私って何者なの

根鳥 泰造

文字の大きさ
21 / 56
第二章 チーム『オリーブの芽』の躍進

新たな仲間はちょっと危ない人

しおりを挟む
「そろそろ、夕暮れになるわね。行きましょうか」
 メグは、キース村の宿屋の部屋での念入りな作戦会議を終えると、腰かけていたベッドから立ち上がった。
 今日は、リットにとっての初めての魔物の森なので、戦闘は極力避ける方針。それでも戦いになるので、よく遭遇するC級の魔物の攻撃パターンや、攻略法を徹底的に叩き込み、確認した。
 B級魔物に関しては、探知能力で回避できるし、今日の依頼は、B級魔物狩りではないから。
 いきなり星四つ難度は、リットには厳しすぎるし、今の三人では狩れたとしても、大怪我するリスクが高いから。
 だから、今日は、星三つのこの森にしか生息しないグッチといういたちの様な獣の毛皮を五枚集めるという依頼にした。
 グッチは夜行性なので、この村には、昼前に着いていたけど、夜になるのを待っていた。
 その間に、リットのノーミーデスとの契約の儀式をすませ、昼寝をして、先ほど作戦の最終確認もすませ、漸く狩りに動き出す。

 グッチの生息場所は、森のあちこちに点在していて、どこにいるという明確な情報がないので、発見するのはかなり大変。夜の捜索となるので、あちこちに点在する虫型魔物の巣を壊したりしないかも心配。
 もし、ホーネットの巣なんか壊した日には、先日の洞窟ダンジョンの二の前になりかねない。

「どんなところに、いるんでしょうね。これだけ探してるんだらか、一匹くらい見つかってもいいのに」
「泣き言いわないの。私だって、愚痴をこぼしたいのに、我慢してるんだから」
 森に入り、捜索を開始して、四時間以上が経つのに、グッチが見つからない。
 その間、二度、C級魔物と遭遇し、数体のD級、E級の魔物の群れとも遭遇した。幸い気づかれなかったり、逃げ切ることができたりと、戦闘にならずに済んでいる。
 最初は緊張してたリットも、すっかりこの森に慣れ、もう普段通りに戻っている。
 でも、肝心のグッチがどこにも見つからない。こんなに、苦戦するとは想像していなかった。
「すこし、休憩して、夜食でも食べましょうか」
 そうメグが言い出した時だった。
「あそこに、グッチがいる」ケントが三十メートル程先の茂みを指刺した。
 暗くて、遠くて、よく見えないが、確かに銀色に光る何かの獣が、食事をしている。
 流石は狩人。こんな暗闇で、あんなに遠いのに、良く見つけられるものだと感心した。

 毛皮には、できるだけ傷つけるなとの依頼なので、落雷サンダーボルトで感電して捕獲する作戦だが、この魔法の射程距離は十メートル。
 メグは、気づかれない様にそっと近づいていき、見事に感電させることに成功した。
 捕獲したグッチは、腹から割いて、綺麗に皮をはがす。
 先ずは一匹。
 
 二匹目は、その二時間後に発見できたが、その傍にC級魔物が居て、魔物が居なくなるのを待っていたら、逃げられた。
 そこで、作戦変更。グッチがいる場合は、メグが捕獲を優先し、残り二人で魔物を倒すことにした。

 結局、夜明けを迎えてしまったが、今日は二匹を狩ることができた。一度だけ、素早い虫型D級の群れとの戦闘になったが、負傷者なし。予定の三匹は未達だったけど、まずまずの滑り出し。
 明日はというか、今晩は、絶対に三匹を捕まえようと、全員で誓って、キース村に帰還した。

