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第四章 この世界の秘密
魔王退治にいくことになりました
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魔物軍から捕虜を解放して三週間程経ち、漸く王宮から使者がきた。
やっと魔王の居場所が分かったらしい。
七人で、王宮を訪れ、女王陛下に謁見した。
「随分と待たせてしまったが、漸く託宣が降りた。魔王は、あの地下迷宮の第五階層の魔王城におる。そちらなら、必ず魔王を討伐してくれるものと、期待しておる。よろしく頼んだぞ」
地下迷宮には、何度も足を運んでいるが、四階層までしかなく、五階層なんて存在しないのに、そんなことを言われてしまった。
かといって、女王に、地下五階層は、存在しませんともいえるわけがない。
墓のどれかが、隠し扉になっている可能性もあるので、四階層をもう一度、徹底的に調べる必要がありそうだ。
「ついては、そちに、五千の兵を任せる。魔王討伐には少な過ぎるとは思うが、三国協定が白紙になり、何時、宣戦布告してくるか分からぬ状況なのでな。それだけで、勘弁してもらいたい」
「いえ、地下迷宮に、大軍で向かうのは逆に足手まといになります。それに何時戦争になるか分からない状況なら、尚更です。お気持ちだけでありがとうございます」
「なら、予の親衛隊の精鋭から、勇者の加護を掛けられるだけの人数を出すことにしよう。そちは何人まで、勇者の加護をほどこせるのじゃ」
どういうことか訊いてみると、勇者の加護は人数の上限があるらしい。先代ビンセント・ヴィダーは、十二名が上限だったのだそう。少なくとも、十三名は確実に勇者の加護を掛けることができたが、上限は分からない。
そんな訳で、五十名の親衛隊を招集し、勇者の加護の上限を確かめることにした。
でも、なぜか一人にすら、勇者の加護を発動できなかった。
理由はセージの助言で直ぐに分かった。勇者の加護を発動するには、その人の顔と名前をはっきりと記憶して、その人が仲間だと心の底から思う必要があるからだ。
常々一緒に行動している者なら、加護を与えられるが、出会ったばかりの人物には加護は発動しない。
結局、上限は不明のままだが、八名の精鋭騎士をお借りして、彼ら全員と仲良くして、十五名全員に加護を発動できる状態にすることにした。
先ずは、八人をオリーブの芽邸に招待して、親交を深めることにしたら、彼らは、昼食会にもかかわらず、鎧兜で現れた。前回と同様の胸に国章が刻まれた変わった形の白い鎧兜だ。
全員兜は脱いで顔を出して、自己紹介してくれたけど、歩くたびに音がして、気になって仕方がない。
食事が終わろうとしてい時、失礼を覚悟で、彼らに向かって、注文をだした。
「魔王退治に、その格好で行くつもりでいるのかもしれないけど、鎧兜は止めてくれる。走るとガチャガチャと五月蝿くて、魔物に気づかれることになるから」
「勇者のお言葉でも、それはできません。これは我ら親衛隊の証。いついかなる時も、この鎧姿を止める訳にはいきません」
最年長で、この親衛隊のリーダであるリアムが反抗してきた。
彼は、剣術師範の凄腕で、この八人の中でダントツに強いという話だったので、実力を確かめるのに丁度いい。
「なら、真剣勝負で決めない。私は魔法剣士だけど、魔法攻撃はしないし、聖剣も使わない。剣技だけなら、互角に戦えるんじゃない。私が勝ったら、私の命令に従ってもらう。あなたが勝ったら、もう何も言わない。あなたたちの好きにしていい。それでどう?」
「良いでしょう。聖剣を持つ勇者殿には勝てると思いませんが、その条件なら、負ける気はしませんから」
そんな訳で、リアムと庭で真剣勝負することになった。
偉そうに言うだけあって、なかなかの剣捌きだけど、重い鎧なんて来ているから、動きも遅く、リュウ師匠の足元にも及ばない。やはり、全員一から鍛え直さないと、使い物にならない。
実力も分かったので、そろそろ勝負を決めようと思っていたら、リアムが「ウォー」と叫び声を上げ、急に動きが良くなった。
『おそらく、身体強化スキルと思われます。身体強化魔法と同等の効果があります』
そんな能力があるんだと初めて知ったけど、これは正直かなり厄介。時間魔法も身体強化魔法を施していないけど、互角になってしまった。
