紅の継承者と闇の封印

くまのこ

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12話 遺跡遠足

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 エルマーたち「月組」の生徒たちは、王都近郊にある古代魔法文明時代の遺跡を訪れていた。
 生い茂る木々の間に、現代の様式とは全く異なる建造物の残骸が顔を覗かせている。
 継ぎ目のない、つるりとした壁は、石とも金属ともつかない素材でできており、木漏れ日の中で時折きらめきを見せる。

「もしかして来たことのある人がいるかもしれませんが、ここが、『古代魔法文明時代の遺跡』の一つ、『ケルレウスの遺跡』です」

 引率の教師の説明に、生徒たちは耳を傾けている。

「魔法史の授業でも聞いたように、かつて、この大陸には現代を遥かに凌ぐ高度な魔法文明がありました。しかし、それらは何らかの原因で崩壊し、今は、こうして僅かな遺跡が残るばかりとなっています。文明崩壊の原因としては、大規模な魔法実験の失敗や戦争など諸説ありますが、どれも決定打に欠けると言われ、研究者たちの論争は尽きません」
 
 教師の言葉が終わると、上半身に金属製の鎧をまとった男と、魔術師らしいローブ姿の男が進み出てきた。

「我々は、今回の『遠足』で諸君らの護衛を担当する、王立騎士団と魔法兵団の者だ。『ケルレウスの遺跡』は調査が完全に済んでいるが、絶対に安全とは言いきれないので、必ず我々の指示に従ってほしい」

 鎧の男――騎士の言葉を聞いて、生徒たちは素直に返事をした。
 整然と並んだ生徒たちは、数人ずつの騎士と魔法兵たちに護衛されながら、遺跡へと入って行く。

「魔法史の授業で本物の遺跡を見られるなんて、留学して良かったです」

 崩壊した遺跡の建物を見回しながら、アヤナが言った。

「王立騎士団や魔法兵団の人まで来るなんて、すごいね」

 エルマーは、護衛たちの姿を見て感激していた。その存在は知っていても、田舎に住んでいると、彼らの姿を実際に目にする機会は殆どないのだ。

「まぁ、生徒の中には貴族や資産家の子供もいるからね。何かあれば学院の責任問題になるんだろ」

 ヨーンが言うと、そばを歩いていた魔法兵が口を開いた。

「この学院の生徒は、将来この国を背負って立つ人材になるからね。国としても育成に力を入れたいのさ」

「あなたも、学院の卒業生なんですか?」
「ああ、そうさ。魔法兵団は戦闘だけではなく、魔法の研究開発もしているから、そういう方面にも興味があるならお勧めだぞ」

 ロルフの言葉に、魔法兵が微笑みながら答えた。

「古代魔法文明時代の建造物には、現代では再現できない素材が使われていることも多いです。それらの解明も、研究者たちの目的の一つですね」

 所々で立ち止まって解説する教師の話は、エルマーにとって興味深いものだった。
 一行は、更に地下部分へと足を延ばした。
 日光の入らない地下は当然のごとく暗いが、魔法兵たちが灯りになる光球を作り出し、すぐに辺りは昼間と同様に明るくなった。

「この部屋には、比較的保存状態の良い、古代の魔導具が残っていたそうです。三十年近く前の調査で発見された魔導具は、現在、魔法管理省の研究施設に保管されています」

 そう教師が説明した部屋には、がらんとした空間だけが残されていた。発見された「魔導具」が結構な大きさだったであろうことが分かる。

「その魔導具は、どんな用途のものですか?」
「いえ、重要な部分――魔結晶を含む、起動に必要な部分が抜き取られていた為に、今も用途などは不明だそうです。古代魔法文明時代の遺物は高価で取引されることもあるので、盗掘に遭ったと言われていますね」

