私って何者なの

根鳥 泰造

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第二章 チーム『オリーブの芽』の躍進

家族みたいな良い仲間たちなのに

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 メグは、今、魔物の森で、独りでE級の巨大蜂の大群と戦っていて、危機的状況に立たされていた。
 この日は、B級魔物狩りに来て既に三日目だったので、少し注意力が散漫になっていた。C級魔物二体に追いかけられ、逃げている時に、メグがE級の巨大蜂の巣を、壊してしまった。
 リーダーのリンは、すかさず判断を下し、リン、ジン、メアリーでC級を倒すことにし、メグとモローの二人には、巨大蜂が彼らの許に行かない様に、食い止めろとの命令を下した。
 それに従い、二人で巨大蜂を誘導して、彼らから遠ざけたのだが、突然、モローが姿を消し、メグが一人で、戦わなければならなくなったのだ。
 当初は百匹以上いた蜂も、魔法で数を減らし、残り三十匹ほどとなっているが、それでも、何匹もが同時に襲い掛かってくる状況。スロウを掛けて、魔法の杖を木刀代わりに応戦はしていても防ぎきれず、体中を毒針で刺され、ヒールが追い付かないし、毒消しもどんどん無くなっていく。
 防具として、服の下に特注の鎖帷子の下着を着ていても、蜂の針では、鎖帷子は意味をなさない。

 勿論、メグの魔法を全て駆使すれば、独りでも戦えるのだが、メグは本当の実力を未だに内緒にしている。
 C級昇格の歓迎会の席で、話すつもりだったが、結局、言い出せず、攻撃魔法は、鎌鼬 ウィンドカッタつらら攻撃アイスアローの二種類だけ。
 入団の時は、鎌鼬しかできないと話したのだが、最初の遠征の際、B級とC級の二体の魔物と交戦中に、上空からD級の小鳥型魔物の群れが、前衛の三人に、襲い掛かって来る事態がおきた。
 鎌鼬はクールタイム中で、メアリーの弓では一体しか仕留められない。かといって、上空に注意を促せば、魔物にやられてしまう。
 そこで、メグは仲間を守ろうと、氷柱雨アイスアローを放った。
 以来、メグは、この二種類の攻撃魔法で戦ってきたのだが、今は、その両魔法ともクールタイム中。

 流石にもう耐えられないと、メグが火炎放射を発動しようとした時だった。
「準備完了。メグ、こっちに誘導してくれ」
 どうやらモローは蜂退治用のトラップを準備していたらしい。
 メグの身体は、毒針で痺れ、自由に動かせなくなっていたが、それでも頑張って、巨大蜂の一団を誘導し、その罠の印の位置を飛び越えた。
 ガシャン。その音と共に、木が勢いよく戻り、地面から巨大な網が持ち上がり、ほとんどの蜂の捕獲に成功した。
 罠にかからなかった数匹の蜂を、モローは、愛用の二本のナイフで、次々と仕留めていく。
 メグも、クールタイムが終わり次第、つらら攻撃を捕獲した蜂の一団に浴びせ、蜂退治は無事完了した。

 急いで、C級と交戦中の三人の支援に向かったが、魔物の一体は、既に無数の矢を浴び、倒れていて、もう一体も毒矢で動きが鈍っている所を、ジンの剣で、真っ二つに切り裂かれた。

「メグ、モロー、無事だったか?」 リンがにっこり微笑んだ。
 見た目は怖い顔の大女だけど、仲間思いで、常に冷静で的確な判断を下す優秀なリーダー。最近は、彼女を母親の様に思う程になっていた。
 このチームは、家族の様なもの。リンの旦那は父親で、メアリーはやさしいお姉さん。ただモローは、性格の悪い兄貴だけどと、メグは思っていた。
「こいつ、とろいからホーネットに刺されまくってたが、大した怪我はないよな」
 誰の所為で、こんな目にあったと思っているのと、不満だったが、大丈夫と頷いた。
「なら、この周辺で、B級魔物の気配はないか、もう一度確認してくれ」
 リンは、メグにサーチと呼ばれる探索魔法を期待したのではない。メグは、昔から勘が鋭く、なんとなく魔物の妖気の様なものを感じ取れ、今までにも頻繁に、B級魔物の気配を感じ取って教えていた。
「魔物の気配は、沢山あるけど、B級らしい気配はないみたい」
「そうか、なら今日はこの辺で、キャンプを張るぞ」 
 今日は、魔物の森のかなり深くまで来ていたので、キース村には戻らず、比較的視界が利き、魔物の襲撃を探知しやすい場所を探して、野営することになった。
「メグ、悪いが、ちょっとヒールを掛けてくれないか」
「リンさん、どこか怪我をされたんですか?」
「いや、齢で、筋肉が悲鳴を上げていてな」
 そんなわけで、メグは自分を含め五人全員に、ヒールを掛けて筋肉疲労を取ってあげた。

