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2話 才能は輝く
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学校の講堂は、集められた子供たちの騒めく声に満ちている。
整列している彼らの前には、集会で校長が話をする時のように高座が設けられていた。
エルマーは、落ち着きのない同級生たちの姿を眺めながら、次に図書室で借りたい本を思い浮かべた。
「皆さん、静かに。魔法管理省の方たちがいらっしゃいましたよ」
やや緊張した面持ちの女性教師が、ぱんぱんと手を叩いて言った。
ほぼ同時に、講堂の入り口から、何かが入っていると思しき箱を抱えた数人の男女が現れた。
全員が、青や緑など様々な色をした魔術師のようなローブを身に着けている。
彼らは、教師が言う「魔法管理省」の役人たちだった。ローブの色の違いは、役職や階級によるものらしい。
「皆さん、こんにちは。我々は、魔法管理省から来ました」
役人たちの中で最も年嵩に見える男が、高座から挨拶した。
ここに来ている役人の中で、彼が一番偉い人なのだろうと、エルマーは思った。
「皆さんは、『魔法管理省』がどういうものか知っていますか? 分かる人は手を挙げて」
男が言うと、何人もの子供たちが、授業中の如く、はいと言いながら手を挙げる。
「じゃあ、そこの元気な君、魔法管理省について知っていることを答えてください」
指名されたのは、ひときわ大きな声で目立っていたギュンターだった。
「『まほうかんりしょう』は、『魔法』が安全に使われるように管理する『こっかきかん』です!」
「そうですね。よく難しい言葉を知っていましたね」
褒められたギュンターは、周りの同級生たちを見回しながら得意そうな顔をしている。
「今日は、十歳になった皆さんの『魔法の適性』を調べます。現在、我が国では魔法を利用した技術が多く使われています。その為、常に魔法を使える人が必要とされています。魔法を使う才能のある子を見つけるのが、我々の役目です。怖いことはありませんから、係の者の指示に従ってくださいね」
年嵩の役人が話している間に、彼の部下たちは慣れた様子で「魔法適性検査」の準備をしていた。
幾つか並べられた机の上に、平べったい箱状の装置が一つずつ載せられていく。
「では、見本を見せますから、私がしたのと同じように、皆さんも検査を受けてください」
年嵩の役人は、そう言って高座から降りると、箱状の装置の一つに自分の手を載せた。
「これは、個々人の『魔素の器』の大きさを測る『魔素計』という『魔導具』です。表面に幾つも嵌っている、異なる色の石は『魔結晶』で、どの石が光るかで呪文の適性が分かります。皆さんも、『魔結晶』については聞いたことがあるでしょう」
――「魔結晶」……「魔導具」を作るのに欠かせない材料って、本に書いてあったな。たしか、「魔素の器」は、その人が呪文を唱えた時に動かせる「魔素」の量のことで、大きければ呪文の効果が上がるんだっけ。「魔素」は目に見えないけど、どこにでも存在する、魔法の源になる物質……
役人の説明に、エルマーは図書室で読んだ本の内容を思い出した。
「始めに言っておくと、『魔素計』に反応があるのは、全ての人間のうち半分以下です。更に、呪文を唱えて魔法を発動させるほどの『魔素の器』を持つ人は、もっと少なくなります。したがって、反応が無くても恥ずかしいことではありませんから、安心してくださいね」
年嵩の役人は説明を終えると、「魔素計」に向かって「輝け」と唱えた。
次の瞬間、「魔素計」に嵌っている石が光りだした。
「この大きな白い石の光り方で、『魔素の器』の大きさが分かります。それと、私の場合は、赤と青、黄色の石が光っているので、火と水属性、あと支援魔法が使えるということになります。では、皆さんも、やってみましょう」
役人の説明で興味を引かれたのか、子供たちは、いそいそと「魔素計」を載せた机の前に列を作った。
