私って何者なの

根鳥 泰造

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第一章 独りぼっちのメグ

冒険者ギルドに入ったものの

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 王都の正面入口の門を入ると、凄い賑わいで、馬車も走らせれないほどに、人が溢れていた。それでも、徐行してゆっくりと走り、数分で目的地の鍛冶屋に到着し、炭を納品した。
 リュウの作る炭は、かなり良質で火力が強いそうで、鍛冶屋の大将は追加注文まで出していた。
 配達は週三回らしく、馬車で片道一時間も掛けて通うのは大変だし、時間の無駄。炭作りは町でできないとしても、もっと近くに住めばいいのにと言うと、良質な木炭の原料となる木材が、あの周辺でしか手に入らないのだと教えてくれた。
 この日の納品先は、全部で五軒。鍛冶屋だけでなく、ガラス工房、パン屋や料理店にも納品し、注文先を全て回り、全ての荷下ろしを済ませた。
「ほら、お駄賃代わりた」
 リュウが出店屋台で買った猪肉の串焼き二本の内の一本をくれた。
「それじゃあな。立派な魔法剣士になれよ」
 メグが頭を下げてお礼をすると、リュウは串焼きを食べながら馬にまたがり、空の荷車を引っ張って、走り去った。
 肉は固かったけど、とても美味しかった。

『まずは、宿屋の代金を確認しておきましょう。キース村より、物価がかなり高いと思いますので』
 セージの助言に従い、冒険者ギルドを探しながら、宿屋に立ち寄り、ついでに飯屋や服屋、武器屋、防具屋等にも立ち寄り、王都の街を見て回った。
 物価はかなり高いけど、欲しいものが何でもそろっていて、活気がある。
 それに、キース村とは違い、王都の建物は、ほとんどが二階層建て。立派な門構えの大きな庭付きの屋敷や、かなり大きな寺院、公園、市場なんかもあり、沢山の人で賑わっていた。
 といっても、夢で見た私の故郷とは、比較にもならない。
『王都といっても、大したことないわね』
『えっ。凄い人込みじゃないですか。あの王宮なんて、見事なものだ』
『セージ、どういうこと? 私の故郷とは月とすっぽんほど、見劣るでしょう』
『記憶が戻られたのですか。ですが、ひいき目に見ても、我が国は、このモーリー王国の足元にも及びません』
 それを聞いて、何が何だか分からなくなった。あの夢の世界は、私の故郷ではないということ? じゃあ、あれは何だったの?

『どうやら、あれが冒険者ギルドみたいです』
 セージから、いろいろと訊きたい事があったけど、冒険者ギルドに着いてしまった。

「新規に冒険者登録したいんですけど」
「では、これに記入して、提出してください」
 そんな訳て、名前と年齢、職種、特技を記入して提出した。職種は、魔法剣士ではなく、魔導士。特技は治癒魔法としておいた。
 治癒魔法がつかえる白魔導士なら、冒険者はチームの一員に欲しがるはずだし、後方支援で安全な位置に陣取って、戦いを避けることができるから。

