私って何者なの

根鳥 泰造

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第一章 独りぼっちのメグ

リベンジするに決まってるでしょう

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『お嬢様、お嬢様』
 セージの声がうるさいほど聞こえて、目を覚ました。
『よかった。上手く治癒魔法ヒールが掛かったみたいですね。お体は大丈夫ですか?』
 既に魔物の腹の中だと思っていたのに、ちゃんと生きていた。
「ここはどこ? あの魔物はどうしたの?」
『そう言われましても、あの地下室でないのは確かですが……。あっ、この景色に見覚えがあります。おそらくですが、寺院の裏の墓地ではないかと思います。何が起きたのか正直分かりかねますが、転送されたようです』
 転送魔法は、大変な準備が必要で、簡単には発動できないと言っていたのに、一体誰がどうやって、こんな事をしたのか、不思議でならない。
 けど、そのお蔭で命拾いした。
『そうでした。傷口を確認してください。手が傷口に添えてある感触があったので、一か八かで、勝手にヒールを掛けさせて頂きましたが、傷は完全に治っていますでしょうか』
 胸を確認すると、服は避けて酷い状態だけど、傷は消えていた。
『本当に良かった。勝手に魔法発動させて頂きましたが、そのままでは死んでいたかもしれませんので、ご容赦下さい。それより、早くお逃げ下さい。既に二分程経過していますので、魔物はここを見つけ出し、やってくるのではと思います』
 お礼を言いたいけど、恩着せがましい物言いが気に入らない。
「セージ。お腹が空いた。魔物が来る前に食事にしましょう」
『まさか、まだ依頼を遂行するつもりですか?』
「当然でしょう。敵の攻撃が分かったから、しっかり作戦を練って、討伐するわよ」
 
 そんな訳で、こっちを覗いていた狸を落雷サンダーボルトで捕まえて、持参した鍋で狸汁を作った。
 そして、空腹を満たしながら、セージと二人で作戦を練った。
 魔法が一切効かないので、剣で攻撃するしかないけど、鷲の素早さには閉口する。三倍速でも、防がれそうな程、余裕で受けていた。
 十倍速スロウガなら、交わせない筈だけど、僅か五秒では致命傷は与えられない。
 それに、あの鷲の風圧攻撃が最大の問題。
 虎の一撃は強烈だけど、態勢さえ崩していなければ、なんとか交わせた気がする。三倍速スロウラなら、余裕でかわせる。
 まず、あの羽を剣で切り落とす必要があるけど、背後から襲わせてなんかくれるわけはなく、正面から切り込んでも、あの嘴で防がれてしまう。
『もしかしてで、確証はありませんが、魔法防壁を展開している時は、動けないのかもしれません。魔法攻撃で動けない隙に、背後に回り込んで、翼を切る作戦はいかがでしょう』
『試してみるのは良いけど、十倍速スロウガの五秒間で回り込んで切ればいいじゃない』
『その手がありましたか。流石はメグ様です』
 そんな相談をしていると、目の前にあのキメラの魔獣が現れた。
「なるほど、治癒魔法まで使えたのか」
「のんびりと腹ごしらえなんかして、随分と余裕ね」
「初見だったから、傷を負ったけど、あんたたちの攻撃は、もう効かないわよ。しっかり討伐してやるから、覚悟しなさい」
 そう言って、十倍速スロウガで魔物の背後に回り、翼に切りつけるも、翼の付け根は、金属製の防具で守られていた。
「何をした。さっきも目の前から消えたし、瞬間移動ができるのか」
「さっきのは黒い渦の様なものに飲み込まれて消えたけど、今のは身体強化魔法ね。ものすごい瞬発力で背後に回ったのが見えたわ」
 鷲には、十倍速の動きすら、見えるらしい。
 魔物はこっちを向いて、激しく翼で風を起こしながら近づいてくる。
 まさか防具を付けているとは思わず、さっきは失敗したけど、何も翼の根元から切り落とす必要はない。防具のない中央部辺りを切り落とせばいいだけのこと。
 攻撃魔法を放てば、敵の動きは止まる筈で、次々と魔法攻撃を繰り出して、三分間のクールタイムを凌げば、私の勝ち。
 そう思って、魔法攻撃を始めたのに、魔物は平然と近づいてくる。 
『ちょっと、嘘つき、止まってくれないじゃない』
 近接してくると、風圧で次第に上体が仰け反り、伸び上がり始める。
 そして、虎が前足を持ち上げて、あの強烈な一撃の態勢をとった。
 幸い、まだ完全には身体が伸びきっていなかったので、僅かに地面を蹴ることができた。風の力もあり、数メートルもバックステップすることができ、距離を稼げた。
 だが、魔物はそのままジャンプして、飛びかかってきた。
 メグはとっさに、岩柱壁アースウォールを出し、地面から飛び出した岩柱が命中し、宙に舞った。
 これは物理攻撃に近いが、魔法で作ったものなので、突進を止めれる事はできても、クッション材が当たったかのように、ほとんどダメージは与えられない。
 魔物は、その壁を蹴って、再び襲い掛かってくる。
 メグも立て続けに、暴風波エアプレス高圧放水ウォーターブローを放って、近づけない様に阻止し続け、なんとか時間魔法が使える様になった。
 だが、ここからどうするか。もう一度、十倍速スロウガを使って、翼を切る手はあるが、魔法攻撃しても、虎は平気で攻撃してくる。
 敵を押し返す魔法は、あと二分以上は使えない。
 大した速くない打撃攻撃だといっても、時間魔法の補助なしでは、交わせないのは確実。
『セージ、三倍速スロウラを掛けてくれる』
 メグはそう呟くと、彼女自身は、金属分子を生成するイメージを抱き出した。
 翼の先に、大きな鉄の塊が生成されて行き、魔物は翼を素早く動かせなくなった。
『よし、上手く行った』
 メグは、魔物に切りつけるが、鷲の頭は、俊敏で、三倍速でも、嘴で防いでくる。
 虎も前足で、攻撃してくるが、体勢さえ崩していなければ、簡単にかわせる。
 互いに傷を与えられぬまま、メグと魔物の必死の攻防が繰り広げられる。
 だが、鷲の首の動きが次第に遅くなっていく。
 スロウラの有効時間は、実時間にして一分。その間、三倍速で切り付け続けたことで、相手も疲労してきたのだ。
 有効時間ギリギリのところで、首に剣を当てることができ、致命傷を与えた。
 虎が前足で攻撃しようとしていて、時間切れでかわせない状態だったが、メグの方が一瞬早く、虎の目に剣を突き立てることができた。
『間一髪のところでしたが、おめでとうございます。では、証拠品を貰って帰りましょう』
 証拠品は、魔物の翼と、魔石玉となっているけど、魔石玉はどこにあるのだろう。
 とりあえず、翼を切り落とそうとしていると、魔物が光出して、塵の様に消えてしまった。切り取れてなかったので、翼まで消えてしまった。けど、綺麗なきらきらと金色に光る直径八センチほどの玉が落ちていた。
「これが魔石玉? 二センチほどの丸い石ころだと言ってたのに、随分違うよね」
『まあ、魔物が落として逝ったので、魔石玉なんでしょう。ですが、翼の方はどうしましょう』
「消えてしまったんだから、仕方がないでしょう。羽が数枚落ちてるから、これで勘弁してもらいましょう」
 さっきの戦闘で、相当に疲れていたこともあって、メグはその廃墟で休息を取った。

