私って何者なの

根鳥 泰造

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第一章 独りぼっちのメグ

凄い剣士さんだったのね

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『お早うございます。見慣れない衣装ですが、お似合いです。無事、牢から逃げられたと理解しましたが、何をされているのでしょう』
 早朝、薪割りをしていると、セージが話しかけてきた。
 今は、作務衣という作業着を着ている。男物の、昨晩私を助けてくれたリュウという男のお古だけど、袖もズボン丈も紐で調整でき、なかなかに優れもの。
『もう、肝心の時にはいつもいないんだから。変な中年男に助けてもらったんだけど、一宿一般の恩義を返せとかで、こんなに沢山の薪割りをさせられているの』
 掌がひりひり痛くて、イライラしていて、不愛想に応えた。
 ヒールを掛けても掛けても、手の豆が直ぐに剥け、腕も痛くなってきて最悪な気分。
『とういう事は、その男、山賊か何かで、その男の下僕にされたというわけですか?』
「違うわよ。助けてくれたのはミロのお姉さんで……」
「おい、休むな。物々と独り言で文句を言っても、仕事は終わってくれないぞ」
 リュウが、家の中から顔を出した。
「まだそんなに残ってるのか。仕事が遅いぞ。それが全部終わるまで飯はなし。働かざる者、食うべからずというだろう」
 造った炭を、今日、王都に納入に行く予定だそうで、ついでに、王都まで連れて行ってくれることになっているけど、本当に鬼だ。
『まさか、ヤポンのリュウ将軍。生きていたのか』
『セージは、知ってるの?』
 どうやら私が生まれた頃に、ロンブル帝国によって滅ぼされてヤポン国という小国の総大将だった大将軍らしい。
 あんな距離から、クナイという小刀を投げ、急所に命中させたので、只者ではないとは思ったけど、納得がいった。
『ねぇ、何か一瞬で薪割りできる魔法はないの?』
『そんな便利な魔法はありませんが、身体強化魔法というのならあります』
 もしかして、ミロの姉がしていた様な、筋肉もりもりの化け物になる魔法かと思って躊躇したけど、普通の姿のまま、力が沸き上がり、ついでに時間魔法スロウも掛けて、作業を効率よくこなすことができた。
 因みに、セージによると、獣人の中には、バーサク化というのができるものもいるらしく、彼女はバーサーカーとなって、数倍の力を発揮したのではないかという話だった。

 そんな訳で、何とか任された薪割りを全て終え、朝食を食べることができた。
 沢庵という大根を加工したものと、卵焼きと、味噌汁というスープに、ご飯という穀物を煮たものだったけど、全てとてもおいしく、懐かしい気さえして、何故か涙で目が潤んでしまう程だった。

 王都は、馬車で、一時間程の距離だそうで、炭を載せる作業も手伝わされた。
 そして、荷台に乗せてもらい、王都へと向かったけど、馬に二輪の荷車を引かせているだけなので、身体が上下に揺れて、乗り心地は最低。
 乗り物酔いをして、気持ち悪かったけど、荷台の上から、声を掛けた。
「リュウさんて、もしかして、ヤポン国の大将軍だったリュウさんなの」
「よくそんな滅びた小国の事を知っていたな。人違いだと言いたいが、その通りだ。こんなところで生き延びて、隠遁生活をして、今は炭焼きのリュウに落ちぶれているがな」
「なら、私に剣技を教えてくれない。冒険者になろうと思ってるんだけど、魔法だけだと限界があるから」
 昨日、セージと相談して、冒険者ギルド登録をすることに決めた。最初は女給のような仕事を考えていたけど、魔法を行かせる仕事だと、冒険者が適当な様に思ったから。
 ただ、魔法にはクールタイムの問題がある。
 そこにリュウが現れ、丁度いいかと、剣技を教えてもらおうと考えた。
「お断りだ。弟子を獲る気はないし、金を貰っても、教える気は毛頭ない」
「けち。じゃあいい。パーティーを組んで、戦えばいいだけだもの」
 断られると予想していたので、さほど落胆はしない。もとから、誰かと組む気でいた。ただ、人間は信用できないと学習したので、信用できる冒険者を見つけるまでの保険として、一人でも戦えるようにしておきたかった程度。
「ああ、そうしてくれ。ただ、C級以上の魔物はかなり手ごわい。昨晩の実力なら問題ないが、正直、お前の実力を測りかねている。薪割りはあまりに酷かったからな。荷下ろしも手伝うなら、お前が魔法剣士として通用するか、見たやってもいいぞ」
『メグ様、こんないい機会はありません。どの程度、戦えるのか、試してみましょう』
 そんなわけで、王都も見えていて、後十分程で、王都に着くけど、リュウと手合わせすることした。
 