 でも二日目は、一日目のようには上手く行かない。なぜか戦闘の山となった。
 比較的直ぐに最初のグッチを見つけることができたのだが、傍にC級魔物が居た。そのC級魔物とケントとリットの二人が戦っている時、暗いので誤ってリットが鳥の巣を壊してしましまった。グッチを捕獲したメグも、直ぐに参戦したが、大変な目にあった。夜なのに、D級の鳥の群れに襲われ、体中に傷を負うことになった。
 二匹目は、そっと近接していたのに、気づかれて逃げられ、追いかけていたら、D級魔物の群れに遭遇。戦いながら、追いかけようとしたが、結局逃げられ、怪我のし損で終わった。
 三匹目はなかなか発見できず、捜索中にC級に見つかり、逃げているとまたC級に出くわし、挟み撃ちにされ、戦わざるを得ない事態に。
 またも怪我をしたが、治療中に、三匹目が向こうからやって来て、捕獲できた。
 そして、空が白々としてきた頃、最後の一匹を見つけた。これを捕まえれば任務完了。
 今、その一匹を追跡中だが、B級魔物がいる気配の方に、逃げていく。
「この先に、おそらくB級がいる。どうする?」
「ここまで来て諦められるか。なにも、仕留める必要はない。俺とリットで食い止めるから、その間に仕留めてくれ」
「B級なら私がいく。ケントがボーガンで射止めて。リットは無理しないでね」
 そんな作戦に変更し、最後のグッチの追跡を続けていたら、前方から「ドリャ」と声が聞こえてきた。
 既にどこかのチームが、こんな明け方なのに、魔物狩りをしているらしい。
 B級一体だけなら、私一人でも何とかなるけど、初見の場合は話が別。私自身、無傷でいられるかもわからないし、リットを守れる自信もなかった。だから、誰かが先に戦っていてくれて、本当に助かった。

 そう思って近づくと、なんとあの時の兎獣人の女戦士ミラが、バーサーカーになって、たった一人でフートクロウと戦っていた。
 フートクロウは、人間位の大きさのふくろうの魔獣。火の魔法が苦手の魔物だが、ほとんど空中で戦い、魔法を放っても、素早く交わし、逆に、鎌鼬や、精神錯乱させる超音波を放つ。そして、こっちが混乱したり、隙を見せると、爪による急降下攻撃をしてきて、致命傷を与える。
 攻略法は、その急降下攻撃を誘い、その瞬間に火魔法や、打撃技を繰り出し、叩き落とす戦術になる。

 だから、地上で何もせずに、梟が攻撃してくるのを待つのが、一般戦術だが、ミラは、重そうなハンマーを振りかざしたまま、飛びまわる梟にジャンプして、叩き落とそうとしている。
 攻略セオリー無視の無茶苦茶な戦い方だが、あと少しで当たりそうなところまで、飛び上がれる跳躍力は脅威的。
 ただ、鎌鼬を何度も浴びたらしく、全身傷だらけで、血まみれだ。
「リット、火が弱点。遠距離じゃ当たらないから、急降下してくる所を狙って。それから、上空で停止したら、鎌鼬や超音波攻撃してくるから、何かしてきそうに思ったら、さっと逃げて」
 そう言って、彼女の背後から、攻略法をアドバイスしようと近づいたら、いきなり振り向きざまに、ハンマーをこっちに振り下ろして来て、殺されかけた。
「御免。つい、殺気がしたんで……」
 その隙に、梟が爪を立てて、急降下してきた。
「こんのぉ。でやぁ」
 リットが今だとばかりに、飛び込んで魔法を放とうとしたのに、ミラが思いっきりハンマーを振り回すから、魔法を発動できず、困惑している。
「ちょっと、冷静になって。敵が急降下してくるのを待って……」
 攻略法を教えてあげようと思ったのに、再び、空高くジャンプして、無駄な攻撃を始めてしまった。
 驚異的な身体能力は認めるけど、なんて、力任せで、無謀な人なんだろう。
 もしかして、超音波攻撃で錯乱しているの? どうしよう。