それでも、少しだけ私が強く、なんとか勝てそうな気はするけど、もはや手加減する余裕はなく、大怪我させかねない。
少しずるだけど、身体強化魔法を掛けて、寸止めして、降参させた。
まさか、剣術だけで負けるとは思っていなかった様子で、凄く悔しそう。
「なかなか、強いけど、これからは私の指示に従ってもらう。鎧兜はなし。いいわね」
それでも、この鎧は親衛隊の証なのにと、また言ってきたけど、分かりましたと了承してくれた。
「他の皆もいいわね。不満があるなら、勝負してあげるわよ」
誰も、私に挑もうとしてこない。
リアムは、この中でダントツに強いという話なので、勝てないと自覚したんだと思うけど、どうも強くなろうという気概がなさすぎる気がする。
これだと、使えるように鍛え直すにしろ、かなり時間がかかることになる。
やはり、三十代という年齢があるのかもしれない。セバスがニ十八歳で、マテオが最年少のニ十五歳だけど、他は皆三十代。リアム三十九歳を筆頭に、ジェームズが三十五歳、オリバーとルーカスが三十四歳、メイソンが三十二歳で、ダニエルが三十歳だ。
皆、エリートだし、女の私に、ハンデ戦で負けて、大恥をかきたくないということなんだろうけど、そんなんじゃ、何時まで経っても強くなれはしない。
仕方がないので、挑発することにした。
「親衛隊の精鋭と聞いてたのに、大したことない腰抜けばかりね。あなたたちなら、剣すら必要ない。素手で相手してあげるわよ」
「勇者だと思って、言わせておけば、馬鹿にしやがって」
ようやく、ジェームズが怒って立ち上がった。彼はコリンと同じくらいの巨漢。剣だけでなく、体当たりや掴み投げにも注意する必要があり、これは時間魔法も掛けないと、ならないかなと考えていたから、鎧兜を脱ぎ始めた。
それは良い心がけだけど、下着姿となった彼は、剣を持たず、ボクサースタイルで構えた。
「剣を使わない気? まあ、いいけど」
これもブライドなのか、素手同志の対等な戦いを挑んできた。魔物相手なら、どんな卑怯な手を取っても、勝たなければならないのに、変にプライドがあるだけに、ややこしい。
まず、このプライドをずたずたにして、弱さを自覚してもらい、素直に精進してもらわないとならない。
巨漢なのにコリン同様に俊敏に動き、足さばきもいい。彼なら両手剣より、盾を持たせて、片手剣に変更させれば、戦力になりそう。
でも、プライドが強いだけに、素直に従ってくれるかは、疑問。
「蹴りや、投げ、体当たりをしてもいいのよ。折角、それだけの体格があるんだから、それを行かす戦い方をしなくちゃダメ」
私からアドバイスしてみたけど、やはりパンチだけで無謀に責めてくる。
仕方ないので、カウンターで顔面を叩いてやった。
「これじゃ、一方的になっちゃう。パンチしか出さないつもりなら、相手にならない。ちょっと選手交代してもいいかな。うちの狩人のケントが、最近格闘技に凝っていて、素手相手で、あなたに身体強化をかければ、丁度良い練習相手になりそうだから」
「いや、流石にジェームズに失礼すぎるだろう」
「なら、リットにする? 魔法は水魔法だけにして」
その間も、果敢に殴りかかってくるが、人間のパンチなんて遅すぎる。再び、カウンターを顎に当て、脳震盪をおこさせ、ダウンさせた。
「御免なさいね。でも、今まで弱い人間相手としか戦ってなくて、強い気でいるから、少し自分が弱いと認識してもらいたくて。これから戦うのはとんでもなく強い魔人や魔獣。折角、それだけの体格があるんだから、体当たりや掴み投げは強力な武器になる。足も混ぜて、どこから攻撃してくるかかく乱させて、戦ってもらいたかったの」
「くそっ、悔しいが、お前がとんでもなく強いのは認める。敵わない。だが、俺にも意地がある。お前の言いなりにはならない。お前の部下でも構わないから、一発殴らない事には、気分が治まらない」
「部下じゃなく、仲間。いや、戦友かな。じゃあ、ケント、お願いできる」
「仕方がないな。それじゃジェームズさん、宜しくお願いします。俺は手加減なんてできないから、覚悟してください」
そう言って、ケントは、ゆっくりと立ち上がり、自然に身構えた。メグはその間に、ジェームズに身体強化魔法を施す。
この対戦を提案した意図は、ケントの寝技がどんなものか知りたかったから。