 そして、翌朝、冒険者ギルドに戻り、魔物討伐の報告をして、羽数枚と魔石玉とを渡し、翼は切り取る前に塵になって消えてしまってと言い訳した。
「本来は、認められませんが、今回はこちらにも手違いがありましたので、討伐完了と見なします。どのような魔物で、何人のパーティーで討伐されたんですか?」
 一人で討伐にいったことと、魔物は虎と鷲のキメラで、魔法が全然利かず、剣で近接戦闘して倒したことを、正直に話した。
 すと、その係りの女性は、慌てて、ギルド長まで呼びにいき、メグは奥の応接間で、もう一度ギルド長に説明することになった。
 その際、一部始終を、いろいろと質問責めされた。
「本当に、当局のミスです。納品された魔石は、魔石玉ではなく、魔宝石と呼ぶC級魔物がドロップするものです。中でも、あのキメラは例外的な強さを持ち、魔結晶を落とさないのでC級魔物になっておりますが、B級に匹敵する実力を持つ魔物なんです。それをD級の鳥型程度の討伐と勘違いして依頼を出した事、深くお詫びさせて頂きます。その代わりと言ってはなんですが……」
 なんと、張り紙には十万クルーゼと記載されてたのに、三十万クルーゼも貰えた。
 これで、当分の生活費には困らない。
「ねえ、昇格ポイントは増えないの」
「はは、言いますね。ですが、報奨金だけです。証拠品の翼を納められなかったのに、依頼達成にしてあげたんですから」
 世の中、そんなに甘くはない。
 
 因みに、魔物のランクは、強さというよりも、討伐時にドロップする魔石の種類で決められている。
 雑魚魔物と呼ばれるEランクは一センチ大の魔石で、D級魔物は魔石玉、C級が魔宝石で、B級魔物は直径十数センチの魔結晶、A級魔物は直径数十センチもある魔晶玉となる。
 魔結晶を手に入れられるようになれば、一個百万クルーゼにすらなるというのに、僅か三十万クルーゼを手に、大喜びしているメグ。
 魔物の森に行けるCランクへの昇格はいつになるのやら……。

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