平安あやかし奇譚 〜少女陰陽師とかんざしの君~

花橘 しのぶ

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二の姫

三十五、召喚

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 ——玉藻を喚びだすなんて、そんなの無理です。

 とは言えない雰囲気であることは、重々承知していた。小春はおそるおそる、忠行が目の前にぶら下げた呪符を受けとる。

「が、頑張ります」

 か細い声で宣言すると、忠行は満足そうな顔で頷いた。

(これはもう、やるしかない!)

 呪符を前に、深呼吸をして精神を集中させる。深く息を吸って、吐く。お腹のところがあたたかい。
 小春の身体全体を、霊力が巡っているのだ。丹田と言われるおへそのあたりが、人間の生命力の根源だ。そこを意識して、そこから隅々まで霊力を巡らせるように、何度も吸って吐いてを繰り返す。

 書物では何回も読んだ。
 保憲のようになりたくて、いちばん最初に覚えたのが式神召喚の方法だった。
 ついぞ使うことはなかったが、今日はじめて使うことになる。身体全体が、妙に高揚しているような気さえした。

 頭の中で、玉藻の姿を思い浮かべる。大きくて白い九尾の狐。細い黄金色をした眼。小春を睨め付けるような、意志の強い眼差し。そのひとつひとつを、出来るだけ細微に思い出す。

「急急呂律令」

 そして、ゆっくり噛み締めるように、玉藻を喚ぶための鍵となる言葉を発した。忠行とふたり、息を潜めるなか、目の前の呪符が光を放つ。ぱっとまばゆい光が差した瞬間、小春は光に耐えきれなくなって瞼を閉じた。

「なにかしら?」

 次に目を開いたとき、目の前にいたのは心底不機嫌そうな玉藻の姿だった。

(やった!成功だ!)

 今にも踊り出したくなる気持ちを抑えて、小春は忠行を見上げた。

「父上、やりました!」

「そうだな。おぬしが、妲己か?」

 忠行がたずねると、玉藻はぺしんと尻尾で床を叩く。どうやら、不機嫌なようだ。

「その名前で言われるの、嫌なのよ。二度とその名前で呼ばないでちょうだい。今は玉藻って名乗ってるの」

「ふむ、玉藻か」

「……あんた、誰なのよ」

「俺は賀茂忠行。陰陽師だ」

「げっ……! あんたも陰陽師なの」

 うんざりした表情で、玉藻は嘆くように言った。

「どいつもこいつも陰陽師ばっか。小春、あんたにやられた尻尾の傷まだ治ってないんだからね?!」

 ぎっと睨みつける玉藻に、小春は思わず飛び上がった。冷たい視線を正面から受け止めないように、小春は何気なく視線を逸らす。

「で、何の用なの」

「おぬしは頭中将を知っているか?」

 忠行の質問に、玉藻はにっと笑い顔を作った。
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