でも、それを知ることもできない程、一瞬で勝負がついた。殴りかかってきたところを、しゃがみ込んで交わすと、そのまま足を掛けて倒し、すぐさま腕を取って決め、へし折ってしまったのだ。
急いで、治癒魔法を掛けたけど、こんなに実力差があるとは思わなかった。
ケントの寝技は、十分に使えるだけの本物に仕上がっていた。
「ああ、ボクもやりたい。誰か、戦ってよ」
「ミラは、バーサク化しなくても、強すぎるから」
「ボクも素手で戦うよ。皆はそのままの恰好で剣でいいから、誰か戦ってくれない」
「正直、勇者一行が、これほど強いとは思ってもいませんでした。僕が真剣で挑んでも勝てないとは思いますが、相手していただけるでしょうか」
最年少のマテオが立ち上がった。
バーサク化せずに素手であっても、ミラの勝ちは分かり切っているが、彼の意気込みを尊重して、戦わせてみることにした。
彼も、身体強化スキルを使えるみたいで、なかなかに素早い動きをするが、やはり、ミラには敵わない。パンチだけでなく、回し蹴りや、体当たり、投げ技を出して、一方的展開になった。
それでも、マテオは砂を掴んで目潰しし、切りかかって、ミラの手に傷を負わせた。
それでミラが切れてしまい、彼の背後に回り込んで、ベルゼブブにやられた背面投げで、頭から彼を落として、失神させた。下が土だったので、大怪我にはならなかったけど、下手すると死んでいたところだった。
でも、マテオは見込みがありそう。なりふり構わず、勝ちたいと真剣に考えている。
「勇者マーガレット・ヴィダー殿。今の私達では、あなたたちにとって、足手まといでしかないのが、よくわかりました。ですが国王陛下の命を受けておりますので、この任務を辞退する訳にもいきません。つきましては、これから毎日、我らに稽古をつけていただけないでしょうか。少しでも、お役に立てるように強くなりたい」
リアムが頭を下げて、そう言ってくれた。流石はリーダーだ。
そんな訳で、それから毎日、特訓して彼らを鍛えることにした。コリン、ミミ、ミカの三人にも、丁度いい練習になる。
マテオとセバスはニ十代なので、飲み込みも早く、いろんな戦闘方法も習得していくけど、残りの六人は、やはり頭が固く、戦術も単調でなかなか柔軟な戦闘スタイルを習得できない。
それでも、一週間かけて、なんとか使える程度に鍛え上げ、いよいよ王都を出て、地下迷宮に向かう事にした。
やっと魔王の居場所が分かったらしい。
七人で、王宮を訪れ、女王陛下に謁見した。
「随分と待たせてしまったが、漸く託宣が降りた。魔王は、あの地下迷宮の第五階層の魔王城におる。そちらなら、必ず魔王を討伐してくれるものと、期待しておる。よろしく頼んだぞ」
地下迷宮には、何度も足を運んでいるが、四階層までしかなく、五階層なんて存在しないのに、そんなことを言われてしまった。
かといって、女王に、地下五階層は、存在しませんともいえるわけがない。
墓のどれかが、隠し扉になっている可能性もあるので、四階層をもう一度、徹底的に調べる必要がありそうだ。
「ついては、そちに、五千の兵を任せる。魔王討伐には少な過ぎるとは思うが、三国協定が白紙になり、何時、宣戦布告してくるか分からぬ状況なのでな。それだけで、勘弁してもらいたい」
「いえ、地下迷宮に、大軍で向かうのは逆に足手まといになります。それに何時戦争になるか分からない状況なら、尚更です。お気持ちだけでありがとうございます」
「なら、予の親衛隊の精鋭から、勇者の加護を掛けられるだけの人数を出すことにしよう。そちは何人まで、勇者の加護をほどこせるのじゃ」
どういうことか訊いてみると、勇者の加護は人数の上限があるらしい。先代ビンセント・ヴィダーは、十二名が上限だったのだそう。少なくとも、十三名は確実に勇者の加護を掛けることができたが、上限は分からない。
そんな訳で、五十名の親衛隊を招集し、勇者の加護の上限を確かめることにした。
でも、なぜか一人にすら、勇者の加護を発動できなかった。
理由はセージの助言で直ぐに分かった。勇者の加護を発動するには、その人の顔と名前をはっきりと記憶して、その人が仲間だと心の底から思う必要があるからだ。
常々一緒に行動している者なら、加護を与えられるが、出会ったばかりの人物には加護は発動しない。
結局、上限は不明のままだが、八名の精鋭騎士をお借りして、彼ら全員と仲良くして、十五名全員に加護を発動できる状態にすることにした。
