っていたように、味よりも健康第一という考えがしみついているのかもしれない。
一体どうすればいいんだと、頭を悩ますことになった。
夜になると、酒を飲んで酔っ払っているからか、次々と来客があった。
全員、一口食べて、驚いていたが賛否両論。
凄く美味しいので、また食べにくると言ってくれた客もいれば、栄養バランスが取れていないとか、高すぎると文句を言う客もいる。
でも、皆、完食して、ほとんどの人がスープ迄飲み切ってくれたので、味は満足してもらえたみたいだ。
この日は、結局、一日十三食しかでず、大量の麺を無駄にすることになった。
翌日は、昼休み早々に客が来た。昨晩のお客さんが会社の同僚を連れてきてくれたのだ。
そして、客が沢山いるので、他の人も次々と入って来る。
割りばしを使う人はほとんどなく、ほとんどはフォークで食べるので、洗うのが大変だったが、昼だけで四十二食もでて、午後も追加で仕込みをする必要があった。
この日は結局、七十五食を売り上げ、三日目は五十食ずつ百食を準備したが、売り切れになった。
初日はどうなるかと心配だったが、順調に売り上げを伸ばしていけた。
だが、四日目からぱったり客足が遠のき、その日は大量に製麺したのに、僅か三十食しかでず、五日目は更に売り上げが下がってしまった。
「いったい、どうしたの。閑古鳥がないてるじゃない」
午後六時頃、遠征にでていたカレンが戻って来た。同行したパーティーメンバー四人も、引き連れて来てくれた。獣人ばかりの五人だ。
「いらっしゃい。それとお疲れ様。お客様扱いでいいんだよね」
「勿論、ちゃんとお金を払うわよ。それで、この状況は、どういうこと?」
「俺も良く分からないんだ。初日は散々だったが、順調に客がつきはじめていたのに、昨日から、急に客足が遠のいた」
「それって、もしかして有名人に酷評されたんじゃないのか」
カレンの隣に座った虎顔の獣人がそんなことを言い出した。
彼も人間に近いが、猫獣人より、獣に近いので、虎獣人なのかもしれない。
冒険者ギルドの紋章の金バッチをつけているので、A級冒険者だ。
もしかして、彼が、カレンの元カレのムックなのかもしれない。
もっと若い男だと思ったが、前世の見立てで五十代くらいのベテラン感漂う男だった。
「そういえば、美人女子アナが、食レポしする番組があったよな。確か金曜日の朝の番組」
金曜日と言えば、丁度昨日だ。おそらく、その所為に違いない。どんなこといったのか分からないが、ふと初日の四時頃に来た美女を思い浮かべた。
「その女子アナって、三十歳位の美女か」
「人間だから、年齢はよくわからんが、カレンと見た目が同じ位だから、六十歳は超えているんじゃないか」
俺にはアラサーにしか見えなかったが、この世界の人間の見た目は地球とは全く異なっている。カレンと見た目が同じくらいというのなら、やはりあの女で間違いない。
なら、栄養バランスが悪く身体に悪いとか、あんなのを食べたら早死にするとか、その食レポで酷評したに違いない。
この世界でも、評論家で苦しめられることになった。
「熱いので、くれぐれも火傷しない様にして下さいね」
そう言って、ラーメンを全員に提供した。
食べ方は、カレンが自慢気に見本を見せ、割りばしに苦戦しながらも、ふうふうしながら食べ始めた。
「これは美味い。こんな食べ物が世の中に存在するは奇跡だ」
「そうでしょう。あたいも初めて食べた時、感動した」
「でも熱すぎだ。これじゃ、ろくに味わえない」
「獣人用に温いラーメンが欲しいな。それと、やっぱりこれだけで25ギルは高すぎる」
「そうそう。いくら美味くても、単品で25ギルは高い。25ギル払うなら、いろんなものが食べたいな」
「あたいも、これだけで25ギルは高いと思うのよ。この半分でいいから、他のものも出して定食みたいにしてほしい」
カレンに言われて、半ラーメンセットという手があったと気づいた。
半ラーメンに餃子のセット。
以前は醤油がないからと諦めたが、工夫すれば、餃子のタレでなくても、美味しく食べられる方法は見いだせる。
セットメニューを出すなら、やはりチャーハンも欲しい。半ラーメン、半チャーハン、餃子数切れからなる定食のようなセット。これなら、この世界の皆にも受け入れてもらえる筈だ。
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