――魔法の素質か。俺は父さんの後を継いで料理人になるから、あまり関係ないや。魔法を自動で代行してくれる「魔導具」を使うだけなら、魔法が使えるかどうかなんて関係ないし。
そんなことを考えつつ、エルマーも列に並んだ。
「ええっ? 何も起きないよ?」
列の先で大きな声をあげたのは、先刻、役人に褒められて得意顔をしていたギュンターだった。
どうやら、「魔素計」に手を置いて呪文を唱えても反応が無かったらしい。
彼にとっては不本意な結果だったのか、信じられないという顔で地団太を踏んでいる。
「大丈夫、さっきも聞いたように、普通のことですよ。反応のあるほうが珍しいんだから」
測定係に宥められても、ギュンターは不満そうに頬を膨らませていた。
他の子供たちを見ても、今のところは、大きな白い石がぼんやりと光る程度の者しかいない様子だ。
「……とはいえ、ちょっと不作かも」
「こればかりは、生まれつきの運ですからねぇ」
測定係たちが囁き合う声を、エルマーは耳にした。
やがて自分の番がやってきたエルマーは、皆と同じように「魔素計」へ手を載せた。
「輝け」
エルマーが呪文を唱えると、「魔素計」が眩い光に包まれた。
「魔素の器」の大きさを示すという白い大きな石は直視できない程の光を放ち、周囲に嵌め込まれた色とりどりの石も、一つを除いて鮮やかに輝いている。
「こ、これは……!」
魔法管理省の役人たちが、エルマーが手を載せている「魔素計」を見て、驚きの声をあげた。
「『魔素の器』は特大、呪文の適性も、無反応の『治癒系』以外は全て最大級です……!」
エルマーの正面に座っている測定係の男が、眩しそうに目を細めながら言った。
大人たちが落ち着きを失くす姿を見て、エルマーは、何故か自分が悪いことをしてしまったかのような気持ちになった。
「あ、あの、なんか、すみません」
「ああ、こちらこそ、すまなかったね。久々に凄い反応が出たから、みんな驚いただけなんだ。君は何も悪くないよ」
年嵩の役人が、狼狽するエルマーの頭を撫でて言った。
「君は、間違いなく『ヴァールハイト魔法学院』の受験資格がある。正式な通知は二週間後くらいに学校へ届くから、親御さんと相談しておいてくださいね」
「まほう、がくいん……?」
自分にとっては降って湧いたような話に、エルマーは驚いた。
「君には高い魔法の素質があるから、魔法を勉強すれば、凄い魔術師になれる可能性があるということさ」
測定係の男が、エルマーを見ながら微笑んだ。
全員の検査が済んだところで、エルマーたちは教師の指示で教室へと戻ることになった。
「おい、なんで、お前なんかが『魔法の素質がある』とか言われるんだよ。ずるしたんだろう!」
皆と教室へ向かうべく廊下を歩いていたエルマーは、ギュンターに肩を小突かれた。
「何を言ってるんだ? 俺に魔法の素質があるのと、君にないということには何の関係もないだろう?」
エルマーは、ギュンターの理不尽な言い草に半ば呆れた。
「ギュンター、乱暴はいけないよ。八つ当たりは、やめなさい」
いつもは見て見ぬふりをするはずの担任教師が、ギュンターを諫めた。
「だって、だって……」
普段とは異なる教師の態度に驚いたのか、ギュンターは不服そうに頬を膨らませたまま押し黙った。
「エルマー、さっき『魔法管理省』の方も仰っていたけど、君には後で『魔法学院』の受験資格があるという通知が来るでしょう。少し早いと思うかもしれないが、お父さんと話し合っておいたほうがいい」
いつになく機嫌の良さそうな教師の言葉に、エルマーは少し混乱した。
翌日から、彼の学校生活には小さな変化が訪れた。
教師たちのエルマーに対する態度が優しくなった――というよりは、彼を丁重に扱うようになったと言うほうが正確だろう。
対して、ギュンターは学校に来なくなった。どうやら、「魔法適性検査」で思ったような結果が得られなかった為、へそを曲げているらしい。
それに伴い、余所余所しかったり、ギュンターの尻馬に乗って嫌がらせをしていた級友たちも、まるで、そんなことはなかったかの如く、エルマーに対して普通に接するようになった。