「よし、仕留めた。どうする」
 後方からケントの声が聞こえた。もう、最後の鼬を射止めたらしい。
「この人一人を見捨てられる訳ないでしょう。全員でしとめるわよ」
 そう叫んだ時、梟が上空でこっちを向いて停止した。超音波か、鎌鼬を放とうとしているのは明らか。
 なのに、メグは、再び、高くジャンプして、梟を殴りに行く。
 案の定、小型の鎌鼬を無数に放ち、メグはそれを一身に受けて、血しぶきを出して、落下していく。
「怪我人は、何もしないで、少し休んでいて」
 彼女がいると、こっちも安心して攻撃できないので、そう言って、三人で戦い始めた。
 ケントの矢は、通常の矢の速度より、三倍位速いが、梟はさっと交わして、矢が当たらない。
「ケントもこっちに来て攻撃して、リットは、ケントが着き次第、放出系魔法を連続で、放って」
『セージも、放出系魔法を放ち続けて』
 そして、地上から、三人の同時乱射攻撃を開始した。
 それでも梟は、その弾道を見極めて、交わすが、これは想定通り。
 メグは、梟が地上ばかりに気を取られている隙に、上空から落雷サンダーボルトをお見舞いした。
 そこからは一方的。感電して地上に落下してしまえば、こっちのもの。
 ケントが矢を何本も打ち込み、リットが火魔法を連発し、メグが羽を切り落とし、瀕死にした。
「止めは、どうぞ。ご自分で」
 そして、ミラがハンマーで止めを刺した。
 
「あなたミロのお姉さんのミラさんだよね。なんで、こんなところで魔物狩りなんかしているの?」
 メグは彼女に治癒魔法を掛けながら、話しかけた。
「そうか、あの時、ミロと一緒に牢屋に入れられ、売られそうになっていた女か。ありがとう」
 ミラはそう言うと、バーサク化を解いて、普通の可愛い兎獣人の女に戻った。
「ボクたちは、ミロの仇を探していた。この近くで、目撃したという情報を貰ってな」
「仇って、ミロの身に何かあったの?」
「三週間程前、厄災の黒龍に殺された。ボクたちの村にやって来て、火炎をまき散らして、仲間の半数以上がやられた。隠れていたミロも、家ごと焼かれ、助からなかった」
「それって、フェルニゲシュ?」
「ボクたちは、厄災の黒龍と呼んでいるが、そういえばあの男もそんな名で呼んでいたな」
 あの時のフェルニゲシュの生き残りは僅か三人。まさかと思い、その男について、詳しく訊いてみると、やはりモローのようだった。
 三日ほど前に、出会ったそうだが、既に他のチームに加入していたらしく、六人組でこの森にきていたのだそう。
 これで、完全に、モローに加入してもらえる可能性は消えたけど、目の前に、独りで戦っていた戦士がいる。
「私たちも、フェルニゲシュに恨みがあるの。彼は村を滅ぼされ、この子は母親を殺され、私も母親の様に思ってきたリーダーを殺された。フェルニゲシュは、絶対に一人では倒せないし、私たちのパーティーに入らない」
 ダメもとで、誘ってみた。
「そうだな。ボクと一緒に討伐にきた仲間も、皆、死んでしまったし、腰抜け達の所に戻っても、仕方がないから、そうしようか」
 きっと敬遠されると思っていたのに、意外にもあっさり、了承してくれた。
 これで、強い前衛も補充できたけど、少し寂しく感じるのはなぜだろう。

 任務は完了したし、リン達の墓標もこの近くだったので、少し寄り道をして、墓詣りした。
 モローが備えてくれたのか、野草が一輪ずつ、墓標の前に添えてあった。
 それを見て、寂しく感じた理由もわかった。一緒の時は、虐められて嫌な人と思っていたけど、やはりモローの事を、本当の兄のように思っていて、大好きだったんだと気づいた。

 メグは、暫く手を合わせて黙祷したあと、その時の詳細を、リットとミラにも話し、改めて、今度こそ、フェルニゲシュを仕留めると、誓うのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

処理中です...