私って何者なの

根鳥 泰造

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第三章 裏切りと復讐の果て

行き恥をさらすくらいなら

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 気づくと、真っ暗な樽の様な狭い中に閉じ込められていた。ガタガタと揺れているので、馬車か何かで、どこかに連れて行こうとしているらしい。
 口に猿轡されて、詠唱できなくしてあるが、ここから抜け出すなんて、造作もないこと。
 そう思って、岩柱壁を発動しようとするが、何故か、魔法が発動できない。
 他の魔法も試みたが、一切の魔法が発動できなくなっていた。
『メグ様の首に付けられているのが、魔法封じのアイテムかと思います』
 そういえば、首輪が取り付けられている。
 でも、後ろ手に縛られているので、その首輪を外すことすらできない。
 仕方なく、頭突きするようにして、蓋を破ろうと試みたが、びくともしない。
 何とかここから脱出する方法はないかと、セージと相談してみたが、手が自由にならないかぎり、どうにもならず、この樽から出され、ロープを解かれるまで、じっと待つしかないという結論となった。
 でも、何時まで経っても、この樽から出してもらえない。
 お腹は減るし、尿意も我慢できなくなり、最悪の事態になった。

 そして、樽に入れられたまま、少なくとも三日程が経ち、喉の渇きも、空腹も感じなくなり、意識が朦朧として、もう死を覚悟しはじめた時だった。
 目的地に着いたらしく、メグは、樽毎、どこかに運ばれていった。

「臭いな」
 樽の蓋が開け、覗き込んできたのは、月光のリーダーレオだった。
 やはり、レオがロンブル帝国の送り込んだ工作員だった。
「とりあえず、牢屋の中に、繋いでおけ」
 メグを樽から引っ張り出したのは、トムとケンの二人だった。
「お前の所為で、俺たちは飛んでもない目に遭わされ続けることになったんだ。しっかり、その仕返しはさせてもらうからな」
 そう言って、手のロープを解いてくれたが、メグは暴れることも、首輪を外す事も出来なかった。
 三日以上も、飲まず食わずでいたので、手足が勝手に痙攣して、全くといっていいほど動かせなかったのだ。
 それでも、頑張って、もう一度、魔法を試みたが、やはり何も発動できず、彼らにされるがままに、牢屋の奥の鉄枷に手を縛られた。
「こんなに臭いまま、バロック様に献上する訳には行かんし、脱水症状で死なれても困るからな。水で綺麗に洗ってやれ」
 ケンとトムの二人は、ニヤニヤして、木のバケツに水を汲んで、再び牢屋に入っ来た。
「今から、裸にひん剥いて、全身綺麗にしてやるからな」
 ああ、こんな男たちに辱めを受けてしまうの。
 仲間も皆殺しにされたのなら、一人で生きていても、もう意味がない。いっそのこと、舌を噛み切って死んだほうがましだけど、猿轡されているので、それすらできない。
『メグ様、必ず、誰かが助けに来てくれます。今は、屈辱に耐え忍ぶ時です』
 セージには、私の気持ちは分からない。ここがどこかも分からないし、仲間も殺され、助けに来てくれる人なんて、誰もいない。ああ、死んでしまいたい。
 彼らが、メグのベルトを外し、ズボンを脱がそうとしてきた時、ドアが開いて、あの魔獣使いの男が現れた。
「あの女の様子は、どうだ」
 トムとケンも、慌てて直立姿勢を取る。
「バロック様、糞尿塗れだったので、今、綺麗にしようとしていたところでして」
「そんなことはどうでも良い。とりあえず、この薬を小さじ一杯分を、六時間於きに、飲ませ続けろ。そうすれば、この薬欲しさに、なんでも言う事を利く忠実な下部になる。俺は、牧場の用事があるので、お前たちに任せるが、薬の分量を絶対に間違えるなよ」
 そういって、バロックは再び牢屋から出て行った。

「それじゃ、続きを楽しむとするか」
 ついにズボンを脱がされてしまった。
 神様。これからは一生懸命に、信仰しますから、彼らに天罰を与えてください。
 ついに、神頼みまで始めたメグだったが、普段から神様を信仰していない彼女のことなんて、神様だって、助けるわけがない。
 ケンが、ニヤニヤしながら、パンツに手を掛けてきた。

「グワッ」 リーダーのレオの断末魔が聞こえた。
 そして、首から血を流して、パタンと倒れると、その背後に、モローが立っていた。
「メグ、待たせたな」
「くそ。どうやって、ここんなところまで」
 モローは、ナイフを手に、牢屋の中に飛び込んできて、あっという間に二人を片付けた。
 
「お前、かなり臭いぞ」
 そう言いながら、猿轡を取って、手枷を外そうとし始めた。
 モローに汚れたパンツ姿を見られて、死んでしまいたい程恥ずかしかったけど、今はお礼を言うのが先。
「モロー。もうだめかと思った。助けに来てくれて、ありがとう」
「なに、あいつらに頼まれたから、仕方なくな」
「えっ。あいつらって、皆、生きていたの?」
「ああ、俺たちが救援に駆けつけた時は、全身大火傷の瀕死だったが、なんとか三人とも、一命は取り留めた」
 ああ、よかった。ミラ、ケント、リットの三人も生きていてくれた。
「やはり、はずせないな。少し待ってろ。鍵を探す」
『手枷の鍵は、ケンの右ポケットに入っている筈です』
「その男の右ホケットに鍵が入っている筈」
「よく観察していたな。偉いぞ」
 そう言って、鍵を見つけ出し、手枷を外してくれた。
「じゃあ、逃げるぞと言いたいが、その臭いをなんとかしろ。臭くて直ぐに見つかることになるからな」
 そういって、モローは後ろを向いて、こっちを見ない様にしてくれた。
 何とかしろと言われても、このパンツを脱ぎ棄てて、身体を拭くしかないけど、見ないようにしてくれていても、猛烈に恥ずかしい。
 とりあえず、水分補給をして、首輪を外し、身体を綺麗にすることにした。
「モロー独りで、助けにきてくれたの? よくここにいると分かったね」
「いや、あの三人も、囮となって戦ってくれている。場所は、ワイバーン飼育場の近くだろうと辺りを付けて、その一番近くの砦に来てみただけさ」
 確かに、敵地に潜入して捜索するなら、盗賊のモロー独りの方が、見つからずに動けるし、誰かが騒ぎを起こし、兵隊の目をそっちに向けさせる作戦は妥当で、納得はいく。
 でも、大火傷の瀕死状態だったのなら、おそらくまだ動ける状態ではない筈。きっと、歩くのですら辛い筈。それなのに、こんな遠くまで、駆けつけて来て、兵の目を惹いて、戦ってくれている。
 私を救出するため、そんな無理までしてくれていると思うと、嬉しくてならなかった。

 さて、身体は綺麗になったけど、どうしよう。汚れたパンツや、ズボンを洗っている時間はない。
 その時、ケンの死体が目に入った。この際、仕方がない。
 ミラは、ケンのズボンを脱がせると、ノーパンのまま、それを穿き、ベルトでずれ落ちない様に、しっかりと固定した。
「準備できました。行きましょう」
 メグとモローは、その地下牢から外に出て行ったが、メグはズボンが股に食い込むのか、股間ばかり気にしていた。

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