 三十分程待たされて、「メグさん」と漸く名前を呼ばれた。
「これが、冒険者の証となります」
 金属プレートの付いたネックレスを渡された。鉛のプレートで、『メグ 15』と刻印されている。名前の後ろの数字は、年齢らしい。
「プレートの質は冒険者ランクを現わしていて、白金、金、銀、青銅、黄銅、鉄、鉛と、プレートからランクが分かる様になっています。現在は見習い冒険者のFランクなので鉛製ですが、依頼を一つでも熟せば、直ぐにEランクの初級冒険者で、鉄プレートと交換します。
 このプレートは、冒険者の身元確認用でもありますので、依頼を熟す際には、必ず首から下げていて下さい。また、昇格時は、プレート交換が不可欠ですので、紛失しない様にしてくださいね。紛失された場合の再支給は、有料となります。
 次に、冒険者ランクの昇格について、説明します。昇格は、依頼を熟すともらえるポイントを貯めていき、積算ポイントが各ランクの昇格点ラインを超えると、昇格資格を獲得でき、冒険者が申請することで、昇格することができます。
 昇格ポイントは、依頼書の証明事項に記載してある証拠品を納品した時点で、依頼達成となり、依頼を受注した冒険者にポイント加算されます。パーティーを組んで、何人で熟しても、加算されるのは依頼した冒険者のみというのが原則です。例外として、依頼達成はしたものの、受注者が死亡した場合に限り、その依頼者のプレートを持参した人にポイント加算することになります。
 説明は以上ですが、なにか、分からないことがありますか?」
「依頼は、あそこの掲示板の依頼なら、どれでも受けられるですか?」
「はい、見習い冒険者に限り、安全のため、難易度星なしの制限を設けさせてもらっていますが、Eランク以上になれば、どれでも好きな依頼を受けられます。ただ、無謀な挑戦は、命を落としかねないので、報奨金と難易度を参考に、適当なパーティーを組んで、挑戦するようにして下さい。他にご質問はありますか? 今はなくても、いつでも説明させて頂きますので、疑問なことがあれば、お気軽にお声かけ下さい」
 そういうことで、早速、星なし難易度の依頼を受注した。
 といっても、星なし依頼は、野犬や猪等の動物駆除の依頼ばかりで、魔物狩りなんてない。とりあえず、十匹の猪狩りの依頼を受けた。
「討伐した猪の肉は、どうしたらいいですか?」
「依頼達成の納品は、牙二十本ですので、それ以外は、好きにされてかまいません。持ち運びが大変ですが、肉屋に売却してもかまいませんよ」
 メグが猪駆除を受注したのは、昼に貰った串焼きが美味しかったので、駆除ついでに食べたいと思ったから。夕食代も浮かせることができるという目論見もあった。

 この程度なら、パーティーを組む必要もないので、直ぐに独りで討伐に出かけた。一文無しなので、今日中に任務完了させないと、野宿せざるを得ないという事情もある。

 王都から徒歩で二十分程の距離に、依頼者の農村があり、話を聞くと、そこの裏山に、沢山の猪が住み着いていて、山から下りてきて、農作物を荒らすという。
 その山に向かう途中、裾野の草原に、早速、猪の群れを発見した。
 得意の魔法で、八匹の猪を倒すことができた。
 討伐の証拠として、猪の牙をとり、その一匹を石で作ったナイフで解体して、五百グラム程、肉を取り、少し早いけど、夕食を取った。
 そして、残り二匹の討伐に、山へと入って行ったが、猪が見つからない。
 結局、この日は八匹までしか討伐できず、夜遅くに、農村に戻り、そこの一軒の農家の牛舎で、寝させてもらった。
 
 翌朝、八匹を狩った当たりの草原で、猪五匹の群れを見つけ、無事任務完了。
 冒険者ギルドに戻り、報奨金を貰い、鉄のプレートに交換してもらった。
 報奨金は、五万クルーゼ。五日位は、普通に生活できるだけの収入を得た。
 でも、下着や服、ナイフ、剣、防具、リュック等を揃えると、何も残らない。
 とりあえず、ナイフと防具は諦めて、作務衣から冒険者らしい服に着替えて、次の依頼を受けに、冒険者ギルドに向かった。

 魔物の森の依頼は、報奨金もぐっと上がるが、星三つ以上と難易度も高くなる。
 まずは、星一つの依頼に絞って、探していたら、狼の群れ討伐があった。出現場所から見ても、あの時の狼の群れに違いない。
 既に、あの素早い動きのボスはいないけど、あの統率された狼の群れ退治が、星一つの難易度とは驚かされた。
 今の実力なら、この辺が妥当かもしれないけど、一人では任務達成は難しい。ここから先は、誰かとパーティーを組まないと厳しいと判断した。

