私って何者なの

根鳥 泰造

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第一章 独りぼっちのメグ

サバイバルは確かに命がけのものだけど

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 辛うじて、奴隷商から逃げおおせたけど、おなかはペコペコだし、この臭い服もなんとかしたい。
 そんな事を考えながら、月明かりの中を彷徨い歩いていると、川の音が聞こえてきた。
 その音を頼りに歩いていくと、小川に出た。川幅、二メートル程の小さい川だけど、魚が泳いでいるのが見えるし、タニシの様な貝も沢山いる。
 メグは、誰もいないのをいいことに、臭い麻袋の服を脱ぎ捨て、全裸になって川に飛び込んだ。
 水は冷たかったけど、身体や髪を洗い、川に潜って、魚を手づかみで捕まえようとも試みた。でも、当然、手づかみでは逃げてしまう。時間魔法を再度試みるも、やはり使えない。
 結局魚は諦め、貝を沢山集めて、その貝を食べることにした。

 生のままでは、お腹を壊しかねないので、煮て食べたいなと、メグは全裸のまま、近くの林に入っていって、枯れ木を集めた。
 再び河原に戻り、魔法で火を起こして、その枯れ木を燃やしたが、煙が黙々と上がりだし、小枝は燃え尽きるも、太い木は燃えずに消えてしまう。
 完全に乾燥している小枝なら問題ないけど、まだ乾燥しきっていない木では、煙ばかり出て、火が点かないと学習した。
 どうしよう。
 メグは、魔法の応用を試みることにした。本当に魔法の天才なら、水魔法と治癒魔法とを組み合わせて、乾燥させる魔法も使えるのではないかと考えたのだ。
 木の細胞に働きかけて、細胞を逆に破壊し、その細胞から出た水分を激しく振動させて、外部に移動させるイメージを抱いて、乾燥魔法の構築を試みた。一時間位、試行錯誤して試していると、本当に木から、湯気が出てきて、木を乾燥させることに成功した。
 魔法って凄いし、面白い。

 そうしてできた乾燥した木を使い、再び、火炎魔法で火をつけると、今度は勢いよく火が付き、煙も出なくなった。
 問題は、この貝をどうやって食べられる状態にするか。
 鍋の代わりになるものを探したけど、何もなかったので、煮ることは諦めたけど、そのまま火の中にくべると、真っ黒こげの炭になってしまう。
 そこで、今度は木を円形状に配置して、遠赤外効果で、焼くことにした。
 これは大成功。木が近すぎたのか、一部焦げてしまったものも出たけど、ほとんど焦げることなく、程よく焼くことができた。
 お腹がペコペコだったので、塩味がないのが残念には思ったけど、美味しく頂き、五日ぶりのたんぱく質に満足できた。
 腹が満たされると、眠くなる。
 メグは、そのまま一寝入りして、朝を迎えた。

 朝日が、メグに降り注ぎ、彼女は眩しそうに目をひらく。
 そして、身体を起こすと、天に手を突き出す様に伸びをした。
「よし、今度こそ、魚をつかまえるぞ」
『メグ様、おはようござ……。その格好は……。はしたない。服を着て下さい』
「いいじゃない。あんなの着たくないし、誰も見てないんだから」
『いや、私はメグ様の視覚を共有しておりますゆえ、後生ですからお洋服を』
 メグは渋々、昨晩、洗っておいた麻袋を着て、改めて魚を獲りに向かった。
 セージに手伝ってもらえば、時間魔法を発動でき、簡単に魚を手づかみできた。
 人に精神を乗っ取られると、気分が悪くなるけど、そのお蔭で、何が悪かったのか、少し分かった気がした。
 三分近いクールタイムがあるので、本当に使える様になったのか、直ぐに確かめることはできないけど、この魔法が自在に使えたら、ウサギや鳥なんかも捕まえられそうと考えた。

 そして、魚に細い枝を串代わりに刺して、中央に立て、昨晩同様に並べて、火をつけると、またセージの声。
『流石はメグ様。もう詠唱もなしに火を操れるのですね。流石です。ですが、魚には塩を振って焼いた方がよろしいかと思います』
 なんと、塩を作り出す魔法もあるのだとか。
 これも私が生み出した新魔法で、すべての物質は、原子構造を適切な並べればできるとかで、塩程度の単純な構造のものなら、生成できるそう。
 講義を受けて、実践すると日が暮れるので、セージの助けを借りて塩を作り、塩焼きにして魚を食べた。塩味だけだけど、涙がでるほどおいしく感じた。
「ねぇ、その生成魔法で、服とか作れないの?」
『原理上、不可能ではないと思いますが、私が作れるのは塩ぐらいで、以前のメグ様は様々な鉱物なんかも作り出しておりましたが、それより複雑なものは上手くできておりませんでした』
 食料は、なんとか調達できるけど、問題はこの服。横からだと、胸がみえるし、丈もなんとか隠れる程度で、前かがみになるとお尻が見えてしまう。
 誰もいないここなら、恥ずかしくないけど、人里に向かうとなると、この恰好ではいられない。