 因みに、この筋肉疲労は、単なる疲れによるものではない。身体強化魔法フィジカルブーストの反作用だ。魔物狩りの最中は、常時身体強化状態にして、筋力、瞬発力を二倍に上昇させているので、通常以上に、筋肉が疲労する。
 この身体強化魔法をかけて、支援するのもメグの役割だ。
 魔法があまり使えないことになってるのに、矛盾していると思うかもしれないが、これには訳がある。
 これも、あのモローが言い出したことなのだが、入団して初めての遠征帰りに、「おまえ、フィジカルブーストを勉強して習得しろ」と、引退した魔導士の所で修行するように命令された。
 メグもセージも、身体強化魔法は、別系統の魔法と誤解していたが、治癒魔法と同類の魔法で、イアーソと契約して加護を受けている魔導士なら、両方使えるのがあたりまえだと言われた。
 既に、身体強化魔法は使えるが、素直に引退した魔導士の許に行き、そこで、いろいろと説明を受けた。その人の話をきいて、確かに同類だと納得させられた。
 ともにクールタイム一分で、人間の細胞を活性化させる魔法。それが組織細胞か、神経細胞かの違いかに過ぎず、効果時間や利き方も、人それぞれというのも、共通している。
 そして、身体強化の秘密も教わった。人間は、通常筋肉全体の三分の一しか使っていないのだそうで、それを順番に使い、長時間作業できるようにしているのだそう。
 この魔法は、一回の筋肉収縮指令で、筋肉全体の三分の二を同時に収縮させるようにする。これにより、二倍の筋力がでるが、疲労も二倍になるのだそう。
 だから、三日間も、身体強化をし続けていると、筋肉が悲鳴を上げる程に疲労してしまったという訳だ。

 全員、リフレッシュして、今晩の食事の準備を始めることになった。
 料理担当はジンで、囲炉裏つくりや火起こし等の料理環境を準備し、狩人のメアリーが獣や鳥を弓で居止めて調達し、残りの三人で、果物、薬草、食用草、山菜、キノコ等を集める。
 この日は、モローが、あの蜂の巣からハチミツと蜜蝋とをくすねてきたので、ハニーステーキのキノコ添えと、鳥のから揚げ、ハーブサラダと、キノコスープという豪華な食事。
 ジンは、冒険者になる前、料理人だったそうで、王都の飯屋より、豪華で、美味しいものを食べることができる。
 すっかり腹一杯になり、休憩していると、リンが変なことを言い出した。
「明日、一日、捜し歩いて、見つけ出せなかったら、今回は依頼を断念し、帰還することにしたいが、構わないか」
 今までは、任務を途中放棄したことなんて、なかったので正直、驚いた。
 でも、通常なら、ニ日程、長引いても三日で、B級魔物に遭遇できていたのに、今日でここに来てはや三日目。
 今日のヒールもそうだけで、メンバー全員に疲労が蓄積しているのは確か。
 筋力疲労は、少し改善したはずで、限界ではないにしろ、こんな疲れていては、万全な動きができず、B級魔物討伐は無理という潔い判断を下したということらしい。
 メグも、他のメンバーも、全員が納得し、明日、成果のあるなしに関わらず、帰還することに決まった。

 そして、その後、見張りの順番決めのくじ引きが始まった。
 複数人で、野営する際は、必ず誰かが見張りをする。メグは、常に一番最初と決まっているが、後の四人はくじ引きで、順番決める。
 実は、一番目と五番目の人は、途中で見張りをする人より、熟睡できて、疲れを取れるのだ。メグを一番最初にしているのは、メグをいたわっての配慮だ。
 だからは、五番目を引いた人は、いつも「良し」とガッツボーズをする。

 この日は、新月で、月明かりがなく、満天の星に天の川まで見え、本当に綺麗だ。
 一時間程、独りで見張りをしていると、今日、二番目の見張りのリンが近寄ってきた。
「メグ、交代だ。少し早いが、休め」
 ほとんどの人は、交代の時間に起こさないとならないが、彼女だけは例外。
「そうだ。今回はかなり重い荷物を担がせてすまないな。明日で終わりだから、もう少しだけ辛抱してくれ」
 重い荷物というのは、C級が落とす魔宝石の事。メグのリュックには、獲得した魔宝石が入れられる。後方支援のメンバーなので、ポーター代わりにさせられているのだ。
 魔宝石は、その名の通り、特殊加工して装飾品に使われるので、宝石商に持ち込むと、買い取ってもらえる。最も流通の多い赤石は一万クルーゼ、青石は一万五千クルーゼ、緑石は二万クルーゼになる。
 因みに、嘗てキメラ退治で手に入れた金色の魔法石は、激レア魔宝石で、オークションに出品され、二十万クルーゼで売却された。
 報奨金三十万クルーゼも支払い、太っ腹に見えたが、冒険者ギルドも抜け目がない。
 といっても、通常は赤・青・緑なので、大したお金にはならず、C級との戦闘は避ける方針を取っている。それでも戦いは避けられず、倒した以上は、持ち帰って換金することにしており、それをメグが担いでいるわけだ。
 四キロ以上もある魔晶石程、重くないとは言え、一個一キロほどあり、既に今日で二十二個。
 そんな重い荷物を背負って、蜂の群れと戦わなければならなかったわけで、かなり大変だったが、メグはポジティブシンキングの持ち主。
 丁度いい、筋トレだと、苦には感じていなかった。
 しかも、リンからねぎらいの一言をもらい、嬉しくてしかたなかった。
 モローだけは好きになれないけど、皆、とてもやさしくして可愛がってくれ、このチームの一員になれて、本当に良かった。
 リンは、そんな事を思いながら、眠りについた。

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