周囲の空気が変わり、居心地が良くなったはずではあるが、慣れない状況にエルマーは戸惑っていた。
整列している彼らの前には、集会で校長が話をする時のように高座が設けられていた。
エルマーは、落ち着きのない同級生たちの姿を眺めながら、次に図書室で借りたい本を思い浮かべた。
「皆さん、静かに。魔法管理省の方たちがいらっしゃいましたよ」
やや緊張した面持ちの女性教師が、ぱんぱんと手を叩いて言った。
ほぼ同時に、講堂の入り口から、何かが入っていると思しき箱を抱えた数人の男女が現れた。
全員が、青や緑など様々な色をした魔術師のようなローブを身に着けている。
彼らは、教師が言う「魔法管理省」の役人たちだった。ローブの色の違いは、役職や階級によるものらしい。
「皆さん、こんにちは。我々は、魔法管理省から来ました」
役人たちの中で最も年嵩に見える男が、高座から挨拶した。
ここに来ている役人の中で、彼が一番偉い人なのだろうと、エルマーは思った。
「皆さんは、『魔法管理省』がどういうものか知っていますか? 分かる人は手を挙げて」
男が言うと、何人もの子供たちが、授業中の如く、はいと言いながら手を挙げる。
「じゃあ、そこの元気な君、魔法管理省について知っていることを答えてください」
指名されたのは、ひときわ大きな声で目立っていたギュンターだった。
「『まほうかんりしょう』は、『魔法』が安全に使われるように管理する『こっかきかん』です!」
「そうですね。よく難しい言葉を知っていましたね」
褒められたギュンターは、周りの同級生たちを見回しながら得意そうな顔をしている。
「今日は、十歳になった皆さんの『魔法の適性』を調べます。現在、我が国では魔法を利用した技術が多く使われています。その為、常に魔法を使える人が必要とされています。魔法を使う才能のある子を見つけるのが、我々の役目です。怖いことはありませんから、係の者の指示に従ってくださいね」
年嵩の役人が話している間に、彼の部下たちは慣れた様子で「魔法適性検査」の準備をしていた。
幾つか並べられた机の上に、平べったい箱状の装置が一つずつ載せられていく。
「では、見本を見せますから、私がしたのと同じように、皆さんも検査を受けてください」
年嵩の役人は、そう言って高座から降りると、箱状の装置の一つに自分の手を載せた。
「これは、個々人の『魔素の器』の大きさを測る『魔素計』という『魔導具』です。表面に幾つも嵌っている、異なる色の石は『魔結晶』で、どの石が光るかで呪文の適性が分かります。皆さんも、『魔結晶』については聞いたことがあるでしょう」
――「魔結晶」……「魔導具」を作るのに欠かせない材料って、本に書いてあったな。たしか、「魔素の器」は、その人が呪文を唱えた時に動かせる「魔素」の量のことで、大きければ呪文の効果が上がるんだっけ。「魔素」は目に見えないけど、どこにでも存在する、魔法の源になる物質……
役人の説明に、エルマーは図書室で読んだ本の内容を思い出した。
「始めに言っておくと、『魔素計』に反応があるのは、全ての人間のうち半分以下です。更に、呪文を唱えて魔法を発動させるほどの『魔素の器』を持つ人は、もっと少なくなります。したがって、反応が無くても恥ずかしいことではありませんから、安心してくださいね」
年嵩の役人は説明を終えると、「魔素計」に向かって「輝け」と唱えた。
次の瞬間、「魔素計」に嵌っている石が光りだした。
「この大きな白い石の光り方で、『魔素の器』の大きさが分かります。それと、私の場合は、赤と青、黄色の石が光っているので、火と水属性、あと支援魔法が使えるということになります。では、皆さんも、やってみましょう」
役人の説明で興味を引かれたのか、子供たちは、いそいそと「魔素計」を載せた机の前に列を作った。
――魔法の素質か。俺は父さんの後を継いで料理人になるから、あまり関係ないや。魔法を自動で代行してくれる「魔導具」を使うだけなら、魔法が使えるかどうかなんて関係ないし。