 そんな訳で、今度は林に行き、葉っぱや茎を沢山集め、麻袋に絡ませるように編み込んで、取り付けた。
 横に緑のストライプがあり、裾も緑色のレースが配してある膝上二十センチくらいのワンピースの様になった。
 少し素肌が透けて見えるけど、これなら、人に会っても、さほど恥ずかしくはない。

 メグは、王都を目指すことに決め、街道に戻り、王都の方向に歩き始めた。
 王都は、この街道を進むと、馬車で一日程だが、徒歩ではその日のうちに着くのは困難だ。
 村の様な人里も見つからないまま、日没となり、道から少しそれた林で、野営することにした。
 川からはかなり離れていたが、湧き水が湧いている場所を、なんとなくわかる様になっていて、それを見つけ出して、水を確保できたし、食料も確保できた。
 もう時間魔法も詠唱なしに使える様になっていたので、うずらの様な野鳥を見つけると、十分の一時間圧縮の魔法を発動し、その鳥を手づかみで捕まえ、丸焼きにして食べた。
 メグは、もうサバイバルを生き残れる野生児だ。
 
 その深夜、なにやら狼の遠吠えの様な声が聞こえた気がして、目を覚ます。
 月明かりが雲に隠れ、暗くなると、無数の目が光っていた。
 狼か野犬かは知らないけど、周りを無数の動物に囲まれている。
 
 火炎放射や、かまいたち、つらら落とし等を繰り出して、追い返せればいいけど、これらの攻撃魔法は、クールタイムが三分程ある。
 一通り、繰り出してしまったら、クールタイムが終わるまで、完全に無防備。

 なら、時間魔法で、逃げ出そうか。全速力で走れば、五秒で三十メートル位は引き離せる。けど、相手は足の速い動物。クールタイムの間に、直ぐに追いつかれて、襲われるのは必至。
 でも、時間魔法は、時間圧縮率により効果時間が変わる。十分の一圧縮のスロウガなら五秒だが、三分の一のスロウラなら三分、二分の一のスロウなら六分位は効果が持続する。
 幸い、木刀代わりに使える木の杖も、手元にある。
 攻撃魔法のクールタイムタイムの間、スロウの時間魔法で、敵を凌ぎ、再び、攻撃魔法を繰り出せば、獣が諦めて帰ってくれる気がしてきた。

 そして、髪の毛で視界が遮られない様に、ポニーテイルに結わき、臨戦態勢を取って、にらみ合いをつづける。
 暫く膠着状態が続き、ボス狼の遠吠えで、一斉に狼達が襲い掛かってきた。
 メグが、次々と攻撃魔法を繰り出すと、狼もびびり、後ずさりを始める。
 でも、今度は静観していたボス狼が襲い掛かってきた。
 時間魔法を使い、木刀で撃退しようとするも、二分の一圧縮程度では足りない。ボス狼の動きは予想以上速く、交わすのが精いっぱいで、木刀を当てることができない。
 しかも、他の狼達も、ボスに触発され、攻撃を開始してきた。
 こうなると、もうどうにもならない。爪や牙で、何か所も服ごと引き裂かれた。
 幸い、実時間の三分が過ぎ、火炎放射フレイムスロワを発動でき、狼たちと再び小康状態になった。
 その間に、治癒魔法ヒールを自分にかけて、傷を癒す。
 
 だが、再び月が雲に隠れると、ボスの遠吠えが聞こえ、総攻撃を仕掛けてきた。
 まるで、攻撃魔法が尽きるのを知っているかのように、全ての魔法を出し尽くすのを待って、今度はボスが精鋭の四匹を従えて襲い掛かってきた。
 流石に、二分の一圧縮スロウではやられると判断し、一か八か、三分の一圧縮スロウラで迎撃に入る。
 今度は、攻撃をかわしつつ、木刀を当てることができる。ボスは流石にそれでも致命傷にならないように交わして来たが、残りの四匹は、木刀を浴び、すごすごと逃げ出した。それでも、ボス狼はあきらめず、眼前で隙を伺っている。
 スロウラの効果時間は、わずか三分。実時間にすると一分に過ぎない。
 効果時間が過ぎて、全ての魔法がクールタイムに突入し、攻撃魔法が使えるようになるのを待っていたが、その前に、ボス狼が襲ってきた。
 絶体絶命と思った瞬間、どこからかナイフが飛んできて、ボスの首に突き刺さった。
 メグは、ボスに体当たりされた形になって倒されたけど、既に絶命していて、噛まれずに済んだ。
 ボスが敗れたのを見て、他の狼達も、一斉に引き上げていく。
 助かった。

「坊主、大丈夫か」 一人の男が近づいてきた。
 作務衣に陣羽織を羽織った、四十歳位の中年だ。
「おや、お嬢ちゃんだったか、これでも着なさい」
 その男は防寒具の上着を脱いで渡してくれ、漸く今の恰好に気がついた。
 着ていた麻袋が裂けていて、片乳が見えている。
 男性に見られてしまったと思うと、猛烈に恥ずかしい。
「なかなかの魔法剣士だったので、てっきり男の子だと思ったが、こんな美人のお嬢ちゃんだったとはな。とりあえず、私の家まで来なさい。変なことはしないから」
 怪しいとは思ったけど、命の恩人でもあるので、素直についていくことにした。

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