「パーティーを組みたいんですが、どうすればいいんでしょう」
「左の掲示板は、冒険者同士のコミュニケーションに使われています。そこに、どういう人材が欲しいのかと、連絡方法とを書いて、貼り出せばいいと思います。既に、魔法師の方の募集も張り出されていますので、そのパーティーに入り、あなたの依頼も手伝って欲しいと交渉する手もあります」
 早速、その掲示板に出ている魔導士をメンバーに欲しいという募集に、応募することにした。

 張り紙にあった連絡先を頼りに、その人の家に行くと、ロープを羽織った女性が現れた。
 魔導士募集の張り紙を見てきたと話すと、寝室に案内してくれ、ベッドの上に、パンツ一丁で胡坐を掻いて、募集を出した男が座っていた。
 どうやら、昼間から、エッチな行為をしていたらしい。
 胸に魔物に引っかかれたような爪痕の古傷のある筋骨隆々の逞しい男で、一流の冒険者にちがいないけど、こんな人とは組みたくないなと思った。
『偏見はいけません。こういう男は、仕事のオンオフを分けていて、仕事をきっちり熟すタイプです』
 セージの助言もあり、一度一緒に仕事をしてみようと、考え直した。
 ここに案内してくれた女性が、その男に耳打ちすると、男は大声で話し始めた。
「お前みたいな女のガキが魔導士だって。俺たちが欲しいのは、治癒魔法も使える魔導士だ。出直してきな」
「治癒魔法は得意だ。証明してもいい」
「治癒魔法を使えるだって。熟練者しかイアーソの精霊とは契約してもらえない筈だが……。まあ、いい。冒険者ランクは?」
 鉄のプレートを見せると、その男は大笑いした。
「俺たちは、魔物の森で、B級の魔物を狩りにいくんだ。Cランクはないと、直ぐに死ぬことになる。治癒魔法が使えるとしても、足手まといだ。ランクを上げてから、出直して来な」
 クールタイムの問題はあるけど、後衛なら、常に攻撃を受けることもなく、魔物の攻撃だって交わしてみせる。
 そう思ったけど、反論はせず、素直に、その場を立ち去ることにした。

 もう一つ掲載されていた魔導士募集の人とも面会したが、やはり、Eランクでは相手にしてもらえなかった。
 やはりCランクはないと、強いパーティーには入れても貰えないらしい。

 仕方なく、戦士系冒険者募集の張り紙をだすことにしたが、はやり誰も来てくれない。
 そうこうしているうちに、お金も底をつき、次の依頼を受けなければならなくなった。

 この日、掲示板を確認すると、星一つの魔物討伐依頼が二つあった。
 一人なら、獣退治の方が無難とは思ったけど、魔物討伐の方が報奨金が高く、魅力的。
 それに、魔物討伐と言っても、魔物の森ではなく、ここから徒歩で半日程のダンジョンの様な洞窟の魔物退治と、二時間程の距離の廃墟に住み着いた魔物の討伐依頼。

 早速、どんな魔物なのか、尋ねてみると、洞窟の方は、いろんな種類のE級、D級魔物が沢山いるとの話で、これは一人では大変そうだし、野宿する必要があるので、パスすることにした。
 もう一つの廃棄の魔物の方は、正体不明なんだとか。
 近くを通った行商人が、何人も襲われて、殺されたり、食べられてしているものの、生存者がなく、どの程度の魔物なのか一切分からないのだそう。
 ただ、鳥につつかれた様に、内臓を食べられている死体が発見されていて、そこに大きな鳥の羽が落ちていたことから、鳥型のD級魔物の可能性が高いと判断しているのだとか。
 鳥型魔物だと素早くて、魔法を当てづらい気はするけど、一匹だけなら一人でも何とかなりそう。
 メグは、甘く考えて、その依頼を受注した。

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