先ずは、八人をオリーブの芽邸に招待して、親交を深めることにしたら、彼らは、昼食会にもかかわらず、鎧兜で現れた。前回と同様の胸に国章が刻まれた変わった形の白い鎧兜だ。
全員兜は脱いで顔を出して、自己紹介してくれたけど、歩くたびに音がして、気になって仕方がない。
食事が終わろうとしてい時、失礼を覚悟で、彼らに向かって、注文をだした。
「魔王退治に、その格好で行くつもりでいるのかもしれないけど、鎧兜は止めてくれる。走るとガチャガチャと五月蝿くて、魔物に気づかれることになるから」
「勇者のお言葉でも、それはできません。これは我ら親衛隊の証。いついかなる時も、この鎧姿を止める訳にはいきません」
最年長で、この親衛隊のリーダであるリアムが反抗してきた。
彼は、剣術師範の凄腕で、この八人の中でダントツに強いという話だったので、実力を確かめるのに丁度いい。
「なら、真剣勝負で決めない。私は魔法剣士だけど、魔法攻撃はしないし、聖剣も使わない。剣技だけなら、互角に戦えるんじゃない。私が勝ったら、私の命令に従ってもらう。あなたが勝ったら、もう何も言わない。あなたたちの好きにしていい。それでどう?」
「良いでしょう。聖剣を持つ勇者殿には勝てると思いませんが、その条件なら、負ける気はしませんから」
そんな訳で、リアムと庭で真剣勝負することになった。
偉そうに言うだけあって、なかなかの剣捌きだけど、重い鎧なんて来ているから、動きも遅く、リュウ師匠の足元にも及ばない。やはり、全員一から鍛え直さないと、使い物にならない。
実力も分かったので、そろそろ勝負を決めようと思っていたら、リアムが「ウォー」と叫び声を上げ、急に動きが良くなった。
『おそらく、身体強化スキルと思われます。身体強化魔法と同等の効果があります』
そんな能力があるんだと初めて知ったけど、これは正直かなり厄介。時間魔法も身体強化魔法を施していないけど、互角になってしまった。
それでも、少しだけ私が強く、なんとか勝てそうな気はするけど、もはや手加減する余裕はなく、大怪我させかねない。
少しずるだけど、身体強化魔法を掛けて、寸止めして、降参させた。
まさか、剣術だけで負けるとは思っていなかった様子で、凄く悔しそう。
「なかなか、強いけど、これからは私の指示に従ってもらう。鎧兜はなし。いいわね」
それでも、この鎧は親衛隊の証なのにと、また言ってきたけど、分かりましたと了承してくれた。
「他の皆もいいわね。不満があるなら、勝負してあげるわよ」
誰も、私に挑もうとしてこない。
リアムは、この中でダントツに強いという話なので、勝てないと自覚したんだと思うけど、どうも強くなろうという気概がなさすぎる気がする。
これだと、使えるように鍛え直すにしろ、かなり時間がかかることになる。
やはり、三十代という年齢があるのかもしれない。セバスがニ十八歳で、マテオが最年少のニ十五歳だけど、他は皆三十代。リアム三十九歳を筆頭に、ジェームズが三十五歳、オリバーとルーカスが三十四歳、メイソンが三十二歳で、ダニエルが三十歳だ。
皆、エリートだし、女の私に、ハンデ戦で負けて、大恥をかきたくないということなんだろうけど、そんなんじゃ、何時まで経っても強くなれはしない。
仕方がないので、挑発することにした。
「親衛隊の精鋭と聞いてたのに、大したことない腰抜けばかりね。あなたたちなら、剣すら必要ない。素手で相手してあげるわよ」
「勇者だと思って、言わせておけば、馬鹿にしやがって」
ようやく、ジェームズが怒って立ち上がった。彼はコリンと同じくらいの巨漢。剣だけでなく、体当たりや掴み投げにも注意する必要があり、これは時間魔法も掛けないと、ならないかなと考えていたから、鎧兜を脱ぎ始めた。
それは良い心がけだけど、下着姿となった彼は、剣を持たず、ボクサースタイルで構えた。
「剣を使わない気? まあ、いいけど」
これもブライドなのか、素手同志の対等な戦いを挑んできた。魔物相手なら、どんな卑怯な手を取っても、勝たなければならないのに、変にプライドがあるだけに、ややこしい。
まず、このプライドをずたずたにして、弱さを自覚してもらい、素直に精進してもらわないとならない。
巨漢なのにコリン同様に俊敏に動き、足さばきもいい。彼なら両手剣より、盾を持たせて、片手剣に変更させれば、戦力になりそう。