そんなことを考えつつ、エルマーも列に並んだ。
「ええっ? 何も起きないよ?」
列の先で大きな声をあげたのは、先刻、役人に褒められて得意顔をしていたギュンターだった。
どうやら、「魔素計」に手を置いて呪文を唱えても反応が無かったらしい。
彼にとっては不本意な結果だったのか、信じられないという顔で地団太を踏んでいる。
「大丈夫、さっきも聞いたように、普通のことですよ。反応のあるほうが珍しいんだから」
測定係に宥められても、ギュンターは不満そうに頬を膨らませていた。
他の子供たちを見ても、今のところは、大きな白い石がぼんやりと光る程度の者しかいない様子だ。
「……とはいえ、ちょっと不作かも」
「こればかりは、生まれつきの運ですからねぇ」
測定係たちが囁き合う声を、エルマーは耳にした。
やがて自分の番がやってきたエルマーは、皆と同じように「魔素計」へ手を載せた。
「輝け」
エルマーが呪文を唱えると、「魔素計」が眩い光に包まれた。
「魔素の器」の大きさを示すという白い大きな石は直視できない程の光を放ち、周囲に嵌め込まれた色とりどりの石も、一つを除いて鮮やかに輝いている。
「こ、これは……!」
魔法管理省の役人たちが、エルマーが手を載せている「魔素計」を見て、驚きの声をあげた。
「『魔素の器』は特大、呪文の適性も、無反応の『治癒系』以外は全て最大級です……!」
エルマーの正面に座っている測定係の男が、眩しそうに目を細めながら言った。
大人たちが落ち着きを失くす姿を見て、エルマーは、何故か自分が悪いことをしてしまったかのような気持ちになった。
「あ、あの、なんか、すみません」
「ああ、こちらこそ、すまなかったね。久々に凄い反応が出たから、みんな驚いただけなんだ。君は何も悪くないよ」
年嵩の役人が、狼狽するエルマーの頭を撫でて言った。
「君は、間違いなく『ヴァールハイト魔法学院』の受験資格がある。正式な通知は二週間後くらいに学校へ届くから、親御さんと相談しておいてくださいね」
「まほう、がくいん……?」
自分にとっては降って湧いたような話に、エルマーは驚いた。
「君には高い魔法の素質があるから、魔法を勉強すれば、凄い魔術師になれる可能性があるということさ」
測定係の男が、エルマーを見ながら微笑んだ。
全員の検査が済んだところで、エルマーたちは教師の指示で教室へと戻ることになった。
「おい、なんで、お前なんかが『魔法の素質がある』とか言われるんだよ。ずるしたんだろう!」
皆と教室へ向かうべく廊下を歩いていたエルマーは、ギュンターに肩を小突かれた。
「何を言ってるんだ? 俺に魔法の素質があるのと、君にないということには何の関係もないだろう?」
エルマーは、ギュンターの理不尽な言い草に半ば呆れた。
「ギュンター、乱暴はいけないよ。八つ当たりは、やめなさい」
いつもは見て見ぬふりをするはずの担任教師が、ギュンターを諫めた。
「だって、だって……」
普段とは異なる教師の態度に驚いたのか、ギュンターは不服そうに頬を膨らませたまま押し黙った。
「エルマー、さっき『魔法管理省』の方も仰っていたけど、君には後で『魔法学院』の受験資格があるという通知が来るでしょう。少し早いと思うかもしれないが、お父さんと話し合っておいたほうがいい」
いつになく機嫌の良さそうな教師の言葉に、エルマーは少し混乱した。
翌日から、彼の学校生活には小さな変化が訪れた。
教師たちのエルマーに対する態度が優しくなった――というよりは、彼を丁重に扱うようになったと言うほうが正確だろう。
対して、ギュンターは学校に来なくなった。どうやら、「魔法適性検査」で思ったような結果が得られなかった為、へそを曲げているらしい。
それに伴い、余所余所しかったり、ギュンターの尻馬に乗って嫌がらせをしていた級友たちも、まるで、そんなことはなかったかの如く、エルマーに対して普通に接するようになった。
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