 リュウは、その辺に落ちていた三十センチほどの太めの枝を拾うと、その枝をメグに向けて、自然体の構えをとる。
 メグは、セージに身体強化魔法をかけてもらい、昨晩木刀代わりにした杖を構え、そのまま無詠唱で、次々と魔法を連発する。
 なのに、リュウは、素早い捌きで、全ての攻撃を交わす。アイスアローという範囲攻撃のつららの乱れ打ちすら、素早くステップして、交わしきれなかったものだけ、枝で叩き落とした。
「これだけの魔法を次々と繰り出せる技量をもつ魔導士を俺は見たことが無い。若いのにたしたものだ。だが、そろそろ魔法も尽きる頃だろう。お前の剣技を見せてみろ」
 あんなに激しく動いて、一分近くも交わし続けていたのに、息一つ乱さずに余裕でいる。
 予想をはるかに超える剣豪だった。
 まだ、火炎弾ファイアが打てるけど、敢えて残し、三分の一時間圧縮の時間魔法を発動し、飛び込んだ。
 実時間で一分程しか効果はないけど、その一分間は、三倍速で動ける。
 一気に飛び込んで切りつけたからか、油断していたのかは分からないけど、彼は跳び退かなかった。
 なのに、思いっきり振り下ろした筈の木刀は、なぜか彼に当たらず空を切った。
 もう一度、切りつけたが、やはりほとんど動いていないのに、当たらない。
 でも、二太刀目で当たらない理由が分かった。彼は、その場からほとんど動いていないけど、枝を木刀に押し当てて、剣筋をわずかに逸らしている。
 私程度の振り下ろし力なら、その程度のことで、剣筋を変えることができるらしい。
 ならばと、今度は横切りしてみた。流石に、多少の軌道ずらし程度では、交わしきれないと判断したのか、今度は大きく跳び退いて交わした。
 でも、縦切りは、太刀筋を逸らし、最小限の動きで回避する。
 無駄な動きを一切しないので、リュウは疲れを見せないが、メグの方は、次第に激しい息づかいに変わっていく。
 メグからしてみれば、三分間も攻撃し続けていることになるので、息が荒くなってもしかたがないことだが、全て交わされると、焦りも加わり、尚更息が荒くなる。
 もうすぐ時間魔法の効果が切れるという直前、メグは一か八かの作戦に打って出る。一度も使ったことが無く、セージですらできない鉄の生成魔法を試みて、木の杖の先端に鉄の塊を生成させたのだ。
 そして、そのまま渾身の一撃を繰り出した。
 リュウは、これも枝で交わそうとするが、今度は重く、軌道を逸らせない。
 だがリュウは、あの狼を遥かに凌ぐ速度で、横に跳び退いて、寸での所で交わした。
 メグは、この瞬間を待っていた。跳び退いてから着地するまでの一瞬は、無防備で、攻撃を交わせないからだ。
 だから、木刀を振り降しつつ、この瞬間のために頭の中で詠唱していた。
 飛び退いた瞬間に、片手を木刀から放し、リュウの方を向けることもしていた。
「ファイア」
 この瞬間のために取っておいた最後の攻撃魔法で火炎弾を放つ。
 なのにリュウは着地寸前に身体を丸くするようにして、そのままその場にしゃがみ込んみ交わした。
 そして、そのまま伸び上がると、メグの首を目掛けて、枝を突き出し、当たる寸前でぴたりと止めた。
「いい攻撃だ。これなら、合格どころか、A級冒険者にだってなれる可能性がある。ただ、足さばきがなってないし、剣を振る時の脇もあまい。身体強化魔法を掛けても、あんなに素早く動け、速く木刀を振れるのか理解できんが、大したものだ。頑張れよ」
 そう言って、枝を投げ捨てて、不用心に振り向いて馬車へと向かう。
 隙だらけに見えるけど、きっと今打ち込んだとしても、交わされるに違いない。
 全くかなわなかった。魔法補助がなくても、人間はあんなに素早く動けるものなんだ。
 一流の冒険者になれると言ってもらえたけど、それはスロウラの時間魔法を使ったから。そのため、次の攻撃魔法を使えるまで、一分強の無防備時間ができてしまう。
 スロウで、今程度の攻撃ができないと、とてもじゃないけど、強い魔物を相手にすることはできない。やはり、私は後方支援に徹するべきだ。
 メグはそう自覚した。

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