でも、プライドが強いだけに、素直に従ってくれるかは、疑問。
「蹴りや、投げ、体当たりをしてもいいのよ。折角、それだけの体格があるんだから、それを行かす戦い方をしなくちゃダメ」
私からアドバイスしてみたけど、やはりパンチだけで無謀に責めてくる。
仕方ないので、カウンターで顔面を叩いてやった。
「これじゃ、一方的になっちゃう。パンチしか出さないつもりなら、相手にならない。ちょっと選手交代してもいいかな。うちの狩人のケントが、最近格闘技に凝っていて、素手相手で、あなたに身体強化をかければ、丁度良い練習相手になりそうだから」
「いや、流石にジェームズに失礼すぎるだろう」
「なら、リットにする? 魔法は水魔法だけにして」
その間も、果敢に殴りかかってくるが、人間のパンチなんて遅すぎる。再び、カウンターを顎に当て、脳震盪をおこさせ、ダウンさせた。
「御免なさいね。でも、今まで弱い人間相手としか戦ってなくて、強い気でいるから、少し自分が弱いと認識してもらいたくて。これから戦うのはとんでもなく強い魔人や魔獣。折角、それだけの体格があるんだから、体当たりや掴み投げは強力な武器になる。足も混ぜて、どこから攻撃してくるかかく乱させて、戦ってもらいたかったの」
「くそっ、悔しいが、お前がとんでもなく強いのは認める。敵わない。だが、俺にも意地がある。お前の言いなりにはならない。お前の部下でも構わないから、一発殴らない事には、気分が治まらない」
「部下じゃなく、仲間。いや、戦友かな。じゃあ、ケント、お願いできる」
「仕方がないな。それじゃジェームズさん、宜しくお願いします。俺は手加減なんてできないから、覚悟してください」
そう言って、ケントは、ゆっくりと立ち上がり、自然に身構えた。メグはその間に、ジェームズに身体強化魔法を施す。
この対戦を提案した意図は、ケントの寝技がどんなものか知りたかったから。
でも、それを知ることもできない程、一瞬で勝負がついた。殴りかかってきたところを、しゃがみ込んで交わすと、そのまま足を掛けて倒し、すぐさま腕を取って決め、へし折ってしまったのだ。
急いで、治癒魔法を掛けたけど、こんなに実力差があるとは思わなかった。
ケントの寝技は、十分に使えるだけの本物に仕上がっていた。
「ああ、ボクもやりたい。誰か、戦ってよ」
「ミラは、バーサク化しなくても、強すぎるから」
「ボクも素手で戦うよ。皆はそのままの恰好で剣でいいから、誰か戦ってくれない」
「正直、勇者一行が、これほど強いとは思ってもいませんでした。僕が真剣で挑んでも勝てないとは思いますが、相手していただけるでしょうか」
最年少のマテオが立ち上がった。
バーサク化せずに素手であっても、ミラの勝ちは分かり切っているが、彼の意気込みを尊重して、戦わせてみることにした。
彼も、身体強化スキルを使えるみたいで、なかなかに素早い動きをするが、やはり、ミラには敵わない。パンチだけでなく、回し蹴りや、体当たり、投げ技を出して、一方的展開になった。
それでも、マテオは砂を掴んで目潰しし、切りかかって、ミラの手に傷を負わせた。
それでミラが切れてしまい、彼の背後に回り込んで、ベルゼブブにやられた背面投げで、頭から彼を落として、失神させた。下が土だったので、大怪我にはならなかったけど、下手すると死んでいたところだった。
でも、マテオは見込みがありそう。なりふり構わず、勝ちたいと真剣に考えている。
「勇者マーガレット・ヴィダー殿。今の私達では、あなたたちにとって、足手まといでしかないのが、よくわかりました。ですが国王陛下の命を受けておりますので、この任務を辞退する訳にもいきません。つきましては、これから毎日、我らに稽古をつけていただけないでしょうか。少しでも、お役に立てるように強くなりたい」
リアムが頭を下げて、そう言ってくれた。流石はリーダーだ。
そんな訳で、それから毎日、特訓して彼らを鍛えることにした。コリン、ミミ、ミカの三人にも、丁度いい練習になる。
マテオとセバスはニ十代なので、飲み込みも早く、いろんな戦闘方法も習得していくけど、残りの六人は、やはり頭が固く、戦術も単調でなかなか柔軟な戦闘スタイルを習得できない。
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