 エルマーの質問に、教師が淀みなく答えた。

「現在、国内の調査が完全に済んでいない遺跡は、無断で入る者がないよう、我々や軍の兵士たちが番をしているんだ。これも、戦の気配がない、平和な時代ならではだな」

 騎士の一人が、そう言い添えた。

「隊長、近くに『闇鼠やみねずみ』の群れを発見しました」

 別の騎士が声をあげた。

「直ちに排除しろ。生徒たちは、出来るだけ一か所に固まって、動かないこと!」

 隊長と呼ばれた騎士の指示で、エルマーたちは集合し、息を詰めて成り行きを見守った。
 暗がりの中から、きいきいと耳障りな鳴き声をあげつつ、中型犬ほどの大きさをした動物の群れが現れた。姿だけ見れば黒い鼠そのものだ。

「あれが『闇鼠』です。授業でも聞いていると思いますが、古代魔法文明時代に生み出された『魔導生物』の生き残りです」

 教師が、普段と変わらぬ口調で言った。生徒たちを落ち着かせる意図もあるのだろう。
 騎士たちは「闇鼠」と生徒たちの間に立ちはだかり、剣を構えた。
 一方、騎士たちの後方では魔法兵たちが、光属性の呪文を詠唱している。
 空中に出現した、数十本の輝く「光の矢」が、闇を切り裂いて「闇鼠」に命中した。
 彼らは短く断末魔の声をあげながら消滅したが、魔法の攻撃をかいくぐった一匹が、なおも生徒たちに向かって迫る。
 すかさず、騎士の一人が「闇鼠」に向かい、目にも留まらぬ速さで剣を一閃させた。
 最後の一匹だった「闇鼠」は両断され、塵のような粒子と化して霧散した。
 
「す、すごい……」

 エルマーを始め、生徒たちの多くは、初めて目にした本物の戦闘に圧倒されていた。

「全ての『闇鼠』の消滅を確認」
「もう大丈夫だ」

 騎士と魔法兵たちの言葉に、エルマーも安堵した。

「『闇鼠』って、魔結晶とかの魔法に関係する素材を好んで食べるんだよね」

 ヨーンが、思い出したように言った。

「そうですね。しかし、飢えていれば人間を含む他の動物も襲いますし、数匹以上の群れで行動するから、危険な『魔導生物』です。魔法の心得もなく丸腰の人間では太刀打ちできないでしょう。自ら人里に現れることが少ないのは幸いですが」

 教師の説明を聞いたエルマーは背筋に冷たいものを感じ、やはり騎士や魔法兵たちの護衛は必要なのだと実感した。
 

 遺跡の見学を終えたあとは、遺跡周辺の平地で一泊だが野営をするのが恒例だという。
 エルマーたちは、教師や騎士たちの指導の下で、協力し合いながら指定された場所に天幕を張った。
 
「たまには、変わった場所で寝るのも面白いよね」
「きみは、のんびりしてるなぁ。魔法兵団とかに入ったら、軍事演習で野営することもあるだろうし、その予行練習みたいなものだろ」
 
 ロルフとヨーンの会話に微笑みながら、エルマーは、ふと大量の「魔素」が動く気配を感じた。
 野営地の周囲では、魔法兵たちが何かの呪文を詠唱している。
 やがて、野営地の周囲を囲むように、淡く光る半球状の壁が出現した。

「それは、防御壁ですか」
「そうさ。この辺りまで来ると、野生動物が出現するからな。我々魔法兵と騎士たちが交代で見張りをするから、君たちは天幕の中で安心して寝ていてくれ」

 エルマーの問いかけに、魔法兵は得意げに答えた。
 日が落ちる頃、生徒たちは魔法でおこした火を囲みながら夕食――用意されていた干し肉や、水分の少ない生地に干して刻んだ果物を混ぜて焼いたパンといった携行食を食べた。

「見た目で分かるけど、好き好んで食べたい感じはしないな……」

 固いパンを茶で流し込みながら、ロルフが呟いた。
 
「保存食だから仕方ないんだろうね」

 エルマーが言うと、傍に座っていた騎士の一人が口を挟んだ。

「それもあるけど、あまり旨くすると、有事の際なのに食べ過ぎる奴が出るからな。わざわざ『あまり旨くない』と感じる程度に作ってあるんだ」
「そうなんですね。食べ物って、とにかく美味しく作るということしか考えてませんでした」

 世界には、まだまだ自分の知らないものや考え方があるのだと、エルマーは夜空に現れ始めた星々を見上げて思った。
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